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11.鮫


湖から豚マスク男は出てこないだろうということで、私は水面ギリギリでベルを鳴らす。

しばらく待つと水面がスーッと動き、先ほどの鮫のような魚が3匹ほど岸に近づいてくる。


「香菜、一旦離れて」


ジャンプして襲い掛かってくる鮫を航一郎がオールで仕留めていく。

鮫から流れた血でさらに大量の魚影が湖を揺らす。


私はハミングとマラカスで航一郎をサポートする。

そうして100匹以上は仕留めた頃、航一郎のレベルアップが確認できた。

私のレベルはあがらない。


「直接倒さないと経験値がはいらないとすると厄介だな」


とびかかってくる鮫を倒すなど自分にはとてもできそうにない。


岸を埋め尽くしていた鮫の死骸は気が付くとほとんどなくなっていた。

10匹ほど死に切っていない鮫が残っている。

これなら倒せそう、と航一郎にオールを借りてとどめを刺していく。


航一郎が手加減して鮫を叩き落し、私がとどめを刺すのを繰り返すうちにレベルが上がった。

スキルのハミングが(+1)になっている。


この途方もない作業を繰り返せばレベルは上がるだろう。


「これ、さすがに美羽ちゃんにやらせるの厳しいよな」

「だよね」


自分に蘇生スキルが使える可能性があるのならどんなに苦労してもやり通すのに、と歯がゆい気持ちになる。


そろそろ陽が傾いてきている。

夜になるとモンスターが凶暴化する可能性もあるので、レベリングはここまでにしようということになった。


車に戻ると美羽がコーヒーを飲んでくつろいでいた。


「ふたりとも頭がおかしくなっちゃったかと思ったわ」


美羽が本気なのか冗談なのか判断しかねる顔で言って、レベリングについて説明するタイミングを失ってしまう。やはり美羽は美羽だ。


「明日、明るくなったら美羽ちゃんにも一緒にやってもらいたいんだけど……」


恐る恐る航一郎が言ってみたが、


「意味がわからない。それ以前に、飛んでくる鮫がウジャウジャいるようなところに一晩居られるわけないでしょう」



湖の外周をまわる単調な景色と心地よい振動、もちろん疲れもあって運転席の航一郎があくびを連発している、そんな様子を助手席から眺めていたら、いつの間にか居眠りをしてしまっていた。


夢うつつで、何か鈍い音と鈍い衝撃を感じている。

車が停まったのとクラクションの音で完全に目が覚めた。


「航一郎!?どうしたの?」

「わからない。椰子の実でも落ちてきたみたいな音だな」


そうしている間にも何かの塊が車にぶつかりガコンと音を立てる。

外はすっかり暗くなっている。


「ちょっと見てくる。香菜は美羽に懐中電灯出してもらって」


私が声を掛ける間もなく美羽はランタンと懐中電灯を手に外にでていた。


道路には10㎝ほどの厚さにスライスされた木が転がっていた。


「これ、俺が切った木……?」


そう言った航一郎をめがけて木片が飛んでくる。


「航一郎くん!」


とっさに避けた航一郎の頭のをかすめて車に直撃する。


「二人とも早く車に戻れ!美羽ちゃんは森側にヘッドライトがあたるように車まわして!」


航一郎は素早くオールを構えると、木片が飛んできた森の方を警戒する。

じりじりとした空気の中、森の木立がかすかに揺れる。


車のヘッドライトの死角を狙うように低い位置から水平に木片が投げつけられ、航一郎のすねを直撃する。


痛みにうずくまる航一郎を目にし、反射的に車をおりて寄り添う。


「香菜、危ないから、車に入っとけ!いつ何が飛んでくるかわかんないだぞ」

「ごめん」


せめてもの後方支援をと、助手席の窓を開けてハミングとマラカスで航一郎を鼓舞する。

すると、美羽が信じられないものでも見るような顔で私をみていた。


「香菜……それは、どういうジョークなのかしら」

「えっ?あ、これはふざけてるわけじゃなくて、ハミングっていうスキルで、航一郎の体力を回復するために……」


慌てて説明するが、美羽がすんなり理解するわけもなく「あなたたちの頭のおかしい妄想はもういい」と一蹴されてしまう。


「もう、勝手にして頂戴。あなたは、さっさと降りるか、航一郎を車に乗せるかして?こんな所はもう一刻も早く離れるわよ」


美羽のヒステリーがさく裂する。


しかし、確かに美羽の言う通りこんな見通しの悪い森の中の道で飛び道具を使う敵を迎え撃つのは分が悪すぎる。

航一郎を説得し二人で後部座席に乗り込んだ。


ドアを閉め切らないうちに美羽は車を急発進させる。

森の中からまた車めがけて木片が飛んできていたが、もう美羽も気にも留めず車の速度をあげる。


しばらくすると木片による襲撃は止んだようだ。

航一郎はオールを両手でつかんだまま、湖側の席に座って森側の窓を凝視している。

湖の外周をまわる道のため湖側は月明りで比較的明るい。


本来であれば森側にはガソリンスタンドに戻る林道があるはずなのだが木々の切れ目はみつからない。

運転席の美羽も同じ風景が続くことにイライラし始めている。


私たちの集中力が切れるのを狙いすましたようにそれは起こった。


まず、なにか動物のような影が道路を横切る。

慌てて美羽がハンドルを切り車は道路脇の木に激しく激突した。


その衝撃で閉まり切っていない車のサイドドアが開いてしまい、私一人が車外に投げ出された。



……どのくらい気を失っていただろうか。


聞き覚えのあるような機械音がする。

体中に痛みを感じる。

そして目の前には見覚えのあるウインドウがほの明るく輝いていた。


「なかまが ぜんめつしたため ボスからのとうそうに せいこうしました」


私にはもう起き上がる気力がなかった。


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