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10.レベル上げ


「あなたたちさっきビール飲んでたでしょう?もしぶつけたら、弁償できる金額じゃないわよ?」


そう美羽に指摘され、車は美羽が運転することになった。

航一郎曰くビールを飲んでいたのは智輝で俺は飲んでいない、らしいが。


「唯たちが乗ったボートの側までいけばいいのね?」


踵の細いミュールにサンドレスという出立(いでたち)で運転席に座る美羽には違和感しかない。


美羽の親戚の車なので美羽も運転に慣れているのだろうか、躊躇なく車を進める。

免許もない私はまた劣等感を刺激された。


ほどなくボートらしきものが見えた岸側に着いた。

岸からは少し離れた場所だが唯と智輝が乗っていたボートに見える。


「二人、乗ってないな」

「泳いでるってことはないよね?」


辺りを見回すが湖に人の気配はない。

航一郎がスマホを取り出し、圏外、と呟く。

私のスマホももちろん圏外だった。


美羽のスマホはどうかと聞こうと顔をあげると、美羽が首をかしげて湖の方をみている。


「なにかしら」


ボートの近くでなにか魚の群れのようなものがパシャパシャと水音を立てていた。


「鮫?でもここ湖よね?」


しばらくして蛍光イエローの布のようなものが水面に浮かび上がってくる。

それと同時に水が赤茶色く濁る。


「智輝!唯ちゃん!」


航一郎が濡れるのも構わず湖に入っていく。

しかしボートまでは服のまま歩いていけるような距離でもない。


「航一郎!ちょっと待って!お願いもどって!」

「航一郎くん!危ないわ!」


この時ばかりは美羽も私と協力して航一郎を岸に引き戻す。


智輝と唯はもう駄目だろう。

この上、航一郎まで失うわけにはいかない。


なんとか航一郎を落ち着かせて、ひとまず電話を借りるためガソリンスタンドまで戻ろうと提案する。


運転を美羽にまかせ、ずぶぬれになった航一郎に着替えを促す。


リセットのことを話すべきだろうか。


しかし、何と言って説明すればいいのだろう。

私以外が全滅すればリセットされるよ、とはとても言えない。


「智輝……ボートになんて乗らなければ……」

「あのね、もしかしたらなんだけど、ガソリンスタンドまで戻れたら、助かる方法があるかもしれない」

「どういうこと?」


「確信がないから、ガソリンスタンドに戻ってから話す」

「……わかった」


そもそもガソリンスタンドに戻ることはできるのだろうか?

分岐もない道をもうだいぶ走ったはずなのに一向にガソリンスタンドは見えてこない。


「あら、何?」


運転席から美羽の声があがる。

外にでて確認すると何か黒くて細長いものが地面にまばらに転がっている。


「松ぼっくり?でもどうしてこんなに……」


少し先に道をふさぐようにして松の木が倒れているようだった。


「引き返すしかないわね」


「いや、なんとかできる、かな」


航一郎がいつのまにやら車に積んでいたオールを取り出して剣道のように構える。

そしてバウムクーヘンでも切るように倒れた木を輪切りにしていく。

輪切りになった木を道路の外へ蹴り出し、あっという間に走れる状態になった。


航一郎のジョブを知っている私は、うまいことジョブを活用するなと感心したけれど、美羽は信じられないという顔で絶句している。


「あのね、美羽、もしよかったら『ステータス・オープン』って言ってみてくれない?」

「はぁ!?」


「美羽ちゃん、悪い、ちょっと試してくれるだけでいいから」

「航一郎くんまで、一体なんなの?」


「美羽ちゃん、常識的にはオールで木はスライスできないの、わかるよね。ステータス画面を確認すればわかる」


航一郎の『頼む』のポーズに美羽がため息をつく。

美羽も航一郎の頼みには弱いらしい。


「ステータスオープン……?」


恐る恐る美羽が唱える。


「これは……ホログラム?」


ステータスウインドウを目にした美羽が混乱している。


「何て書いてある?」

「白魔導士…? 私も酔ってるのかも……」


「ほかには、何か書いてある?」


焦って矢継ぎ早に質問する私を美羽が手で制する。

「ごめんなさい、私ちょっと寝不足もあるみたい。湖に鮫もでるし……後ろの席で少し寝るわ」


頭を振りながら美羽が後部のキャビンに向かったので、

航一郎は、じゃあ俺が運転しようかな、と呟いて運転席に座る。


私は少し迷って助手席に座ることにした。

美羽が白魔導士ということは今後蘇生できる魔法を覚えることもあるのだろうか。

全滅して、リセットするよりもその方がもちろんいい。


「レベル上げ……」


独り言のつもりだったが航一郎にも聞こえていたようだ。


「レベリング、必要だよな」

「うん。でもゲームみたいにモンスターが出るわけでもないし、あっ!」


智輝が熊除けのベルをもっていたはずだ、と思い出す。

あれでモンスターをおびき寄せることができないだろうか。


でもあれでもし豚マスク男が出てきてしまったら、この3人で勝てるのだろうか。

航一郎がいればなんとかなりそうな気もするが。

そもそも熊除けのベルは智輝が身に着けていたはずだから車の中にはないだろう。


思いを巡らせているうちにボートハウスが見えてくる。

湖のまわりを一周してしまったのだろうか。


「ほかに道はなかったはずなのに、湖の外周から外れる道が見つからない」


これ以上車を走らせても無駄かもしれないと、一旦車を停める。

武器の予備はたくさんあったほうが良いだろうと、ボートハウスからあるだけのオールを集めて車に乗せる。


こんなものを車に積んで、と美羽は嫌がるだろうなと心配したが、眠っているようだった。

私もペットボトルマラカスを2本ほど作っておいた。


「レベリングできないかな」

「智輝くんが持ってた熊除けのベルにモンスターを呼び寄せる効果があるんだけど」


言ってしまってから、なぜそれを知っているのか問い詰められたらどうしようと焦る。

航一郎は特に気にする風でもなく、あっ、と小さく呟いてボート小屋にむかった。


「忘れてたけど、智輝、濡れたら嫌だからってここカバン置いてったんだよ」


そういって智輝のボディバッグを掲げてみせた。


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