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【最終話】永遠に離縁を希望し続けるから

「あなたがなにを怒っているのかわからないけれど、結婚に関しては、もともと契約していたのよ。契約は契約。もういい加減に観念して、契約解除の上離縁してちょうだい」

「イヤだ。イヤだイヤだイヤだイヤだっ! ぜったいに契約は解除しない。離縁なんてするものかっ」


 彼は、唾を飛ばしつつ駄々をこねはじめた。しかも、足で床をならしつつ。


(美貌が台無しだわ)


 彼のそんな子どもっぽい仕草を、ちょっとだけ可愛いと思った。


「契約は延長だ。ずっと先までだ。契約は、この先もずーっと続く。それこそ、ふたりが死ぬまでだ。いや、死んでからも続く。次に生まれかっても、次の次に生まれかわっても、きみとわたしの結婚の契約はずっと続くのだ。わたしたちは、契約により永遠に夫婦でい続けるのだ」

「はいいいい? イヤよ。イヤよイヤよイヤよイヤよっ! ぜったいに契約を解除して。とにかく、離縁して欲しいのよ」


 侯爵とわたしは、ついには「契約解除」と「離縁」のことで大げんかになってしまった。


 わたしは、お母様やもろもろのことを思い出しただけではない。


 いまとこのさきの自分にとって大切なことも思い出していた。


「なんだかバカバカしくなった。今夜は、葡萄酒でも飲みながら亡き妻との思い出に浸ろう」

「旦那様、わたしもお付き合いさせてくださいな。お嬢様は、侯爵閣下とラブラブのようですし」

「いいとも、サンドリーヌ。そうだ。侯爵家の他のみんなも誘って厩舎で月見酒といこう。賑やかな方が、愛する妻もよろこんでくれる」

「いい考えです。旦那様、行きましょう」

「おれも帰国しよう。『ちんちくりん』の姪っ子の元気すぎる姿も見ることが出来たしな。部下に、いつまでも皇帝の身代わりをさせておくのも気の毒だ。さあ、ミレーヌ。わが愛する婚約者よ。帝国へ帰ろう」

「陛下。復讐を果たしてくださってうれしいのですが、ああいう場合は陛下自身ではなくだれかにさせるものですよ。たとえば、美しくて可愛くて腕の立つ工作員にです」

「ミレーヌ、すまなかった。きみの手を、あんなクズ野郎の血で汚したくなかったのだ。この詫びは、寝台の上でさせてくれ。ほら、お姫様抱っこをしてやろう」

「もうっ! 陛下はすぐにわたしを甘やかすのですから。ですが、わたしはこれからも陛下の為に工作員を続けますよ。どのような任務でも、陛下の為なら完璧にこなします」

「それよりも、すぐにでもおれたちの子を産んでほしい。五人でも、それ以上でもいい。すこしでもはやく、ふたりの子どもがほしいのだ」


 みんな出ていってしまった。


 急に静かになった。


 侯爵とふたりきり。


 途端に意識し始めた。


 だって彼のことが大好きだから。


 子どもの頃、マックのことが大好きだったから。


 いいえ、訂正。


 それはいまでも継続している。


 わたしは、マックのことがいまも大好き。


 彼のことを愛している。


「イヤったらイヤ。ぜったいにイヤ。離縁して。お願いだから、離縁して」

「マヤ、しつこいぞ。離縁は、ぜったいにイヤだ。離縁は、ぜったいにしない。いますぐ、永遠の契約を結ばせる」


 彼は、そう叫ぶなりわたしを押し倒した。


「愛しているよ、マヤ。ずっと愛している。これからも愛し続ける。永遠にね」


 それなら、最初から契約結婚とか契約妻など言わずにふつうに結婚すればよかったのでは?


 そういうことは、考えないようにしよう。


 その瞬間、彼の唇がわたしの唇をふさいだ。


 だから、彼に伝えられなかった。


 わたしのほんとうに愛する人がだれかを。わたしのほんとうの気持ちを。


 窒息する一歩手前まで、熱い口づけは続いた。



                                              (了)

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