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わたしたち

 すべてを知ったのは、宰相の屋敷で意識を失った翌日の夜だった。シルヴェストル侯爵家の自分の寝台の上で、である。


 それはもう壮大な復讐劇だった。


 すべてを知ったあと、わたしはそう感じた。


 いいえ。実際そうだったのである。


 驚くべきことに、わたしだけが知らなかった。わたしだけが、のけ者にされていたのである。


 いくら記憶を失っていたからといって、それならそれで説明してくれればよかったのに……。


「つらいことを思い出させたくない」とか、「なにも知らない方がよかったんだ」とか、「失敗したときに無関係だったと主張出来る」とか、お父様はあたふたしながら言い訳をしていた。


 お父様は、わたしがほんのすこしだけ怒っていたから慌てたのだ。


 だけど、わたしは思い出さなければならなかった。なにがあったのか、真実を知らなければならなかった。


 それならば、説明してくれた方がよほどよかった。


 とはいえ、それも決着がついたから言えること。


 みんなが無事にいるから言えること。


 お母様の日記は、日記帳そのものに価値はなかった。じつは、日記帳の中にぺルグラン帝国の皇帝へ宛てた手紙が挟み込まれていた。


『皇帝陛下、この手紙を読んだらセネヴィル王国の宰相シルヴァン・プランタードを始末してください。そして、わたしの愛する娘のマヤと夫のタクを守ってください』


 そのようなことが書かれていたらしい。


 驚くべきことに、侯爵から日記を渡された宰相は、当時お母様から「ぺルグラン帝国の実権を握る切り札の書状」ときかされていたという。「帝国からの使者に渡すまで、ぜったいに読まないよう」にとも。さらには、「封が切られている場合、それから娘や夫になにかあった場合は書状の内容が無効になる」とも。


 お母様は、将来の為に念を押しまくってくれていた。


 意外すぎたのは、あの宰相がお母様の虚言をすっかり信じて素直に盗み見しなかったことである。


 だからこそ、すべてがうまくいったのだけれど。


 それはともかく、使者はお母様からの手紙を読んだ。


 そして、実行に移した。


 ぺルグラン帝国にも法律はある。たいていはそれが行使され、適用される。


 しかし、法や常識ではどうにも出来ないことがある。


 いまのこの世になってもなお、帝国では「隠密」と呼ばれる組織があるらしい。その組織が、法で裁くことの出来ない連中を秘密裏に始末するという。


 あるいは、家族や親族や友人や仲間が行うこともあるとか。


 宰相が待ち望んでいたはずの使者は、じつはぺルグラン帝国の皇帝グラシアン・ラングレー。つまり、お母様の実兄だった。


 死んだはずの彼が生きているのは、その情報じたいが宰相を油断させる偽情報だったからである。


 皇帝は、みずから復讐を果たしにやって来た。


 長い月日をかけ、ようやく愛する妹の仇を討ったのだ。


 驚くことはまだある。


 それは、ミレーヌのこと。


 彼女は、特殊な訓練を積んだ工作員だった。


 宰相に実母を殺された彼女もまた、復讐を誓った。それ以降、彼女はセネヴィル王国の工作員養成所に入り、そこで何年も訓練を積んだ。そして、通常の任務をこなしつつ自分の母親や宰相のことを調べ上げた。その上で、お父様や侯爵と連携してこの壮大な復讐劇のシナリオを描き、かつ実行する手助けをしたのだ。


 そうして、彼女はぺルグラン帝国に潜入して活動した。


 帝国の皇帝グラシアンに接触し、仲間に引き入れる為に。


 じつは、彼女もまた宰相の血をひいている。


 はやい話が、彼女はわたしよりすこしだけ年長の姉である。


 宰相は、同じ時期にお母様だけでなくミレーヌのお母様をもひどい目にあわせたのだ。


 前シルヴェストル侯爵は、現侯爵のお母様である最初の奥様を病で亡くした。


 後妻になるミレーヌのお母様とは、もともと幼馴染だったとか。


 ミレーヌのお母様は、ミレーヌと自分自身のことを前シルヴェストル侯爵に相談したのかもしれない。前侯爵は、とてもやさしくて情に厚い人だった。彼は、同情とか憐憫とかではないのだろうけど身も心もボロボロになった幼馴染をミレーヌともども引き取り守ることにしたのだ。


 あの日、わたしとともに凄惨きわまりない現場に居合わせた侯爵とミレーヌが宰相の毒牙から逃れられたのは、侯爵は騎士になるべく軍の幼年学校へ、ミレーヌは工作員養成所へ、それぞれ入学や入所したからに違いない。

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