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侯爵とふたりっきり

 それにしても、わたしもほんのわずかでも可愛げがあればいいのに。そうすれば、侯爵もすこしは見直してくれるかもしれないのに。 あるいは、彼の気を惹くことが出来るかもしれないのに。


 そんな疑問がわいてきたけれど、すぐに思い直した。


 いまさら、よ。侯爵に見直されたり気を惹いたところで、どうしようもないわ。


 というか、侯爵のことなんてもうどうでもいいじゃない。関係ないんだし。


 それよりも、彼に離縁されたあとに出会う男性の対策を考えた方がいいわよね。


 つぎは、本気。「白い結婚」などではなく、「真実の結婚」になるでしょうから。


 シルヴェストル侯爵家領に、三度の飯より馬が大好きでなおかつ三度の飯より馬が大好きなレディが好みの男性がいてくれるといいのだけれど。


「ねぇ、マヤ? あなたもそう思うわよね?」


 気がついたら、ミレーヌがまた横に座っていた。彼女は、わたしの顔をのぞきこんでいる。


 その美しくも可愛い顔に浮かぶ笑顔は、同性であるわたしでさえドキッとするほど魅力的だ。


「え、ええ、そうね」


 ミレーヌがなんのことを言っているのかわからないけれど、とりあえず同意しておく。


「ほら、マック」

「おいおい、ミレーヌ。空気を読んでほしいな。わたしは、マヤに話しがあるんだ」

「まあっいやだわ、マック。それならそうとはやく言ってくれればいいのに」

「ミレーヌは、ほんとうにマイペースだな」

「もうっ、マックったら」


(ごちそうさま。もうお腹いっぱいよ)


 ふたりのラブラブッぷりは、もう充分。


 カヌレよりよほどお腹にたまる。


 それにしても、ミレーヌだけでなく侯爵もすごくしあわせそう。


 お腹がいっぱいな反面、お腹の上あたり、つまり心臓のあたりがチクチク痛む気がするのは気のせいね。


「じゃあ、わたしは眠るわ。マヤ、また明日の晩レディトークしましょうね」


 ミレーヌは、そう言うなりハグをしてきた。


 ハグをし返す。


 彼女はわたしから離れると立ち上がって侯爵に近づき、熱すぎるハグをした。というよりか、抱きついた。


 侯爵もハグを返したけれど、やはり彼のハグもハグというには熱すぎる気がする。


 そして、ミレーヌは笑顔で居間を出て行った。

 

 

「マヤ。その、横に座ってもいいですか?」


 ミレーヌが元気よく居間の扉を閉め、廊下を走り去る音がきこえなくなった。


 侯爵は、まるでそのタイミングをはかっていたかのようにおずおずと尋ねた。剣ダコの出来ている手は、つい先程までミレーヌが座っていた場所を示している。


「お断りします」


 速攻で拒否った。満面の笑みを添えて。


(だってそうでしょう? 彼が愛しているミレーヌが同じ屋根の下にいるのよ。それなのに、居間とはいえ深夜に長椅子でふたり並んで座るほど、わたしは厚顔無恥ではないわ)


「そ、そんな」


 彼は、ショックを受けたようにふらついた。


(なんてこと。わざとらしいったらないわね。それとも、わたしが彼のことを勘違いしているの?)


 じつは、彼はレディ大好きだとか? ミレーヌを正妻にしたら、今度はわたしをキープしておきたいとか?


 なんの為にかはわからないけれど。


 とにかく、とりあえずわたしに餌を与え続けてスペアとして置いておく。


 そういうのかしら?


(だけどね。それもいままで体の関係があったり、心の絆があったりでしょう?)


 わたしたち、それらさえないもの。


 とくに体の関係といえば、せいぜい公式の場でエスコートしてもらうのに腕を組んだり手を握ってもらう程度。ああ、そうそう。頬に「チュッ」はあるわね。


 とにかく、ないない尽くしのわたしをスペアに置いておいても使い道はない。


(あっ、わたしってバカね。あるわ。あるわよ。馬よ、馬。馬の調教や管理を無償でさせるのよ)


 父娘で世話になっている以上、どんな無茶な要求も無償で承知するしかない。


 それで納得がいった。


 だけど、やはり誤解は招きたくない。面倒くさいから。


 だから、拒否るのは正しかったのよ。


「座りたければ向かいにどうぞ」


 ローテーブルをはさんだ向かいの長椅子をにこやかに指し示す。


「では」


 彼が座ると、はやく用件を言うよう急かした。


 正直、忙しい一日が終って疲れている。だから、はやく自室に戻って眠りたいのである。


「その、マヤ。わたしたちの関係のことなのですが……」


 彼は、言いにくそうに切り出した。



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