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おれの娘ですって? だれが?

「それで、なんでしたっけ? あぁわたしが読んだとか持っているとか、でしたっけ?」


 思い出した。不可解なことを尋ねられていたことを。


 それにしても、いったいなにを読んだり持っているというの?


「わかった」


 宰相は、満足そうに頷いた。


 いま彼がなにをわかったのかは、わたしにわかるわけがない。


「おまえが読んでいないことはわかった。それから、タクやマックにそれを渡していないこともな」


 彼のニヤニヤ笑いは、生理的にムリみたい。視線をそらしたいけれど、負けてしまう気がしてガマンする。


 そのとき、彼がなんのことを言っているのかが不意にひらめいた。


 というか、頭の中にその姿がポンッと現れた。


(そうだ。お母様の日記ね)


 侯爵家の自室の机の抽斗にしまいこんだ、あのお母様の日記である。


 細工をした書物の中に隠されていたあの日記……。


(間違いないわ。だけど、どうして宰相が日記のことを言及するわけ?)


 考えたってわかるわけはないけれど、考えてしまう。


「おまえは、おれの娘だ」


 考え込んでいたものだから、彼の言ったことが頭に入ってこなかった。


「はい? ああ、すみません。よくわかりませんでしたので、もう一度言ってもらえますか?」


 きこえなかったとかわからなかったとき、面倒くさいから適当に「うんうん」ってすることがある。お父様やサンドリーヌの場合はたまーに、いや、わりとそれをする。だけど、いまは正直にわからなかった旨を伝えた上でお願いした。


「うんうん」と適当にする方が、面倒くさくなる気がしたから。


「おまえは性格も外見もすべてにおいてちんちくりんなだけでなく、耳までちんちくりんなのか?」

「ちょっ……。ち、ちんちくりんって、どういう意味なのですか? そんな表現方法、きいたことがありません」


 自分でも「ツッコむところそこ?」って思ったけれど、言わずにはいられなかった。


「ちんちくりんはちんちくりんだ。それはどうでもいい。もう二度と言わせるな。おまえは、おれの娘だ」


 おもわず、前後左右を見まわして「おまえ」に該当する人物、具体的にはレディを探してしまった。


 ここには、彼とわたしとダークスーツの男たちしかいない。けれど、もしかするとわたしの目には見えないレディがいるのかもしれない。


「なにをしている? おまえのことだ、ちんちくりん。ちんちくりん、おまえがおれの娘なんだよ」

「ちんちくりん、ちんちくりんって言わないで。わたしには、父がつけてくれた『マヤ』という名があるのよ」

「ハハハハッ! その『マヤ』というのはな、『まやかし』からとったんだ。おまえは、ごまかしたかった存在。あるいは、消し去りたかった存在。だから、そう名付けたというわけだ。それから、おまえが父といっているのは、タクのことだろう? あいつは、おまえの生物学的な父親ではない。生物学上の父親は、おれだからな。タクは、おれの実弟。おまえの叔父だ」

「ちょちょちょっ、あなたの言うことのすべてがわからないわ。まったくわからない」

「理解力もちんちくりんというわけだ」


 宰相は、心底可笑しそうに大笑いしている。その宰相の脂ぎっている頭を、ぶん殴ってやりたい衝動に耐え忍ぶ。


 その笑い声が神経に障る。


(なに? いったいどういうこと? わたしが宰相の娘? だったら、お父様は? お父様が叔父って?)


 頭と心は、混乱しまくっている。


 もちろん、それは頭と心の中だけで止める努力をしている。


 動揺とか混乱とか、しているところを彼に見せたくないから。


 宰相の目的がなにかはわからない。例のお母様の日記にまつわることなのかな、と推測は出来るけれど。


 これだけ日記を欲しがっているということは、宰相にとってなにか重要なことや不利になるようなことが記されているに違いない。


(もしかして、お母様の日記を手に入れる為わたしを娘だと虚言を弄しているの?)


 と、推測してみたがどうもしっくりこない。


(いいえ。それは、まずないわね。わたしみたいなか弱いレディ、言葉や暴力で脅せば泣いて渡してしまうもの)


 そんなふうにあれこれ考えているうちに、混乱がおさまってきた。



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