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見ーつけた!

「あら?」


 その書物を手に取った瞬間、違和感を感じた。


 本の分厚さのわりに軽すぎるのである。


 と認識したときには、すでに本を開けていた。


「なにこれ?」


 その本の中には頁がまったくなかった。本はうまく偽装されていて、一冊の違う本のようなものがおさまっている。


 そう。まさしく日記帳らしきものが……。



「ガシャンッ」


 その瞬間、大きな音が響いた。


 階下の窓ガラスが割られたに違いない。


 そのガラスが割れた音に、ハッとした。


 そのときには、お母様の部屋を飛び出していた。


 全速力で廊下を駆け抜け、階段を三段跳びする勢いで駆けおりる。


 あらためてソニエール男爵邸の狭さに感謝する。


 とはいえ、窓ガラスを割って侵入してきたヴァレールにしてみれば、この狭さゆえにわたしをすぐに見つけるはず。


 わたしが玄関扉に到達するまでに、居間の窓ガラスを割って侵入してきたヴァレールがエントランスに躍り出てきた。


「マヤ、見ーつけた」


 わが家の窓ガラスを割った器物損壊野郎は、余裕の笑みを浮かべてこちらに歩いてくる。


 うしろ向きにじわりじわりとさがっていく。追いつめられた子羊のようなていを装いつつ。


 偽装した書物の中に入っているままのお母様の日記は、右手にしっかり握っている。


「ひどいじゃないか。なぁ、あんな奴とはさっさと別れておれといっしょになった方がいい。やさしくするし、なんでも買ってやる。まぁ他のレディと遊びはするけど、それは本気じゃない。遊びだからな」

「それって最低よっ!」


 おもわず、ツッコんでいた。


「いやいや、ただの遊びだから大丈夫。あいつのように本気じゃない」

「はあああああ?」


(こいつ、やはりバカよ)


 なにが大丈夫なのか、わたしにはわからない。わかりたくもない。


 そのとき、背中が扉にあたった。


 勝手知ったる、である。


「遊びも本気も同じよ。だいたい、他のレディと遊ぶというところでおかしいわ」


 鼻で笑いつつ、どうでもいいことを言って彼の気を惹く。


「そこが男とレディの違うところさ。男は、遊びは遊びだ。もちろん、本気のときには本気になれる」

「ああ、そうなのね。だったら、やはりあなたとわたしはあらゆる面であわないみたい」

「ハハハッ、またまた。そんなに照れなくてもいい」

「あなた、頭の中はそうとうお花畑ね」


 敬語なんてもう必要ない。


「ありがとう。おまえに褒められてうれしいよ。おや、その右手の本は?」

「見てわからないの、お花畑のおバカさん。本よ」


 全力でバカにしてやった。


 その瞬間である。


 彼の表情がかわったのだ。


「見つけたのか? それなんだな?」


 その変貌ぶりに、背筋に冷たいものが走った。


「くそっ、このチビッ! 見つけたのならさっさと言え。媚びて損をしたじゃないか」


 ヴァレールはのそこそこの顔は、いまや獲物を見つけた肉食獣のような表情になっている。


 一歩、また一歩と足を踏み出す。


「それを渡せ、チビ。散々おまえに付き合ってやったが、これでもう解放される」

「なんですって? わけのわからないことを言わないで。これは、ただの本よ。あなたには関係ないわ」

「それがおおありなんだよっ。うおおおおおおおおっ!」


 ヴァレールは、気合とともに飛びかかってきた。

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