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探し物は何ですか?

 そういえば、ヴァレールは『あんなレディたらしの為に働く必要などあるものか』、とも言っていたわね?


「レディたらし」というのは、侯爵のことに違いない。実際のところ侯爵がそうなのかどうかは別にして、ヴァレールとわたしの共通の知人といえば侯爵だけ。侯爵しか考えようがない。


 では、侯爵の為に「働く」というのは?


 もしかして、ヴァレールは侯爵とわたしの「白い結婚」のことを知っているのかしら? わたしが契約妻として働く必要はないということ?


 では、それとお母様の部屋、あるいはこの屋敷とどういう関係があるの?


 まったくわからない。それどころか、手がかりになりそうなことさえ思いつきそうにない。


 すっかり荒れ果てたお母様の部屋で、大きな溜息をつく。


「わからないことを考えたって仕方がないわよね。とりあえず、考えることは中断。さっさとやることをやりましょう」


 そう自分に言いきかせる。


 ザッと室内を見渡した。


 とくに机の状態がひどい。すべての抽斗が飛び出したままになってるし、机上からあらゆるものが床に落とされている。何者かが抽斗をひっぱり出し、机上を引っ掻き回したのだ。


 机に近づくと、その周囲に落ちている紙類を探ってみた。


 お母様は日記をつけていた。そのはずである。


 わたしが侯爵に嫁ぐ前、お父様がお母様の部屋でウロウロしていたことがあった。お父様に尋ねると、お母様の日記を探していると言った。なんでも、お母様はずっと日記をつけていたらしい。とはいえ、わたしが生まれてからはわたしの成長記録のような感じになっていたらしいけれど。


『マヤ。侯爵に嫁ぐおまえに、子どもの頃のことを話せたらと思ってな』


 お父様は、笑ってそう言った。


 もちろん、わたしは侯爵にほんとうに嫁ぐのではない。


「お父様。侯爵とわたしは、あくまでも契約結婚なのよ。わたしは、契約妻になるの」


 お父様の勘違いを、何度も正したつもりだった。


 それがお父様に通じていなかったことは、いまさらながらほんとうに残念だけど。


 結局、お父様はお母様の日記を見つけることが出来なかった。


 わたしは、そう思っている。


(お母様の日記を探してみよう)


 生前のお母様の様子が知れるかもしれない。


 そうすれば、もしかするとわたしの失われた記憶が蘇るかもしれない。


 わたしは、お母様が殺されたときの事故で過去の記憶のほとんどが失われている。だからわたしが知っている自分の過去のほとんどは、お父様にきかされたことである。


 お父様から「こんなことがあった」とか「あんなことがあった」ときかされ、「ああ、そうなのね」と返事はしたけど実感がないままでいた。


 いまのところ、その状態でもとくに支障はない。過去よりも未来の方が大切だと思っているからかもしれない。


 しかし、ふと考えてしまうときがある。


 自分の過去になにかあったのではないか? わたしの知らない、あるいは知らされていないなにか重要な出来事があったのではないか、と。


 それがいつのことかはわからない。そもそもほんとうにそのようなことがあったのかさえわからない。


 お母様の日記が存在するのなら、なにかわかるかもしれない。


 そんな期待を抱いてしまうのもムリはない。


 机の周囲を探してみたけれど、どうもそれっぽいものは見当たらない。


 机の周囲だけでなく、もっと範囲を広げてもなおそれっぽいものは見つからない。


 そのとき、本棚に並んでいる本の背表紙に目が釘付けになった。


 それは、わたしが侯爵家の図書室で読んだ書物の中で一番のお気に入りのシリーズだった。


「そうよね。このシリーズは、だいぶん昔に出版されたんですもの。お母様だって読んでいたっておかしくはないわよね」


 母との絆を感じた一瞬である。


 本棚に近づくと、そのシリーズ物の最終巻を手に取った。


 ラストは、どんでん返しというか意表をつきすぎていたというか、とにかく衝撃的すぎて度肝を抜かれた。


 いま、なぜかそのラストシーンを読みたくなってしまったのである。


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