いったいなんなのよ?
「ちょっ、足をどけて下さい」
「くそっ、扉を開けろ」
玄関扉を開けすぎないよう、気を配りつつそれの開け閉めを何度も繰り返した。
玄関扉が閉まる度、「ガッガッ」と鈍い音を立てる。玄関扉が容赦なく、彼の黒い靴を傷つけていく。
(うわっ、彼の靴って革製で高価そうだわ)
そう思ったのも束の間、すぐにどうでもいいと思った。
それよりも、お邪魔な彼を閉めだしたい。
「とにかく、中に入れてくれ。なあ、探しているんだろう? おれが手伝ってやるよ。二人で探せばすぐに見つかるさ」
彼は、足の痛みなど感じないかのように強張った笑みを浮かべている。
(って、なんですって? 『探しているんだろう』って言わなかった? 彼がどうしてわたしがなにかを探しているって思っているわけ?)
彼の言っていることがわからない。
(もしかして、この屋敷に金目の物とか貴重な物とか、そういったものが隠されているとでも思っているの?)
もちろん、そのようなものがあるわけはない。
すくなくとも、お父様からそのようなことをきいたことはない。
そのお父様が内緒でへそくりとか、財産を隠しているのなら話はべつだけど。
(だけど、それはないわね。残念だけど、それはいいように考えすぎたわ)
自分の前向きすぎる考えに苦笑してしまう。
「結構です。わたしひとりで探せます。ですから、いますぐお引き取り下さい」
とりあえず、そう言っておいた。
面倒臭いから。
それから、さらに激しく玄関扉を開け閉めした。
「くそっ、いい加減にしろ」
彼は、さすがにキレた。これだけされたら、わたしでもキレるに違いない。
彼の手が伸びてきて、わたしの乗馬服の襟をつかんだ。
「やめて下さい」
「こっちは好意で言ってやっているんだ。あんなレディたらしの為に働く必要などあるものか」
(レディたらしはあなたでしょう?)
おもわずツッコんでしまった。心の中で。
男性の力はすさまじい。たとえこんな奴でも、襟がとれてしまうのではないかというほどひっぱられ、どうしても手を振りほどくことが出来ない。
反射的といっていいかもしれない。屋敷内に踏み入れている彼の足を、全力で踏みつけてやった。
「ギャッ」
尻尾を踏まれた猫のような悲鳴とともに、彼の手が襟元から離れた。
彼を突き飛ばした。彼がうしろへよろめいた瞬間、玄関扉を閉めた。もちろん、鍵もかける。
彼は、しばらくの間玄関扉を叩きつつ悪態をついていた。が、そのうち静かになった。
玄関扉の横にある窓から外をのぞき見たが、見える範囲に彼の姿は認められない。
(帰ったのかしら?)
そうでないとしても、とりあえずは静かになった。
(いまのうちに、荷物をまとめよう。さっさとここを去ったほうがいいわね)
そう決断すると、すぐに行動に移した。