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いまの騎士団長ったらもうっ!

 仔馬は、黒鹿毛の牡である。


 名前をつけるとき、侯爵がわたしにつけて欲しいと言ってきた。


 迷わなかった。


 この一択しかないと思った。


 というか、この名しか思いつかかった。もうこれ以外に考えられないと思った。


「ミラクル・ローズ」


 みんなに話すと、賛成してくれた。


 仔馬は、その日の内に「ミラクル・ローズ」と命名された。


 仔馬は、「レッド・ローズ」とともにわたしたちより遅れて王都を旅立つことになる。


 侯爵が馬を運ぶための馬車を手配してくれている。


 念には念をいれ、「レッド・ローズ」と「ミラクル・ローズ」はその馬運車で運ぶことになる。


 馬を馬が運ぶというのも滑稽な話だけれど、母仔のことを考えればその方がずっといい。


 その為、ピエールが残ることになった。


 じつは、もともと「レッド・ローズ」とピエールは遅れて出発するという話も出ていた。


 もう間もなく出産の彼女に旅はムリかもしれないと話をしていたのである。


 それはともかく、彼女がはやく出産してくれてほんとうに運がよかった。


 ピエールひとりだけでは、あの難産は対処出来なかったはずらだから。


 そのピエール本人が一番ホッとしているのは言うまでもない。



「レッド・ローズ」の出産騒ぎで、すっかり抜け落ちてしまっていた。


 侯爵とのことを。


 というか、バツが悪いというかなんというか、とにかくそのはずがすっかり忘れていた。それは、侯爵やわたしたちのまわりも同じようで、まるで何事もなかったかのように、あるいはおたがいなにも見たりきいたりしていないかのようにふつうに振る舞っている。


 あのサンドリーヌでさえ、なにも触れてこない。


 そのことを嫌でも思い出させたのは、再度実家に必要な物を取りに戻ったときだった。


 いつものようにソニエール男爵家の鍵を開けて入ろうとしたタイミングで、背後に人の気配を感じた。


 振り返ると、そこそこ美しいけれどニヤけた顔のヴァレール・プランタードが立っている。


「マヤ、この前はひどいじゃないか」


 彼は、あいかわらず礼儀をわきまえていない。


 これが栄誉ある騎士団の団長だというのだから、驚きを禁じ得ない。


(というか、神出鬼没なんだけど。彼、公務は大丈夫なの?)


 他人事ながら心配してしまう。


「おまえを待っていたんだ。さあ、中に入ろう」


 彼は、まるで父親か兄かのようにエラそうに言った。しかも、わたしに近づいてくると肩に腕をまわしてきた。


「『中に入ろう?』どうしてですか? ここは、ソニエール男爵家の屋敷です。あなたの屋敷ではありません。小さいですが、いまあなたがいるのはソニエール男爵家の前庭。つまり、ソニエール男爵家の敷地内です。そこに無断で入っているあなたは、不法侵入していることになります」


 キッパリすっきりハッキリ言ってのけた。


 事実だから。


「かたいことを言うなよ。おれとおまえの仲だろう? こんなちんけな屋敷や土地、うちのに比べれば犬小屋や犬専用の遊び場にもなりやしない。それより、もっと大きな屋敷に住まわせてやる。マックのところよりもはるかに大きくて豪勢な屋敷だ。だから、奴と離婚しておれといっしょになれ」

「はい? 寝言は寝てから言って下さい」


 こんなバカ、相手にするだけ時間と労力のムダだわ。


(おまえ呼ばわりはさることながら、いつもほんとうにエラそうにしているけれど、いったいなに様のつもり?)


「寝言だって? おれは、真剣だ」

「あー、そうですか。それは結構なことですね。急ぎますので、これで失礼します」


 彼が足を踏ん張り主張する間に、後ろ手に玄関の扉を開けてさっと屋敷内に入り込もうとした。


 こういうとき、こじんまりとした屋敷や玄関でよかったと思う。


「おいっ、待てよ」


 が、ヴァレールはすばやかった。足先を入れてきて、玄関扉が閉まるのを阻止されてしまった。


 騎士団員として、一応訓練を受けていただけのことはある。 



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