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侯爵とバッタリ?

「陽は照るのが当たり前です。それに、わたしの肌はもともと焼けたようなこんな色なのです。あなたのように真っ白い肌とはほど遠いね。これはこれで気にいっています」


 ヴァレールなど相手をしなければいいのだけれど、侯爵とは違ってついつい言い返してしまう。


 そこが侯爵とヴァレールの違うところなのかもしれない。


「では、危険かもしれないだろう? だれかにさらわれるかもしれん」


 彼は、こうしてなんだかんだと理由をつけてはわたしを馬車に乗せようとするのだ。


「だれかにさらわれるかもしれなくて危険なのでしたら、それはあなたでしょう? いまのところ、それにまさしく該当する人物はあなたなのですから」


 わたしなんてさらったところでなんの価値もない。侯爵は、もしかすると立場上対処するかもしれない。しかし、それはあくまでも立場上仕方なくだからである。


「……」


 ヴァレールは、意外にも黙りこくった。


(えっ、いまのは有効な返しだった? もしかして、ほんとうにわたしをさらうつもりだったりして)


 心の中で苦笑してしまう。


 どうでもいいけれど、彼とこうしてやり取りする時間がもったいない。


 はやくシルヴェストル侯爵家に帰り、馬たちに癒されたい。いま、頭の中はその思いでいっぱいだ。


「さあ、そこをどいてください」


 立ちはだかっている彼の横を通りすぎ、門の外に出た。


 すると、シルヴェストル侯爵家の馬車が停まっていることに気がついた。


 プランタード公爵家のド派手な馬車で見えなかった。


「おや、マックじゃないか」


 ヴァレールが追いついてきて、わたしの肩に手を置いてささやいた。


 ヴァレールは、ついこの前までは侯爵のことを「騎士団長」と呼んでいたのに、いまは完全に部外者扱いしているみたい。


「ええ、たしかに夫ですね。その手、どけていただけませんか?」


 ヴァレールを睨み上げてから、わたしの肩にのっている手について指摘した。


「いいじゃないか。あっちだってレディを連れているのだから。きみだっておれと仲良くしているところを見せつけてやればいい」


(バカなの、こいつ? そういう意味じゃないわ。あなたのことが鬱陶しいのよ)


 心の中で呆れ返りつつ、シルヴェストル侯爵家の馬車内をよく見てみた。


 たしかに、開いている窓から侯爵とレディが並んで座っているのが確認出来た。


 彼と馬車に乗った際、わたしが座るその場所に見知らぬレディが座っている?


「ほら、こんなことをしてもいいんじゃないか?」


 レディのことを考えている間に、ヴァレールが暴走し始めた。


 もう片方の肩に手をのせてきたかと思った瞬間、わたしを抱き寄せたのだ。


「ちょっと、なにをするのよ」


 おもわず、地が出てしまった。


 さすがにひっぱたくまではしなかったけれど。


 その瞬間、背後で「バタン」と音がした。


 馬車の扉が開いた音が。


 ハッとしてうしろを振り向くと、侯爵が地におり立ったところだった。


 彼は、こちらをじっと見ている。が、その美貌にはいつものようにやわらかい笑みは浮かんではいない。



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