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1111回目のプロポーズ side  ルナ&サイラス

前話のサイラスの上司視点の後の話です。

サイラスがルナにプロポーズしてOKもらうだけの話。短いです。

ルナ視点 → ルナの独白 → サイラス視点


【キーワード】

ほのぼの/重い愛・ヒーロー/深い愛・ヒロイン/猫

 「ねぇ、ルナ、僕と結婚してくれる?」

 それは、3年前から繰り返されている愛しい彼からの何回目かもわからないプロポーズ。


 今日もお気に入りの丘にピクニックに来ていて、二人で朝から作ったサンドイッチを食べて、のんびり休憩している所だ。最近、仕事が忙しかった彼に膝枕をして、その猫のように柔らかい銀の髪をやさしくなでる。のんびりした時間、寝っ転がってる彼。ルナの負担にならないように、いつもこんな何気ないひと時にプロポーズしてくれる。


 もっと仕事や自分に自信がもてるまでは結婚できないというルナに、それでも自分の気持ちは伝えたいと。世界でもっとも軽くて重いプロポーズを毎日してくれるのだ。


 「返事をする前に、私の話を聞いてくれる?」

 猫がまどろむように、目を閉じていた彼のまぶたが上がり、綺麗なオッドアイが覗く。

 「もちろん、僕の愛しいルナの話ならいつでもどれくらいでも聞くよ!」

 切れ長の目を細めると、また彼はまどろみに戻っていった。うとうとしているように見えて、ルナの話を全身耳にして聞いているのであろう彼に向けて、ルナはやさしく語りだす。


◇◇


 そうね、どこから話したらいいのかしら?


 まず、サイラスは間違いなく私のヒーローだって事からかしらね?


 はじめて会った七歳の時、本物の王子さまだと思ったの。すらっとしていて、ふわふわの銀色の髪がお日様にあたってキラキラしていて。色付きの眼鏡をしていたって、顔立ちの綺麗さは幼い子供にもわかるのよ。あの時からふわふわの銀髪をいつか触らせてほしいなぁと思っていたのよ。私の夢を叶えてくれてありがとう。思っていた通り本当にふわふわでいつまでも触っていたくなるわね。


 次に会う時には、髪飾りをくれたよね。銀細工の小鳥の形の髪飾り。紫と空色の綺麗な石がちりばめられた。ずっとね。手に入らないと思って諦めていたけど、村の女の子達を遠目に見て、綺麗な服とか髪飾りとかに憧れていたの。それをサイラスから差し出された時、夢のような気持ちになったの。でも、隣にいるヤクばあちゃんの顔を見て、自分の立場をすぐに思い出したの。サイラスに髪飾りを受け取れないって突き返した時、心がちぎれそうだった。どうかこの綺麗な人に嫌われませんようにって祈る気持ちだったの。


 ふふふ、大丈夫。だって、今は私の手元にあるのだから。ほら、今日もつけているのよ。知ってるって? 子どもっぽくないかしら。でも、うれしい日はこの髪飾りをどうしてもつけたくなるの。


 誰にも言ったことがないのだけど、本当はね、ダレンに意地悪されたり、家族に無視されている時に、誰か助けてくれないかなって思ってたの。だれかやさしい人がここから魔法みたいに連れ出してくれないかなって。ヤクばあちゃんに会った時、期待しちゃったの。はじめて私の話を全部聞いてくれた人だから。でも、手助けはするけど、自分でがんばりなって言われて、勝手に突き放された気持ちになったの。その時に、ああ、自分をここから助けてくれる王子様なんていないんだって諦めたんだと思う。


 諦めたと思ったのだけど、ヤクばあちゃんの家で来る日も来る日も薬草にまみれて、本とにらめっこして、叱られるばっかりで褒められることは滅多になくて。もうやだなぁって。本当は、私の将来のために教えてくれているヤクばあちゃんに感謝しなきゃいけないのに、成人する日の自分のために必要だってわかってるんだけど、十五歳まで八年あるし、途方もなくて、この状況から救ってくれる人が現れないかなんてことを時折思っていたの。最低だよね。


 そんな時にサイラスに会ったの。もう、この人が救い出してくれるかも?なんて贅沢な願望は抱かなかったけど、辛くてただ淡々と退屈な私の日々の中であなたは光だったのよ。週に一回のお茶会の時間がどれだけ楽しみだったかわかる? サイラスの持ってきてくれるおいしいお菓子ももちろん楽しみだし、うれしかった。でも、それ以上に、サイラスといると心がふわふわして浮き浮きして、温かい気持ちになったの。十歳も年上で、冒険者ギルドの職員なんていう立派なお仕事をしていて、とってもカッコよくって。気づいた時には好きになってた。そして、それが叶わないこともわかってた。それでも、一緒にいられた時間は私の宝物だったのよ。


 対面に座っていたのが隣に座るようになって、色付きの眼鏡を外してくれるようになったとき、髪をさわってくれるようになったとき、サイラスとの距離が近づくにつれてどんどんどんどん好きの気持ちが大きくなっていったの。


 サイラスに紫の魔石をプレゼントされた時の私の気持ちがわかる? きっと天に昇るような気持ちってこのことを言うんでしょうね。サイラスの瞳みたいな魔石をその夜、ずっと眺めていたの。サイラスって私にとって奇跡みたいなものなの。大げさじゃなく。


 辛い時、腹の立つ時、寂しい時、どうしようもなく侘しくなる時、不安で希望が一つも持てなくて何もしたくないと思う時も、この紫の魔石を握りしめると、不思議とそんな気持ちが消えて、あたたかい気持ちになるような気がしたのよ。今はこの魔石が伝説の南の孤島の古竜の魔核で、サイラスの魔術が幾重にもかかったこの世に二つとないすごいものだって知ってる。それを知る前だって、私の宝物だったけど、サイラスが手間と気持ちをかけてくれたんだって、もっともっとこの石が大事なものになったの。その気持ちをうれしく思うことはあっても、重いなんて思ったことはないわ。


 ダレンにキスされそうになったとき、はっきりとあなたに恋をしてるって気づいたの。きっと認めたくなかったのね、叶わない恋心を。あの時、私の前に現れたサイラスは私のヒーローだったの。もう私の前には現れないって思ってた王子様だったの。はじめての告白とキスが、私は嘔吐した後で、サイラスが魔獣討伐後の泥と汗と返り血にまみれてる時で、二人ともボロボロでちっともロマンチックではなかったわね。でも、私にとっては、どんな物語にも負けない思い出なのよ。


 気持ちが通じ合った後のほうが辛いなんて思ってもみなかったわ。本当にあれからの二年間は今までの人生で一番長かった。幸せな状況っていうのに慣れていないからかな? いつここから落とされるんだろうって毎日怯えてた。ダレンになにかされたらどうしよう? 村人や家族になにかされたらどうしよう? 村から出て行けなかったらどうしよう? いつも絶望的な状況や人生の底にいたから、そこから少しだけ浮上している状況が、怖くて怖くて仕方なかったの。でも、そんな日々の中でも変わらず飄々としているサイラスがいたから、なんとか自分を奮い立たせることができたのよ。


 成人の日もまるで、王子様みたいにピンチに現れて、ダレンを吹き飛ばしてくれたよね。ふふふ、あの時のダレンたらひっくり返った蛙みたいで、うふふ。ざまぁみろって思っちゃった。


 王都にきてからも、村やダレンからは解放されたけど、心の中は焦りでいっぱいだったの。早く自立しなくちゃ、ちゃんと家を借りて、ちゃんと仕事して、ちゃんと生活して、早く早く、サイラスに釣り合うようにって。そうしないと、サイラスはきっと他の綺麗な女の人に取られてしまうって焦っていたの。サイラスの言葉を疑うわけではないけど、村と違って王都には色々な人がいて、冒険者ギルドには特に魅力的な女の人が多くて、サイラスにいつ見捨てられるか不安で不安で仕方なかったの。ごめんなさいね。サイラスが私を思ってくれる気持ちにも気づかずに、一人で落ち込んで空回りして。


 だから、ピアスをつけてくれたとき、ほっとしたの。だって、このピアスの色、サイラスの瞳の色でしょう? その時には、このピアスに掛けられた数多の魔術のことはわかっていなかったけど、サイラスの瞳の色をまとっていると少しだけ、サイラスの隣にいてもいいんだって思えたの。


 サイラスが私を思って、こっそり手を回してくれているのにも気づいているのよ。目が合うたびに睨んでくる冒険者ギルドの受付の女の人を、懲らしめている所、たまたま見てしまったの。ああ、なんで私には魔術が使えないのかしら? あの場面を映像魔術で撮って何回でも見返したいわ。きっと私が絡まれているところに割って入って、注意することもできたんでしょう? でも、私に少しの嫌な思いもさせないようにって、サイラスが私の姿を魔術で装って、対峙して断罪してくれたんでしょう? 本当に、歌劇でも見ているかのようだったわ。本当にカッコよかった。


 この前、ギルド長のマークさんと私、お話したでしょう? 後からマークさんに、私が他の男の人を知らない事、サイラスの知らない面とか私への重い執着が懸念事項で、きっとサイラスも気にしているんじゃないかって言っていたから、そのことも話していい?


 サイラスは私と会う前、怠惰だって聞いたわ。ふふふ、まるで猫みたいに暇さえあれば、だらーんとしていたんですってね。そんなサイラスも私見てみたい。きっととってもかわいかったでしょうね。そんなサイラスの隣で一緒にまったりしたかったわ。あのね、隣国の絵本に、『三年寝た猫』って話があるの。最近、読んだ絵本なんだけどね。ずーっと三年間眠り続けた猫が、起きて国の危機を救うって話なの。サイラスみたいじゃない? サイラスが救ったのは国じゃなくて、私だけどね。


 きっと、他にも私の知らないサイラスがいるんだと思う。隠したかったら隠していいし、もしよかったら教えてほしいの。どんなあなたでも知りたいし、きっと私はますますあなたを好きになってしまうわ。


 私は確かに、ダレンっていう最低な男の人と、サイラスっていう最高な男の人のことしか知らないわ。でも、サイラスといるとふわふわして温かい気持ちになってとても居心地がいいの。ごはんを食べる時、お茶する時、散歩する時、買い物する時、サイラスが隣にいるだけで幸せな気持ちになるの。そして、はじめて会ったときから今日まで、いつ会ってもあなたにときめいてしまうの、あまりにカッコよくて、やさしくて、すてきで、心がせつなくなるの。居心地がいいっていう穏やかな気持ちと、ドキドキとときめく気持ち。その正反対の気持ちが同居することは奇跡だってこと、私にはわかる。男の人は知らないけど、そんな人がサイラス以外にいないってことは知ってる。


 例え、サイラスの澱が重なったような執着から解放されて、色々な男の人に会ったとして、この気持ちは変わらないの。自分の気持ちってね、ちゃんとわかるものなのよ。例え、虐げられて愛を与えられなくても。自分にとって大切なものは、自分でちゃんとわかるの。


 私はちゃんと選んでサイラスの隣にいるの。自分の意思で。


 サイラスの思いが重たいって大きいって、紫の魔石や、ピアスからもわかるわ。それがどんなに幸せなことかわかる? 私、きっと愛情をもらったことがないから、愛情を入れる器が空っぽだったの。そこに愛を注いでくれたのは、サイラスだった。空っぽだったからいくらでも入るのよ。本当にそのサイラスの大きな愛のおかげで、私の空っぽだった心がどれだけ満たされたかわかる? 潔癖症なのに私にだけ触れてくれたり、安心できるまで言葉を尽くしてくれたり、愛を知らない私はサイラスのわかりやすい愛情表現がぴったりなの。だから、どんどん愛を注いでくれていいのよ。あら、ちょっと欲張りかしら? 私からの愛も伝わってる?私からもサイラスに愛を注いでいくから覚悟してね。


◇◇


「待っていてくれてありがとう。サイラス。大好き。愛してる。結婚しましょう」

 いつもルナに対しては気持ちも言葉もあふれてくるのに、ルナの独白を聞いて、ただただ涙があふれるだけで、1つも言葉が出てこなかった。実はお互い気持ちが通じ合ってるようで、わかっていなかったのかもしれない。ルナの僕への愛は、僕が思っているよりとてもとても深かった。


 「ルナが泣かせにきてる……うう、返事がイエスなら、もっとちゃんとした場所を選んだのに……」

 「ふふふ、なんか天気が良くて、景色もきれいで、ごはんがおいしくて、サイラスが一緒にいてくれて幸せだなあと思ったら、自然にあふれてきちゃったの」

 そう言って、照れたように笑うルナを見ていたら、たまらなくなって、体を起こして唇を重ねる。


 「よし、そうと決まったら、結婚式をあげよう! 家はどこにする? ルナのドレスはどんなのがいいかな? ドレスに合わせてアクセサリーもつくらないとかな? あールナの花嫁姿楽しみーでも、綺麗すぎて誰にも見せたくないかも。もう二人だけで式挙げちゃうかな…あー悩ましい」

 

 そうして、僕の1111回目(もちろん愛するルナに関することなので正確にカウントしている)のプロポーズは成功したのだった。


 え? この後どうなったかって?


 それは決まっているよね。

 物語の最後はいつだって『それからも幸せに暮らしました。めでたしめでたし』

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