洗礼と森
「次っ!最後!」
次は、俺の番か
俺は祭壇の方に歩みを進める
盃に黄色の液体が注がれている、それに俺は口をつけ飲む
(この世界も教会みたいに養蜂やら写本やらお酒を作っているのか?何にしろ独特な甘みと酸味があんまり好みじゃないな…)
「おめでとう」
司祭は俺を祝福し、ナイフと火打ち石を手渡してきた
全長15センチも無い、革製のシースに入った鉄製のナイフとメノウらしい石ころと火打金が渡された
「さあ次は『祈り』の確認だ、怖がることはない、これを炎の中に」
そう言って次に手渡してきたのは、なにかの骨のかけらだった
(うげ、なんかきったねぇ骨だな、なんの骨だこれ?)
そう疑問に思ってると早く投げろと催促してくる
俺としては、正直『祈り』とかどうでも良かった、そんなことより早くやりたいことがあるからな
急かされるままに炎の中に骨を焚べる
「なんと…こんなのは始めてた…」
投げ入れてまもなく、炎はゴブレットから溢れそうなほど吹き出し出来の悪い花火のように赤黄青緑の4色をランダムに繰り返しながら揺らめいたり登ったりその姿は荒ぶりを見せていた。
(えぇ、なにこれ?あの骨いったい何含んでたの)
司祭がゴブレットの火に手を伸ばす
「おぉ、熱くも冷たくも乾きも湿り気も感じない、これは本当に炎なのか?不思議だ……ともかくおめでとう君には『祈り』があるらしい」
戸惑いながら祝福をする
『なんであんなやつが…』『何あれ不気味っ』『神を怒らせたのか?』『まじかよ』
と一番のどよめきが俺を突きさす
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「おかえりなさい、アルテス!これで一人前ねっ!」
そう元気に明るく接してくれるのは、俺の母だ
「あぁ、ただいま母さん」
「どうしたのぉ?浮かない顔して、わかったわ『祈り』が無かったことに落ち込んでるんでしょ?そんなの気にしなくてもいいわよ、母さんなんて無くてその場で泣いちゃったんだから!」
笑いながら話す母、実に陽気なものだ
「にいちゃん、おかえりぃ」
「あぁ」
こいつは俺の妹のディア、8歳らしい
「そんなことより今日はご馳走よ!黒パンと芋と玉ねぎと人参と卵のスープと川魚の串焼きっ」
「いや、母さん『祈り』は有ったよ」
母の言葉を遮るように言う。
確かに祈りは有った、それは良かった事だ、その祈りの問題については別だが、
母の動きが止まる、
「イヤ…」
(嫌?なにがだ?)
「いやったわァァ!!!おめでとう私のアルテス!!ちゅしてある!!」
突然動き出し、俺の頬にキスをしようとしてくる、それを防ぐ俺を見て爆笑する妹
何がおかしい、止めてくれ妹よ
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食事後、あぐらをかきながら麦の藁をひたすらに捻りながら縄状にする俺を横目に寝る速くも寝る妹と祈りの事を話題で話す父と母
「にしても良かったな!アルテス!これで食いっぱぐれることないぞハッハッハッ!」
意気揚々に笑う父親
それに適当に「あぁ、」と相槌を返す
「それにしても不思議よね、色が変化して熱くも冷たくもない炎って」
「そんなの、どうでもいいじゃないか、司祭様は問題ないって言ってたんだろ?それに祈りも無事使えるって話だ!これ以上にめでたい話は無い!これで息子の自慢が増えたな!」
「ほどほどにしときなさいよ、あなたもう」
呆れる母を横目にひたすらに俺は縄を作る
「しっかし、物静かだなぁアルテスは!そんなんじゃ女に持てないぞ!!」
「いいじゃない、あの子にはあの子の生き方があるんですもの、それに、あ な た はうるさすぎます」
「ははすまんすまん、しっかしここまで育ってくれて良かった、あの大熱は駄目かもしれんと思ったが無事に人になれて良かった良かった」
余計なお世話と思いながら、ただひたすら縄を作り続ける。
かれこれ数時間かけて長さは10メートルは超えてそれなりに丈夫だ、初めて作るにしてはいい出来だろう。
「でっ?アルテスはどうするんだ、父さんと一緒に農民やるか?それとも聖堂の修道士になるのか?………もしかして村から出ていったりしないよな!父さん母さん置いてって行かないよな!!」
「あなた?騒がしいって言ったばかりよね?それにあの子の人生はあの子が決めるべきよ、たとえそれが村をでるって判断でもねっ!」
「まぁ、ゆっくり決めればいいさ、この村は飯に困らないし税も重くないし、水も困るときが無い天国みたいな所だ!昔いた所と段違いだなハッハッハッ」
「俺は、」
縄を作る作業をやめて口を開く、将来のことなんてまだ考えてないこの先こんな世界でまともに生きていけるとは思えないだけどやりたいことは見つかってる
「森に行く」