ウイークポイント
『大虎のウイークポイントをダイレクトに突いちゃったのかもね』
牧島はそう言った後、
「たぶん、大虎にとってはその<実の父親>ってのがウイークポイントって言うか、根っ子の部分なんだろうね。自分の実の父親、ってか、まあもうすでに<自分の記憶の中にある実の父親>ってことなんだろうけど、その存在が大きくなりすぎてて、それと比べて『この男はこう』『あの男はこう』って感じでしか男を見てないのかもって気がする。で、大虎に手を出してこないあんたに実の父親の姿を重ねてる?そんな感じなのかもしれない」
とか語り出して。
「ええ……? 大虎曰く『ダッセェオッサン』の俺にか? それって実の父親を下げてねえか?」
ついそんな風に言ってしまうが、牧島は、
「なに言ってんの。娘にとって父親なんてダサイもんでしょうが。私の娘だってダンナのことは『パパ、マジでダサイ!』とか言ってるけど、大好きなんだよ? ダサイことと信頼できるかどうかってのは別の問題。今あんたは、大虎に試されてるんだよ」
なんてことも。
「勘弁してくれ……俺は早くあいつに出てってもらいたいんだ……!」
そう口にする俺に、
「だけどコグマ、あんたは本当にそれでいいの? あんたんとこ出てったら、大虎はそれこそ堕ちるところまで堕ちるかもよ? ここまで関わっちゃった相手がそんなことになったら、夢見が悪くならない?」
とまで言われて、
「ぐ……知るか! あんな奴、どうなろうと俺には関係ない……!」
返したものの、胸ン中はひっでぇモヤモヤが渦巻いてた。正直、もうここまでで、俺のために楽しそうにメシを作ってる大虎の姿を見るとなんか、
『意外と可愛いとこあんだな、こいつ……』
とか思っちまってたのは事実だ。しかも、大虎となら同じベッドででも普通に寝られる。前妻とも血の繋がった長女ともそんなことなかったのに、大虎となら平気なんだ。そんなことがあるなんて俺は知らなかった。
大虎を抱こうって気にはならねえけど、一緒に暮らす分には悪くねえかな。みたいには思っちまってたんだ。なにしろ、あいつ、健気だし……
だから、
「まあ、住み込みの家政婦くらいには、思ってやってもいいけどよ……」
そんな風に呟いちまって、さらに牧島は言ったんだ。
「じゃあ、それでいいじゃん。<住み込みの家政婦>を雇ってるって思っておけばいいんじゃないの? 大虎にもそう言ってあげたら? 『住み込みの家政婦としてならこのままいてもいい』ってさ」
「そういうもんかな……」