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聖獣現る
猿が現れた。
住宅地の中にある中学校、この場所から山までは距離がある。
「さぁ、おいでマンキー」
優しい声で猿に話し掛ける彼女には、新緑の初々しさと常緑の力強さがあった。
猿は芸に慣れているのか、彼女の肩にぴょんと跳び乗り、またすぐぴょんとおりた。
柴を背負った人物の像の横を、彼女と猿と戌年生まれの僕が通る。校舎と校舎の間をコウモリが舞った。
「この辺りですね。ほら、見てください」
彼女の指差す方向には五つのマンホールか等間隔に並んでいた。
すると、一陣の風が起きた。
「衣装替え、完了。変身魔法です」
少し照れくさそうに彼女が言う。
今の間に着替えたのだろう。白色のヘルメットを被り顎の紐をとめ、服装は黒いパリッとしたスーツ姿から、うぐいす色の長そで長ズボンの作業着姿にかわっていた。
靴もヒール靴から安全靴にかわっている。
彼女は猿の足を揃えて持ち、マンホールへと向かう。
「マンキー、硬化」
猿は両手を左右に開いて伸ばし、十字の格好になり動かない。
彼女はマンホールのそばに屈み、バール化したマンキーを巧みに使ってマンホールの蓋を開けた。