例え判断がつかないことでも僕のこの両目にかかれば
炭酸水を入れて作るホットケーキは口溶けが良く、シュワリと消える感じがするのだそうだ。
入社したての新人営業マンを思わせる熱意のこもったセールストークは僕の胸を打ち、炭酸水の購買意欲を強く掻き立てられた。
彼女が「坊」と呼んだ店員から店を出る際に貰った、食べ歩き用に包んだホットケーキを食べ歩きながらの力説を、僕はこのホットケーキの味と共に、生涯忘れることは無いだろう。
「どうぞこちらへ」
彼女に案内されたのは大通りから少し入った住宅地の中にある、公立の中学校だった。
施錠されていると思われた正面の門はただチェーンが隅に引っ掛けてあるだけで、横に押すとガラガラガラと簡単に開いた。
僕はカルガモの子になった気分で、前を歩く彼女の黒スーツの背中に付いていく。
「あなたは聖獣を信じますか? 召喚しても良いですか?」
新手の宗教か既存の宗教か、高速料金半額時代に行った四国遍路がせいぜいの自分には到底判断がつかなかった。
今更ではあるが、訝しんだ灰色の左目と死んだ薄灰色の右目のオッドアイで彼女を見てしまう。
目は口ほどに物を言うとはよく言ったもので、僕の口は目ほどには物を言わない。
「はい、おねごいします」
要訂正箇所はあと一文字になった。




