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濡れてなどいない彼女は僕の手によって乱される
「あの、落とされましたよ?」
そう僕に話し掛けた彼女は、一切濡れてなどいなかった。
清潔感ある身なりは、乱れてなどいなかった。
いかがわしいホテルで僕の手によって乱される、そんな想像が全く出来ないくらいに初々しい、汚れなき彼女。
「お悩み、少し軽くなったようですね」
彼女は穏やかに微笑んでホットケーキにメイプルシロップを垂らしている。
カラトリーがぶつかる音は小さくなり、彼女の声が心に響く。精神に直接話し掛けられているようだ。
彼女は人の心が読めるのもしれない、そんな馬鹿げたことを大真面目に思った。
「でも、まだ重たいでしょうから、もうちょっと悩み事を吐き出しますか?」
僕の口は自然に動く。
言葉はオートマチックに紡がれる。
同意、そして依頼。
「はい、あねごいします」