スラムの日常
始めに言っておくがスラムに法律などない。
ここでは完全な弱肉強食。弱いやつは野垂れ死に、強いやつが生き残る。力こそ正義というだけだ。
クソみてぇな所で俺の人生は始まり、最初に人を殺したのは5歳の頃だった。
その時は酷くお腹が空いており目の前の老人の食べていたパンが欲しくて殺した。人を殺すことに罪悪感などなく、自分が生きるためという簡単な理由だった。
「なあ、俺らも外の世界で生きてぇなぁ」
薄暗いスラム街に差し込む外の光を眺めながら、夢を語っているのはケビン。一応手を組んでいる仲間というやつだ。
「バーカ。俺らが外の世界に出たってロクなことがあるか。すぐに捕まって殺されるのがオチさ」
俺たちには生きる術がないからな。
人を殺して奪う。それくらいしかできん。
「おーーーーい!大変だ!!僕たちの基地が荒らされてるよ!」
血相を変えて走ってくるこいつはリン。
十歳にも満たない年齢だが何かと犯罪に役立つので拾って共に暮らしている。
「いったいどうしたんだよリン。俺は今外の世界に思いを馳せてたっていうのによ」
「ほんとに僕たちの基地が荒らされているんだ!急に大男が入ってきてここの主を呼べって」
「なるほど。で俺たちの所に間抜けに来たわけか」
「え?」
俺とケビンはゆっくりと立ち上がり奪い取った剣の感触を確認し、リンの来た方向に目を向ける。
「おい。いるんだろ。どうせこいつの跡でもつけてきてるんだろ?」
「ご名答だねー」
影から姿を表したのは身長が2メートルはありそうな男。
スラム街のやつにしては肉がよく体についてる
「あーお前あれだろ。スラム街なら殺しができるから来てるんだろ?」
「うんうん。ここはいいよね。簡単に人が殺せるし罪にも問われない。戸籍のない奴らなんて死んでも代わりないしね」
やはり外の人間か。
時々スラムにもこういった輩がくる。
殺しを快感にしてるクズ野郎だ。
「だがよー。ここで殺されても文句は言えねぇよ?」
「君たちが僕を?笑わせないでよね。こんなスラムの奴らに負けるわけがない」
男は腰につけた剣を抜き俺達に突きつける。
「さあ。早く君たちもその腰の物を抜きなよ。素手の奴よりも抵抗した人間の方が快楽は大きいんだ」
「まあまあ、焦るなよ。もうすぐ終わるからさ」
こいつはスラムの常識を知らない。もう戦いは始まっているというのに。
俺が鞘に触れたのを合図にケビンが襲いかかる。
「丸腰で突っ込んでくるなんてやはりスラムはバカだなー」
そう言い剣を振り下ろすが、舐めきった一撃でケビンをなぎ倒す。ケビンは間一髪避けたが尻もちをついてしまい、次の攻撃には耐えれそうにない。
だか、次の攻撃などないがな。
「じゃあね。大きなお兄さん」
ドスッと鈍い音をたて、ナイフを突き刺したのはリンだ。
こいつは気配を消すのがうまいから便利だ。
「ぐはっ貴様ら!ごときに、、ふざけるなよ」
「バーカ俺らごときにもてめえは負けるんだよ」
「おいおいニコラスー。この作戦は俺怖かったってー」
ケビンが文句を言っているが仕方ない。一番勝率が高かったからな。
トドメの一撃をこいつが持っていた剣で刺す。
自分のを血で汚すのも面倒だ。
さあて、こいつから奪える物はあるかなーっと
「なあなあ!ニコラス!こいつ金持ってやがるぜ!今日は久しぶりに飲めそうだな!」
「うわーこの短刀僕が持ってるのより全然いいじゃん!ラッキー」
テンションが上がる二人だが、油断してられない。こういうときが一番無防備になるからな。
コツンコツンコツンコツンコツン
スラム街に似つかわしくない革靴の音が反響して響き渡る。
リンとケビンも急いでそちらを振り向く。
どうやら一人ではなさそうだ。
「君たちは何をしている?」
リンとケビンが警戒しながら俺に顔を向ける
「何もしていない。お前こそこんなスラム街で何をしている」
「とある調査でね。でも君たちの目の前で倒れてる男はいったいどうしたんだい?」
「さあ?自殺でもしたんじゃねぇか?ここじゃ当たり前だぜ」
「ふーん。見たところ若そうだな。年はいくつだ?」
「14だ。それで用は終わりか?」
「いーや。残念だか君たちには死んでもらおう」
「くっ!今日は客が絶えねえなぁ」
ここは戦いたくない相手は複数。
しかもさっきのやつとは違い動機も不明。
こりゃあマズイがあいつらの装備品さえ手に入れば一年は余裕で暮らせる。
ケビンとリンに殺るという合図を送る。
どうやら二人とも同じ気持ちなようだ。
さぁて狩りの始まりだ