第8話 将来の夢
俺は手紙の内容の意味を聞き、困惑した。まだどこかで七宮さんのことを普通の美少女と思っていたかった。
しかし、七宮さんは本物の変態だ、只者ではない。実際今、本人がいる目の前で俺のTシャツを「すー…はー…」と深呼吸をしている。まるで最高級の料理を堪能しているような幸せそうな顔をしている。
警察に通報すべきなのか…?だが、同級生が補導されるところなんて見たくない。それに七宮さんは料理や手芸など色々な才能がある。きっと才能だけではなく裏では人の何倍もの努力をしていたに違いない。隣の席で人一倍勉強を頑張っているところを見てきた。
そんな人の人生を俺の手で終わりになんてしたくない。
「七宮さん、話しがあるんだ」
「ど、どうしたのそんな真剣に…」
俺はさっきまでとは違い真剣に七宮さんと向き合うことにした。
七宮さんもさっきまでとは違う俺の真剣な雰囲気に戸惑いながらも、顔からTシャツを離しぬいぐるみのように抱きしめている。
「七宮さんがしていることは犯罪なんだ。もし俺が警察にでも通報したら七宮さんの人生はおしまいだよ?でもね俺は通報なんかしたくない。七宮さんはいつもテストの学年順位は上位だし、料理や手芸だってできる。みんな七宮さんが生まれながら持っていた才能だと言うけれど、きっとそれは俺たちが知らないだけで、みんなが見ていないところで必死に努力してきたからなんだと思う。それだけ頑張るってことはきっと将来やりたいことがあるんだろ?その将来のためにもこんなことはもうやめるんだ」
俺は柄にもなく熱く語ってしまった。説教臭かっただろうか。
しかし俺の思いが伝わったのか、七宮さんはTシャツを手放しており大きく見開いた目から一粒の涙がすっと頬を撫でるように流れた。
「ご、ごめん泣かせるつもりはなかったんだっ…」
俺は焦って「こういう時どうすればいいんだ…」とワタワタしていたが、七宮さんは俺に抱きついてきた。
大粒となった涙を隠すかのように俺の胸に顔をうめる。
「ごめんなさい…ごめんなさい」
七宮さんの姿は感動する映画のクライマックスのワンシーンのように美しかった。この時俺は七宮さんが誰よりも美しく、そしてはかなく見えた。
「大丈夫、ちゃんと将来に向けて頑張っていこうな」
俺は七宮さんの頭を撫で、逆の手で優しく抱きしめた。
髪はとてもさらさらで高級な生地のように触り心地が良かった。身体はとても柔らかく少し力を加えると壊れてしまわないか心配になるほど繊細に感じた。
「桜田くん………」
まだ少しうるうるした目で俺を見上げる。今まで見たどの七宮さんよりも可愛く見えた。俺は優しく微笑みながら七宮を見つめる。
「やっとわたしの気持ちに気づいてくれたんだね!!」
ん?
「うれしい…わたし今とても幸せ。今までずっと将来のために頑張ってきて良かった…」
さっきまで悲しそうに泣いていた七宮さんはどこに行ったのだろうか。今までにないほど幸せに満ちた表情をしている。
あまりの七宮さんの感情の飛躍から脳の処理が追い付いていない。
「ごめん…ちょっと聞きたいんだけど、将来やりたいことって何?」
「桜田くんのお嫁さん!!」
なんてこったーーーーー!!!!てっきりデザイナーや料理人てきなのが来ると思ったらお嫁さんですか!こんな美少女からお嫁さんになりたいと言われて嬉しい反面、実は不法侵入して服盗んで一人であんなことする変態という事実に混乱する。
「桜田くんに似合うお嫁さんになるために今まで料理や手芸とかの家事も頑張ってマスターしたし、どんなシチュエーションのデートになっても対応できるように勉強や運動もできるように頑張ったの!」
七宮さんの言葉に俺は圧倒される。今まで努力してきたのは全部俺のお嫁さんになるため。その『俺のため』というのが心に刺さった。
「パンツを盗んだことはごめんなさい…桜田くんのことを想う気持ちが我慢できなくて…いつでも桜田くんのことを感じていたかったの」
七宮さんからのマシンガンのように放たれる愛の言葉に顔が赤くなってしまう。
そんな俺を見て七宮さんの興奮は絶頂を迎える。
「桜田くん…さっき『将来に向けて頑張っていこうな』って言ってくれたよね。つまり結婚しよっていうプロポーズだよね!!」
「えっ…ちょっうわっ!?」
勘違いだと否定しようとしたが、それよりも早く七宮さんは俺を押し倒し、俺に覆いかぶさるような体制になる。
「プロポーズ記念に今日は二人で初めてを迎えよう?もう学校なんか休んで愛しあおう?」
そう言って七宮さんは着ていた少ない衣服をすべて脱ぎはじめた。七宮さんの生まれたままの姿。白い肌と大切な場所が目に入ってくる。慌てて目をそらすが、脳に強く刻まれた七宮さんの身体が俺の体を熱くする。
七宮さんは俺の履いているズボンに手を出し、脱がそうとする。
「えっちょっと待って七宮さん、これはまずいよ!?」
「えっ?あっ上半身から脱がして欲しかった?」
「違っ、そういう意味じゃっ…」
俺は必死に抵抗をするも呆気なく上半身を脱がされる。
七宮さんは俺の上半身を指でなぞる。こそばゆい感覚に身震いをしながら「はうっ」と男らしくない声を出してしまう。
「かわいい…♡」
目がとろんとなっている七宮さんは大人の雰囲気を漂わせながら舌舐めずりをする。流石の紳士の俺も理性が崩壊寸前になる。
や、ヤバイ耐えろ息子、耐えてくれ!あとでちゃんと面倒見るから!!
「さっ早く二人で初めてを…」
ほ、本気だ。本気で俺をヤろうとしているっ!?これは本当にヤバイ!
誰か、誰かーーーーー!!!
バタンッ!!!
アパートの部屋のドアが勢いよく開く。
「何してるの!?」
玄関にその少女は立っていた。