第6話 真夜中に現れし美少女
「これが…失恋の雨…」
「バカなこと言ってないで早く帰るわよ。兄弟仲良くしてくれるのは嬉しいけどあんまり伊月を困らしちゃ駄目よ?」
◇
夕食を食べ終わったあと宿題をして風呂に入り、今日することは終えた。
ベッドの上でゴロゴロしながらテレビを観ていると今人気急上昇中のアイドルの神宮寺花音が警察の活躍を紹介する番組のゲストとして出ていた。
神宮寺花音は俺と同じ高校二年生の十六歳だ。
スラっと胸ぐらいまで伸びた銀色に輝くレイヤーロングにきめた髪。スレンダーでよくへそ出しの身軽な衣装を身にまとっており、ネットでへそ出しの頂点と言われファンから崇められている。
確か出身地は俺の実家と同じで、アイドルデビューをして人気が出てからは関東方面へ活動拠点を移したらしい。自分と同じ出身地だと親近感がわいて応援したくなるものだ。
『花音ちゃん最近気になる事件とかありますか?』
『そういえば最近家に不法侵入して金品を盗む事件が多いですよねー』
司会役で有名な芸能人に話をふられて神宮寺花音が答えた。
さっきまでぼけーーーっとしながらテレビを観ていたが『不法侵入』という言葉が聞こえて「はっ…!?」と意識が覚醒した。
すると少しこわ面をした専門家のような人が話し始める。
『鍵を掛けていたら安全だとは思ってはいけません。ほんの少しの工夫と技術を身につけてしまえば鍵なんて簡単に開けてしまいます』
そう言ったあと専門家の人が実際に鍵を開けて見せると言い始め、スタジオに家を再現した道具が持ってこられた。さすがに鍵を開けているところは放送されなかったが、ほんの1分程度で閉ざされたドアの鍵を開けてしまった。
俺はその様子を観て鳥肌がたった。
このアパートには監視カメラはないはずだし、オートロックもない。ドアの鍵もごく一般的な金属の鍵を使って開けるものだ。セキュリティ面では最悪と言ってもいい。部屋に入った人もこの専門家の人のように簡単に入ってきてしまうのだろうか。もう少しそういう面も視野に入れて部屋を決めるべきだった。
『アイドルを狙って不法侵入を試みる犯罪者も珍しくはないので、神宮寺さんも十分に注意をするようにしてください』
『なんなら僕が家まで送ってあげましょうか?』
『そっちのほうが危険じゃないですか』
『『『ははははははははっ!!』
芸人だけど顔もカッコよくて性格もよい、トークが面白いと最近波が来ている芸人の松原がボケ、神宮寺花音がツッコミをしてスタジオが笑いに包まれる。
しかしスタジオの雰囲気とは別に、俺の心にはモヤモヤが残っていた。やっぱり少し怖いな…。
ふと時計を見るとちょうど0時をさしていた。
「そろそろ寝るか…」
テレビと部屋の明かりを消して布団をかぶった。
◇
「はいカット、お疲れ様です」
「「「「お疲れさまでした」」」」
撮影が終了し、スタジオの雰囲気が軽くなっていく。出演者はそれぞれ軽くあいさつを交わすと、それぞれの楽屋に帰っていく。神宮寺花音も軽く体を伸ばしながら、廊下を歩く。
「花音ちゃん、今日も的確なツッコミだったね」
前を歩く神宮寺花音の後を追って、松原が話しかけに行く。
「松原さんのトーク力には敵いませんよ」
「そんなことないよ。それよりさ、これから食事に行かない?もちろん俺が奢るからさ」
「お誘いありがとうございます。でももう夜も遅いので今日はやめておきます」
「あ、もしかしてさっきの撮影で夜道が怖くなった?それなら俺が家まで送ってあげるからさ」
二十五歳の松原が十六歳の神宮寺花音を見る目は、今日の撮影のVTRで出てきた性犯罪者と同じだった。
「ごめんなさい、明日は学校があるので」
「学校なんかサボっちゃえばいいじゃん。それにさ、自分でいうのもなんだけど俺結構優良物件だよ。それに俺と花音ちゃんとならみんなお祝いしてくれるよ」
松原はもう隠すことをやめていた。神宮寺花音の肩に手を回そうとするが、スッと避けられてしまう。
「すいません、私もう築十六年の最高な物件を地元で見つけていますので」
「お前ちょっとチヤホヤされてるからってあんまり調子に乗るなよ。女は黙って俺みたいな成功者の言うことを聞いてればいいんだよ」
中々神宮寺花音を思い通りにできなくて、顔や態度もあからさまにイライラし始めた。しかし、そんなことも神宮寺花音は気にも留めていなかった。
「あなたはもう不良物件ですね。取り壊し工事が決定しました」
「お前何言って―――――」
「もう少しカメラに気を付けたほうがいいですよ」
◇
「眠れない…」
せっかく頭からあの紙袋のことが離れていたのに、テレビのせいでさらに恐怖が盛られて帰ってきた。
それに手紙の内容も気になり始めてますます眠れなくなってしまった。
時計を見る。
(もう2時なのか…2時間目を瞑っていても眠れないなんて重症だぞ…)
全然眠れないためスマホで眠る方法を調べようとしたときだった。
ガチャガチャ
と音が聞こえてくる。
(ん…なんの音だ…?)
俺は疑問に思いながら耳をすます。
(あれ……ちょっと待て…この音俺の部屋のドアからしてね!?)
割と近くから聞こえるこの音は間違いなく俺の部屋のドアの鍵を開けている音だ。
(嘘だろ!?来るとしてもパンツ送ってきてこんなすぐに来るとは流石に思わないよ!!)
いや待て落ち着くんだ。
もしかしたらパンツの人とは違う危ない人かも…いやそれもっと嫌だよ!!あっそうだ…!もしかしたら両隣さんのどちらかが酔っ払って自分の部屋と間違えて鍵を開けようとしているのかもしれない。
そうだそうに違いない。
あっ、でも俺の両隣誰も住んでないーーーーー。
ガチャッ
(ぎゃーーーーーーーーーーーーーー!!!!)
明らかに鍵が開いたような音が響いた。
そしてギーーーーとドアが開く音がする。
(まじか…あっ靴を脱いでる音がする。意外と普通な人…なわけねえだろ俺!!人のパンツ盗んで「おいしかったです」という手紙とともに返してきた変態だぞ!?)
ドアノブに手をかける音がする。とっさに寝たフリをしたがどうやら隣の勉強部屋のほうに入ったらしい。
俺はベッドから立ち上がり壁に耳をあてる。
[はあ…はあ…はあ…]
やけに息が荒いように聞こえるが俺の男としての本能が察した。
(これは…ただ疲れたときの息荒れなんかじゃない…興奮しているときの息荒れだ…!!)
何がとは言わないがちょっと良い動画をみたとき女性がこんな息をしていた…。
何がとは言わないが。
(しかしこの音は女性だな…完璧にヤバイ人だな…)
すると勉強部屋から何か引き出しを開ける音がする。
(引き出し…勉強部屋に置いてある引き出しのもの…タンスじゃないか!?)
[スー…ハー…スー…ハー…スー…ハー…スー…ハー…スー…ハー…スー…ハー…]
(いや何回スーハーしてるの!?そして俺の何をスーハーしてるんだ!!)
ドアが開く音がする。
(やべえこっちくる!?)
音を立てないよう気をつけながら俺はベットに戻ろうとするが動きを止める。
(違うだろ俺…捕まえると心の中で意気込んでたしゃないか…勇気を振り絞るんだ!!)
俺は覚悟を決めてドアノブを手をかけ、ためらうことなく開いた。
するとそこにいたのは1人の少女。
誰が予想できただろうか…そしてどうしてここにいるんだ。
「なっ…七宮さん…?」
「桜田くん…」
俺のパンツとTシャツを大事そうに抱きしめていた七宮さんがそこにいた。
 




