第11話 いつもの七宮さん
「いててて…」
芽衣から逃げ切ることはできず、滅多打ちにされました。いつもより容赦がなく後頭部がひりひりする。毎日殴られている俺じゃなきゃ死んでたぞ。
「あっ…」
靴箱に自分の外靴をしまうときに、ふと七宮さんの番号の靴箱を見てみると外靴が入っていた。つまり七宮さんが登校しているということだ。あまり気まずい関係にはなりたくないが、今日の深夜のこともあり、なんだか身構えてしまう。
「何かあったらスマホで連絡してね」
芽衣は自分のスマホを手に取り、俺に見せながら言う。
「絶対に助けるから」
芽衣の顔は真剣で、本気で俺のことを心配しているように感じる。さすがに学校では何もしては来ない気がするが、芽衣の優しさに感謝しておこう。
だがそれより気になるのが、片手にラケットを握りしめながら言われると、七宮さんを芽衣がラケットで叩かないかが心配だ。あくまで芽衣は最終手段としてとっておこう。
「ありがとう」
軽く別れの言葉を言って、それぞれの教室へと向かった。
◇
教室のドアの前まで来た。
「ふう…」
俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。今日の深夜にあったことはとりあえず忘れる。いつも通り…いつも通りに接するんだ。
「参る」
ガラガラと教室のドアを開けたあと俺は下にうつむきながら席に着いた。教室のドアの前でいつも通りに接すると決心したもののやっぱり顔を見ることが難しい。
横を通り過ぎたとき顔は見てないが、やはり七宮さんは席についているということは分かった。
膝が緊張…はたまた恐怖からかがくがくと震えている。
サッカー全国大会のPK戦でも震えなかった膝が、隣の席の美少女によって震えている。
俺は必死に手で膝を抑える。
「おはよう、桜田くん」
声にびくっとなるも七宮さんの方へ視線を向ける。いつもと変わらない笑顔を見せてくれる七宮さん。本当に今日のことがなかったみたいだ。
「お、おはよう、七宮さん…」
「どうしたの元気ないね、熱でもあるのかな…」
七宮さんは心配そうに俺を見つめる。
いや…元気がないのは七宮さんのせいですよ?あの5時間前の出来事をお忘れですか?
どうしたらそんな純粋無垢に俺のことを見れる?
「ちょっとごめんね」
「えっ…」
俺は今起こっていることに目を疑った。
七宮さんは俺の前髪を上にすくい上げると俺の額に自分の額をくっつけてきたのだ。あと少しでも前に近づけばキスしてしまうほどの距離だ。こんな近くに美少女の顔があるため俺は顔が熱くなるのを感じる。七宮さんは本当に距離感がバグっている。
「桜田くんすごい熱いよ?熱なんじゃ…あっ!?ごめん、つい流れでっ…」
俺が恥ずかしくて顔が赤くなっているのを見て、自分がとんでもないことをしていることに気づいたようで急いで俺との距離をとった。
七宮さんも俺と同じくらい顔を真っ赤にしている。
「わたしも熱なのかな…」
ボソッと恥ずかしそうに呟いた。
そのタイミングでその言葉は反則だ!俺は胸の高鳴りを抑えようと頑張る。深夜とは大違いでなんでそんな初心な反応ができるのか。それと同時にクラスメイトからの痛いほどの視線を感じる。
「み、みた七宮さんと桜田くんが…」
「あの2人って付き合ってるのかな…?」
「七宮さん大胆…」
「桜田殺してやる…」
おい、明らかに最後ヤバいやつがいたぞ。純粋な殺意を感じた。そういえば七宮さんのファンには過激派もいるからな。だがそれ以上の過激派が俺の隣にいることは、この教室の俺だけが知っているだろう。
◇
今は朝のHRで先生が諸連絡を行なっている。さっきの出来事で分かったがどうやら七宮さんは学校ではいつも通り(?)に接してくれるらしい。それは俺にとってはありがたい話だ。
学校でもあんな感じになってしまったら理性が保てないし、不純異性交遊と判断されて停学…下手すれば退学になってしまう。
「んっ…?」
机に半分に折られた白い紙が置かれた。七宮さんの方を向くと俺の方をチラッ、チラッと横目で見ていたので七宮さんからだろう。
(えっ…怖いんだけど…)
前までだったら七宮さんから手紙をもらうと喜びの舞を踊っていたが今は素直に喜べない。
というか手紙となると…うっ…頭が…。
あのパンツ感想のせいで手紙恐怖症になってしまっている。正直中身は見たくなかったが七宮さんがずっとチラ見してくるため俺は唾を飲み込み、そっと手紙を開く。
『今日お昼一緒に食べよ?』
困ったお誘いだ。
何度も言うが、今日の深夜の件で七宮さんが怖い。だがこれは七宮さんを知ることができるチャンスかもしれない。なぜパンツを盗んだのか、どうして深夜に俺の部屋に侵入したのか、そしてなぜ俺なのかを。
学校ではさすがに何もしてこないだろうし、説得することもできるかもしれない。
俺は七宮さんのメッセージの下に「いいよ」と書いて、七宮さんの机の上に手紙を置いた。するとすぐに手紙を手に取った。俺の返答を見てどこか嬉しそうな表情になり、子どものように足を振っていた。
本当に別人みたいで、脳が処理できずおかしくなりそうだ。