Episode1-3
いつもと変わらない日常が続くと思っていた。でも、そんな日常はほんの少しズレるだけで崩れ去るんだ。それを今日、僕は思い知った。
いつもの時間、いつもの場所にいない凛華。その時点で僕は察した。彼女がここに来ることは無いのだと。そしてそこからの僕の行動は早かった。すぐに会社に欠勤の連絡を入れた。普段休むことのない僕の欠勤連絡に、上司も何かを察してくれたんだろう。何も聞くことなく認められた。そして、次に僕は凛華……ではなく凛華のお母さんに電話をかけた。
[もしもし]
「もしもし、藍さん。ご無沙汰しています」
[漣くん、私に連絡をかけてきたってことはもう気づいたのね?]
「はい、凛華は今どこに?」
[__病院よ]
「わかりました。すぐに向かいます」
藍さんに聞いた居場所で、僕は凛華の状態がかなり悪いことを悟った。なぜなら普段通っていた病院ではない病院だったから。そして病院に着くと、藍さんに迎えられた。
「藍さん!凛華はどこですか!」
「凛華は今病室で眠ってるわ。506号室よ。看護師さんにはあなたの事、伝えてあるから行ってあげて」
「ありがとうございます!」
こうしてエレベーターを待つ時間も惜しかった僕は階段を駆け上がり5階にある凛華の病室に急いだ。そして、そこにいたのは穏やかに眠っている凛華だった。けれど、その横にあるモニターの動きはとても弱々しいものだった。僕は、凛華のもとに駆け寄り手をとった。
「凛華!僕だよ、漣だよ」
「…………」
僕は何度も何度も凛華の名前を呼んだけれど、返事はない。もちろん眠っているからというのもあったんだろうけど、もう僕の声に反応ができないほどに弱っていたというのが1番だった。僕は1度凛華のベッドの近くにあった椅子に腰掛けた。その時、ふと凛華の枕元にある丁寧に封のされた便箋を見つけた。
「……神田 漣様へ」
それは、凛華が僕に宛てた手紙だった。
「(拝啓、漣くんがこの手紙を読んでるってことは私の意識はもう無いんだろうな。私が漣くんと初めて会ったのは幼稚園のこと、その頃からあまり体の強くなかった私は自分の家の庭に出ることしかできなかったの。みんなが私の事なんてスルーする中、漣くんだけは私に話しかけてくれてたよね。とても嬉しかった。その時から私は、ずっとずっと漣くんの事が好きでした。こんなタイミングで伝えちゃってごめんね?でも、一つだけ心残りがあるの。私、一回でいいから漣くんの歌聞きたかったなぁ)」
「凛華……凛華……!」
僕の呼びかけにも反応が無い凛華にうなだれていると急に病室の入り口のドアが開いた。
「諦めるのはまだ早いんじゃないか?……相棒」
「その声は…………クラウド…?」
そこに現れたのは、僕がRainとしてみんカラ内で作っていた歌い手ユニット、4Whethersの1人、クラウドこと葉山 青空だった。