準備運動
私の名前は、橋塁能智はしるい のち39歳会社員で独身だ。
①ランニング開始時 身長165㎝ 体重75㎏ ウエスト96㎝ 中肉中背
そして、俺はドアの外に1歩を踏み出した。
うぉぉーーまぶし・・・・くない。
あれっ、俺の予想じゃ、朝日に照らされて神々しく走り出す自分をイメージしていたんだが・・・。
この季節、まだ、初春では7:00は真っ暗ではないか。
う~んこれは、出足をくじかれてしまった。
くじかれたと言っても、それは比喩だから、実際に足をくじいたわけではない。
とはいうものの、朝の7:00から始めると決めた以上は、それを覆すわけにはいかない。
ジンクスが・・・・。
ジンクスが・・・。
しかし、まあ、なんだ。
走り出せば日が昇る。
そうすれば、朝日を存分に浴びてやろうではないか。
朝日のシャワーで体全身ずぶぬれになるほどに受けてやろうじゃないか。
それにしても、寒い。
朝はこれほどまでに寒かったのか。
いつもはエアコンの温度を28度まで上げて、ぬくぬくの状態で朝ごはんを食べていた。
だから、これほどまでの寒さに気づくことは全くなかったように思う。
太陽が出ていないこの寒さ。
まさに、時代が開けるまえの、何かを待っているような静けさ。
もしや、これは、俺の先々を祝うサプライズか何かなのか?
もしや、天が俺に与えたもうたサプライズなのだろうか。
いや、そうとしか思えないであろう。
そう考えれば、心地よいといえ・・・・ないな。
まあ、走ると決めた以上、この時間から走らなけらばならない。
それは、俺に神が与えし試練にほかならない。
そうして、この試練を乗り越えた先にあるものは・・・先だけに砂金ともいえなくもない。
さあ、これから一歩を踏み出すのだ。
世紀の1歩だ。
人類がその1歩を月に刻んだように。
アームストロング船長は言った。
これは私の小さな1歩であるが、人類にとっての大きな1歩である。
そう、この1歩はまさにそういう1歩と言っても過言ではない。
さあ、踏み出すのだ。
この1歩を・・・。
おぉぉーーーとっ、忘れていた。
スマートウォッチには走行時間、GPSを使用した走行距離、それに歩数が測定される。
しかーーし、そのためには設定がいるのだよ。設定がね、明智君。
忘れてはいけない。
この記念すべき1歩を踏み出す前に栄光のスマートウォッチの設定をしておかないといけないのだ。
それでは、このボタンを押す。ぽちっとっ
よし、これで、準備万端、四暗刻マンガンドラドラだ。
スマートウォッチの時間はしっかりと1秒2秒と時間を刻んでいる。
これから、俺はこの足で歩数を刻んでいくのだぁぁぁ。
この神の第1歩を刻む。
さあ、この・・・・・・・・右!?左!?
いけない、時間は過ぎていくのに、右足から出すか、左足から出すかを決めていなかった。
どうする。
どうするんだ。
時間は刻一刻と過ぎていく。
この時間を巻き戻すことは出来ないんだ。
歴史を戻せないと、同様に、時間を戻すことはできないぃぃぃぃっ。
しかたがない、ここは、決めてはいないが、とにかく、足を出さないといけない。
迷うぞ、どちらの足を出すのか、迷うぞ。
だが、決めるんだ。
ここは男を見せるところだ。
さあ
さあ
さっさあ
決めた。
左足からだす。
ふぅぅ~。
緊張の一瞬だった。
異種格闘技戦の前哨戦のような戦いが、この右足と左足に繰り広げられたような。
そんな、前哨戦の一瞬だった。
勝った。
俺は、この勝負に勝ったんだ。
勝負に勝ち負けは必要ないというやつもいる。
しかし、勝負に必ず勝ち負けが存在する。
そして、俺は、この勝負に何とか勝利を収めることが出来た。
長く・・・長くはないが、辛い・・・少しつらい、そんな道のりを越えた先にあるものは・・・。
そう・・・・それは、勝利、つかの間の勝利であるとはいえ、そこにあるのは勝利だ。
あぁぁぁぁぁぁ。
天は私に勝利を使わしてくれた。
勝利の天使を。
私は捧げます。
私の心のすべてをあなたに、あなたに捧げます。
そして、この振り上げた左足を降ろしさえすれば、そうすれば、すべてはそこに導かれるのだ。
勝利の名の元のに。
ジャンヌダルクがその勝利の為に旗を振ったように、俺の左足は勝利に向かって撃ち進むのだ。
さあ、これで・・・・これで決まる。
足を・・・左足を降ろすのだ。
この、冷え切った地面に・・・・・・・・・・!?
冷え切った地面・・・冷え切った・・・・・冷え・・・・。
しまったぁぁぁぁぁっ。
「YouTube」にあったではないか。
ランニングの前には必ず運動が必要だと。
そう、準備運動が必要なんだ。
なぜ・・・なぜ・・・こんな大事なことを忘れてしまっていたんだ。
いけない・・・禁断の園で禁断のリンゴに手をつけた。
それほどまでに、禁断のいや・・・禁忌の技。
ランニングの前には必ず準備運動が必要だったのにぃぃぃぃっ・・・・・。
いかん、左足の1歩が地面に届いてしまう。
この1歩は大事な1歩だ。
決して、つけてはならない。
つけては・・・・・な・・・ら・・・・な・・・・い・・・ん・・・だぁぁぁっ。
ふぅぅ~。ふぅ~。ふぅ。
間に合った。
何とか大事な1歩を踏みとどまることが出来た。
よし、そしたら、今から準備運動を始める
どうでしょう。
感想をお待ちしております。




