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勇者の凱旋  作者: @豆狸
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後編 勇者の凱旋

 デビッドが勇者として旅立ってしばらく経ち、私はお母さんにお休みをもらって冒険者ギルドにやって来た。

 我が家は猟師で、お父さんが狩ってきて解体したモンスターの素材をより分けるのが私と妹の仕事だ。

 お休みと言いつつ、私はギルドに素材を納入する役目を託されている。妹は彼氏と釣りに行った。妹の彼氏は赤毛なのが玉に瑕だが、体は逞しくて顔が厳つい。羨ましい。妹はいつも文句ばっかり言ってるけど、不満があるなら譲って欲しい。


「よお、レスリー」

「バーナードさん!」


 ギルドに入るとバーナードさんが声をかけてくれた。

 彼に向ける想いは憧れだけど、好みなもんだから勝手に顔が熱くなる。

 あ、マリナさんが! 受付のマリナさんが睨んでる!


「デビッドがいなくなって寂しくなったんじゃないか?」

「いえ、全然です」


 私はきっぱりと答えた。

 デビッド狙いの村の女の子達に嫌がらせされなくなった分、のんびりと暮らしやすくなったとまで言える。

 私に嫌がらせをした女の子にはデビッドが巧妙な手段で報いを受けさせていたけれど、やられてからだからどうしても後手後手になってたからね。最初からなにもされないほうが気楽でいいよ。


「今日はおひとりなんですか? バークさんは?」


 バーナードさんは弟のバークさんとパーティを組んで、村の猟師では対応しきれない凶悪なモンスター退治や一獲千金を狙ってのダンジョン探索をしている。

 バークさんはバーナードさんより横幅は狭いが縦長で、私と年齢が近いしマリナさんもいない。

 この前会ったとき彼女募集中だと言っていたし、デビッドのいない今こそ一生に一度の恋愛努力をしようと思う。


「デビッドに聞いてないのか?」

「はい?」

「バークはデビッドに勧誘されて、魔王討伐隊の一員となるために王都の騎士団で修業してるぞ」


 ……デぇビッドぉー!


 いや、怒っても仕方がない。バークさんのことは諦めよう。

 だからといってバーナードさんを狙うとかありませんからね! 私、怠け者だから略奪愛とかありえないんです! だから睨まないでください、マリナさん!

 私は、聖女(王女)様とか美女賢者様とか、自ら立候補して騎士団で修業中だという前に村に来た姫騎士とかがデビッドの心を射止めてくれるよう神に祈った。いやだって、魔王を倒した勇者の嫁とかなるのめんどいし。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 勇者(デビッド)が村を発って一年。

 魔王を倒した彼が帰って来た。

 ……え? 魔王、復活して二十年なにやってたの? モンスターの数を少々増やしたくらいで満足してたの? 怠け者の私が言うのもなんだけど、もっと頑張れなかったの? いやまあ世界を滅ぼされたり、人間が奴隷にされたりするよりは倒されてくれたほうが良かったんだけど。


 そして、私は帰って来たデビッドに夕暮れの森へ呼び出された。

 一年前と同じように、隣同士の家から出て一緒に歩いていく。

 もう家から出たところで話せよ!


「……デビッドさあ、なんで帰って来たの」

「酷いなあ。故郷に帰って来ちゃいけないの?」


 デビッドの母親は一年前、彼と一緒に王都へ行き、修業先の騎士団のやもめ団長と再婚した。

 いや、伯爵様とは結婚してなかったから再婚じゃないか。でも向こうは再婚だから再婚でいいのか? とにかく王都で新婚生活中なので、もうこの村には住んでいない。

 デビッドは楽しげに微笑む。


「ふふふ、僕はレスリーに求婚するために帰って来たんだよ」

「うん、まあ知ってた」


 魔王討伐隊の一員となったバークさんは、聖女(王女)様と恋に落ちたので未来の国王になる。魔王を倒した英雄のひとりだもんね。

 本当は王女様にはお兄様がいらっしゃったんだけど、気がつくと消えていた。

 魔王に暗殺されたとかいうわけではないと思う。どこかのだれかの企みに邪魔だっただけだ。デビッド(どこかのだれか)にも人の心はあるはずだから、だれも知らないところでひっそりと生き延びているのだと信じたい。


 美女賢者は旅先で出会った神官と、姫騎士は同行していた盗賊と結ばれたという。

 バーナードさんも数ヶ月前にマリナさんと結婚している。

 妹と彼氏は結婚していない。だってふたりともまだ十歳にもなってないからね。


「というわけで、結婚してください、レスリー!」

「うん、いいよ」


 デビッドが青い瞳を見開いた。


「え? え? いいの? どうしたの? 僕は好みじゃないんでしょ?」

「うん。だけど幼なじみとしての情はあるし、バークさんには王女様がいるしね」


 丸くなっていた青い瞳が細くなり、剣呑な光を放つ。


「そんなに彼が好きなの?……女を宛がうんじゃなくて、旅の途中で殺しておけば良かったかな」

「不穏なこと言わないで。単に新しく好みの人を探すのがめんどくさいだけだよ」

「そっか。うふふ、レスリーが怠け者で良かった」


 デビッドは、さっき殺意を撒き散らしていたのが嘘のように無邪気な笑みを見せた。

 それから頬を朱に染めて言う。


「じゃ、じゃあさ……結婚を約束した記念に、キ、キ、キスしてもいい?」

「いいよ」


 キスのときは目を閉じるから、デビッドの顔が好みじゃなくても関係ないしね。

 体が近づくと、デビッドの涼やかな声が低くくぐもって聞こえるのは結構好き。

 目を閉じようとしたら、デビッドが焦った声を出した。


「ごめん、ちょっと待って。キスする前に魔王の心臓消化するから」

「……魔王の心臓?」

「うん。今度もレスリーに求婚断られたら世界を滅ぼそうと思って、魔王を倒したときに心臓を飲み込んでおいたんだ」


 ……デぇビッドぉー!


 なにやってんだ、コイツは。

 結婚自体がめんどくさいから断って一生独身を通そうかとも思ったけど、幼なじみの情で受け入れることにしておいて良かったー!

 結婚がめんどくさいからって世界が滅ぼされる原因になる気はない。というか、その場合は世界が滅んでも私とデビッドだけは残されそうな気がする。


「……これで大丈夫。じゃあキスするね、レスリー。えっと……目を閉じて?」


 目を閉じて私は思った。

 もし一年前に求婚を受けていたら、デビッドはあの日のうちに魔王を倒してきたかもしれない、と。

 そして彼がこんなに私にこだわるのは、私が彼の『好み』だからじゃないかって。これで彼が私の『好み』だったら最高だったんだけど、世の中そう上手くはいかないもんだよね。お互い相手が宿敵や天敵じゃなかっただけ幸せなんだろうな。


★ ★ ★ ★ ★


 ──魔王を倒した勇者と、故郷の村で彼を待っていなかった幼なじみは、それからずっと幸せに暮らしました。

 たぶん、ね。


・おしまい・


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


レスリー「田舎で十八過ぎと言えば結婚適齢期なのに、なんで私には縁談が来なかったんだろ? 怠け者だから?」


妹「お姉ちゃんはデビッドお兄ちゃんと結婚するんでしょ?(優しい目)」

妹の彼氏「レスリーさんはデビッドさんと結婚するんだろ?」


父「レスリーはデビッドと結婚するんだろ? 父さんは母さんと結婚してるからダメだぞー、はははー」

母「あなたはおバカで怠け者だから、デビッド君みたいなしっかり者と結婚しなくちゃすぐ飢え死にしちゃうでしょ」


デビッド母「レスリーちゃんはデビッドのお嫁になってくれるのよね?」


デビッド「物心ついてからずっと、頑張って外堀を埋めてきました!」

レスリー「……デぇビッドぉー!」


レスリーの友「アンタ、本気で勇者から逃げられると思ってたわけ?」

魔王(故)「そやつから逃げるのは無理だと思うぞ(我も逃げられなかった)」


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