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シュヴァルリ ―姫騎士物語―  作者: けろぬら
第3章 Einen schönen Tag! 姫騎士の穏やかなれど怒涛の日々です

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03-023.突発的事案を強行する際は成功率を求め過ぎれば頓挫する。 Wirkung.

今回はチョット悪ノリ

2156年8月15日 日曜日

 新国際展示場、南展示棟。こちらの棟はフロアを横で割る様に2区画に分かれ、それぞれ2階建て部分までの各4フロアずつが企業ブースである。ティナが身を寄せている出版社は1階にブースを出展しており、そこから2つ上がった3階は、競技系のイベントが出来る様にワンフロアを全て使ったスタジアム造りの競技フロアがある。老朽化により建て直した際に増築された施設である。競技フロアの上にも多目的フロアがあと2階、増設されている。


 その3階競技フロアでは、朝も早くから国際シュヴァルリ評議会日本支部が用立てた機材が次々と搬入され、スタッフが慌ただしく設定をしている。設置が終わった順にシステム構築を始めているのを見るに、分業制で会場のシステムを組み上げるのだろう。この辺りは、国際シュヴァルリ評議会日本支部の職員を総入れ替えした際に連れてきた再建メンバーの技量が高いと伺える。


 今回、競技システムであるSDCの機能を、Chevalerie(シュヴァルリ)競技、「Épée et magie RPG」競技、一般の武器デバイスカスタマイズ――現実では持てない巨大な武器を片手剣の重量にエミュレート――向けのオプションプログラムを実行できる環境として、いざとなれば、各プログラムのルールを混在が可能となっている。これは特別なことではなく、SDCが元より持っている機能であるが、騎士(シュヴァリエ)達には馴染みが無い仕様部分だ。

 ティナが用立てた警備員に混じって、お祭りのボランティアスタッフが会場整理の手伝いに駆けつけてくれた。このイベントは特殊なので仕事料を払う旨を告げたところ、あくまでボランティアのため不要と突っぱねられた。なので夕食代として有名店上級コースのペアお食事券を振舞ったのだ。実はバイトで日当を稼ぐより1食が高いお店なのだが、そのことについては後で驚いてもらうことにする。


 さて、まだ9:00より前の時間。お祭り責任者、出版社の責任者、司会の蓑崎、それとティナを含めた騎士(シュヴァリエ)達七人が会議室で段取りの打ち合わせ中。


「驚きました、磁雷矢さんにお会いするとは思いませんでした。」

「蓑崎さんが戸隠へインタビューに来られて以来ですね。今回は神戸(かんべ)小乃(この)ちゃんに是非と誘われましてね。」


 Chevalerie(シュヴァルリ)好きが伴い武術に造詣が深くなった蓑崎は、役者稼業の合間に色々な流派の体験入門をしている。その縁で、出演していたバラエティ番組のコーナーで戸隠流忍法四十代宗主へインタビューをしたことがあるのだ。

 第三四代宗主が総合古武術の道場である武神館を設立したが、二代前の宗主が武神館の運営からは手を引き、戸隠流忍法と古武術である骨法を主体として継いでいく道場を戸隠に開いた。世界中でも未だ同門は多いのだが、戸隠流を重点的に研鑽する道場は此処だけである。ちなみに、長いこと日本の剣術界に君臨していた剣雄会とは、総合古武術と言うことで武神館共々全く関与していないどころか毛嫌いしていたので、日本国内においては同門の内でSDCを使って実戦の技を練ることはあっても騎士(シュヴァリエ)として活動している者が殆どいない。


「やはり、10年前の特撮ヒーローがインパクト凄かったですね。」

「お蔭様で、未だに特撮番組から時たまゲスト出演でお呼ばれされますよ。」


 今から160年以上前に放送された特撮ヒーローで、戸隠流忍者が主人公の忍者ヒーローものがあった。当時の戸隠流三四代宗主が出演していたことで話題にもなったが、10年ほど前に何度目かの忍者ブームが到来した際に現代の時代背景とストーリーでリメイクをしたのだ。

 その時、特撮番組のアクション監修で度々呼ばれていた当時の磁雷矢が、戸隠流繋がりで主演を務めることとなった。特撮と言いつつも、高度な武術や現実的な忍法の技で本物嗜好のアクションが人気を博し、未だにファンの間では根強い人気がある。


 昨日の日中帯に、インフォメーションスクリーンへ今日のイベント告知を流して貰っていたが、午前の途中から出演者が確定したことでティナ達七人の名前を明記したのだ。同時にWEBサイトとSNSへもお知らせしたことで、東京に拠点を置く「Épée et magie RPG」競技のプロチームなども参加の応募があったと言う。個々のネームヴァリューが功を奏した結果と思われる。


 そして、本日のスケジュール。


1)レクリエーションとして相手のレギュレーションを用いての接待プレイ。

2)「Épée et magie RPG」に付属のデフォルトマップとゲーム設定を使った対戦と協力プレイ。

3)騎士(シュヴァリエ)同士の模擬戦と、参加者が希望すれば戦いたい騎士(シュヴァリエ)との模擬戦。

4)Drapeau(フラッグ戦)などの屋外マップをエミュレートした出演者と参加者入り乱れての団体戦。


 この4種類を順番に実施する予定ではあるが、4番目の団体戦は時間見合いで実施可否を決めるので、実質3つの項目を(こな)すことが目標である。

 お祭りが閉場した後は、今回協力頂いた出版社の発行雑誌からの独占インタヴューに小一時間程、時間を取る約束となっている。


 打ち合わせで段取りを決めていく。進行は司会役の蓑崎が行うことになっているが、出演者のみならず参加者で有名プロチームの情報もキッチリと抑えてきたのは、さすが武術関係に明るいだけはある。

 意識の刷り合わせが終了し、締めの段階でティナは騎士(シュヴァリエ)達に一言注意をする。


「皆さん、騎士(シュヴァリエ)同士の模擬戦までは、試合をする時の集中力は出さない様にお願いします。つまり今の精神状態をキープしてください」

「どう言うこと? 手を抜けって意味じゃないんでしょ?」

「ええ、朱里(あかり)。一般の方は試合前の騎士(シュヴァリエ)が研ぎ澄まされた気配に触れると委縮してしまうんです。」

「ああ、番組のリハーサルでティナといっしょに騎士(シュヴァリエ)の印象を体感して貰った時と同じになるってことだな。引きつってた出演者もいたし効果覿(てき)面だったしな。」

「あんた達…。何やってるのよ…。」

「普段、私達騎士(シュヴァリエ)同士の戦う気配はあって当然ですけれど、一般の方はそれに直接触れることはないですから。」


 少しだけ、TV局で騎士(シュヴァリエ)が舐められない様に試合に臨む気概で登場したティナと京姫(みやこ)。彼女達が醸し出す張り詰めた空気を間近に感じた出演者達は、騎士(シュヴァリエ)が戦う時の気配を十二分に体験したのだ


「なるほど。俺や小乃(この)ちゃんだと逆に相手が気配を掴めなくなって話にもならなくなるのか。」

「オレ、気配を抑えるのは苦手なんだけど…。」

「一番抑えていただきたい方なんですけど…。全国大会の試合を見ましたけど、あの殺気は相手が慣れない内に出すとトラウマになりますよ? それは避けたいです。」

至道(しどう)さん。子供達に剣を教えてた姿はあんなにも優し気だったじゃありませんか。その心持ちでいれば大丈夫ですわ。」

「そうか? …そうか、テレージアが言うんならそうなんだね。」

「ええ…至道(しどう)さん…」

「テレージア…」

「はいはいはい、ストップ、ストッップー! イチャコラは人が見てないところでヤってくださいー!」


 赤くなるテレージアと至道(しどう)には、続け様にティナから「イベント終了まで二人の世界に入るの禁止!」とまで言われた。後ろで朱里(あかり)はケッとそっぽを向いていた。


至道(しどう)さんは、静の中に動を持って来ればいいんですよ。戦う気概は何も奇声を出したり全身に力を入れることではないでしょう? 静かな内にだけ秘めればいいんですよ。」

「静の中に動を住まわす…のか…。」


 今迄にないアプローチに至道(しどう)が考え込んでいる。まぁ何とかなりそうだと仮定して、次はテレージアへ。


「テレージアは意外と気配とかの切り替えが上手いから問題ないですね。ただし、いつも試合でやっている高笑いはお願いします。多少ならお得意の高慢な台詞を吐いても良いですよ?」

「そうでございますか? 殿下。…って意外とかお得意の高慢とか失礼じゃありませんこと!?」

「あ、そんなカンジです。すごくテレージアらしいです。」


 パンパンと手を叩きこちらに注目を集めるティナ。


「スケジュールの項番2までは、参加してくれたお客さんに楽しんでもらうことが目的です。参加して心ポッキンするのは本懐ではありませんから。」

「ただ、調子に乗られるのもシャクなので、騎士(シュヴァリエ)の技量を認識して貰うこととでバランスが取れると思います。」

「ここまでで何かありますか?」


 皆沈黙や首を振って答える。


「では、そろそろ装備をする時間ですね騎士装備室へ移動しましょう。12:00までにはここに集合と言うことで。」


 開場1時間前の12:00に集合するのは、今日の参加者をお出迎えするためだ。もちろん、参加者には11:00から更衣室を解放して12:00に集合する様に予め通知している。

 顔合わせの際、軽くスケジュールの説明と、各項目での参加希望者を募る。これで凡そのタイムスケジュールを測るのである。

 各項目の対戦相手は全てランダムとさせて貰い、少数の騎士(シュヴァリエ)に負担を集中させない様にしている。突発イベントなので、細かな調整が間に合わないためだ。

 

 こうして午前中の段取りは終わり、最後の準備段階に入る。彼等彼女等は11:00過ぎには打ち合わせを行いながら軽い食事を摂っていたので空腹感はない様に体調を整えている。但し、軽食のカロリーは午後一杯が激しい運動となるため、かなり高めであるが。


 12:45開場。

 告知期間が十分とは言えなかったが、少なくとも数千人単位で観客が入場しており、優に1万人以上の観客を収容出来るスタジアムの空席が(まば)らになる程、大入りと言える状況だ。出演者には世界でも有名な騎士(シュヴァリエ)の名もあるため、その戦いぶりを生で見れる機会は貴重と思われたのだろう。


『みなさん、ようこそ! お暑い中の来訪、心より感謝申し上げます。』

『今日の司会はわたくし、楢崎が務めることと相成りました! 本日は誠に勝手ながら英語と日本語でお送りしますのはご勘弁を!』


 楢崎は観客に向けて今日のプログラムを簡単に説明していく。実のところ台本は無いので彼の台詞は全てアドリブである。


『それでは、お待ちかねの選手入場です!』


 蓑崎のアナウンスと共に、フロアの一段高くなったお立ち台にて出演者七人が入場する。磁雷矢以外は二つ名を持った有名どころの騎士(シュヴァリエ)達である。その磁雷矢自身も有名人なのだが。珍しい組合わせを実際に目の当たりにし、観客からの歓声も一入(ひとしお)である。


『お次は本日、急遽ご参加いただいた出場者の方々の入場です。温かい拍手を持ってお出迎え下さい!』


 なかなか盛大な拍手で出迎えられ、一般参加者が入場する。とは言っても、有名なコスプレイヤーや「Épée et magie RPG」競技で名高いチームなどが多いため、今日の観客層からすれば誰しも名前は聞いたことがあるレベルの知名度を持っている。



 さて、まずはレクリエーションから開始である。

 レギュレーションなどもコスプレ向けのローカルルールで、派手な武器などでを持って戦う参加者の姿は、ある種ロールプレイをする上での夢が叶う瞬間でもある。普段は素人同士で殺陣(たて)を決めて再現していたものが、実際の騎士(シュヴァリエ)が相手をしてくれるため、自由に剣の打ち合いなどを気持ちよくさせて貰い、かなり満足した様子。

 力加減などを多少間違えても問題なく捌いてくれるので安心感がある上、所々で剣の振り方や修正すれば伸びる部分などを指摘してくれるので、その練習相手として打ち込みを受けて貰えるなど、ちょっとした剣術教室になる場面も(しばしば)

 それは、武術を嗜んだことのある参加者も同様で、現役の騎士(シュヴァリエ)、しかも上位に位置するであろう相手からの手解きは好意をもって受け入れられる。

 参加者は締めで最後に打ち倒されるのだが、その方法も騎士(シュヴァリエ)の技量を十分見せ付けられて感嘆させられていた。

 例えば、剣をバインド(鍔迫り合い)してからの攻防、見るからに美しい弧を描く軌跡で心臓部分(クリティカル)に吸い込まれる剣先、天高くから降ってくる煌めく剣、見ているのに消える相手など、素人の真似事では見ることが叶わない技で仕留められるのである。

 勝敗が決まった後も、直した方が良い点やどこが弱点になっているかなどを教えて貰えたりと、後々まで興味を引く内容を与えられ、少なくともChevalerie(シュヴァルリ)に関心を持ってくれた様である。

 姫騎士さんなどは、それらを見ながら「よしよし、良い感じです」と思わず零していた。



 次の「Épée et magie RPG」を利用したスケジュールであるが、ぶっちゃけオイシイところは全部、磁雷矢が持っていった。

 チームに騎士(シュヴァリエ)を含め、ボス1体を含む結構な数の敵モンスターを倒す条件のマップを一つ攻略すると言うルーチンであったが、攻撃箇所の制限を外した騎士(シュヴァリエ)が如何程の攻撃力を持つのか「Épée et magie RPG」競技のプレイヤーと観客にまざまざと見せつけることが出来た。

 特にテレージア、至道(しどう)の剛剣による立ち回りは兎角派手で、見ている者も感心する。小乃花(このか)の隠形や、京姫(みやこ)の普段使わない大身槍(おおみやり)の振り回し、ティナの多対一での殲滅力など目を見張るものばかりだ。

 ちなみに朱里(あかり)は二つ名【白羽根】と呼ばれ、回避力が非常に高い騎士(シュヴァリエ)である。ゲーム中に複数の敵キャラクターに囲まれてもスルリと全てを回避する様はまるで羽毛に攻撃しているかの如く。それを見るだけでもluttes(乱戦)で世界選手権大会の代表に成るべくして成ったと思わせる程である。


 そして。

 協力プレイではなく、対戦を選んだ「Épée et magie RPG」競技のプロチームがあった。鎧武者、侍、素浪人、忍者、陰陽師、修験者と言う、メンバーが和で構成され、一種独特の戦法で有名なチームである。なにが独特かと言えば、彼等は悪役ロールなのだ。封じられた妖魔復活を目論む悪の組織「妖獄黒魔団」の幹部率いる部隊と言う設定で、台詞や仕草などもコスチュームを纏っている時は普段から徹底してロールプレイをするのだ。やられる時は首領の名「妖幻斎さまー」とか「妖獄黒魔団に栄光あれ!」などと叫び、自爆エフェクトまで発動する様に設定している念の入れ様。

 その対戦相手には磁雷矢を指定した。ルールはゲーム準拠のため、磁雷矢がヒーロー番組に出演した時の特撮技が使用可能になる様リクエストしている。正義のヒーローが相手では不足なしと言ったところか。ホントはメンバーにファンがいるのではないか、と。

 マップは山を切り崩した採石場で、広場に幾つかの岩が障害物として転がる屋外ステージ。火薬を使った爆発シーンも撮り放題だろう。

 チームが入場し、ゲーム開始の合図がだされたが、相手が不在。と、そこへコーラスを伴った音楽が流れて来る。


 ジライヤ ジライヤ

   ジライヤ ジライヤ


 磁雷矢が出演した番組名はそのままズバリ「ジライヤ」。1980年代終わりに放送された番組のリメイクだが、オープニング、エンディング、挿入歌は、リメイク時に再録音されたもので、原曲に手を入れずに使っている。

 不意に、天井付近からロープで振り子の様にヒーローが着るスーツを纏った磁雷矢が現れる。マップの中央辺りでロープを手放し数mの高さを苦も無く飛び降りる。もちろん、ヒーロー着地だ。

 BGMの音量が番組の挿入歌と同様に少し絞られる。両手を広げてから九字印の闘を組み、その手を右肩から左肩と弧を描く様に移動させ、再び印を結んだまま中央へ。


「戸隠流正統、ジライヤ!」


 番組まんまの登場シーンである。磁雷矢が纏うジライヤスーツもリメイク前の意匠をそのまま継いでいる。

 観客の一部は大いに盛り上がる。対戦相手も思わず「おおっ」とか声を上げているが、そこはヒールプレイに徹する彼等。


「フハハハッ! 貴様がジライヤか。我は妖獄黒魔団の戦鬼将軍、剛鬼(ごうき)なり! 我らが野望を果たすため、貴様にはここで倒れて貰うぞ!」


 角の生えた鬼面の鎧武者が声を張り上げる。ノリノリである。


「妖獄黒魔団…。そうか、貴様らが怪異を起こしていた元凶か! このジライヤがいる限り、好きにはさせん!」


 磁雷矢、当然のことながらアドリブである。


 色物に近いチームとは言え、そこはプロチームである。中々に技量の高い技、連携の練度が高く攻撃と防御で迫真の戦いを演出する。

 が、一人また一人と倒れて行く。当然、台詞を叫んだり、一言残したりしながら爆発エフェクトと共に。

 磁雷矢自身、武術の技量が高くヒーロー番組で主役を張っていたこともあり、上手く見せ場をコントロールしていく。

 そして、とうとう大詰め。鎧武者剛鬼(ごうき)との一対一の勝負。


(ゆる)せん! 磁光真空剣!」


 ジライヤが刀を背中の鞘に戻し引き抜くと、光に纏われた刀身が現れた。


「真っ向両断!」


 縦に袈裟斬り、すかさず返す刀で横一閃する。

 斬られた鎧武者剛鬼(ごうき)はよろけながらジライヤと距離を取り辞世の台詞。


「フ、フフ…。見事なりジライヤ。しかし妖獄黒魔団は止まらぬぞ…。さらば!」


 倒れ込み爆発エフェクト。最後までロールプレイに徹していた。

 辺りに霧が立ち込め、それが晴れた時には妖獄黒魔団一派は消えていた。当然ながら退場の演出は予め打ち合わせていたのであるが。


「…妖獄黒魔団か。来るなら来い! オレがその陰謀を打ち砕く!」


 特撮ヒーロー番組向けの台詞で締める磁雷矢さん。

 やはり、一部の観客には大うけである。何しろ、殺陣(たて)で決まった動きではなく、リアルな戦いをする特撮ヒーロー番組を生で見た様なものだからだ。

 拍手喝采で退場する磁雷矢。最後は気配を絶つ隠形で、見えているのに(・・・・・・・)見えない(・・・・)演出をして消えていった。


 ちなみに、「ジライヤ」の版権を持つ制作会社にはイベント参加を決めた時に、その旨を連絡した。返答は是非「ジライヤ」として暴れてこい、とのことであった。「ジライヤ」としてイベントに招かれることも未だにあるため、ジライヤスーツの一つは磁雷矢に預けられているのだ。磁雷矢は本物のジライヤである、と、世間の印象を深める制作会社の企業戦略でもある。



 その後は、騎士(シュヴァリエ)同士で試合レベルの模擬戦が行われた。

 試合に挑む騎士(シュヴァリエ)の気配は、観客席からでも判る様で一瞬静まり返る。固唾を飲む音が聞こえるくらいである。どうやらこの場にいる観客はChevalerie(シュヴァルリ)競技の会場で試合を直接見たことがある者が少なかった様だ。


 そして、ここでも磁雷矢が目立つ。

 特撮ヒーローが騎士(シュヴァリエ)に混じって戦うのだが、見た目の派手さではなく、その経験から裏付けされた技量の高さに舌を巻くのである。さすが、小乃花(このか)が是非にと推薦してきた人物だ。世界選手権大会へ出場するどころか上位に食い込めるだけの技量を持っていた。

 刀術は京姫(みやこ)の、隠形は小乃花(このか)の上位互換とも言える練度を持ち、更に身体操作と気配操作で見えているのに(・・・・・・・)見えない(・・・・)のだ。例えば、右半身の構えになっていたとする。文字通り、右半身しか認識出来ず、まるで左半身が虚空であるかの様に。それが事ある毎に切り替わり翻弄されるのだ。虚空へ攻撃しても当たらないと言うことだけは認識出来る。この様な経験は歴戦を戦い抜いた騎士(シュヴァリエ)でもまずないだろう。ここでは小乃花(このか)だけが経験者なのだが、だからと言って対応出来るかと言えば「無理」と短い一言が返ってくる。


 京姫(みやこ)初動()が判らない突き技も、虚空へ飲み込まれて返り討ちに合っていた。見えなければ見えるところに攻撃を叩きこむ、と至道(しどう)は剛剣の連撃を繰り返すが、気付いた時には両腕を斬り飛ばされ、ダメージペナルティで野太刀を振れなくなったところに止めを刺されるなど、正に(てのひら)の上で踊らされるが如く。


 ティナも戦ってみたが、強制的に身体のリミッターを外す奥義である、Schatten(陰の) Macht()を使わざるを得ない状況に追い込まれた。その上、5連突きの着弾地点が虚空となり、慌てて方向を修正して2発分の刺突を心臓部分(クリティカル)へ叩き込み勝利することが出来たが、きっちり手裏剣を心臓部分(クリティカル)に投擲されて1本を取られた。


「いや、凄いなその刺突技は。技の発動に気配が膨らまなければ全部貰ってたところだよ。虚偽の技法も唸る程だし気配の消し方も一級品だけど、だからこそ、その刺突技を仕掛ける時との差が在り過ぎて判り易かったよ。」

「ご意見ありがとうございます、磁雷矢さん。まだまだ私も足りないものが多いことを身に沁みました。」


 磁雷矢の言葉に、ティナは経験による確かな裏付けは単純に技量を高めても容易に凌駕することが難しい、と改めて認識させられるのだった。


「(裏の裏のそのまた裏をかかれて誘い込まれました。まるでお母さまに稽古をつけて貰っているようでした。)」

「(とりあえず、磁雷矢さんをヘリヤに紹介しましょう。大喜びで飛んできそうです。)」


 世界中の強者を訪問する番組の収録で、世界を飛び回っているヘリヤ(現世界最強)にネタを投下しようと決めた姫騎士さんであった。



 最後の4項目も時間的に可能だったため、決行された。屋外マップを適用した出演者と参加者を混ぜて3チームを作り、入り乱れての乱戦である。

 ランダムに選ばれたマップは森林戦であった。MR表示で形成された鬱蒼と生い茂る木立に視界は遮られ、広いスペースが殆ど取れない中々侮れないマップだ。障害物もない単なる平面であれば今回の出場者はDuel(決闘)を主戦場にする騎士(シュヴァリエ)であるため無双してしまうので、それが防がれるマップであるとも言える。普通であれば。


「まずい。ティナが無双できるマップだ。武器を大太刀に変えて来よう。」

「森の民。姫騎士大暴れの予感。」

京姫(みやこ)小乃花(このか)も大げさですよ? さあ、みなさん開始地点に移動しませんと。」


 (たお)やかな笑みでシレッと(のたま)うティナ。その笑顔はいつもの3割増しだ。

 先ほど磁雷矢に、良い様に遣り込められた鬱憤を晴らすつもりだろうと京姫(みやこ)がジト目を送るが華麗にスルーする姫騎士さん。


 団体戦が始まってみれば、予想通りに姫騎士が無双する。音もなく高速に移動し暗殺者の如く相手を狩っていく。姿を見せたと思えば一瞬で消える。進行方向を予測され、気付けば一人ずつ狩られる。いつの間にか味方と分断される、と言った具合に、森はティナの手の内にあるとも言える溶け込み様で、正に姫騎士さん大暴れで幕を閉じた。


 今回のイベントは結果で見れば大成功である。騎士(シュヴァリエ)が何たるものであるかを見て、更に体感して貰えたことで、競技に対する興味を引くことが出来るであろう。少しずつ理解者が増えれば良いのだ。急ぎ過ぎれば、折角この国のChevalerie(シュヴァルリ)競技が正されたのに、また別方向に進んでしまうだろう。


 しかし、良いところを全部、掻っ攫われた感が強い姫騎士さん。

 まだまだ未熟であると言われた様なものだ。

 だが、それは正しい言葉だと理解している。



「いやー、スッキリしました!」


 イベント終了後に今回協力して貰った出版社とのお約束であった、出演者インタビューの際にティナが最後に放った言葉である。


「いや、そうじゃないだろ。」


 即座に京姫(みやこ)に突っ込まれ、その自然なやり取りが周りの笑いを誘う。

 彼女達の日常が垣間見れる瞬間だった。



小乃花が戸隠流と交流があるってとこから悪ノリしたハナシ。

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