表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュヴァルリ ―姫騎士物語―  作者: けろぬら
第3章 Einen schönen Tag! 姫騎士の穏やかなれど怒涛の日々です

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/155

03-021.夏祭りと呼ばれるそれは一般に知られる祭りとは異なる性質を持つ。 Versammlung .

2156年8月13日 金曜日

 江東区有明、新国際展示場。朝も早くから人々で溢れかえる。搬入業者や一般参加サークル、別階では企業ブースが既に完成しつつあり、ゲームショウやコンピューターショウと何ら規模が変わらない光景となっている。

 マリーが付き合いのある出版社は、雑誌や画集、アイテム販売やメディア展開などと幅広く行っており、自社と付き合いが深い作家達でサークル活動を幇助する形で場所貸しをしているのだ。

 雑誌の傾向があるため、ブースを4つの面に分け、一般雑誌&情報雑誌系、アダルト雑誌系、イラストレーター系、メディアミックス開系に分かれており、それぞれ刊行雑誌の編集部が今回一押しの商品を持ってきていると共に、人気作家にブースを貸すことで集客力を上げると言った戦略を取っている。


 そして今回のスペシャルゲストとして、出版社の名義で【姫騎士】のティナがアバター販売ブースを持つのだ。場所はイラストレーター系の作家が集まる一辺であるが、レトロとモダンを組み合わせたデザインのアイテムを販売することで人気を博す作家がおり、姫騎士が販売スペースを持つとすれば一番雰囲気が合うのでここにブースが確保されたのだ。ブースを提供する企業側と、この祭りの主催会社にはティナが大財閥の令嬢である立場と、それに纏わる特殊性が予め説明されており、安全基準をクリアすることが条件を元に参加すると言った調整が裏ではなされていた。その安全基準には、カレンベルク側から人員を展開することも含まれている。

 だから、一般警備員やボランティアの実行委員が人員整理をしているところに混じって、カレンベルク、およびWald()menschen(の民)がティナ達の護衛含め20名超の人員を導入しているのだ。もちろん、彼等彼女等の護衛代金はカレンベルク持ちである。


 マリーの案内で、出版社の責任者に面通しをして貰うティナ。この出版社はマリーとの付き合いもあるため、カレンベルク一族との折衝も経験済ではある。しかし今回は態々(わざわざ)、取締役の一人でもある営業本部長が出張ってきているのだが、カレンベルク一族の中でも更にVIPであるティナが相手となると、それ相応の役員が対応する必要があるためだ。

 いつもの様に(たお)やかな笑みを浮かべて軽く談笑するティナ。記念撮影やサインなどもサービスし、好印象を与える姫騎士戦略はエブリデイ・エブリタイムなのである。


 時間も着々と押し迫り次々と荷物が運び込まれている様子は、どこもかしこもワタワタと慌ただしい。今日は身嗜みを整え顔だけ令嬢(ぜん)として、コスプレしてるマリーは届いた最新刊を開梱して、「今回も良い印刷だね。細部までしっかり作られてるよ」などと言いながら、自分のブースに千冊単位だろうか、薄い本をドカドカと並べている。

 それを慣れた手つきで手伝うクラーラもコスプレ済だが長い外套を着こんでいるところを見るに、コスプレ済なのか準備優先でここにいいるのか判断が付きにくい。薄い本の配置位置やポップの置き場なども熟知しているようで、すぐさま店舗の様な形に仕上げていく。マリーの護衛であるリアとレーナが黒服なのだが、むしろコスプレに見えなくもない。着こなしている姿は本職だと言われれば納得してしまうのだが。


「いやー、話には聞いていましたが、凄いですねコレ。」


 ドイツでもコミックマーケット、通称ドコミと呼ばれるイベントはあるが、出場経験はないティナ。その本場となる日本では圧倒的入場者数を数値で聞いてはいたが、実際体験することでは全く違うものだと認識する。開場前のロビーやエントランスに並ぶアリの様な人混みと、会場整備をするスタッフだけで来客数が十分ではないかと思える程の往来に最初は面食らった。

 ティナも周囲の熱気に充てられたのか、手伝いをしてくれるリーフェ、専任護衛のエリカとソフィヤと共に、意気揚々とアバターショップのブースを展開していく。騎士(シュヴァリエ)と黒服三人がブースを組み立てる図も、随分とシュールである。しかし、作業となると的確に進めているところが彼女達が持つポテンシャルが高いところが伺える。なにせ、ティナは特に指示を出してないのだから。


 マクシミリアンで新規アバター販売時は、専用の商品箱を用意し、その後ろに販売するアバター本人の写真で造られたプラ製スタチュー板がマウント出来る様になっている。このアバターのデータを売ってますよ、とお知らせするポップ替わりだ。これが新製品販売時のスタンダードである。今回、ティナが昔から着用していた青焼きを表現したノーマル版とも言える姫騎士鎧と、Kampf(格闘)panzerung(装甲)ヴァージョンのアバター2種類を販売するのだが、その鎧姿のプラ製スタチュー板が自己主張する様に起立している。


 ひとつだけ問題があった。今回店頭販売専用ブロマイド付きアバターデータを2種類2000個ずつ計4000個を販売する予定であったが、実際は3000個ずつ梱包されており、計6000個に増えていたのだ。ご丁寧に手紙が添えられており、これくらい売れるから、と一言だけ記してあった。

 販売するアバターは運送費も考慮し、通常より少し割増の金額設定となっている。通常は日本円でノーマル版が500円、Kampf(格闘)panzerung(装甲)ヴァージョンが700円であるが、ノーマル版はエスターライヒ全国大会までのパッチ適用をしたフルプライス版であるため定価600円のところ、姫騎士本人が出張&輸送費を考慮して700円、Kampf(格闘)panzerung(装甲)ヴァージョンが900円で販売する。パッケージも日本語版に変更している芸の細かさ。

 本来であればマクシミリアン国際騎士育成学園の一般公開イベントでなくては購入出来ないアイテムであるため、学園以外で初めて店頭販売をする今回の価格設定はこれでもかなり低価格と言える。ちなみにダウンロード版は店頭販売版より100円安い価格設定である。


「姫、こちらは準備完了です。」

「あら、おひとり様1種類につき1枚までなんですか?」

「はい、殿下。多くの方に行き渡る様にするにはその数が適切です。増やせば転売などを考える不届き者も出ますから。」

「まあ、シリアルから購入者を追えますので問題までにはなりませんですが。姫はいつも通りに振舞って頂ければ。」


 会話しながらマクシミリアンの運営科が販促のために作成した等身大アバターのプラ製ポップをブースの両脇に配置するソフィヤとエリカ。その傍らが彼女達の待機場所になる。

 出来上がったブースを二歩ほど下がり、フムフムとブース全体を確認する姫騎士さん。実はブース上に看板が用意されており、「Chevalerie(シュヴァルリ) ―姫騎士物語―」とエレガントな書体に立体的な処理をしたタイトルと、その後ろに掛かる様に幾人かの騎士(シュヴァリエ)が黒塗りの影で左側に配置されているデザインだ。これも初の外部販促のため運営科が作成して同梱してくれていた様だ。ここでタイトルロールを出すのは不本意ではあるのだが。

 ブースの前には行列を並ばせる様にロープが張ってあり、ここまでするものなのか、とティナは思うが、このブースの主催である出版社が用意したものなので、そう言うものなのだろうと納得することにした。周りを見ると同じようにロープが張ってある場所があるからだ。


 自分のブースを一望出来るこの位置からだと、マリーのブースがギリギリ横目に入る。お隣なのだがコーナーを曲がった先なので表からは見辛いのだ。裏は壁越しに共有ルームとして繋がっているのだが。


「マリー姉さま、そちらも準備万端の様ですね。」

「にはは~。お陰さんでね。マサカのアニメ化企画も出てるから売り時なんよね。」

「マルレーネ先生、着替えてまいりました。」

「へえー、お二人でコスチュームプレイするのですか。」


 いつの間にか着替えてきたクラーラは、ビキニアーマー系の戦士装備だ。ハッキリ言ってエロい。そしてマリーは裾が股上(・・)のマイクロミニ、上着は胸の下半分のみ隠すコルセットが入ったビスチェ姿の魔法使い。上から覗き込むと場合によっては先端が発見されそうである。こちらも見た目からしてエロい。

 二人とも、マリーの漫画に出てくる所謂ヤられキャラのコスプレをしているので、どうしても性的にアピールする姿である。男性向け成人指定コミックの登場人物なのでそれは不可避。


「ティナはある意味、騎士(シュヴァリエ)装備がコスプレみたいなもんだよね。」

「風評被害です! それだと私が(まが)い物みたいじゃないですか!」

「姫騎士(偽)とか、姫騎士普及版とか。姫騎士’(ダッシュ)もイイかなぁ~。」


 既にネタ扱いの姫騎士さん。量産型姫騎士とかが溢れかえれば赤い鎧でツノを付けないといけないヴィジョンが思い浮かぶのだが、やっぱりネタはどこまで行ってもネタである。


 尚、クラーラの鞘に収まっている剣は刃引きの模造であるが、指向型テイザー(電気)ガン()の機能を持っている。そのほかにも、ティナとマリーの護衛は、グリップタイプのテイザー(電気)ガン()、袖に隠した警棒、ナイフ、ゴム弾の大型拳銃をそれぞれが装備している。そしてティナ自身も、腰に止めているサクス(ナイフ)本物(・・)である。警備上の安全対策なのだが、「触れるな危険」仕立てである。


「ティナは初めての参加だからね。細かいハナシはリーフェ達に教えてるから。アンタはいつも通りにすればいいよん。」

「そうですか? 先程も同じことを言われたのですが何か作法でもあるのでしょうか。」


 いつの間にか、お一人さま1種類につき1つまでとか、記念撮影はご遠慮くださいとか、購入特典でサイン会の抽選券配布とかポップが色々と追加されてる。それを見たティナは、そこまで細かく規制する必要があるのかと訝しんでいるが、そもそもの話、長い間捻じ曲げられていたこの国のChevalerie(シュヴァルリ)に対するファンのマナーが、海外で標準となったマナーと異なる可能性を憂慮しての注意書きである。更に、Chevalerie(シュヴァルリ)ファン以外の顧客も多く含んでいることへの対策でもある。

 ティナの問質(といただ)す視線を受けて、これでよいのですよ、とにこやかに視線で返すリーフェ。祭りではマリーの手伝いなども行う彼女が必要であるとしたのならば、文句は言えない初心者の姫騎士さんなのであった。



 開場と共に雪崩れ込む来客達。先頭はもはや走っている。人気の企業ブースにはあれよあれよという間に行列が出来上がり、最後尾はこちらです、などの掛け声やプラカードを持った係員がチラホラと見え隠れする。

 姫騎士さんのブースにも行列が出来ていた。

 正直、ティナは甘く見ていた。マクシミリアンでもアバター更新時の販促作業の慌ただしさにプラスα程度と踏んでいたが目測を完全に誤っていた。蓋を開ければ開始早々長蛇の列。なるほど、手渡し以外のサービスをしていたら捌ききれないのだ、と体感させられている。


 ティナの売店。本来、マクシミリアンで一般公開イベント時の店頭販売でしか手に入らないレアアイテムが出品されているのである。更に、マクシミリアンでの販売同様、アバターの本人による手渡し販売なのだ。その本人は、現役の騎士(シュヴァリエ)、しかもヘリヤ(現世界最強)と真面に戦うことの出来る世界でも片手に入るレベルの強さを持っている。更には、秘密にしていた戦闘スタイルを開示し、世間を賑わした記憶は新しい。だからこそ、ブースを貸しだす出版社が大々的に宣伝したのである。

 そのプレミアム感に引き寄せられ、コアなファンから一般ユーザー、果てはアイテムコレクターに至るまで幅広いユーザーを集客した結果だ。


「ありがとうございましたー。これからもよろしくお願いしますね。」

「2種類ともですね。はい、こちらどうぞ。お会計はそちらになります。」

「ご声援ありがとうございます。試合、また見て下さいね。」

「そちらのヘッドフォン、買って頂いたのですか。ありがとうございます。末永く使ってあげてくださいね。」

「あら、これでも公爵家の姫ですよ? そちらの護衛はコスプレではありませんよ。」


 (たお)やかな笑顔で対応するティナ。どんな状況であろうとも、ファンに対するサービスには手を抜かない。商品を買ってくれる顧客に対して必ず一声かけるのは姫騎士としての矜持である。


「(いえ、ちょっと、これは、想像以上です。)」

「(大分、行列が()けたと思えば列が一定の長さから変わりません…。)」


 開場から2時間半を経過。既にアバターは両方の種類合わせて2000個以上を販売している。時間を見計らってくれていた様で、出版社のスタッフが行列の最後尾で午前の部が終了の旨と午後の部開始時間を記載したプラカードを持って人員整理している。今並んでいる行列を捌けば小休止となる。


「はあ~。怒涛の午前中でした。まさか行列が切れることが無いとは思いませんでした。いつもこんなものなのですか? リーフェさん。」

「お疲れ様です、姫。午後からはサークル巡りの合間に訪れる方がメインになりますから、午前の様に来客が途切れないと言うことはないと思いますよ?」

「そうだと良いのですが。ソフィヤさんもエリカさんもご苦労様です。立ちっぱなしで疲れたでしょう?」

「姫、お気遣いは無用ですよ? 手の者が周囲を巡回していますので、大分、楽をさせて貰っています。」

「そうでございますよ、殿下。お陰で警戒範囲も狭く済んでますから余裕があるくらいです。」


 売店をクローズ処理してから、バックヤードで一寛ぎ中の姫騎士さん。少し早く休息に入っていたマリー達から声がかかる。


「どうだった? ティナ。凄かったでしょ。」

「甘かったです。ここまで行列が出来るとは思いませんでした。いくらなんでもおかしくないですか?」

「あんた、自分が世間を沸かした有名人だって忘れてナイ? んで、世界初のマクシミリアン以外での売店用特典付きアバターの販売&アバター本人が手渡す伝統ってウルトラレアな商品、並んでも買うでしょーよ。」

「そんな付加価値があったんですかー。教えてくれても良さげですが。」

「あったんだよ。ティナが判ってないだけで。覚えるより慣れろってさ。」


 ジョゼが別動隊として持参したマリーの弁当は既に半分中身が無いない。そのくらい時間差があったのだろう。

 そのジョゼが、ティナ達休息開始組にそれぞれに弁当を渡している。例によって2種類を分けて食べるのは全滅防止である。


「おっ、ティナの弁当はお結びかー。穂乃花作だね。和の物、食べれる?」

「何を仰るやら。私はここのところUMAMIに触れた生活をしていたのですよ? 蕎麦、懐石、煮物、焼き魚なんでも来い!です。」

「んじゃ、打ち上げは寿司か刺身を逝ってみよっかー! ホヤとかカラスミとかシオカラとかもセットで。」

「おお、日本ならではの生ものですね。それは食べたことありません。ちょっと楽しみですね。」


 フグとかじゃなく、酒のつまみ系である、ホヤ・カラスミ・シオカラなどは食べる人の味覚を選ぶ系のネタだ。これを口にした姫騎士がどんなリアクションを取るのかは楽しみなところであると、マリーも日本滞在組の護衛達もちょっとほくそ笑んでいる。彼女達自身も半分は苦手とする食材だが、ここで何かを言うのは無粋である。是非とも姫騎士に体験して頂く所存。


 そうこうする内に、マリー達は午後の部へ出向いていった。

 ティナ達はあと30分程寛いでからの業務再開だ。その間にティナとリーファは午前中の売り上げ確認をする。アバターは皆2種セットで買って行くので今のところ単品での販売がないのを不思議がっているティナであるが、限定品となれば全種類買って行くような購買層が来客しているのである意味当然の結果である。ちなみに、午前中の販売数は2348個。つまり、1174名の顧客が来たことになる。一人当たり7、8秒で捌いた計算だ。会計は流れ作業で、ティナから商品を受け取った顧客が、レジ台へ商品を(かざ)し、電子決済なのでほんの1、2秒で完了する。その際、商品のシリアルナンバーと購入者の国民ナンバーを紐付けているので、購入後の不正を防止する役目を持っている。この時代、オンラインデータを取り扱うタイプの商品は転売や不正コピーを防ぐための措置が取られる様になっているのである。


 ソフィヤとエリカは、警備に混ざって巡回していた護衛達からの情報共有と現場の声を聞き、情報を精査していく。こういった祭りの場では、解放された気分になるのか普段と違い遠慮や礼儀の一線を越える輩は必ず出る。雰囲気で流して貰えるつもりだろうが、それを全てに当て嵌めてはならない。仲間内やネットでの近しい思考に引きずられ、状況に合わせた判断をしなかった者も少なからずいる。只、そう言った者の殆どが、対面で強く出たり不服を言うことも殆どないのも事実だ。それをさせない雰囲気をティナと護衛が醸し出して、ある程度の場をコントロールしているのではあるが。



 午後の部を開始してからは、リーフェの言う通り長蛇の列にと言う程にはならなかった。時たま長くても十人、二十人程度の列が出来るが、直ぐに捌ける。少し間を置きながらチラホラとお客さんがやってくる、少し列が出来てまた捌ける、といった繰り返しに落ち着いた。大分、余裕は出たが、それでも暇が出来ると言うレベルではないので相も変わらず忙しいのであるが。

 また、チョコチョコと小さな列が生まれた。


「あら、蓑崎さん。今回もいらして下さったのですね。いつもありがとうございます。でもお持ちの商品しかありませんよ?」

「ご無沙汰しております、殿下。今回は日本語パッケージですよ? それにサイン会の抽選券付きですから。」


 日本からマクシミリアンの学内大会、6月祭、世界選手権大会に必ず訪れて観戦するコアなChevalerie(シュヴァルリ)ファンの青年。マクシミリアンでは毎回、アバターショップで買い漁るため、騎士(シュヴァリエ)達とも顔馴染みとなった一人である。繁忙を考慮して時間をずらして訪れた様だ。いつもの彼はドイツのアバターショップが開店すると来客の二、三人目には顔を見せているのだ。

 抽選券を希望しているようだが、彼自身はマクシミリアンへ訪れる度に騎士(シュヴァリエ)からサインを貰い、記念撮影をしている。ティナのサインも既に複数所持しているのに態々(わざわざ)、抽選を受けてまでサインをまた貰おうとするところはマニアの領域である。しかもドイツへ赴くためにドイツ語まで修得している熱の入れようだ。

 役者をしていると言うことだが子役のころから芸能界に関わっていたため年若いのに中堅どころのポジションらしい。日本でもコアなChevalerie(シュヴァルリ)ファンであることは有名であり、京姫(みやこ)とティナがゲストコメンテーターとして招かれた騎士(シュヴァリエ)特集の番組出演も打診があったが、騎士(シュヴァリエ)と一緒だとそちらに集中してしまうので碌なコメントが出来ない、と辞退する筋金入りのファンだ。

 彼も国内のChevalerie(シュヴァルリ)が海外と全く違うことに嘆き、普及に尽力していたが、剣雄会から所属のプロダクションに圧力を掛けられて思う様な意見が出せなかった一人だ。今はその枷が外れて様々なメディアでChevalerie(シュヴァルリ)についての発言をしている繋がりで、国際シュヴァルリ評議会日本支部の公式サポーターとして選ばれている。


「そうそう。まだ公表されてませんが冬季学内大会までに間に合えば私の新しいアバターがリリース予定ですよ。ちょっと専用プログラム付きでお高くなるらしいですが。」

「そうなんですか!? その騎士鎧のアバターですね! 待ってたんですよ! 是非、伺います!」


 買います、ではなく伺います、と言うところがさすがマニアである。そもそも、国際シュヴァルリ評議会日本支部と繋がりが出来ているのだから裏から手を回せば優遇して貰えるのだが、一Chevalerie(シュヴァルリ)ファンとして他ファンと平等に、と言うのが彼の矜持である。だからこそ、公式サポーターとして相応しいと選ばれたのであろう。

 毎回、購入してくれるファンにちょっとばかりのご贔屓情報を漏らすティナ。情報を流布することはない相手であると過去の付き合いから判っているので、この程度の情報ならば教えても差し障りはないと判断した。その辺りの匙加減はアバター本人に委ねられているのである。

 またいらして下さいねー、と(たお)やかな笑顔にロイヤルお手振りでお見送りする姫騎士さん。

 顔馴染みのファンはちょっとだけお得になるのである。


 その後も客足が途絶えることもなく、閉会の16:00まで顧客対応をしているティナであった。

 結局、この日の販売数は4500個を超えた。この分では明日の午前中で完売だろう。本来は午後に前日販売分のサイン会抽選を裏で行い、午後2時間程サイン会を開く予定だったのだが、この調子では午後一杯をサイン会に充てられそうだ。

 最後の1日も予定に余裕が出るため、ブースを貸してくれている出版社とこの祭りの主催者に少し相談しようとティナは画策する。


 せっかく人目が多い場所なのでChevalerie(シュヴァルリ)普及には丁度良いかと。

 人知れずニヤリと嗤う姫騎士さんは悪巧みをする悪役の様相。


「人々の記憶に残ってこその華ですから。」

「最後にドクロマークのボタンをポチッとなぁすれば完璧です!」


 それは自爆ボタンですから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ