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シュヴァルリ ―姫騎士物語―  作者: けろぬら
第3章 Einen schönen Tag! 姫騎士の穏やかなれど怒涛の日々です

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03-012.Aufbruch. 終わりと始まりは表裏一体であり、祝福と呪詛は共に祈りの一つである。

2156年7月27日 火曜日

 放課後の電子工学科 アバターデータ調整ルームでは姫騎士が飛んだり跳ねたりと様々な動きを再現させられていた。モーションデータを撮り始めて既に7日目。合計20時間近くをデータ収集に費やすこととなり、ティナも(いささ)かお疲れモードである。


 騎士(シュヴァリエ)に技を再現して貰うモーションデータ取得室は試合コート準拠で建築されており、天井の高さも8m弱ある吹き抜け構造となっている。この高さを利用し、ティナの持つ高所からの強襲、つまり落下攻撃の再現まですることとなったのだ。

 ムムムと唸りながら落下攻撃を繰り返すティナ。どうやら納得いかない技があった様で、特設された4m程の高台から落下後、斜め右後方へ飛び跳ねる行為を何度もしている。


「まだやる的? おねーさん、違いが判らないんだけどー。データ的にも左後方とあんま変わんないよ~?」


 実は、これが最後のデータ取得なのだ。効率よく進めたことで1日スケジュールを短縮出来たのは僥倖であろう。とは言っても解放されるのはティナだけで、ウルスラは1日分短縮されたスケジュールに作業を前倒しにするから忙しさは変わらない。

 そして、ウルスラが「左後方」と言う様に、この姫騎士、落下の衝撃を推力へ換える方向を全方位で発揮出来るのだ。


「いえ。どうもしっくりこないんです。こう、何て言いますか微妙に引っかかりがある様な感じです。」

「んー、データ的にはどれも誤差レベル的な? モーションに違いがあるのかな~。」

「とりあえず、後数回お付き合い下さい。」

「はいはーい。」


 結局、それから3回程繰り返してようやくティナも納得した様だ。どうやら、着地から切り返す時の股関節へ掛けた回転が微妙に足りなく、理想の形になっていなかったとのこと。取得したセンサーの数値は誤差レベルであり、外見からは全く判別がつかない。


「おつかれ的~。いや~、思ったより早く終わって良かった良かった。」

「お疲れさまでした。結構ミッチリやりましたからね。かなりのパターンを繰り返しましたし。」

「その関節ごとの回転は組み合わせが多過ぎ的で、プログラムチームからサンプルもっとよこせって言われてたからね~。」


 当初、ティナがホーエンザルツブルク要塞攻城戦イベントでお披露目した新しい鎧のアバターは7月中に発売の予定だったが遅れに遅れた。その理由はChevalerie(シュヴァルリ)のシステムである「Système de compétition Chevalerie」が取得したモーションデータでは在り得ないダメージデータが検出されたからだ。それを契機に、本格的に解析が進められることとなった。

 結果、特殊な身体運用を使っていることがバレ、もとい判明し、詳細データを取得することに。

 関節単位で回転を掛け体幹でコントロールするなどと言う身体運用は、既存のプログラムに在る筈もなく、ティナ専用の武術プログラムを用意する必要に迫られた。


 問題は詳細データを取得するに連れ、関節の回転を伴う動作が数えきれない組み合わせで(こな)されていることが判り、状況によって変則が自由自在にあるところだ。専用の思考型武術AIを別に作成し、状況による高度な演算と分岐をさせ、一つの技の中に幾通りもの異なる動作が変則で組み合わせても破綻させずに制御させるという、夢は無限大!!しかし悪夢!!と誰かがキレてしまいそうなほど、膨大なアルゴリズムを組み込んている。その量だけで別チームが製品リリースのため追い込みをかけている「Épée et magie RPG」向け体感ゲームのプログラムコードに匹敵する量になっている。

 ティナの身体運用は全て体幹を基本とする、と聞いていなければ、未だに個別の部品をどう制御させるかも判らなかったのである。プログラムチームは既に死屍累々の有様を呈しており、この調子では夏も泊まり込みそうだな、とティナは思いながらも段ボールを机の下に引いて仮眠をとる学生や数日風呂に入ってない学生、寝てないんではないかと見える学生が籠っているブースを見回す。


「こちらのブースが私のプログラムを造っていただいている方々で宜しいですか?」


 元気なく手を上げる者や、うつろな顔を上げてそうだよ、と言う男性、机に突っ伏して手だけ降るなど様々である。


「みなさま。お疲れのところ失礼いたします。私のために別途プログラム作成をして頂き、更にそれが難解だと伺っております。」

「私では大したことが出来ませんが、ウルスラの所にささやかながらお茶菓子とドリンクなどを差し入れておりますので、ぜひご賞味下さい。」

「あと感謝を表す(しるし)として。」


 と、ティナがプログラマーチーム一人一人に感謝の言葉を述べながら、心配そうな表情を造り彼等の頬にキスをしていった。


 ヨーロッパでは挨拶で頬にキスをする、と認識されている方も多いと思われるが、キスをするのは親族や特別仲の良い友人などの極近しい相手のみで、通常は双方の頬を合わせているだけである。


 それが、見た目美少女がしおらしく自分を心配しながら激励のため頬にキスをしてくれたのだ。その行為がサービスだと判っていても受けた方には関係ないのだろう。

 だからなのかプログラムチームのパフォーマンスが数日間上がったらしい。仕事を増やす悪魔と呼んでいたのに現金なものである。


 後日、その結果をティナは聞かされ、「やってみるものですね。この作戦は意外と使えそうです」と言っていたのは彼等には内緒である。

 自分の容姿が整っていることを自覚しているティナは、それを最大限活用することも(いと)わない。人々の記憶に残ってこそ華、の精神である。そのためにスタイルも維持しているのだ。



「明日を挟んで明後日はいよいよ卒業式ですか。6年生はこれで卒業と思えば寂しくなりますね。」


 寄宿舎への帰り際、ティナは校舎へ振り向き暫く見つめ感慨深く一言零した。

 この地方、夏場でも日本で夕方と言われる時間帯は日が高く、昼間と何ら変わらないので校舎が西日に染まり――などの演出も全くないのが残念である。


「まぁ、年末には新入生も馴染んでくるので、また騒がしい雰囲気になるでしょうけど。」


 前段に言った台詞を台無しにするティナ。その辺りも彼女らしいのではあるが。

 それよりも、モーションデータ撮りと言う拘束から解放され、明らかに足取りが軽い。スキップなど仕出したので更に追い打ちをかける様にシットリとした台詞が霧散していくのであった。



2156年7月29日 木曜日

 今年のバイエルン州は7月30日から夏季休暇となるので、本日が学年終業と最上学年生の卒業式である。会場は大人数が収容できるため、何かと利用される屋内大スタジアムである。学園生達が再びステージを施設済である。


 日本などの卒業式の様に整列したり、厳かな静寂の中で決められた所作を強要されるものではない。生徒達は雑多に散らばり、近隣に在住の保護者なども参加しており、和やかな雰囲気である。ただ、この日ばかりは騎士(シュヴァリエ)を謳う者達は全員が騎士(シュヴァリエ)装備を纏っている。


 さすがに卒業式とあって、司会進行は教員だ。在園生達の合奏など、卒業生に向けた最後の催し物を行った。モーツァルトの「歓喜に寄す(An die Freude)」が歌唱されたのは()の天才が生誕したザルツブルクがご近所だからだろうか。

 催し物の後、理事長が卒業生の名を一人一人呼び、薔薇を一輪と学力証明書(ISCEDレベル4相当)を渡していく。そして理事長と抱擁を笑顔で交わしていく。

 卒業生へ渡された薔薇はローゼンハイムの名に相応しく、控えめなれど滲み出る美しさを持っている。この薔薇は、この日のために学園内で教員達が丹精を込めて育成したものである。


 卒業生全員に薔薇と学力証明書を配り終えた後は、理事長が卒業生へ伝えたいことの要点を纏めた簡単なスピーチを贈り、式自体は終了である。無駄な長話をしないところが文化の違いだと言えよう。

 ちなみに、理事長の贈った言葉を更に要約すると、「例え別れ別れになろうとも世界が繋がっている限り我々は共にある」とのことだ。


 さて。式が終わると、この学園ならではのセレモニー(式典)がある。

 卒業生の騎士(シュヴァリエ)で最も格が高いものが代表となり、これから別れ行く騎士(シュヴァリエ)達に向けて宣誓をするのだ。ステージ前には、学科に関わらず騎士(シュヴァリエ)が集まるのも恒例である。

 今年は現在の世界最高位にあるヘリヤが指揮を執る。ステージの上には、黒地に金糸の飾りが付いた鎧を身に纏うヘリヤが現れ中央に立つ。声高らかに誓いの言葉を紡ぐ。


「我ら行く道は(たが)えども いずれ来たりし日に剣を交えることを望まん 皆の者、その日まで暫しの(いとま)()う」


 揚々と宣誓する。

 少しの間。

 そして、力強く言葉が放たれる。


「抜剣!」


 全ての騎士(シュヴァリエ)達は各々(おのおの)が持つ武器を抜く。

 鞘から金属が抜かれる音が、そこかしこで響く。


「掲げ剣!」


 ヘリヤの号令で騎士(シュヴァリエ)達は一斉に武器を掲げる。剣身が照明に反射し、光り輝く剣の林が生み出される。


「我らの剣が再び(つど)いしことを!」

『我らの剣が再び(つど)いしことを!』


 ――いざ、さらば――


 騎士(シュヴァリエ)だけでなく、この場の全員による別れの挨拶で締め括りとなる。

 割れんばかりの拍手と歓声が式の終わりであることを代返する。


 彼等彼女等の門出に幸多からんことを――




 寄宿舎で部屋を借りている者は、既に荷造りを終えている者もいて、早ければ本日中に帰省、もしくは次の居留地――大学や就職先――に移動したりする。もっとも、1週間くらい猶予を持ってのんびりと寄宿舎を退室する者が殆どだが。


 ほんのりとだけ辺りが(せわ)しない空気の中、呑気にフラフラしていたヘリヤを捕まえたティナ。ヘリヤとエイルはアスラウグに割り当てられている3DKの家族向け教員宿舎が半自宅なため、すぐさま引っ越しの用意などをする必要がないのが強みである。


「ヘリヤはいつ出発するんですか?」

「8月1日にスタッフと合流して、その足でインドに行くんだ。」

「って、ホントに8月入ってすぐですか…。インドと言うと、やはり?」

「ああ、あの国の達人は有名だからな。1番手としては最高の相手だよ。今からでも行きたいくらいだ。」


 ヘリヤは卒業後にネット放送を世界規模で展開しているドイツの放送局と番組契約をしている。ヘリヤが世界中の強者を訪問し、可能ならば立ち合うと言う番組だ。「可能なら」と言葉が付くのは、相手が騎士(シュヴァリエ)競技ルールで戦える武術とは限らないからだ。

 旅の日程に押されて騎士(シュヴァリエ)としての調整が疎かになってしまうのは本末転倒となるため、まずは8月から1カ月をお試し期間とし、調整に問題ないか確認する方針となっている。

 番組スポンサーは、ヘリヤがスポンサードを受けている大手武器デバイスメーカーとChevalerie(シュヴァルリ)システムの総元締めであるSPIの簡易VRデバイス部門が参画しているので制作資金は相当潤沢である。契約として、ヘリヤの調整を第一にする条件となっており、その調整如何によっては番組を不定期放送としても変わらずスポンサーとして協賛すると言う異例となる念書が書き記されている。世界選手権大会を久方ぶりに連覇した現世界最強の騎士(シュヴァリエ)は、その存在だけで高い価値を持つのである。


「で、番組はいつから放送ですか?」

「9月半ば過ぎとか言ってたな。8月の半ば頃から番組CMが流れる筈だぞ。」

「9月ですか。どんな番組になるのか楽しみですね。」

「ほんとだよ。どんな達人と出逢えるか楽しみでしょうがないよ。」


 微妙に会話がずれているが、話の本質は変わらないのでティナもそのままにしている。むしろ、訂正などする方が野暮と言うものだ。


「次にヘリヤと逢うのは世界選手権ですか。」

「そうだな。またみんなと逢えるな。今からワクワクしているよ。」


 ニヘラと笑みを浮かべるヘリヤ。あの場所にいればいつでも皆と逢うことが出来ると。

 だから彼女は言うのだ。待っている(・・・・・)と。


「全く。最後の最後に宿題を出していくなんて予想外でした。」

「みんな、どんな答えを出してくれるんだろなぁ。」


 ヘリヤの新技、刹那の5連撃への対応策。

 その答えは、ある意味全て正解である。答え合わせの必要もない。

 答えを出せるかが宿題だからだ。


 学園北側にあるアルプスを見つめているヘリヤの目には何が映っているのか。

 それは彼女にしか判らない。

 しかし、その隣に並び立つ時、何かが見えるだろう。

 それは同じものである必要はない。

 自分自身で見たものこそが全てである。



「しかし、アズ先生はアレを1本獲られただけで抑えるのが驚きでした。」

「ああ、それな。あたしももう少しいけると思ったんだけどなぁ。」

「まるで連撃を相手に鍛錬でも積んで……」

「ん? かあさん相手に、そんなこと出来る騎士(シュヴァリエ)がいれ……」


 世界最強の名が未だに揺るがない【永世女王】と真面(まとも)に戦える相手。

 二人ともその存在に思い当たる。

 嫌な汗が流れる二人。


 『私も少し身体を動かしたいから丁度良い相手を探しているのよ。』そう言いつつティナの母親にコンタクトを求めたアスラウグ。

 ティナの実家で弟ハルの鍛錬や京姫(みやこ)の鍛錬の成果を見せに、三人娘は隔週でザルツブルクに赴いている。

 しかし、ティナ達が実家に戻らない週、(たま)にアスラウグがブラウンシュヴァイク=カレンベルク家に訪れ、母ルーンと模擬戦を繰り返していると聞いていた。


「そう言えばティナが言ってたな。かあさんが【剣舞の姫】に相手を頼んでたって。ここのところ週末留守にすることがあったなぁ。」

「私が帰省しない週に来られてる様ですよ。何をしているかは教えて貰えませんが…。」


 身内に怪しまれることを承知で動いているのが不気味すぎる。

 とんでもないことを仕出かす母親を持つ娘達。その認識が同じであると伺える台詞が漏れた。


「何かやる気だな。」

「何かする気ですね。」


 別れと再会の約束をする流れの会話で締めになりそうだったところに、横からぶち込まれた感のある怪しい気配が忍び寄ってきた。


「…ティナは今()ったら【剣舞の姫】に勝てるか?」

「勝てませんよ。上手くすれば1本獲れるかどうかです。経験(キャリア)が違い過ぎて裏の裏のそのまた裏まで読まれます。」

「……。」

「……。」


 どこで何を仕出かすか判らない困った母親達である。

 しかし。

 確実に自分達が巻き込まれる未来だけが明確に判る二人であった。




「しまった。オチがつけられませんでした。」


 それはアナタが気にすることではないのでは。



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