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シュヴァルリ ―姫騎士物語―  作者: けろぬら
第1章 Grüß Gott! 私、姫騎士(仮免)です
8/153

【改】01-008. 中国武術とスペイン武術の激突、です ~透花その1~

花花メイン

20201020サブタイ変更

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20250215 改稿

 四回戦の一番手は花花(ファファ)であった。


 使用コートは第五面。試合会場の中ほどの位置になる。花花(ファファ)の対戦者は、一つ年上の三年生、マグダレナ・ペレス・サバレタだ。二人は試合会場脇の登録エリアで武器デバイスの登録や各種装備の同期を済ませていく。

 作業が完了したところで選手待機線へ移動するよう、二人にAR(拡張現実)表示でメッセージが届く。

 審判の呼び声を受け待機線に辿り着いた二人は、コートに向かうよう横並びとなる。そのタイミングに合わせて学園生解説者のアナウンスが流れた。

 ちなみに、アナウンスは該当の試合に簡易VRデバイスでチャンネルへを合わせている観客に聞こえる仕様だ。放送局などは、試合コート毎に別撮りしている。


Guten Tag(こんにちは)! 今日の第四回戦、試合コート五面解説担当の人間工学科四年、エトヴィン・ホルデイクです。皆さんご贔屓に! そして審判はスポーツ科学科五年、ヴィンツェンツ・スラーデクでお送りします』


 学内大会は、解説者と審判共に学園生が担当する。彼等は、その道を目指す者で、()わば見習いだ。学内大会と言う性質上、学園生がスキルを磨く場も兼ねているのだ。


『まずは本日第一戦目の競技者紹介です。東側(オステン)選手は、情熱の国から来たマタドール、二つ名【(いばら)の君】、騎士科三年シュパーニエン(スペイン)王国国籍、マグダレナ・ペレス・サバレタ!』


 マグダレナは片手を挙げ軽く手を振りながら周囲の観客へ向け、その場で一回りする。肩口まで伸ばしたアッシュブラウンの髪がフワリと舞う。

 頭部左斜め位置に赤い薔薇が一輪付いたオレンジのカチューシャが簡易VRデバイスだ。額が出る様に前髪をアップしている。一六〇()半ばの身長は、細身だが女性らしい曲線の中に鍛えられたと判るメリハリがある。少し小麦がかった肌に灰色の瞳を加え、幼さの残る顔立ちなれど全体的に大人の色香を漂わせている。


 鎧ではなく、Tore()ro ma()tador()を意識したデザインのHC(ホログラムセル)含有繊維製の衣装を着用している。

 黒を基調としたタイトなノースリーブワンピースで、股下五()程の丈となっている。その上から肩パットが特徴の黒地に金糸で刺繍を施した、胸元丈で前を止めないタイプの長袖上着を羽織り、白い手袋をはめている。

 ワンピースと上着とも、サイドが帯状の黒いシースルーで、斜めの格子状に金糸で刺繍が織り込まれている。脚は膝上一〇()のロングブーツで、黒地に金糸模様が入っており、着衣と合わせると豪奢なイメージとなっている。


『そして西側(ヴェステン)選手! 四千年の歴史を誇る国から来た武術家、二つ名【舞椿(まいつばき)】、騎士科二年フォルクスレプ(中華人民)リック ヒーナ(共和国)国籍、(チェン)透花(トゥファ)!』


 呼び声に応え、挙げた両手を振りながらピョンピョンと跳ね回る。花花(ファファ)が跳ねる度に白い紐のティーバックが顔を覗かせている。今日の髪型は、頭の後ろに白い布で包んだお団子を一つ造り、赤い紐で止めている。頭部右よりの位置に白い花を二つ模した髪留めが簡易VRデバイスだ。身長は一五〇()後半程で、腰の細さと長い脚が良く映える。東洋系の産まれであるため、肩幅が小さめで全体的に小柄と見えるが、反面、胸が大きく見える。


 花花(ファファ)も鎧ではなく、旗袍(チャイナドレス)デザインのHC(ホログラムセル)含有繊維製の衣装。

 薄水色の旗袍(チャイナドレス)は、彼女自慢の下半身から脚先へのラインが良く映える。

 腰深くまで両脇にスリットとは言い難い大きな隙間があり、それが尚のこと脚を長く見せる。長袖で非常に薄いシルクのようなサテン生地が身体に張り付き、スカート丈は股下と同じ。少し動くだけで裾から下着が顔を覗く。後ろは臀部の下三分の一が出ている。

 手には白いレースの手袋。脚は膝上一〇()の白いストッキングで、太もも部分の縁はレースになっている。足元は功夫(ゴンフー)スタイルの中国刺繍靴。


『双方、開始線へ』


 審判の声に促され、二人がコートの中に入る。

 それぞれの頭上三十()の位置にスコア用AR(拡張現実)が表示される。中央の開始線に付くと、まずは審判に、そしてお互いに礼を行うが、二人は礼の様式も異なる。


 花花(ファファ)は胸の高さで片手を握り、もう片方で上からかぶせる拱手(ゴンショウ)と言う感謝を表す形を取る。アレンジしたのだろう、片脚を引き膝を少し曲げ、身体全体で上下するように礼をした。


 マグダレナは、審判にはレイピアを右斜め下へ剣先がくるように右腕を広げ、脚を軽く折る。対戦者(花花)には、剣先を上に向け、レイピアの握りを胸の中央に持っきてから、審判にした同じ礼をする。


 Chevalerie(シュヴァルリ)と言う競技は、様々な国の武術家が参戦している。異種格闘技がベースであるため、武術流派の差を許容している。なればこそ、礼の作法は異なるのだ。


 そして毎度おなじみのマイクパフォーマンスに入る。

 試合中の会話も動画配信時に音声がしっかり流されるため、公式の試合である場合は必ずと言っていい程、騎士(シュヴァリエ)達はマイクパフォーマンスを行う。それは、Chevalerie(シュヴァルリ)競技を競技者と観客が一緒に楽しめるよう模索した結果の一つでもあるからだ。

 今後、学園生たちはプロとして活躍するならば、客を楽しませることも仕事の一つとなり、今はその予行練習であると言える。


「ウフフフ、そう、(ようや)く、(ようや)くよ。ずっと機会を待ってたの。kung-fu(カンフー) maestro(マスター)と戦えるのを。血が滾ってしょうがないわ」

「ワタシも、西班牙(シーバンヤー)武術戦うの楽しみだタヨ。でも一つ訂正ヨ。ワタシ、大師(ダーシー)チガウヨ。まだまだ功夫(ゴンフー)足りてないヨ」

「あれでまだ、なの? ああ、すごいわ、すごい。その奥深さに今日触れられるなんて」

「今日は鎧ナシ同士ヨ。最強言われた西班牙(シーバンヤー)武術(ウーシュ)と予選で戦う出来るウレシイネ」



 学生の見習い審判なれど、会話の呼吸を読むことは随分と鍛えられたようで、会話が終了する気配を察し、一呼吸を置いた絶妙のタイミングで合図を発する。


『双方、抜剣』


 マグダレナは、レイピアを引き抜く。シャラン、と軽い金属音から、剣の重量が軽いものと思われる。実際、細身の剣身(けんみ)騎士剣(両手剣)と比べ、五分の四程度の重量しかない。剣の形状はスペイン式のレイピアで、刺突に特化した造りであり、剣身(けんみ)は長く騎士剣と同等の一一〇()。刺突特化のため剣身(けんみ)は全体的に細く、切先部分には一応刃が付いている。斬ることがメインでないため、切れ味はそこそこ程度だ。

 剣先は針のように鋭くなっており、鍔側は騎士剣の攻撃が受けられるように強度は高くしているものの、それをメインとした戦い方は想定していない。

 柄は短く一二()で、片手剣のカテゴリだ。そして最大の特徴は、カップヒルトと呼ばれるお椀型の鍔となっており、相手の刺突攻撃を逸らす役割を担っている。そもそもスペイン式の構えは、お互いの剣先が鍔に接触するような距離で討ち合うため、カップヒルトは必須の構成となっている。


 そして、花花(ファファ)は、鞘自体を持ち込んでいない。左手で胸の高さに剣先を下に向け、武器デバイスの柄を持っている。鞘を持ち込まない武器は「抜剣」の合図と共に刀身が生成される。

 それを左手のまま背中側に剣先を上に真っすぐ持ち、両足を肩幅に開く準備の型、預備式(ユーベイシー)開立持剣(カイリーチージィェン)で待つ。

 剣自体は、剣身(けんみ)七〇()、柄二十()の硬剣式の中国単剣で、剣先を頂点に三()程の二等辺三角形となっている。剣格()から剣先までは、なだらかに細くなっている両刃の直剣である。剣幅が三()と細めである。

 剣身(けんみ)は三つの用途に分かれ、剣格()付近の剣根で相手の剣を受ける。剣身(けんみ)中ほどの中刃は、斬る、払うなどに使用する。剣先の三角形部分は剣峰と言い、槍の穂と同じように突きで使用する。剣首(柄頭)の先に、剣穂と呼ばれる房飾りが付いている特徴がある。

 剣の重量は八〇〇(グラム)程度と軽く、片手で振り回すことに長けている。



『双方、構え』


 審判の掛け声に、二人は剣の構えに入る。が、この試合に関しては他とは趣が異なる。


 ここで花花(ファファ)は、陳式太極剣三六式の第一段で剣を構えるまでの型を披露する。

 預備式(ユーベイシー)の状態から、起式(チーシー)に移行。続けて攔門剣(ランメンジィェン)仙人指路(シィェンレンヂールー)へ。

 叶底藏花(イェディツァンファ)でしゃがみこんだ状態になる。

 剣を右手に持ち替え立ち上がり、朝陽剣(チャオヤンジィェン)で右手を上に挙げ剣を相手へ水平に構える。

 この時、左腕を前に出し、左膝を腿の高さに挙げている。

 そこから左脚を踏み込んだ形で止め、右腕と剣を真っすぐ相手に突き出し、青龍出水(チンロンチュシュイ)を変形させた突きの構えまでを水が流れる如く型を披露した。


 中国武術を扱う騎士(シュヴァリエ)は、始まりの型などを持っていることが多い。

 武器を構えるまでの動作が観客には受けが良いため、一連の動作まで行うことが様式美として定着している。功夫(ゴンフー)を積んだ者が魅せる美しい技は、観客は勿論、対戦相手や審判まで楽しみにしているのだ。


 花花(ファファ)の構えが終わってから、マグダレナはスペイン式レイピアの構えをとる。

 右腕とレイピアは真っすぐ相手に伸ばされ、左手は自然体。身体は角度の付いた右半身で、右脚を少しだけ前に出す。左脚は身体の真下で、対峙する相手から九〇度水平に開いた形で置く。右足と左脚の間隔は狭く、他の武術と比べれば剣の構えとして明らかに異なっている。傍目(はため)から見れば、右手を前に出した棒立ちのように見える。



 審判員が右手を上げ、合図と共に振り下ろす。


『用意、――始め!』


 初めの合図と共に、マグダレナは左へ右へとステップを繰り返す。剣先は絶えず花花(ファファ)を捉えており点程の隙があれば一拍で攻撃が来るだろう。花花(ファファ)も合わせて動きを取り、双方が向き合い円舞(ワルツ)のようにクルクルと回る。



 花花(ファファ)は実に驚いた。スペイン式武術の幾何学理論の円運動は知識として知っていたし、過去のマグダレナが試合をした姿も見たことはある。だが、実際、相対(あいたい)すると様相はまるで違う。自分の剣が短いため今は距離を取って出方を伺っているが、相手の間合いへ潜り込むには攻防が始まる前に終わって仕舞う。そう言った武術なのだ。Duel(決闘)に向くと評される所以(ゆえん)だ。

 回り込みからの攻撃も相手は点と円運動で対応出来るため効果が出ない。接近すれば間合いの外から刺突が飛んでくるだろう。無理やり懐に入ろうとしても相手は剣先を自分に向けるだけで勝手に突きが決まる。構え自体が一種の攻撃である。

 ならば、相手の突きを避けてから自分の攻撃を当てるしかない。しかし、初めての武術(ウーシュ)相手にどのタイミングで仕掛けるべきか情報が足りない。だから花花(ファファ)は今、相手の動きを見定める時間に()てる。


「(厄介ヨ。コッチの動き合わる出来る歩法がやりにくいネ。サスガ最年少世界大会出場記録持てるは伊達じゃないヨ)」


 花花(ファファ)は攻め入るにも、すぐ対応してくる歩法を崩すことが第一であると動きを探っている段階だ。スペイン式武術の歩法が特殊過ぎるのだ。


 花花(ファファ)も呟いたが、マグダレナは世界選手権大会を一二歳で出場した最年少記録を持っている。今から二年前にエスパーニャ(スペイン)全国大会で代表入りし、世界選手権でも予選準々決勝まで進出している。只、その相手が全盛期に入ったヘリヤだったため敗戦を期した。

 今年、下級生組にエントリーされているのは、昨年度の実績が殆どないためだ。去年一年間、プロ闘牛士の免許取得のために時間を費やしたのが理由だ。

 彼女の騎士装備は模倣ではなく、本物のTor()ero() ma()tador()衣装である。



 スペイン式武術は、中世剣術で最強と言われていた。

 幾何学的理論で技術の原理を学び、計算された幾何学図式の上で円を描く歩法、攻撃の構えが一つと防御が二つのみと言う、論理を先に置いた非常にシンプルな構成である。但し、攻防の技は多岐に渡るが。

 それは戦場ではなく、街中での闘争に特化した裸剣術であるが故の特性だ。


 攻撃は、右半身に開き右手と剣を真っすぐに構えるのみ。されど、長い剣身(けんみ)はそれだけでも牽制となり、迂闊に近づけば刺突、相手の刺突攻撃も、カップヒルトと呼ばれるお椀型の鍔で防がれる。

 構えが一つであることから、相手は攻撃する手段を狭められて仕舞う。剣を払って攻撃、回り込んで攻撃の二つに制限され、非常に戦い辛い。通常の剣術相手では、この二つを対策すれば基本事足りてしまう。

 無論、どのような状況でも実行出来るように鍛錬する前提ではあるが、技の理論をしっかり理解すれば習得する技術は少ないため、(じゅく)するまでの期間が極めて短い。

 脚の配置は基本、右脚を前に置き、左脚は正面と平行になるように置く。奥脚が身体の真下であるため、より遠くへ素早く一歩を()み込むことが可能となる。

 攻撃が線ではなく点であり、最短距離を最速で攻撃が出せる構えである。故に、歩法の円運動は、常に相手へ剣先を向けることで牽制と防御を兼ね、相手が攻撃の導線を外した瞬間、即時に刺突攻撃を繰り出す。

 この剣術は、特にDuel(決闘)競技に向いており、西洋剣術以外の相手でも期待した強さを発揮する。


 閑話休題。



 マグダレナは、初めての中国武術を相手にタイミングを計りかねていた。此方(こちら)の円運動を基本とする幾何学的歩法と同様、相手も身体ごと操作する独特の歩法で正対してくる。

 ここまでは良い。中国武術についても研究対象で動画などを散々見た。西洋武術にはないトリッキーな動きに対策は用意したが、実際に相対(あいたい)するとカメラでは捉え切れなかった事実が浮かび上がった。

 身体の動き全てが澱みない円運動をしている。これが問題である。


 人体の関節は円運動をするように出来ている。腕を曲げる、肩を回す、腰を捻る、()み込みの力を取り出すなど全て円が基本となる。指の動きすら円運動だ。

 上位の騎士(シュヴァリエ)に成るにつれて、その身体操作は必須と言える。

 しかし、彼女はどうだろう。全ての円運動が循環し、時には螺旋を伴い絶えず在り続けるのだ。そんなこと、生半(なまなか)には身に付く筈がない。

 つまり、相手は身体操作のエキスパートであり、相手の動きから弱点を見定める能力があると見た方が良いだろう。歩法で左右に振っても誤差なく追従してきたことから確実に()()()()()()

 彼女程の身体操作術を持てば、どのような体勢からでも攻撃へ繋げることが出来るだろう。迂闊に手を出せない。そう言った理由で、マグダレナは攻め阿具根(あぐね)ていた。



 お互い、剣先が触れる距離での牽制が続く。

 シュラン、と剣同士の軽く擦れる音がする。

 右へ左へと、と円舞(ワルツ)は続く。



 試合開始から一分半が過ぎた。花花(ファファ)は、(ようや)く見つけたマグダレナの癖と、集めた情報の分析が終わり、此方(こちら)から仕掛けることにした。

 まずは、左側へ回りこむ動きをする。それに対応し、相手が左回りへステップを踏み正対する。その瞬間、右側へ回り込む。相手は右回りで追従し正対する。そして続けざまに左側へ回り込む。


 スペイン式武術の剣術は、回り込みを行う際の歩法が後ろに引いた軸足を先に動かす挙動となる。()み込む位置と切先を届かせる距離を確定させるためだ。左右の動きに対しては後ろ脚から動すだけで相手に正対することから身体の向き調整も兼ねている。


 マグダレナは、花花(ファファ)が行った左右の揺さぶりに対応し、再び左への切り替えしに左回りで追従した。

 が、自分の左脚が接地する直前。正対していた筈の花花(ファファ)が半歩右回りの楕円軌道を描いていた。そして、一瞬でレイピアの右外側に滑り込んで来るのを視界で捉えた。


「(やられたわ、やられたのよ)」


 その隙を与えたつもりはなかった。ならば、左右の振りに自身では気付いていない動きの遅延を見付けられたのだろう。相手に先制で攻撃を(ゆる)すことになったと判ったからマグダレナは言葉を零したのだ。


 左脚は着地したが、もう一度左脚を右に移動しなければ正対することは出来ない。それでは遅すぎる。現状の最善策は不自由な態勢でも花花(ファファ)が滑り込んでくる先に剣先を置くこと。望み薄だが、順当な動きをしてくれれば勝手に刺突が決まる。

 だが、刺突が決まると思った瞬間、花花(ファファ)の姿が消えた。

 やはりと言うべきか、攻撃された感触を確認した。それも右(すね)と予想外の場所だ。彼女は前脚を開き滑らせ、地面に接地する程低いしゃがみ込む姿勢へ移行し、マグダレナの右(すね)を斬りつけたのだ。


 花花(ファファ)が身体を起こすのが見える。離れ際、此方(こちら)からは剣身で左右の振りは届かず刺突ならば届く位置ではある。

 しかし、外側に向けて伸ばした腕では肩甲骨の動作で多少剣を引けるが、腕自体は関節の可動範囲を超えるため引き動かすことが出来ない。(しか)るにダメージペナルティがある右脚は動かさずに軸とし、左脚を右方向へ滑らせ身体自体を回す他なかった。

 その動きまで計算に入れていたのだろう。身体を正対させる動作に合わせ、まだ動かせない右腕を剣の切先で下がりながら斬っていかれた。


 ――ポーンと、攻撃が成功したことを知らせる通知音が連続で二つ。マグダレナが二ポイントを失ったことが観客に知らされた。



 花花(ファファ)はマグダレナの歩法に舌を巻く。西班牙(シーバンヤー)式武術の論理的な動きは見事なもので、絶えず相手と正対して攻め入るタイミングを(ことごと)く潰して来る。

 ずっと観察し、そして見つけた。左、右、左へ連続でステップを踏むとき最後の斬り返しだけが、体幹のずれで〇.一秒を下回る僅かな時間だけ動作が遅れていると。


 左、右と、マグダレナを振り回し、もう一度左へ。

 こちらの歩法は、最後の左へ移動した際、右脚を奥脚へ回し、西班牙(シーバンヤー)式剣術のように正面から水平になるように置いた。

 マグダレナは、想定通り左への反応が遅れた。それを見越した一手分早い動き出しで、此方(こちら)の攻撃をより確実にする。


 彼女の奥脚が移動のため持ち上げた動作に合わせ、マグダレナを左へ振った姿勢のまま左脚を前に滑らす。自身の正面は、マグダレナから見て右斜め。レイピアの右外側へ移動して見えた筈だ。

 左脚が接地するまでに、右脚を置いた時に踏み込みで発生させた纏絲(てんし)を腰から上半身に連動させ、身体全体に右周りの螺旋を伝える。正しい形からの纏絲(てんし)ではないため威力は弱いが、上体を連動したまま回転を加えるには十分。これで、マグダレナの左斜め外側に向いてしまう身体を彼女の背中がチラリと見える位置へ正対させる。


 マグダレナは、腕を背中に逸らせるようレイピアの剣先を向けてきた。このままならば、レイピアへ自ら刺さりに行くこととなる。だが、切先に捉えて来るのは()()()()だ。

 そこから花花(ファファ)は、尚も左脚を滑らせながら仆歩(プーブー)になり、ペタンと身体を沈める。その動作はレイピアの先端を頭上に遣り過ごし、懐に飛び込んだ。


 仆歩(プーブー)は左脚を真っすぐ前へ伸ばし、右脚を畳み膝を身体の外側に向けて座ったような姿勢だ。

 その脚の間に剣全体を地面へ打ち付けるよう、上から下へマグダレナの右(すね)を斬り付けた。太極剣の型、劈剣(ピージィェン)であり、棍の摔棍(シュァイガン)と言う型への流用である。

 相手より剣が短いため攻撃は脚にしか届かないが。


 そして、右脚で後ろに引っ張るように身体を起こす。

 マグダレナの腕は、身体側面から背中側に反った位置だ。反撃するには構造の修正、つまり奥脚を引き身体の位置を変更する必要がある。そのタイムラグを利用する。()すれば、此方(こちら)は反撃が来ない状態で追撃が可能となる。

 離れ際に太極剣の型、崩剣(ボンジィェン)で素早く下から上へ。

 マグダレナが身体ごと向きを変更する腕を捕まえ、切先で斬り上げる。脚と腕から一ポイントずつ()ぎ取った。


「(さてさーてヨ。もうこの手通じないなるネ。キビシーてカンジヨ)」


 花花(ファファ)が取った作戦。

 マグダレナが特定のステップを踏んだ時に表れる一瞬の遅延。これは仕掛けるタイミング。

 本命は、真っすぐに手を伸ばす構えから、何処(どこ)にでも相手へ剣先を向けられる、スペイン式武術が持つスタイルを逆手に取ることだった。




 ――それからは、マグダレナは攻撃と防御の要と言える右脚と右腕にダメージペナルティによる筋肉への高負荷状態にもかかわらず、花花(ファファ)の攻撃を凌ぎ切る。



 以降、互いに有効打が出ないまま、第一試合は時間切れとなった。



20201012ニポン語間違えてた。修正したヨ

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