03-001.Anfänge. 始まりの唄。
2156年6月14日 月曜日
2週間の聖霊降臨学校休暇が明けた月曜日である。6月も半ばになり季節としては初夏と言えるが、ここローゼンハイムは日中の最高気温が平均20度前後であり思った以上に涼しく過ごし易い。そしてザルツブルク同様、南にアルプスが聳えており、更に標高400mを超えている影響から1年を通して曇りの日が多く、晴れるのは大抵午後からである。それであるから気温が上がるまで時間がかかり、15~16:00辺りが気温のピークとなる。そして、この時期の日没は21:00過ぎであるため昼の時間が長く、美術館やアトラクションなどの娯楽施設も閉館時間が同じように延長されている。年を通して日照時間が大きく変わる地域ならではである。
「二人とも、おはようございます。」
「おはよう、ティナ。」
「おはようヨ! 久しぶりヨ!」
ティナは、登校早々に京姫と花花を見つけて取り敢えず朝の挨拶を一つ。
「久しぶりと言いますが、昨日まで1週間くらい一緒だったじゃないですか。」
「そうだな。久しぶりではないんじゃないか?」
「学園で会うのは久しぶりヨ!」
2週間の休みを挟めば確かに久しぶり、と言ってもギリギリ通りそうだが、京姫も花花も6月3日辺りからティナの実家で世話になっていたのだ。そこには小乃花の姿もあり、6月5~7日まではシルヴィアとマグダレナ、それとテレージアも拠点としてお泊りしていたのだ。
拠点と言う通り、単なるお泊り会ではない。先だって、花花が学園長とザルツブルク市に交渉して勃発した6月6日のホーエンザルツブルク要塞攻略イベントのため、要塞から徒歩圏にあるティナの実家でイベントに参加する知人の宿泊施設として場を提供したのだ。
騎士総勢200余名で行った稀に見る大規模イベントであり、ヘリヤを筆頭に、プロチームや今年の全国大会優勝者が幾人も参加し、どこを向いても有名どころの騎士で埋まると言う、メディアも世間も注目したイベントであった。決着としては攻撃側大将のヘリヤと防衛側大将のティナが一騎打ちで締め括り、相討ちにて引き分けとなるドラマチックな幕引きは大いに観客を沸かせた。
そのイベント後も、京姫、花花、小乃花は引き続いてお泊りし、先日一緒に学園に帰ってきたところだ。
ちなみに、ティナは短時間の使用が想定されている奥義を独自の技術で編み出したアイドリングさせる方法で使用時間を延長してイベント終了まで奮闘した。その結果、翌日は酷い筋肉痛で1日ベットの住人となり、それから2、3日は筋肉痛が引かなかった。
「いえ、本当に色濃い休暇でした…。」
「今度は市街戦したいヨ! でもその前に6月祭ヨ!」
「市街戦て。収拾つかなそうですよ、それ。それよりも6月祭が問題です。また小乃花もめんどくさいことを企画しました。」
「ああ、あれか。即座に各所へメールしてたからな。」
「花花と言い小乃花と言い、なんでこうも迅速に事を運ぶんでしょうか…。」
「旬は逃したらダメヨ。すぐオイシク無くなるヨ。」
「季節の食材みたいになってるな。」
お祭りごとが大好きな花花は、率先して参加する上、思い立ったら直ぐ企画を立ち上げる。あれよあれよと周りを巻き込みながらイベントになったりすることが多々あるのだ。先だっての要塞攻略などは顕著な例である。
そして小乃花も即断即決タイプである。彼女は、隠忍と呼ばれる主に敵陣侵入や情報収集、破壊工作などを行う竊盗であるため、刻々と変わる状況に即座に対応する判断力を求められる。だからだろうか、考えて決めるまでが異様に速いのだ。
6月祭について簡単に説明を挟もう。
マクシミリアン国際騎士育成学園では、6月の第4木曜と金曜の2日間、学園生達の学習成果発表の場と言う体裁で、外部の一般見物客を招くイベントを行う。日本人的感覚で言えば高校、大学などの一般公開型文化祭にイメージが近いだろうか。
このお祭りは、生徒主体で主に卒業生がメインとなって取り仕切る。彼等彼女等は、卒業前だから最後にドーンと何かやってくれ的な習慣がここ最近で生まれている。イベントのメインは騎士同士の模擬戦であろうが、騎馬兵が子供達を乗せて外遊したり、生徒達がお店を開いたり、怪しげなサークルが活動していたり、全年齢の薄い本まで即売会を始めたりと。22世紀になっても紙の本は無くなることはなかった。その代わり、週刊誌など定期発行の雑誌類はどちらかと言うと電子書籍になる方が多いのだが。
その6月祭の催し物について、学園長は元より、騎士科の講師であり歴代最強の騎士である【永世女王】のアスラウグ、学内イベント全体を取り仕切る生徒会、営利部分を担う運営科、電子工学科、人間工学科とスポーツ工学科の主だったリーダー達を宛先に、CCへ騎士科全員を入れて小乃花はメールを一斉送信した。
内容はエキシビジョンマッチとして、ティナと花花の格闘オンリーによる模擬戦をイベントの一つに加える方向で調整する依頼である。格闘の模擬戦は学園初となるため、予め実施可能であるか技術的な安全面の判断をアスラウグに丸投げして最初から関わらせる様にしているところは卒がない。
何故、小乃花がティナと花花の格闘イベントの発起人になるのかと言えば。
ブラウンシュヴァイク=カレンベルク邸で滞在中、漸く筋肉痛から逃れたティナが身体の調子を取り戻す軽い運動を始めた。そこから直ぐ花花に捕まり、青少年の情欲を誘う様な黒いピッチピチで身体のラインがほぼ丸判りな全身タイツで格闘による模擬戦を始めることになったのだった。組手の中でも戦闘レベルで打ち合う散打と言うそうだ。技を打ち合う際は散手と言葉を使い分けている、と花花から聞いた観客となった小乃花。
見たことのないレベルで繰り広げられる格闘技のあれこれと、余りにエロイ黒タイツ姿に、「これ、受ける。申請。」と小乃花はポツリと漏らし、関係各所に6月祭にエキシビジョンマッチとして二人の格闘戦を組み込むよう要請したのだ。騎士を育成する学園で本格的な格闘戦というイレギュラーケースに、各所の食いつきは中々宜しかった。皆、お祭りごとが好きなのだ。
ティナと花花が一休みするため道場壁際にあるベンチへ戻ったころには、小乃花の元には結構なメール返信が届いており、既に調整の段階に入っていた。
何ごとかと尋ねたティナが茫然とするなか、花花は大笑いしながら「イイヨー! ナイス小乃花!」と大絶賛であった。
余談ではあるが、ティナの弟ハルは小乃花の名前が上手く発音出来ず、花花が「ウチの国なら小乃花は小小が愛称かナ?」と言ったところ「しゃおしゃお」と決定した。ついでに言えば、マグダレナは「れなれな」、テレージアは「しあしあ」だが、シルヴィアのみ本来の愛称と大差ない「しるびー」で呼ばれていた。
――閑話休題。
詰まるところ学園が休み明けになるころには、ティナと花花の対戦はほぼ決定項としてプログラムに組み込まれていたのだった。
「6月祭が憂鬱です。」
「なんだ、そんなに格闘術を公開するのは嫌なのか? それとも旗か?」
「旗違います! 立てません、そんな危険なもの! 全くもう。格闘技なんて姫騎士らしくないじゃないですか。」
「今更ヨ、今更。ティナのアバター、格闘ヴァージョン近日公開なてるヨ? 周知の事実ヨ。」
「うっ。それを言われると返す言葉もありません…。」
「いつも通りにアバター宣伝の足しにすればいいんじゃないか?」
「うーん、それが一番建設的ですか…。」
いつも通りの姫騎士さんなのであった。
――この時までは――
などと、引きになる様な特殊イベントも全く発生せず、本当にいつも通りに日常を過ごしていくのである。
長い休暇明けで生徒達の話題となったのはやはりホーエンザルツブルク要塞攻略イベントだろう。学園生達も腕に覚えのある者達が100名以上参加していた。彼等彼女等の内、Duelを主に活動の場にしていた者達は初めての集団戦、しかも競技とは一味違った戦場の様相を呈していたとあれば、その経験を半ば興奮気味に語ったりするのである。更にはプロの騎士などもかなりの数が参加していたため、その戦う様に感銘を受けたり学ぶべき点を多く見つけたりと、話題は尽きない。
その中でも一際異彩を放ったのが防衛側大将であった姫騎士だろう。
高レベルの王道派騎士スタイルで知られた彼女が、春季学内大会で騎士が全く知らない武術を幾多も繰り出したことは記憶に新しい。ここでティナに対する周りの認識は大幅な上方修正を強いられることとなった。
そんな記憶がまだ新しい内に今度は、空中を闊歩し、敵陣に只一人斬り込み蹂躙する、などと信じられないことをしでかしたのだ。luttesなどとは違い、戦略を用いる組織立った相手に対して多対一をものともしない戦いぶりは騎士達を戦慄させた。
それはティナが実際の戦場で戦う技量を持っていることを暗に示しているからだ。
その上で休暇後半に届いた小乃花のメールである。姫騎士が今度は格闘戦をすると言う、突飛な内容であった。
騎士科の者達は口々に噂する。あの姫騎士は一体何者であるのか、と。
「ナニモノねぇ。パンツ見せてお金貰う人ヨ!」
「風評被害です! それでは風俗街の従業員に聞こえます!」
「言葉的には問題だが間違ってないところが性質悪いな。」
ティナは下着メーカーのスポンサードを受けている。この間新調した鎧に合わせて騎士服も仕立て直し、さり気にパンチラして効果的に製品の宣伝が出来る様に改良している。以前にも記載したが、下着メーカーの製品宣伝は普段からパンチラすることではない。
そして、「風評被害」と言う言葉。このお話だと度々出てくる単語である。しかし単に彼女達の間で流行っているだけで、特に重要な意味合いなど何もないのだ。
昼時。今日は気温も高く、午前中で既に22度まで上がっている。午前中から晴れ間も見え始めていたので、最高気温も25度近くまで上がるだろうと予想される。つまり、初夏の陽気そのものだ。
こんな日には室内よりも外の方が宜しかろうと、中庭の芝生で昼を頂くことにした三人娘。食堂から本日はサンドイッチ系のランチを選択しテイクアウトする。さすがにテラスと違い、芝生の上にヨーロッパ系の料理を並べるのは余りにも無作法である。
「こんなことなら夏服を出すんだったな。」
ポロリと零した京姫の言葉からは予想以上に気温が高かったことを伺わせる。それでも蒸し暑さなどとは無縁の地域であるため、性急に衣替えをする必要は余りない。
「ワタシ、涼しい服ヨ~。涼しいヨ~。」
ゴロゴロと芝生の上を行ったり来たり転がる花花。結構早い。
「むしろ、そのゴロゴロ運動で暑くなるんじゃないでしょうか。」
ピタリと動きが止まる花花。止まる場所が木陰なところなのはポイントが高い。
「うん。アツイ。ゴロゴロ侮れないヨ。」
「花花、スカート捲れてパンツ全開だぞ。」
「疲れたヨ。直してヨー。」
「まったく。しかたないですね。」
両手を伸ばした形で俯せの花花。確かにその格好からスカートの裾を下すと考えれば大変だろう。伸ばした手を下げれば良いのだが、そんな気はなさそうである。
動かない花花に仕方なくティナが捲れたスカートの裾を直してやる。しかし、短めのスカートで少し足を開いて転がっているので、脚側から見ればパンツ丸見えなのは変わらない。
その姿は花花と言う名を持つ一本の丸太が横に倒れているのである。
大地に抱かれ、陽光により温まった空気を感じ、世界と一体となることを望む修行者の様に。
などと前衛的な詩に使われていそうな言葉で言い表さなくとも、ダレて動かない花花が転がっている、の一言で終わるのだが。
その丸太から寝息が聞こえて来る。この陽気に、腹がくちくなって眠りに誘われた様だ。
「寝ちゃいましたね。」
「うん。眠ってしまったな。」
「そこは代々、お昼寝スポットだからな。」
「あら、ヘリヤ。あなたも日向ぼっこですか?」
「いい陽気だからね。のんびり出来そうなところを探してたんだよ。」
そう言いながらヘリヤは木陰を選んで座り込む。ここの女生徒はスカートを短くすることが流行っているので、胡坐を組んだヘリヤもチラチラと下着が見えている。
そんな女生徒の姿は、この学園では慣れっこなので特に気にすることもなく京姫は先ほどのヘリヤの言葉を繰り返す。
「代々の昼寝スポットですか? ここが?」
「そうそう、丁度良い涼しさになるんだよな、特に夏場は。覚えとくといいよ。あたしも良く世話になったさ。」
「へー。そうなんですか。」
ここでティナはどうでも良い話なのだが気になっていたことをヘリヤに尋ねてみた。
「ヘリヤ、鎧下の騎士服、新調しました?」
「ん? 良く判ったな。」
「判るも何も、丈が短くなって下着が丸見えだったのが、この間のイベントではちゃんと隠れてましたもの。」
「ああ、そう言えばそうだ。同じデザインだから気付きませんでしたよ、ヘリヤ。」
「ホラ、あたしは卒業後に旅する企画があるだろ? さすがに丈が足りないスカートで相手先に行くのはどうかって、かあさんに窘められてな。それもそうかと。」
「んがー」
会話に参加する様に、鼾をかきだした花花。乙女が出してはならないレベルの音色である。
「花花は熟睡してるみたいだ。こうなるとちょっとやそっとじゃ起きないな。」
京姫の言葉を聞き、ヘリヤは可愛らしく人差し指を口に当て静かにする様にと二人にリアクションで伝える。目が笑っているので、花花に何か悪戯する気だろう。
「!?」
「!!」
一瞬でヘリヤが神速の突きを放つ際の気配に変わった。ヘリヤは殺気は出ないのだが、明確に攻撃の意志が読み取れる珍しい気配を放てる。
そして、花花は、その場から5m程離れているところに一瞬で移動していた。右脚を前に出し、左腕を肩の高さから肘を曲げて上げ、右腕は腰の高さに少し開いた位置に。両手先は自然な形で開いている。正面から腕の形をみるとS字を反転させたような曲線になっている。白鶴亮翅と言う型である。
「なんだ、ヘリヤカ。闇討ちかと思たヨ。」
「悪い悪い。前に達人は寝ていても気配で気付くって聞いてな。ホントかどうか試してみたんだ。」
「まったく。人が悪いヨ。それにヘリヤの気配ならワタシなくても大抵は気付くヨ。」
「え? そうなのか?」
「そうヨ。寝てる横でジェット機飛ばす様なもんヨ。」
「ああ、それは私も判るな。ヘリヤの気配は一瞬、猛烈に膨らみますから。」
「そうですね。アレで殺気が全く含まれていないところが逆に恐ろしいところですが。」
「なるほど、あたしで試すのは失敗だったかー。しかし、透花は一瞬で戦闘態勢に入ったな。」
「それくらい出来ないと額に肉って書かれるヨ…。」
花花の瞳孔が開いている。修行時代に相当な思い出があった様だが、聞くのは藪蛇になりそうである。
「どうせなら小乃花を呼んで来ればよかったかな。忍びの技で面白くなりそうだ。」
「小乃花相手だと6:4で獲られるヨ。暗部に欲しい人材ヨ。」
「ですね。ウチもエレさんがスカウトしてましたし。あっさり断られましたが。」
「ふーん、色々と面白いことになってるんだなぁ。あ! 面白いと言えば、6月祭!」
「はい? 6月祭?」
「なにかあったのですか? ヘリヤ。」
「何かどころじゃないだろ、京姫。学園初の格闘技大会じゃないか!」
「大会違いますて。模擬戦ですよ、もーぎーせーんー!」
「大会してもワタシとティナ以外まともに戦えないヨ。」
「でも初の試みだろ? いやー、卒業前に格闘の技が見れるなんて愉しみでしょうがないよ。」
ヘリヤは純粋に興味津々である。ティナと花花の格闘レベルが非常に高いのは話を聞いて知っている。大抵の騎士はルール上でも使用しない技であり、格闘について造詣が深いとは言えない。そして、エンターテイメントではなく、戦闘を前提とした格闘などは実際見る機会などないのだ。
「それに、今回のメインイベントだって聞いてるしな! 特等席で見れる様に捻じ込んできたところだよ。」
「へ? メインイベント? ええ! いつの間にそんなことに!」
「イヤッフー! 私の技、タクサン見て貰えるヨーッ!!」
喜びピョンピョン跳ねている花花とは対照的に、ティナはゲンナリした雰囲気を醸し出している。この格闘戦は出し物の一つとして模擬戦などの前座程度になるだろう考えていたのだ。ところがヘリヤが漏らした情報からはメインイベントに据えられているらしい。「捻じ込んできた」などの言葉が出る位だから、間違いなく本決まりで準備が開始されていると思われる。学園生が動くのは休暇明けだろうから、まだ調整は容易だろうと考えていたのが仇になった。
ここの学園生はイベントなどのお祭りごとは非常にアクティブなのだ。既に休暇の期間中から動いていたものと思われる。でなければ休暇明け初日の午後に、6月祭のプログラムとしてメインイベントに据えられていることなどはありえないのだ。
「フ…」
「ふ?」
「フラグ乙です…。」
「…あ、ああ。フラグ乙…。」
本当に自分が言ったことがフラグになってしまったティナと、その話題を最初に振った京姫は何とも言えない気分で受け答えをしていた。放っておくと良くないことが増殖しそうだったので。
こうして、ティナと花花の格闘技による模擬戦は、メインイベントに昇格した。それによって、花花が大量に技を繰り出してくるに違いないだろう。何せ彼女は自分の修めた技が美しいものであると知らしめるために騎士になっているのだ。本来、彼女が修めているのは拳法でそれを使えると言うことは、相当ハッスルするだろう。それに付き合わされるティナはたまったもんではない。しかし結局付き合ってしまうのだ。付き合えてしまう技量を持っているがために。
グッタリ気味のティナは、ベットの上で俯せに突っ伏している。イベントを調整しようと下手に動けば泥沼化しそうなので、大人しくトレーニングをしておくか、などと考えているところだ。格闘術自体、花花にまだ見せたことのない技は幾つも在る。その練習として1週間は時間があるので精度を上げておこうかと。
部屋着のティナは、腰までのTシャツにティーバック姿がデフォルトだ。今は俯せになっているので臀部が丸出しなのだが、それがピクリ、と動いた。
「んむ? 仕事用とプライベート用にメールが1通ずつですか。あ、CMのパイロットが出来たんですね。ああ、確認用のデータも一緒に来てますか。」
ティナは外向け用、学園用、仕事用、プライベート用のメールアドレスを使い分けている。簡易VRデバイスで常時メール受信をする設定では、AR表示に絶えずファンからのメール到着メッセージが出続けるため、メールサーバ上のメールクライアントを使う様にしている。そして日に何度か到着メールを確認する方法を取っているのである。
仕事用のメールを見ると先月、三人娘はスポンサーである「Calenberg-Akustik .AG」が発表する新しいブランドのイメージキャラクターとしてCM撮影を行った。そのパイロット版が出来たとの連絡だ。実際は準完成版なのだが、そのフィルムを出演した本人達に確認をして貰うためのデータが届いたのだ。出演した彼女達が実際にCMを見て、要望などがあれば反映する。可能な範囲であればだが。
「明日の放課後にでも二人を呼び出しますか。それじゃ、CMの話がありますから明日の夕食後に私の部屋へ集合っと。ほい、送信。」
ささっと花花と京姫にメールを送り、一つ片付けた。
「えーと、もう一通はっと。」
ティナの目が驚きに見開く。
「え!? 姉さま? え、ええ!? 見つけた? え、本当ですか! 内容、内容、メール早く開け!」
驚きと狼狽、そして抑えきれない期待でメールの内容を何度も目を通す。
「Großartig! 予想以上です! これは是非とも行かねばなりませんね。姉さま調整ヨロっと、はーい送信!」
「ふふ、ふふふふふふ…」
「フハーッハッハッハッハーッ」
珍しくティナは怪しい笑い声を臆面もなく響かせ、夜が更けていくのだった。




