【改】01-007. 春季学内大会第一部、Duel予選はじまりました
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20250215 改稿
二一五六年三月一〇日 水曜日
屋内大スタジアム。観客席の上部へ設置された三〇基のインフォメーションスクリーンが設置され、その内二基は特大サイズだ。最大面積を使用する競技の試合コートがすっぽり収まる一二〇米×七〇米の競技スペースを確保しており、Duelコートは最大三二面を設置可能だ。
朝も早くから騎士装備を纏ったDuel参加者が一堂に会している。情報掲示をメインとする特大スクリーンに騎士と観客の視線が集まっている。
今日はDuelの予選初日だ。これからトーナメントの組み合わせが行われるのだ。組み合わせはコンピュータによる乱数配列。一瞬で組み合わせが計算され、映し出されているトーナメント表へ競技者名が表示された。
ティナは祈りながら自分のトーナメント位置を探した。先日のヘリヤから宣戦布告、いや、むしろ死刑宣告を受けたが、去年のように初戦で当たることだけは避けたかった。
今年度の実績がある場合、三年生までの下級生でも、四~六年生の上級生が主に占めるAグループ配下の第一、第二トーナメントのどちらかへ自動的に割り振られる。一つのトーナメントは更に八つのツリーと呼ばれるグループに分かれ、それぞれのトップがトーナメント毎のベストエイトとなる。実際は予選ベスト三二であるのだが、便宜上ベストエイトと呼ばれている。
「Aグループの第一トーナメントBツリーですか」
自分が配置されたツリーの中に、見たくない名前が入っていなかったことに安堵するティナ。彼女は第二トーナメントのFツリーにいた。これで、本選までは出会うことがなくなった。このツリーを勝ち抜けば、当初の目的である予選ベストエイトのポイントは取得出来る。そう思った瞬間、同じツリーの中にもう一つ見たくなかった名前を見つけた。
――エイル・ロズブローク――
【壊滅の戦乙女】ヘリヤ・ロズブロークの実妹。普段、のんびりとした性格とは裏腹に、姉とは正反対の騎士だ。
心理戦、策略に長け、相手の技を上回る技量で返し、徹底的に相手を追い詰める。そして相手の心を折り、介錯をするかの如く止めを刺す。まるで慈悲を与えたかのように。倒された相手が試合の終わったことに安堵する姿から、【慈悲の救済】と言う二つ名が付いている。技巧派で厭らしい相手である。
むしろ、ティナと分類は同じだ。だからこそ戦い辛く、読み合い騙し合いの消耗戦が予想される。その上、王道派騎士スタイルでは敵わない相手である。早々に手札を斬る必要が出て戦う前からウンザリして仕舞う。それでも勝ちを譲るつもりはないが。
「ヘリヤのラブコールは届かなかったようだな」
「でも、オカワリにエイルが入てるヨ」
花花は「代わりに」と言いたかったようだ。まぁ、意味合い的にはそれ程遠くない。
京姫も花花も、下級生組であるBグループのトーナメントのため、現段階では他人事を決め込んでいる。
「運の良し悪しは兎も角、作為的なものを感じます。なにか、こう、神様が面白おかしくなるよう、くじ引きで決めたというか」
「神はサイコロを振らないんじゃないか?」
「ワタシの国では天地開闢から神はサイコロ振るヨ」
一神教以外の神は、意外と運に左右されるお方が何柱もおられる。
だべって気を紛らわしたいところではあるが、そろそろ初戦の準備をしないと間に合わなくなる時間だ。三月はまだ寒さが強く日中も気温は一〇度程度しかない。そのため、屋内大スタジアムにて全試合が行われる。
長方形の短辺に半円を付けた楕円ドーム型であるが、観客席の上部へ設置されたインフォメーションスクリーンがスペースを取り、観客席自体は一万五千席と少ない。
Duel予選初日となる今日は、上級生、下級生合わせて四つのトーナメントで区画を分け、それぞれ対戦コート六面を使用して一回戦を五試合ずつ、計一二〇試合を終える必要がある。
総参加数三六〇名の内、一二〇名は実績のある騎士が二回戦のシード選手枠だ。
ティナは順当に勝ち進めば、三日かけて四回試合を戦うことになる。その最後がエイルとの試合となるだろう。途中で敗退してくれる確率はほぼゼロだ。それだけ高みにいる騎士である。兎も角、戦術を練る時間があったのは不幸中の幸いであった。
さて。場所は変わって、下級生組であるBグループのトーナメント区画。インフォメーションスクリーンのトーナメント表はリアルタイムで情報が反映され、各試合の使用コートなども表示される。
花花は第三トーナメントのDツリー、京姫は第四トーナメントのAツリーにエントリーしていた。本選まで勝ち進めば、三人が一堂に会することとなる。公式記録が残る大会で真剣勝負する機会が訪れた。
そもそも二人は強い。騎士科全体からしても上位に位置する。まず、本選にまで駒を進めるだろう。
下級生組には上級生組のような極端にレベルが高い騎士は、それほど育っていない。
例外として数名がいるだけだ。二人は下級生組でも頭二つは飛び抜けているため、余程のことがない限り敗れることはないだろう。その証拠に、初戦は危なげなく勝利した。
二一五六年三月一二日 金曜日
前日の予選二日目は、シード枠の選手が参戦する二回戦目で一二〇試合が実施された。
そして、本日予選三日目。三回戦目で六〇試合が執り行われ、特に波乱もなく順当に予選ベストエイト選出戦に赴く騎士五六名が選出された。
尚、各トーナメントのHツリーは人数調整の特別シード扱いとなり、三回戦の勝者四名が先行して予選ベストエイト入りをしている。
これから四回戦ベストエイト選出戦の試合だ。Aグループ第一トーナメント会場の試合コート六面のみで、二八試合が執り行われる。一面から四面で五戦、五面と六面で四戦のスケジュールとなる。二面ずつ同時に試合し、その試合終了を待つように別の二面で試合が開始される。試合コートを二面だけでも賄えそうだが、次の試合までの準備時間を含めると一日で全試合消化するには余裕がなくなるため、今の方式が取られている。
ちなみに、この試合から解説者役の生徒が試合実況を解説し、簡易VRデバイスにて好きな試合の解説を聞きながら観戦できるようになっている。
午前中で三回戦が終わり、現在一三時半。四回戦へ出場する選手は、試合開始まで一〇ある競技者控室で待機中である。四回戦の開始は一四時からとなり、少し長めの昼休憩となっている。
ティナ、花花、京姫の三人娘は同じ控室で試合の準備中である。
「装着完了、HCの感度も正常値、チェックOKです」
「ありがとうございます」
試合前は、スポーツ科学科の生徒がサポーターとして装備の装着補助と調整をしてくれる。武器デバイスや簡易VRデバイスの正常性とバッテリー残量等の最終チェックも担い、騎士の負担が軽くなるよう配慮されている。
今回ティナは、いつもと違うオレンジ色の鎧姿である。花花が「橘子、橘子、おいしそう!」と騒いでいた。橘子とは蜜柑のことだが、色合いが似てると言っても少々メタリック調な鎧をで食べる気はしないのだが。
「いよいよだな」
京姫は腕を組み、少し緊張の面持ちで零すように言葉を発した。
「どうしたヨ? 京姫。ナンか余裕ナイヨ?」
「そうですよ? 緊張感はあった方が良いですが、極度の緊張は逆効果です」
「少し考えてしまってな。私の技はこれからも通じるのか、このままで高みに届くのか、とな」
ふぅ、と一つ息を吐き、京姫は不安を吐露した。全国大会のティナ、先日のヘリヤを見て自身は奮起するも、今日までの三試合は少しの気負いと少しの焦りで、思い描く試合運びにならなかった。とは言え、危なげなく勝ち進んではいるのだが。
簡単に揺らいで仕舞った自分が、果たして正しく道を進めるのか不安が頭を擡げて来たようだ。勝てば本選と言うタイミングだからこそ、このままだと友に追い付けないのでは?と疑念が膨らみ、思いが零れたのだ。
人差し指を顎に当て少し思案し、花花は何時もの軽い語り口で自分の考えを述べる。
「京姫。やれるコトやる。やれないコトはやれないヨ。勝ち負けも先のコトも違うヨ。やれるコトやれるなるために積み重ねるが大事ヨ」
どのような時でも心を平静に、覚えた技術を何時も通りに使う。ある意味、奥義の一つであろう。正しいか間違いかは本人しか判らないものであり、その答えが判るのは今わの際ではないだろうか。ならば信じた道を進むしかない。そして積み重ねられるだけ積み重ねる。後悔しないように。
ティナはやれることを複数持っており、それぞれ熟練の域まで高めている。なのでこういう時は言葉を掛け辛い。お前が言うな状態になるからだ。
「あたしもそう思うよ」
思わぬところから意見の賛同者があらわれた。
「ヘリヤ、いつの間にいらしたのですか。それにエイルまで」
「ついさっきだよ。なんとなく様子を見にね。ついでに、フラフラ歩いてたエイルも拾ってきた」
そう言いながらヘリヤの斜め後ろに立っているエイルへ視線を向ける。
「ええ、姉さんに引きずられて来ましたの。フロレンティーナ、その艶やかな鎧は初めて見ますね」
「こちらは予備です。姫騎士のイメージから外れるので余り使いたくはかったのですが、いつもの鎧は少しメンテナンスが必要でしたので」
ラスボスにティナの対戦相手。陣中見舞いと言うことでもないだろう。ヘリヤは細かいことを気にしない性質であり、気紛れで言うなれば豪放磊落。ここへは思い立ったから来たのであって、特に意味はないのだろう。
「京姫は考えすぎだ。人間、出来ることしか出来ん。出来ることで上回れば良いんだよ。そのための鍛錬だろう」
ヘリヤは腰に手をやり助言、と言うより自分のスタンスなのだろう。それを口にした。
その通りだとばかりに花花が、うんうんと頷いている。
「そうねぇ、一つ良いこと教えてあげる」
エイルは両の掌を胸の高さで合わせ、京姫に向かい切り出す。
「姉さんは……母さんの言葉を借りれば、才能は凡庸。標準的な騎士にしかなれない、と。ずっと言われてるの」
その言葉に京姫は衝撃を受ける。現在、世界最強を誇る騎士が、今後も並ぶ者はないだろうと称される史上最強の騎士【永世女王】からそんな評価をされていたとは。
「――だけど、出来ることをひたすら磨いて今があるの」
「あたしは基礎しか出来ないからな」
ヘリヤは少しにやけながら、そう言った。
暫しの沈黙。それから稍あって京姫は口を切った。
「ありがとうございます。お二人の言葉で少し気が楽になりました」
積み重ねて高みに届かせた者がここにいる。それを知り、京姫は感じ入ったものがあったようで、少し吹っ切れた笑顔で答える。まだ立ち止まるには早すぎると。
花花はヤレヤレと言った具合で一安心している。
「あたしに、そんな言葉使いする必要はないんだがなぁ」
「そこは勘弁してください。慣れてないものですから」
小等部卒業後、すぐに留学した京姫は、お国柄か目上の者に対して丁寧な言葉になることが多い。呼び捨てなどや感情を無駄に抑える必要がないことには慣れたが、まだまだ異国の風習には馴染みきっていない。
余談だが、人間が生活するには左右の関係が重要で、上下関係は必要ない。上から力で支配し、下から信頼は得られない構造をしているからだ。上下関係が当たり前になると、親が子を先輩が後輩を上司が部下を支配して仕舞い健全ではなくなる。心当たりがある方も居られるのではないだろうか。
本来は、軍隊など縦の命令が重要になるような組織では仕組みとして上下が必要だが、それ以外では需要がない筈なのだ。
ちょっとした青春の一幕が展開しているが、半分蚊帳の外にティナはいた。
そして、エイルの語ったその内容に精神をゴリゴリ削られている。基礎を鍛錬し続け、才能を凌駕する――ヘリヤがソレであると薄々勘付いていた。
ところが近しい人間から齎された情報は、それ以上の内容だった。
否定され続けても折れず挫けず、高みまで上り詰める尋常ではない精神力。
つまり、ヘリヤの強さは鍛錬の積み重ねと表現するには生温く、人の範疇を超える埒外の鍛錬を繰り返してきた事実が浮かぶ。
人の枠から外れた者に、人の使う王道派騎士スタイルなどと囃された技が通じないのも通然だろう。使うつもりであった手札を切っても勝ち筋まで組み立てるのは難しい。何処まで見せるか判断に迷う。これからエイルと試合があるというのに先のことへ思考が乱される。
「(このひと、私に精神攻撃を与えているんではないでしょうか)」
目が合ったエイルはニッコリと穏やかな笑みを浮かべた。
「(やっぱり攻撃されてました!)」
先日、ヘリヤの宣戦布告でグッタリしたティナがお客さんに慰められてる姿は意外と話題になった。彼女のそんな姿は滅多に見られないため、面白がられたのである。
エイルはその話を何処かで使おうと心理戦を組み立てていたのだろう。全力を見せたヘリヤから関連付けて、ティナがどう受け取ったか凡そ検討を付けて。
そして、姉に捕まって引き摺られて来たところで丁度良いタイミングが到来。受け取り手によって激励か、攻撃かに別れる巧みな言葉使いで要注意人物へ牽制。さすが相手の心を折りに来るのは一級品だ。実際、ティナは折れそうになった。
『試合開始一〇分前です。選手は試合会場に入場してください』
館内放送が聞こえてきた。簡易VRデバイスからは、自分の戦う試合コートが細胞給電式コンタクトレンズ型モニターへ表示されている。
「おっと、それじゃ行こうか。お前たち面白いから全員生き残れよ」
「姉さん、私とフロレンティーナは、どちらかしか残りませんけど?」
「じゃ、ティナ勝て。エイルとはいつでも出来る」
「ヘリヤ、幾らなんでもそれは酷い言い草じゃないかと」
さすがにティナも、その発言はどうかと突っ込みを入れる。
「あら、姉さんはいつもこんな感じですのよ。聞き流すのが一番です」
穏やかな表情を崩さずにエイルが応える。
どうやら世界ランキング一位は流されても繰り返してるようだ。
「イツモカ、それスゴイヨ! 繰り返すは鍛錬ヨ!」
「いや、その鍛錬はないな。私はしたくない」
花花が「いつも」の部分を繰り返しと膨らませて真面目にボケる。
京姫のツッコミが入る何時もの構図。
これこそ繰り返しである。
なんだかんだと賑やかな集団は試合会場へと消えていった。