【閑話】風雲!ホーエンザルツブルク要塞! ~その3 お披露目、大事~
城4階にある、大司教の権勢を諸外国人にしらしめるために造られた黄金の広間。天井と言う夜空に煌めく金の星、旧市街側の窓の側には螺旋上に加工されたアドネット大理石の柱。その間に陣取るオーケストラが侵入者到来の曲を奏でている。
黄金の間から通ずる扉をゆっくり開いてティナは現れる。
音楽が替わり、ボス戦のBGMが流れる。
果たして、そこに待っていたのは予想通りの問題児達だった。
花花と小乃花。攻防戦の最中、何処にも見えなかった二人がここに居る。
「ようこそ、私の城へ。あなたたち二人が初めての来客です。ゆっくりしていくのは無理でしょうが、どうぞ楽しんでいってください。」
予め決めていたであろう台詞を言うティナであるが、二人とも珍妙な表情を浮かべている。
それもその筈、ティナはフードを目深に被った外套姿である。しかも足元に届きそうな程、裾が長い。
そして、外套の前合わせの隙間から、白く輝く騎士剣が切っ先を左下に向ける様、斜めに顔をだしている。
大将である公爵の姫君は、全く以って不審者である。
しかも刃物を見せ付けている危険度MAXな不審者である。
「ところで、二人はどうやって黄金の広間に入って来たのですか? 城内でも戦闘音はしませんでしたが。」
「ん。アッチヨ。」
「そこから入った。」
二人が指差したのは窓である。この窓は、旧市街側、つまり要塞北側にあり、垂直になった城壁の一部である。要塞自体が小高い丘の上に存在し、門以外は直接アクセスする造りではない。つまり、切り立って登坂が困難な位置に城壁があるのである。
窓を見るとアンカーが窓の縁に引っかかっており、ロープで登って来たものと思われる。建物に関するルールとしては、城内でのボス戦は黄金の広間で行うこと、防衛側が要塞進入用の門を二つ解放すること、指定の建物以外は入らないことが決まりとしてあるが、窓から侵入してはいけないとは謳っていない。
この二人、最初から壁を登るつもりでルールをアバウトにしたな、と呆れたティナは眉をハの字に曲げる。
「はぁ~、登ったんですか。また危ない真似して。落ちたらどうするんですか。」
「このくらいならナントカなるヨ。」
「同意。最近は便利。壁にぺったんするゴムゴムが売ってる。いざとなれば使う。」
「で、ティナは何で不審者のカッコしてるヨ?」
「不審者違います! 秘密の姫騎士です!」
「…こじらせた?」
「ちょっ! 小乃花、ボソリと言わないでください! まるで本当みたいに聞こえます!」
しかし、どう言い訳しようが不審者に見えることには変わりなく。
外套を着ていることで攻撃対象となる部位は隠されているが、これは反則ではない。HCを織り込んでいない衣類はホログラムが透過し、その先にある部位に当たり判定が届く様、エミュレートされている。
ティナは、二人を順に見据える途中、ほんの瞬きの合間ほどの時間、二人の後ろに焦点を合わせた。
「さて、始めましょうか。」
「ティナ、脱がないのカ?」
「主語を入れてください! 私が往来で脱衣をする性癖を持ってる様に聞こえます!」
「姫騎士ストリップ劇場。」
「それもNeinWortです!」
まるで緊迫感がない。
しかし、三人は各々が相手の得意な距離に入らない様に陣取っている。その殺傷圏に身を浸せば瞬時に剣が飛んで来るだろう。
小乃花はいつもの様に左の脇構えにて刀身を後方へ隠し、今現在で可能な最大限の隠形を用いる。そして、彼女が最も得意とする正面の死角を突こうとする。だが、それが行われることはなかった。
「まいった。態と死角を作られた。仕掛ける前に潰されたのは初めて。」
ティナは小乃花に攻め込ませるため、瞬きや呼吸など、さも自然を装って彼女から意識を離した瞬間がある様に見せかけた。この姫騎士、正面の死角を突く戦いを屡行う。それを相手に気取られることなく様々な技法に含ませているのである。ならばこそ、自分で死角を造り出すことは造作もない。
「小乃花は消える技に頼りすぎヨ。こんなトキは単純がイイヨ。ホンとで戦うの技は裏切らないヨ。」
そう軽く言った花花は中国単剣を腕花で手首の内と外にクルクル回しながらトントンと片脚の爪先で床を叩き、呑気にリズムを取っている様に見える。が、その瞬間にはティナの左側面へ移動していた。纏絲を使い、身体に流れる力の向きを変え、移動にかかる動作を短縮した瞬歩である。
完全な虚を突き、下から中国単剣で撫で斬りを仕掛ける。だがティナは、外套の左下方に向けていた剣を初めからそこに攻撃が来ることが判っていたかの様に置き、花花の剣を受け流す。そして、そのまま剣先を巻いて一気に搗ち上げた。
小乃花も花花が動いたと同時にティナの右方向へ低い姿勢で接近し、伸びあがりながら斜め上方向に刀を薙ぐ。ティナの剣は花花の攻撃を防御するため左方向に向いており、こちらの攻撃には対処できない。
キンと金属のかち合う音が響き、小乃花の刀は止められる。右腕を交差する様にティナの左腕が伸びて来ていた。手には刃渡り30cmのサクスが握られて。
二人のほぼ同時攻撃を凌いだティナは、花花と小乃花が最初に立っていた方を向いて一言叫んだ。
「今です!」
ティナの呼び声を聞き、小乃花は目線を、花花は第三者の攻撃を凌ぐ態勢を取る。先程、ティナの視線が一瞬だけ自分達の後ろに向けたのを二人は見逃してはいなかった。
その瞬間、ティナは交差した腕を戻す様に剣で小乃花の心臓部分を薙ぎ、サクスで花花の心臓部分を刺突した。
「(Leerlauf.)」
――空回し
ふぃー、と一息つくティナ。今回のイベントでは、奥義であるSonne Machtと呼ばれる暗示によるゾーン状態の強制励起を使用している。
StagnationとWiederaufnahmeのキーワードで基底状態と励起状態をオンオフするのだが、通常状態から一気にゾーン状態に入る運用の繰り返しは長丁場になる戦場では疲労の蓄積が甚大だ。
そこで、Stagnationではなく、Leerlaufすることにより、励起状態の能力を少しだけ維持し、いきなり励起状態に入るよりも遥かに負担を軽くする暗示を用いている。
このLeerlaufは奥義からティナが独自に開発した技術である。
オーケストラが奏でる音楽が、ボスの勝利を讃えるものに変わった。これで外にいる騎士達も、ここでの勝敗がどうなったのか知ることとなる。
「だ~まさ~れたヨ~!」
「姫騎士詐欺事件勃発。」
「二人とも体裁の悪い言葉はやめてください! 立派な戦略です! プンプン!」
腰に手を当て、口でプンプン言っているティナ。
しかし結局、外套は脱がずに、というよりも殆ど着衣が乱れずに戦い果せた。
その姿で可愛らしく振舞ったところで、不審者度が上がるだけである。
花花と小乃花は、相手の動作や気配を敏感に察する騎士である。以前、ティナがエイル戦で攻撃時にチラリと違うところに目配せするフェイントを入れたが、今回は、まず気が付くことがないレベルで目線の動きを入れた。二人はそれを追えてしまったのが敗因だ。
二人が戦闘中に第三者の気配を掴めなかったことから、ある程度離れた距離で待機していると想定していた。
気配を消すことに長け、且つ遠間から攻撃が出来る騎士となると、思いつくのはウルスラしかいない。防衛側にはウルスラが参加していることを知っていた。
だからティナの呼び声から、矢が正確に2連射で飛来するため身構える必要があると、一連の思考をしてしまう状況が作らされたのだ。
その隙さえあれば、ティナは二対一だろうが問題もなく勝つことが出来る。結局、レベルが高い騎士ならばこそ対応出来てしまうことを逆手に取った、ティナお得意のやり口である。
「ウルスラ居るかと思たヨ。」
「彼女なら声をかけなくても勝手に射って来ますから。」
「このARモニタに鬱陶しく表示される『敗退しました。所定の退避エリアに進んでください』っていうのが腹立たしい。」
「いえいえ、二人とも私に敗れたのですから。とっととGO!ですよ?」
「へーい。」
「滑落開始。」
「いやいや、窓からじゃなく、ちゃんと階段から帰りなさい!」
「えー。」
「面倒くさい。」
ティナはブツブツ言う二人を階段へ押し込んだ。ほっといたら本当に窓からロープで降りただろう。窓の縁に嵌まっているアンカーをそのままにしていたのだから。もちろん、回収させたが。
二人を押し返したティナは、うーんと顎に手を添えるリアクションでほんの少しだけ考える。
「予想外の方法で奇襲などと面白いことをされました。なら、こちらも少し面白くしましょう。」
パンと手を打ち、オーケストラに振り返る。指揮者はARモニタで侵入者やティナの動向を追い、状況に応じた適切な曲を奏でるのだ。
「オーケストラの皆さん! 私はこれから外に戦いに行きます。階段ではなく屋根伝いに敵陣へ現れる演出をします。動き回りますから指揮者の方は私の動向を見逃さない様にお願いします。」
ペコリとお辞儀をし、ティナは黄金の間へ引きさがり、大司教の居室まで戻ってきた。ここには観客向けのカメラが設置されている。
「この映像をご覧の皆さん。ご存知かと思いますが先程この本陣は奇襲を受け、それを退けました。ただ、次の挑戦者を待つまでかなり時間がかかると思います。」
「そして、何故、私がこのような外套を纏っているかも不思議と感じているのではないでしょうか。」
ここで少し間を取り、カメラへ顔を向ける。
「私、フロレンティーナ・フォン・ブラウンシュヴァイク=カレンベルクは戦況を憂い、大将として騎士達の士気を上げるため戦場に向かいます。」
「撮影班の方々、ドローンの用意は良いでしょうか。これから私は高さも空間も全て使い戦います。出陣を見逃さない様ご注意願います。」
ティナの指し示す先は、中庭側の窓である。ゆっくり歩いて、窓を開けるティナ。撮影用ドローンも外から3機飛んできた。
「皆さん。姫騎士の戦いを目に焼き付けてください。それでは――出陣いたします。」
この様子をARモニターで確認していたオーケストラの指揮者は、絶妙のタイミングで防衛側の大将が出陣する音楽の演奏を開始した。
――敵も味方も想定外のことが起こった。今聞こえているBGMは、防衛側の大将が出陣したことを告げる音楽だ。城内の階段を防衛している騎士達も、ティナが階段から降りてくるだろうと大将の通り道を作るため、密集陣形にて敵の圧力をその身で防いでいる。
誰しもが、城の正面か裏口のどちらかからティナが現れると思い、攻撃側も防衛側も戦況は苛烈になっていく。しかし、防衛側の大将が戦闘を開始した音楽に変わった。ここにティナは来ていないのにである。
「A1班報告、姫騎士、陣2、単独、乱戦!」
城の入り口側で防衛に回っていたA班のリーダーが、城内で戦闘中の防衛班に状況を告げる。符丁の「陣2」は、禿鷹の塔に布陣した防衛地点方面であることを告げている。それ以降の符丁は言わずもがな、である。
あの姫騎士はどうやってか城の出入り口を使わずに外へ出たのだ。つまり、ここで防衛戦をする必要がなくなった。
攻撃側であるメイヴィスはすぐさま指令を出す。
「シルヴィア、マグダレナ! 反転! ターゲットの補足と迎撃!」
城の階段下を占拠し、後少しで大将に手が届くところまで来ていたが、メイヴィス達はすぐさま来た道を駆けだす。当然、防衛側の騎士達が追撃をして来るのだが、メイヴィスとガーター騎士団の攻撃チーム――1名敗退したが――の3名で殿を務めながら撤退戦を始める。
シルヴィアとマグダレナは先に行かせる。ここまでの道のりで防衛側の騎士を蹴散らしたのだ。来た道からの追撃は京姫が完全に防いでいるため、何の障害もなく戻ることが出来る。
彼女達は此処まで大将戦のために体力を温存していた。しかし、防衛側の大将自ら態々戦場に降りて来てくれたのだ。ならばこそ、目的を果たすために温存した力を今こそ奮うべくひた走る。
しかし、シルヴィアとマグダレナは、コイチャッハ門で足止めを食らうこととなる。
京姫とエデルトルートは、一進一退の攻防を続けていた。京姫の初撃を極稀に発動する超反応で防ぎ、そのまま1ポイントをもぎ取ったエデルトルートは距離と地形を有効に活用し効果的に戦闘を組み立てている。
コイチャッハ門の近辺は複数で戦闘をするには狭く、1対1の戦いを強いられることになる。門を背にして追っ手を防いでいる京姫の獲物は、短槍と言えど2mの長さがあり騎士剣より遥かに長い。しかも彼女の右手側は城壁であるため、大きく弧を描く振り被りなどの技は封じられ、突きと縦方向の斬撃のみに攻撃が絞られるている状態だ。
対するはエデルトルート。彼女が主戦場にするDrapeauは、野外などで試合を行う方が多く、必然的に地形を活用する戦術を練っている。その要領で、京姫の左側に回ったり、城壁に寄ったりと、大身槍を十全に振るえない様に誘導する。
しかも、京姫から見て左手側は、膝程度に一段高くなった段差があり、芝が植えられた通路より広い幅を持つスペースなのだが、そこにはSalzfestungのチームメンバー一人が陣取り、京姫がエデルトルートへ攻撃を行ったタイミングで攻撃を仕掛けてくる。集団戦で鍛え上げた呼吸が揃った連携である。
京姫が段差を乗り越えれば自由に戦えるのだが、さすれば門は無防備となりメイヴィス達の後ろを取られてしまう。集団戦の経験が浅い京姫にとっては厳しい状況であるが、それでもSalzfestungのチームメンバーを1名敗退させているのは見事と言っていいだろう。
「なかなか上手くはゆかないものですね。」
「戦場は得てしてそんなもんさ。状況など幾度と変わる。今の様にな。」
京姫が無心に近い突きを放つもエデルトルートによって穂先に剣先を合わせられ、壁側に巻き流される。
今の様に。その一言はこの状況を表している。先ほど聞こえてきた防衛側の大将が出撃したことを知らせる音楽が流れ、打って出るため駆け付けたシルヴィアとマグダレナを京姫の戦闘で塞いでしまっていることだ。攻守が完全に入れ替わり、エデルトルートが京姫の侵攻を防ぐ側となっている。
更に、京姫にとって芳しくないのは、エデルトルートが何とか凌いでいた初撃が判り辛い攻撃を捌くのに余裕が出始めたことだ。
エデルトルートの特殊技能である超反応は、視覚から入って来た情報を元に反射神経で発動する。完全に無意識下であるため制御出来る代物ではなく、極稀にしか発動しないため当てには出来ないのだが、その威力は絶大だ。昨年の世界選手権大会でヘリヤが放つ神速の突きをこれで防いだ。そして、この特殊技能の最大の特徴。超反応で受けたことがある技は、何となく動きが掴める様になるのだ。その時の視覚情報と身体動作が身体に記憶されたかの様に。それこそがエデルトルートが世界ランキング14位に位置する原動力である。
防御側に回ったエデルトルートは、チームメンバーの騎士と共に攻撃と防御を分散させて京姫を足止めする。コイチャッハ門の後ろには、戻ってきたシルヴィアとマグダレナがヤキモキしている様子を伺える。
殿であった京姫が完全に門の蓋として釘づけられている。門を挟んだ前後では、戦闘領域は1人分ずつしか確保できない。故に、シルヴィア達も後方から支援も出来ず、京姫と共に戦線を引けば、エデルトルートの後ろに控える数名の騎士がなだれ込んでくるだろう。逆に押してもこちらの戦力が削られるだけの消耗戦となる。
京姫は一進一退の攻防をエデルトルートに強いられていたのだ。
――重厚な音から始まる出撃の音楽は次第に軽快なパートに移っていく。まるでティナの動きに合わせるかの如く。実際は、出撃前に合わせる様に含みを持たせて指揮者に話して来たので、それを汲み取って場にあうメロディーに変えてくれる。
この城部分は面白い構造で、城壁に囲まれた内部であるのに、城自体も個別に造られた城壁の上に建っている二重構造なのだ。そして城の正面入り口には2階建ての屋根程の高さを持つ城門があり、狭いながらも城との空間を設ける造りとなっている。城門内部側には壁に沿って兵舎詰所の建物がある。
ティナは、オーケストラと観客のカメラに暇乞いをしてから、禿鷹の塔側の窓から躊躇いもなく飛び降りた。すぐ左脇の眼下に見えるペヒナーゼ(城門の上に張り出した小窓から来訪者を誰何する施設)の屋根に一足着き、そのまま城の城壁の上に飛び降りる。そして、落下の衝撃を前方へ跳ねることで推力に変え、走り出しを加速した。城の南側を目指し、城壁の終わりにあるパン焼き塔の屋根まで駆け上がる。
威力斥候チームであるA班は現在、城の入り口を防衛している。出撃の音楽が聞こえたことで、リーダーは思わず大将が居座る大司教の居室を見上げた。
そこには不審者然とした全身を包み隠す外套を靡かせながら疾駆する大将その人の姿があった。
ティナは、パン焼き塔の屋根から辺りを見下ろす。どこに出現すれば面白くなるのか見極めるためだ。
中庭から地獄門にかけての戦局はかなり有利に展開されている。
特にテレージアと遊撃班の残存計3名で、中庭から禿鷹の塔に合流する勾配のきつい下り坂に陣取り奮戦している。ララ・リーリーが弓による支援で攻撃側の足止めを上手くコントロールしているのだ。
その中をヘリヤはてくてく歩いている。たまに飛んで来る矢などは、剣を一閃しただけで防ぎ、安易に近寄った者も同じように一閃する。
興味を持たれなければ、放っておけば一番被害を出さない騎士である。両軍とも好きにさせているのだ。ある意味、災害扱いとして。
「そっちはNeinですね。戦局が安定してますし、ヘリヤとすぐかち合います。やっぱり向こう側の乱戦が良さ気ですね。」
禿鷹の塔より、塩の倉庫方面に騎士が集中し、乱戦状態となっている。コイチャッハ門辺りからも剣戟の音が聞こえるが、エデルトルートの姿をチラ見したので、彼女が活躍しているのだろう。横取りいくない。
そうすると、乱戦のど真ん中に出現するのが一番面白そうだ。
ティナはパン焼き塔の屋根から城の台座となっている城壁の上にある中庭に飛び降り、城壁ギリギリを駆け抜ける。目指すは一番の激戦地である塩の倉庫前の通路だ。禿鷹の塔からコイチャッハ門にかけては、道のりが上り坂になっており、道の中央から折り紙を開いた様にバンクが付いている。高さも徐々に低くなるが、高さは2階建ての屋根程度はある。
城壁の上を疾駆する怪しい姿に気付いた者もおり、戦闘とは違った騒めきが上がる。
「(Wiederaufnahme.)」
――再開
ティナは、ゾーン状態の励起を再開し、城壁の上から加速をつけて踊り出した。
騎士達の視界に入ったのは、城壁から勢いをつけて飛び降りる人の姿。射出したと言っても良い速度と角度で、それは正しく弾丸であった。
思わず声を上げて、見上げる者も多数でた。
ヴァサッ、と空中で脱ぎ捨てられた外套。
白銀の鎧が青く輝き宙を舞う。
青白い光の尾を引く弾丸は着地と同時に前方に跳躍し、その推力が止まるまで攻撃側の騎士を続け様に葬る。
誰も想定しない登場をした闖入者に、辺りは戦闘の音が止み、聞こえてくるのは大将が戦闘に入った音楽。
脚を止めてヒュッと剣を血振りの様に斬り下ろし、姿勢を正した闖入者は事も無げに言い放つ。
「大将、【姫騎士】フロレンティーナ・フォン・ブラウンシュヴァイク=カレンベルク。ここに推参。」
新たに仕立てた鎧を最も効果的にお披露目するための不審者姿だったのだ。やり過ぎだった感は否めないが。
映像を見ている観客達には出陣から登場シーンに至るまで、かなり好評だった様で歓声が沸き上がっていた。今回のイベントの仕様上、その声はティナや騎士達には聞こえないが。
後にニュースなどで本イベントを取り上げられた際、ハイライトには必ず姫騎士の登場シーンが放映される程、インパクトがあった。
「(ヒーロー着地は選択せずに正解でした。)」
「(やはり、颯爽と現れて敵を斃す方が演出効果大です。)」
嫋やかな笑みを浮かべながら全く別のことを考えているティナ。
毎度のことながら平常運転であった。
うん、3話で収まらんかったわ。戦闘がいつもの細かい書きっぷりじゃないから楽だけど広げた風呂敷が思ったより大きかったのだよ。




