02-010.母のやらかし具合に京姫の方針、花花の意外性です!
夕食後のひと時。色々な話をした。
学園での話題や、当たりだったお店のこと、そして花花が世界選手権へ補欠なれど参加すること。ハルが、花花や京姫の膝の上を行ったり来たりと随分、懐いた様であったりと、和やかに時間が過ぎていった。それぞれの服には、ハルが着けていったひっつきパンダがくっついている。そのハルは遊び疲れたのか頭がカックンカックンと船を漕いでいたため、ヒルドが寝室へ連れて行った。運ばれている姿は、ひっつきパンダそのものであった。
「そう、次は京姫の全国大会が待っているのね。」
「ええ、再来週です。開催はドイツの全国大会予選の日程と同じです。」
「ああ、他の国もその辺りの日程に集中していたな。どこを見るべきか毎年迷わされてるよ。」
「日本見るヨ。京姫が活躍ヨ! だから京姫も早く(世界選手権大会に)来るヨ~。」
「私も行きたいのは山々なんだけどな。私の参加地区はどうもな。」
「あっ! 小乃花が言ってた老害ですか!」
先日、ティナは小乃花と立ち話をした時に、日本の全国大会の現状について話題になった。
小乃花曰く――
「京姫の地区、ふざけた老害がいる。全国大会にずっと優勝してるのに後進のためとか言って世界選手権大会は辞退してる。」
「確かに強いけど、そんなこと言うなら参加するなってカンジ。京姫の地区は老害以外に少なくとも2人は全国区の選手がいる。それを潰して後進のためとかふざけてる。」
「日本で武術界の重鎮だから、誰も文句が言えない。意見して干された娘もいる。」
「自分が一番じゃなきゃ我慢ならない自尊心の塊。矮小のクセに虚栄心ばかり大きい。」
「20年くらい前に1度だけ世界選手権大会に出て初戦敗退してる。」
「【永世女王】がいなくなったから勝てると思って出場したんだろうけど、その考えが卑し過ぎ。」
「負けた時の言い草が、自分の求めるものはここにはなかった、なんて只の負け惜しみ。鼻で笑う。」
珍しく饒舌な小乃花にティナは驚いたのだった。しかも他人に対する文句など言うタイプではないのに。
だからこそ、記憶に鮮明であり、一字一句、間違えることなく再現した。
「そうか…。小乃花はそんなことを言ってたのか。」
「…ティナ。…小乃花のモノマネ上手いヨ。」
神妙な顔で言葉を吐き出した京姫と花花だが、片方の台詞はボケが入っている。
重くなりそうな空気を一気に吹き飛ばした。
「ぷっ、真面目な顔して何を言うかと思えば。」
「フフフ、モノマネは得意なんですよ? その内、他もご披露いたしましょう。」
一頻り笑い、場が落ち着いたところでティナが聞く。
「で、京姫。その老害の実力は如何程ですか?」
「…老害って。うん、そうだな。剣術を良く知っていると言えばいいか。だから技への対応が上手い。」
「ふーん。巧いではなく、上手いのですね。なるほど。」
つまるところ、技術はあるだろうが、それ以上に剣術の技を型として知っており、その対応方法を一通り修めているのだろう。日本の剣術に特化し、この型にはこの型で対応と言うようにパターン化しているものと思われる。故に、イレギュラーや自分が知らない異国の剣術には弱いのだろうと想像できる。
「小乃花が言っていましたが、ヘリヤと戦っていた時の京姫であれば、問題なく勝てるだろうと。今までは心が追い付いてなかっただけだと。」
「小乃花はそんなことを言ってたのか。しかし、あれは意図して至れるものではないからなぁ。」
「そうかネ? あれは、出来ないことチガウヨ。もう京姫にとって出来ることヨ。」
花花は、一度でも出来たことは再び出来るのは当たり前だ、と言っている。
偶然出来た、などの言い回しはある。しかし、それを行う自力があるからこそ出来るものである。この場合、偶然と言う言葉は「出来た」に掛かるのではなく、「そこに至る方法を見つけた」ことに掛かるのである。
「ちょっと、いいかしら。その老害、多分知ってるわ。」
娘達の会話にずっと思案顔で聞いていた母ルーンは、話が纏まりそうなところでぶっ込んでくる。この辺りのやり口がティナと良く似ている。
「はい? おかあさま?」
「什么? 老賊は有名人だたカ?」
「小母様は、あの方をご存知なのですか?」
「今は70歳前後かしら? 日本人で左目の目元に切り傷があって少し頬がこけた、目が鋭いけど、どこか人を見下した視線の男性。得物は日本刀。出で立ちは紺色の上下でハカマ?だったかしら。脚の動きが隠れるズボンは。」
「たぶん、仰る方と同一人物だと思います。どこでご存知になったのですか? 流派の運営に影響が出るとかで、海外で表立つことを拒絶している方なのですが…。」
「20年前の世界選手権大会の初戦でしょ? あのいけ好かないオヤジ。私が一蹴したわ。」
「え? 一蹴? え? え? 小母様?」
「什么? 阿姨が? そうか世界選手権出てたのネ。」
「へー、おかあさまが倒したのですか。いけ好かないと言うことは…何かありましたね?」
絶対、母は何かやらかしているんだろうと娘は確信する。母娘なので自分に当てはめれば良く判ることだ。
そして、花花は、ルーンの身体運用から只者ではないと感じていた疑問が解決してスッキリ顔になっている。
「むだに居丈高で私を小娘扱い。自信があるのか大きいことばかり言って他人を貶めることをすぐ口に出す。それも音声が記録されないところに限って。」
「あまりにお粗末な人物だったから試合開始直後、一方的に攻撃して、剣を叩き折って、誰が見ても実力不足と判る様に捻じ伏せてやったわ。本人はそれすら気付いてなかったけど。」
「負けた時の台詞が、さっき言ってた、自分の求めるものが~、って。くくっ、記録の残る台詞は如何にもフフッ、威厳ありそうに言うから笑っちゃったわ。」
当時を思い出し、吹き出しながら話す母ルーン。まだまだ話は続く様だ。
「その後が酷いのよ。音声が記録されていないところで、ヤツはなんていったと思う?」
「この、卑怯者!ワシの流派では~って。ウフフフッ、大笑いでしょ。勘違いもいいところ。戦いを分かってない上に手も足も出ず完膚無きまでに負けてるのに。」
あははっと、とうとう声を出して笑いだした。
「ヒーヒー、その上、クフフ、お前如き、し、し、真剣で戦ったらまけ、負けないって、プッククク。」
あまりにも笑い過ぎて呼吸が追い付かなくなってしまった。スゥー、ハァーと深呼吸で息を整えてから続きを語りだした。
「それでね、私が、じゃあ、真剣で殺し合いましょう。公平な立会人は知人の伝手で用意できますから日取りを決めましょうって言ったのよ。」
「そしたらね。予想外の返答だったみたいで、目を見開いて動揺してたわ。こちらが若いからって舐めて脅すつもりだったんでしょうね。」
「でね、他流とは真剣で戦ったことは何度かありますから明日には場所を抑えられますよ、って言ったら。ププッ、目が泳いじゃってね。口をパクパクしだしたのよ。」
「何も答えないから、さぁ、早く回答を!って迫ってね。殺気を出したら腰抜かしちゃって。一介の武人のクセにアレはないわー。」
「だから言ってやったのよ。あなたはChevalerieを全く理解していない、ここは死のないだけで戦場だってね。」
「もの凄く早いハイハイで逃げてったわよ。いい歳のオヤジがヒィーとか言いながらね。現実でそんな悲鳴上げるなんて、もうおかしくって。」
そう言って、再び大笑いする母。予想以上のやらかし具合にゲンナリする娘。一般人に殺気はやりすぎだと。そこかよ!
以前にも記載したが、Chevalerieと言う競技は異種格闘技に等しい。世界で戦うには、それを理解しない限り勝つことは出来ないだろう。
これも以前に記載したが、アバター向けにティナの格闘技を公開する際、一族の許可を取ったことを覚えておられるであろうか。
技から一族に紐付けられないだろうとの理由があったことを。
FinsternisElysium MassakerKünste フィンスターニスエリシゥム鏖殺術は、1000年以上昔から現役の確殺術であり、今なお母方の一族、ケーニヒスヴァルト家は時代の暗部を担っている。そのため、素性が明らかになる事態は避けるべきものである。
しかし、特殊なケースが発生した。名誉公爵家に嫁いだ母ルーンとその娘ティナである。そもそも政界、財界に顔が効き、過去数百年に渡り付き合いがある貴族に一族の者が迎合されたのはむしろ僥倖でもある。彼女達が表の顔として輝けば輝くほど、ケーニヒスヴァルト家の裏の顔は闇に沈み表に出ることはないのだ。双方がより密にWin-Winの関係となったのだ。
その様な一族の出身故に、母ルーンは、Chevalerie競技を死のない戦場と認識しているのである。
思った以上の話が飛び出し、唖然とする花花と京姫。老賊はホントにゲスいヨ~なんで今も生かされてるのか不思議ヨ~、と驚くポイントが違う花花であるが、彼女の一族もまた暗部を持っているため、話の内容自体は平然と受け止めているのだ。しかも、役に立たない重鎮は人知れず消えていくことを仄めかせている。
先ほどの笑いが残った顔でルーンは京姫を見やり、既に決まっていることを確認するかの如く話し出す。
「取り敢えず、京姫は、その老害を斃しなさい。」
「へ? 私? 私が? 加納大老を?」
「ああ、あのオヤジ、そんな名前だったのね。覚えてもいなかったわ。」
老害の名は、加納と言うらしい。話の内容から性格を紐解けば、周りに大老と呼ぶように強いているのだろう。成る程、名を覚える価値がないと思わせる人物の様だ。しかも、大衆酒場に入ってメニューを決める前に場繋ぎで頼むビールの様に軽々しくポイしなさいとのオーダーが入った。
「あなた、ヘリヤとの試合を見る限り地力は既にあの当時のオヤジ、いえ、老害を越えているわ。まだ経験が足りないから上手く引き出せていないだけ。だから、ここに滞在してる間は、それを引き出し易くなるようにきっかけをあげるわ。」
「…よろしいのですか? 私は別の流派の人間ですよ? それに私が何かを掴めれば良いのですが全くの無駄になるかも知れません。」
「流派なんて関係ないわ。娘の友人ですもの。家族みたいなものよ? それにね。あなたは一歩でもサマディに踏み込んだのよ? 自信ではなく、自覚を持ちなさい。」
「…はい。ありがとうございます。よろしくお願いします。」
京姫は、ルーンが会ってから半日も経ってないのに家族として扱ってくれていることに深く痛み入り、少し涙ぐみながら笑顔で感謝を述べる。
ルーンは微笑みながら頷きで答えを返し、夫であるヴィルに顔をやりお願いをする。
「と、言うわけよ、ヴィル。お願いできるかしら?」
「ああ、明日にでもロートリンゲン卿に話を通してすぐに動くよ。私としても折角、我が社がスポンサーとなる騎士にちょっかいなぞ出されたら腸が煮えくり返るしな。」
京姫が会話についていけずにキョトンとしている。
ティナは当然だろうとの顔をしており、花花も、動き早いヨ、などと何が起こるのか判っているかの如く呟いている。
「あの…、何のお話でしょうか?」
「ん? ああ、件の老人のことだよ。今の話だけでも、京姫が勝った後、必ず何かをしでかす御仁だと確信してね。その予防策を張るんだよ。」
「私のために…ですか? そんな、申し訳ないことは…。」
「いや、君は我が社とも契約をしてくれるし、何より娘の友人であるんだ。もう一族の関係者と同じだよ。気にせず相手を叩きのめしてくれたまえ。その後は我々の仕事だからね。」
爽やかに微笑む父ヴィルは、大半の人々から好印象を得るであろう顔をした。だが、解かる者にとってその笑顔は恐怖以外の何者でもない。
大貴族の当主、そしてコンツェルン総帥の肩書は伊達ではない。然るべき時に然るべき事が行えるのである。そこには損得も善悪も関係なく全てが等しく在る。
加納大老であったか、彼の御仁は、京姫との戦いが事実上の引退試合になると決まった瞬間であった。場合によっては、二度と表舞台に現れないどころか存在自体忘れ去られることになるだろう。
「京姫、あなたは自分を高めることだけを考えてください。それこそが全てに繋がるんですよ?」
「そうヨ。やれるコトやるのが一番ヨ。積み重ねヨ。」
「ああ、そうだな。せっかく目指す場所は見えて来たんだ。そこに辿り着くことに注力するよ。」
三人娘はお互いの顔をみて笑顔で頷く。それぞれの辿り着く場所は違えども、そこを目指しているのはみな一緒だ。その場所が、戦いでしか交わることがないとしても、その時には自分の積み重ねたもの全てを出せる様に、と。
などと格闘系青春もの的な雰囲気が漂ってきたが、今回それをぶち壊したのは花花であった。
「うーん、だけど気になるヨ。」
「どうしました? 花花。」
「武術の歩法なのに叔叔、武術家チガウヨ。うーん。…啊、ソウカ! 伝えるタメの覚えるの武術ヨ!」
ちょっと言葉にたどたどしさがで出たが意味は伝わった。その意味には、ティナだけでなく、ルーンもヴィルも驚きを隠せなかった。
その驚きからティナは純粋に疑問を口にした。
「なぜ、そう思うんですか?」
「ん? ティナがたまにしてる歩法ヨ? ティナは3つの武術持ってるヨ。そのひとつヨ。」
ティナは唖然とした。確かに、普段から鍛錬のため歩法を変えていることはあったが、誰にも気付かれていない筈であった。しかも正確に数まで言い当てられた。
「…その通りです。父方の武術の歩法です。父は、武術を次の世代へ伝えるために技を継いでいます。花花、いつから私が3つの武術を持ってることを知ってたんですか?」
「入学してから1週間くらいヨ? 仲良くなる前、歩法使い分ける器用な娘と思てたヨ。」
「初っ端からバレバレじゃないですか! まさか、みんなにバレてたとか!」
だとすると、この2年間がものすごく滑稽だったろう。だが、実際にバレているとすれば、ティナの代名詞と言える「王道派騎士スタイル」などとは呼ばれていない。
その証拠は、京姫からの一言だった
「いや、私は判らなかったぞ? 多分、殆どが気付いてないと思う。」
「ふぅ、そうですか。一安心です。しかし、花花は良く判りましたね。」
「そうね。驚きよね。ティナの歩法なんて、達人が見ても判らないレベルに仕上げているのに。」
今なお、驚きの目で見る母娘。涼しい顔で、当たり前のことを言っただけという雰囲気を持つ花花。
「ワタシの流派、相手の身体、動き読めないと、死ぬヨ。」
花花は、キュッ親指と人差し指を捻るリアクションを付け、冗談の様に軽く言っているが、言葉は妙に実感が籠っていた。
彼女本来の姿は纏絲から発する勁を得意とする武闘家である。彼女の勁は尋常ならざる威力であることを鑑みると、暗部などから強力な技を伝授されているのだろう。人間を破壊するレベルの技を。
その鍛錬が如何に厳しいものであるのか、花花の台詞に滲み出たのだった。
「なるほどね、花花、あなたは実戦の技を鍛えて来たのね。」
暗部である一族の出自を持つルーンは、彼女の修めた武術がどの様なものであるのか察することが出来た。そして、そのレベルの高さも。
「そうヨ。ホンとで戦うの技は美しいヨ。」
花花も既に高みに届いている騎士である。
ただ、彼女の得意とする技全てがChevalerie競技には向いておらず、流派が持つ技のひとつとして覚えている剣などの獲物を持って戦う。地力の高さだけでトップ勢に食い込んではいるが、体術以外の経験はまだ浅い。言い換えれば、競技として戦う武術の経験が少ないのだ。故に、競技へ特化した先達の技に対応が今まで追い付いていなかった。
「だから、京姫が阿姨と鍛錬してる時間、ティナはワタシと散手やるヨ。」
「いえ、どこからその『だから』に何故繋がったんでしょう。」
「だって、ティナの体術、ホンとで戦うの技ヨ? 暫く散手足りてなかたからヨイ鍛錬なるヨ。」
「森の民の格闘術と言っていたな。やはり実戦形式の技だったのか…。」
ティナは、もの凄く渋い顔をしている。
「…ティナ。あなた、二人に私達の流派を教えていないのかしら? 知っているものだとばかり思ってたわ。言い辛いなら私から言う?」
「いいえ、それは私の口から話すことが本筋です。はぁ~、出来れば内緒にしておきたかったのですが…。」
「そういう訳にもいかないでしょ? 9月にはあの娘が入学して来るんだから。」
「うっ、そうでした。どの道バレることになるんですよね。」
バツが悪そうに眉間に皴を寄せたティナは、花花と京姫に身体ごと向き直る。
「花花、京姫。醜聞がとても宜しくないので本当は流派名を隠しておきたかったのですが、お教えします。」
「私の流派は、『FinsternisElysium MassakerKünste』と言います。」
「フィンスターニスエリシゥム鏖殺術は、格闘を軸にした確殺術です。」
姫騎士が殺人技なんて外聞悪すぎじゃないですか、と力を込めた拳を振り上げながら話すティナ。
「その流派、トラ倒せるカ?」
「へ? トラですか? 格闘鎧装備ならいけると思いますが…。」
「なら大丈夫ヨ。やっぱり散手の相手に十分ヨ!」
「物凄く不穏な台詞が聞こえるんだが。花花、もしかして虎と戦ったことがあるのか?」
「あるヨ。一撃じゃ無理だたヨ。二撃必要ヨ。」
――虎穴に入らずんば虎子を得ず。そんな諺を吹き飛ばす台詞が平然と花花から放たれた。
衝撃過ぎる事実にみな顔が引きつり、場の空気が一気に凍える。
「…虎殺しって、想像の上を行ったわね。」
「もしかして、私は遺言を残した方が良いのでしょうか…。」
「平気、平気! さすがに友達に勁は使わないヨ! 使っても死なないヤツヨ!」
「もはや、安心なのか不安なのか判らん台詞だな…。」
グッタリとなるティナ。
やれやれ、と思わず言葉に出た京姫。
花花一人だけ、良い組手の相手が見つかり満足気な顔をしている。
その髪には、ハルがくっ付けた、ひっつきパンダが揺れるのだった。
本文中の「自力」は誤字ではないです。
自分の力で成すと言う意味で書いてるので「地力」じゃないんです。
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