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シュヴァルリ ―姫騎士物語―  作者: けろぬら
第2章 Servus! 姫騎士と、ゆかいな仲間たちです

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02-006.ミュンヘンで揃うのはモノだけじゃないんです!

2156年4月3日 土曜日

 薄曇りの午前中、気温は10度を下回り、まだまだ寒さが続くミュンヘンの市場であるヴィクトリアンマルクトにティナは来ていた。

 翌日、実家へ帰省する予定であるが、家族へのお土産を購入しに来たのである。学園のあるローゼンハイムで土産物にできる様な菓子類などは、ザルツブルクでも手に入る。むしろ、ザルツブルクの銘菓をライセンス生産しているところもある。

 ならば、いっそのことミュンヘンまで足を延ばそうと思い立った訳である。ローゼンハイムから電車でミュンヘン=オスト駅へ。路面電車(Trambahn)でフラウエンシュトラーセ(通り)まで来れば、ヴィクトリアンマルクトは目と鼻の先だ。


「1時間半ですか。意外と時間がかかりました。急行に乗り遅れたのが失敗です。」


 ローゼンハイム駅の側に新たな喫茶店が開店していたので興味本位に立ち寄った。ハーブティーが充実しておりピーチネトルのリーフがとても良い香りと上品な味わいだったため、ついつい時間を忘れて居座ってしまった。自業自得である。


「さすがに休日だと混みますね。取り敢えず物色いたしましょうか。」


 そう呟き、何を購入するのがベストであるか考えながら市場を歩き回り、目に留まった物を吟味し、土産物を買い揃えていく。


 大人向けには、ミュンヘン最古の醸造所で造られた人気の高いビール、アウグスティーナー・ブロイ・エーデルシュトッフの24本入りケースを2ケース。翌日到着便で実家へ配送をお願いした。

 自然素材で出来た、なかなかに可愛らしい動物の人形が目に留まったので幾つか買っておいた。

 オースタン(イースター)の時期であるため、ウサギ型と卵型のチョコレートなどは至る所で見かける。良さげなものを選んで購入する。

 時折、ティナに気付いた通行人からサインを求められたり、一緒に写真を撮ったりと、プライベートな買い物途中だろうとファンサービスには余念がない。


「あ、これ面白い。サイズが本物の卵に合わせてあるんですね。」


 ティナが見つけたのは卵型の玩具である。動物に変形するギミックを持っていた。オースタン(イースター)に合わせてジョークアイテムとして店頭に出したのだろう。幼い弟が興味を持ちそうであり、洒落でOsterei(イースターエッグ)に紛れ込ませるのに丁度良い。4つ程購入した。

 そして、ヴィクトリアンマルクトから、ネオゴシック建築の新市庁舎を横目で見ながらマリエンプラッツ(広場)を越え、マッファイシュトラーセ(通り)にある老舗洋菓子店クロイツカムへ。ここのバウムクーヘンはドイツで3本の指に入る銘菓なので外せない。

 ドイツではバウムクーヘンは国立菓子協会によって伝統的な製法で作られたもののみが本物として認められる。デパ地下などで買えるものではないのだ。


 小一時間もあれば、買い物が終わってしまった。まだ昼には早く、このまま帰るのも何となく勿体ない気がして、近場の散策にあたる。


 まずは、クロイツカムからすぐのレジデンツへ向かう。

 バイエルン王国時代の王家であるヴィッテルスバッハ家の宮殿であるミュンヘン・レジデンツは、建立に400年をかけ、様々な時代の文化が色よく出ている荘厳な宮殿と付随する建築物でかなり広い。現在は、博物館、宝物庫、諸聖人宮廷教会、キュビリエ劇場と入場は有料であるが、見どころも多い。

 中に入るとロココ、バロック、ルネサンスと時代を渡った荘厳な造りになっており、ルネサンス様式のアーチ型丸天井のフレスコ画一枚一枚を見て歩くだけで1日が終わってしまう。

 ティナは数年ぶりに、宮殿を観覧した。弟が生まれる以前であるから6年は経っている。当時、会社設立で多忙だった父が、たまの家族サービスで連れて来てくれたことを思い出す。あの時分、この目で見た芸術品と呼べる回廊を純粋に美しいと感じたことが、同じ景色を見たことで当時の気持ち諸共記憶が思い起こされる。だが、今の自分と感じ方が大分違うことに、成長したのか偏屈になったのか知れないが、時の流れを感じるものであった。


「今なら、この回廊で姫騎士姿が似合いますね。」


 …ホントに随分、時の流れを感じるものだ。ティナの中で何の優先順位が高くなったのかが良く判る。


 一頻(ひとしき)り堪能してから表に出ると、空には雲が過ぎ去り晴れ間が広がっていた。宮殿の裏手にある付属庭園である、ホフガルテン。規則正しく整備された遊歩道と、春が近づいていることを示すように芝生が目に蒼く映る。そこを歩くには良い陽気となった。

 まだ薄ら寒い時期でありながら、のんびりとベンチや芝生で寛ぐ地元民の他に、観光客も多く歩いており、時折、写真を撮ったりする様が風景の一部であるように有り触れた日常と化している。カメラやバックパックなどを携えて、一目で観光客と判る人々と比べれば、ティナは土産物を購入した紙袋を手に、如何にも買い物帰りの散歩であると言った風体(ふうてい)である。事実、その通りなのだが。


 ルネサンス様式の庭園には中心に小さな史跡、ダイアナ寺院がある。ルネサンス時代に建立された12面を持つ小さな望楼(ガゼボ)であり、8つのアーチが庭園に交差する道の中心になる様それぞれ繋がっている。8方向に入り口がある屋根の付いた円形状の東屋と言えば判り易いだろうか。

 そこでは、晴れた日などにダンサーやミュージシャンなどがストリートパフォーマンスを行うこともあり、そんな時には大層賑やかになる。今日は、望楼(ガゼボ)の外側で、ブルースハープの伴奏を共に2体の操り人形が踊っていた。軽快な曲とコミカルな動きに観客の笑顔を誘う。


 遠目から演奏家と人形(くり)の息があった演目をぼんやり眺めるティナ。

 ブルースハープを奏でる黒髪の若い男性はアジア圏出身と思われるが、ティナの記憶に引っかかる。どこかで見たことがある様な、と。

 そして、器用に2体の人形を操る若い女性。アンゴラだろうか、起毛した白のセーターと、その上に羽織っている上品なデザインのジャケットは前ボタンを一つ止めることで、腰が締められるシルエットとなっている。そのため、大きな胸が一際強調されており、零れ落ちそうである。下はマイクロミニ丈のタータンチェック柄プリーツスカートだが、人形を操るために身体を屈んだり伸ばしたりの動作に合わせて、スカートの裾から紫色の下着がチラチラと顔を覗かせる。目深にかぶったキャスケットとサングラスで顔は判断し辛い。内側へカールし(ドリルっ)た真っ黄色に染めた長髪、張りのあるグラマラスな身体つきは良く見覚えがある。

 そのことに気付き、一瞬目が点になるが、目立たない様に立ち去ることを選択した。


「デートの邪魔をするほど野暮ではありません。今度は上手くいくと良いですね、テレージア。」


 ぼそりとティナは呟く。テレージアは、学園内では全くもてない。天然さと素直さ、それに猪突猛進さが相乗効果を発揮し、お笑い系キャラが前面に出てしまう残念美人にカテゴライズされる。見た目もスタイルも良いのだが、お付き合いとなると敬遠されがちだ。本人は、異性とのお付き合いを切に望んでいたと言うのに。


 ふと、ティナは歩みを止めて振り返る。


「思い出しました。あの殿方、交流試合に参加されていた騎士(シュヴァリエ)です。今日は、わざわざイングランドから参られたのでしょうか?」

「イングランドではオースタン(イースター)休暇は、聖金曜日からオースタン(イースター)の月曜日まで4日間の筈でしたが…。 明日、帰られるのでしょうか。」


 マクシミリアン国際騎士育成学園に限らず、公式下部大会の認定がされている騎士学校は、それぞれ交流がある。交流会などが盛んに行われ、学校間で交流学生を送り合い、文化交流を果たす目的を持っている。

 昨年12月の中頃に、イングランドのレスターシャー州にあるエゼルバルド騎士学院と学校間交流が行われ、1週間ほどイングランドの学院生を20名程受け入れていた。

 そして、学園で交流試合が行われた際に参加していた騎士(シュヴァリエ)の一人だった。京姫(みやこ)と同じ日本の剣術使いだった記憶が蘇った。随分、長い刀を使う人だなぁ、と零したところ、京姫(みやこ)から、あれは大太刀だと教わった。


「なるほど。あの時に()の方と仲良くなったんでしょうか。」

「おやおや~? つまりテレージアは今日、お泊りですか? お泊りですね? お盛んですわね~!」


 ティナは、擬音にすればイヒヒッと書き出されるような厭らしい笑顔を一瞬浮かべ、その場を離れた。

 今日のことを言いふらすつもりはないが、良いネタが手に入ったので休暇明けにでもテレージアを弄り倒そうと思いながら。



「少し遅くなりましたが、お昼を摂ってから帰りましょう。」


 ミュンヘン=オスト駅の近辺で、行ってみたかったイスラエル料理店を見つけたが土曜が定休日だった。仕方なく近場を徘徊したところ、少し戻ったところにアイリッシュパブが昼の営業をしていたので入ってみた。先ほどのテレージア達を思い出し、UK繋がりである。

 グレイビーソースがかかったシェパーズパイと、デザートにこれまたグレイビーソースをかけたヨークシャープティングを頂く。料理のお供にはハチミツを入れたホットミルク。

 意外なことに、シェパーズパイはラム肉が口当たり良く仕上げられており、尚且つパイ生地がちゃんとマッシュポテトで作られた古来のレシピだった。グレイビーソースも本来のレシピである肉汁から作られており、この店お手製とのこと。

 料理の感想は、素朴な家庭料理とティナは評した。取り敢えず、グレイビーソースが主役の印象。


 イギリスの料理は不味いとよく言われるが、店による当たり外れの差が大きいこと、味覚に合う合わないの差が激しいことから出た意見に思える。基本、料理はジャガイモ、グレイビーソース、ローストした肉類の組み合わせを最も多く目にすると思われる。

 特に、ジャガイモは姿形を変え、色んな料理に捩じり込まれているので糖質の摂取を気にする方は気を付けた方が良いかもしれない。 

 どちらかと言えば日本人の味覚に合うと思われる料理が多い。そして、素朴な作りの料理が多い。パンにチーズを乗せて焼くだけとか…。こんなところが色々言われる原因なのかも。


 店のオーナーとウェイターがChevalerie(シュヴァルリ)のファンだったため、サインやら写真やらを求められる。先日リリースされた、ティナの姫騎士Kampf(格闘)panzerung(装甲)ヴァージョンも購入してくれたとのこと。

 そして、サイン帳の代わりにシースループリンセスドレス姿のティナが撮影されたAbendröte(アーベントレーテ)のA2版ポスターが出て来たことには驚いた。白が基調のポスターなのでサービスでキスマークを1つ付けておく。

 いたく喜んでくれて、写真やポスターを店で飾るそうだ。おかげで飲食代は無料となったが。

 店の面々や、来店したお客を含めChevalerie(シュヴァルリ)の話で盛り上がり、自分のアバターはまだまだ別バージョンが続きますよ、その内ビックリするのも出ますよと、しっかり宣伝を混ぜておいた。

 こう言った一般人との触れ合いや地道な宣伝を積み重ねてファンを獲得して来た娘である。ファンサービスには一切手を抜かない。ファンは既に自分を成すものの一部であるからだ。

 話が弾み少し長めに滞在することとなったが、皆から笑顔で送られ、気分良く店を出た。お土産にグレイビーソースの入った瓶詰を頂いて。


「おっと、次の急行に間に合いそうです。」


 そう呟き、駅へ向けて早足になるのだった。



まだまだ続くよー姑息なお願い。


「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」とかの欄にある「☆☆☆☆☆」


星がいっぱいでキレイだな~ってくらい★が揃うとウレシイのです。

あとブックマークとか。

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