00-006.ヘリヤとエイルと、坩堝鋼
エッセイっぽいナニか
ちと短い
たまに差し込みで似た様な小話的なナニかが生える。
@ヘリヤとエイルが持つヴァイキング型剣について
【01-012話から抜粋】
白銀の剣身が日を浴びて光るヴァイキング型剣。銘はミスティルテイン。剣身は80cm弱、柄は12cm程の片手両刃剣である。剣幅は鍔元4cm、剣先側3cmで、そこから剣先に10cmかけて緩やかな三角を形どる。鍔側の剣身は厚く取ってあり、剣身に刻みのルーンが彫られている。柄頭は華美ではないが幾何学模様の装飾があり、大きめのピラミッド型で剣の重心を調整している。重さは約1.1kg程。最大の特徴は、ティナの剣同様マーブルの様な波紋が浮いている。
【01-021話から抜粋】
銘はグラム。マーブルの波紋が入った緋色に輝くヴァイキング型片手剣ではあるが両手剣として扱える様に造られている。柄は20cm程あり、剣身は100cmを超える両刃。剣幅は鍔元5cm、剣先側4cmで、剣先から15cmかけて緩やかな三角を形どる。鍔側の剣身は厚く、刻みのルーンが彫られており、その文字を挟むように30cm程の樋(溝)が切ってある。重さも1.5kgと両手剣と同様。
文中の『マーブル模様』であるが、坩堝鋼独自のものである。現在の鉄鋼製造では意図しない限り発生しない。
中世時代の一般的な鉄は炭素含有量と不純物が多い鉄であり、遡行性(戻る力)が少なく硬いが脆い。
一般的な騎士の武器には、その鉄を鋳造や鍛造で用いるが、製鉄の技術が上がらない内は良く折れていた。
そして、ヴァイキング(行為で、種族名ではない)で知られるノルド人の格が高い戦士などは、坩堝鋼を使った極めて炭素含有量が低い鋼鉄に準拠した剣を持っていたとされる。当時の鉄と比べて3倍程の強度と柔軟さを有していたとのことだ。
故に高価で家宝として代々伝えており、「剣崇拝」の思想もあった。
ちなみに、ノルド人の戦いで使われる武器は戦斧や槍であって、剣は殆どない。戦斧は造りも簡単で厚く作れるため頑強で使い易い。まともに使える剣は数少なくしか出回っていないため、どちらを使うかは明白だろう。
現在発掘されたヴァイキング時代の剣で坩堝鋼が使用されている刀剣にはラテン語で『+VLFBERH+T』の意匠が刻まれており、坩堝鋼独特の波紋が浮かんでいる。
坩堝鋼とは、12世紀ころまで中央アジアで製造されていた鋼を製造する手法である。紀元前にはインドで製造されていたと言われ、後に中東やアジア圏でも製造跡が発見されている。
坩堝の中に鉄鉱石、木炭、木の葉などの燃焼物を入れ、炉にくべて融解させ鉄を取り出すのだが、炭素含有量が極めて低く、強固で遡行性があり、最大の特徴は鉄が溶けて冷え固まった時にできる美しい波紋のような模様が浮かび上がる。
鉄鉱石に含まれる不純物や燃焼物により生成された鋼の良し悪しは変化したようだ。
つまり、坩堝鋼とは、鍛造が出来る質の良い鋼である。品質においては、18世紀イギリスで転炉などで製鉄されるようになった鋼鉄に準拠するレベルであったと言う。
北欧には、坩堝鋼に適した鉄鉱石が産出されないことから、ノルド人はヴァイキングでアジア圏に貿易した際、インゴットを持ち帰り加工依頼したものと思われる。
加工はドイツで行っていたらしく、『+VLFBERH+T』は個人の修道士、もしくはグループの意匠だったのではないか、と調査が進められている。意匠に『+VLFBERHT+』と記されているものは品質が悪い鉄で作った模造品とのこと。いつの世にも偽物は後を絶たないものである。
@みんな大好きダマスカス鋼
インドの坩堝鋼はウーツ鋼とよばれ、他の坩堝鋼と少し違う。
インド産の鉄鉱石には、バナジウムと希土類金属が僅かに含まれ、燃焼物に木炭等、炭の記述は見つかっていない。
何らかの燃焼物を使用しているのだが、その組み合わせにより、組成した鉄は意図せずカーボンナノチューブが形成されていたようだ。
良く斬れる、刃毀れしない、錆びないなどの説話はここからくるのだろう。
そして、ダマスカス鋼とは、ウーツ鋼をシリアのダマスカスで刀剣に鍛造したことからの別名である。(現在は、積層構造の鍛造による再現品も含む)
ウーツ鋼が世に表れたのは、紀元前1500年前とも紀元前600年前とも言われ、紀元前4世紀ころには、中東から東ヨーロッパでも大きな名声を得ていた。アレキサンダー大王にウーツ鋼15kgを送ったと記述が残っているくらいだ。
また、十字軍遠征ではダマスカス剣は比類なき名剣として馳せており、騎士たちはこれを持つことを誇りとしていた。銃が広まるにつれ、廃れていったが…。
@錆びない鉄、それはステンレス鋼?
もう一つ、坩堝鋼で面白い話がある。中東で10世紀以前の坩堝鋼製鉄遺跡で発見された中に、抽出された鉄に1%のクロムが含まれた合金があった。
意図的にクロムを含有したらしいが、ステンレス鋼は鉄にクロムを10.5~13%程混ぜたもの。
たった1%で腐食耐性は得られないが、もしかすると錆びない鉄造りの研究だったのかもしれない。インドの坩堝鋼の再現が目的だったのではなかろうか。
既に失われた技術であるため仮説の域をでないが、それもロマンの一つであろう。
実際、一度は廃れた西洋古武術が復古されることもあったり、誰かが追い続ける限りは忘れ去られることはないだろう。
そして、地道な研究で復古されることを願う。
姑息なお願い継続中。
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星がいっぱいでキレイだな~ってくらい★が揃うとウレシイのです。
なんて後書いたら★くれた人がいたような。感謝!
お願いしてみるもんだなぁ。




