表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュヴァルリ ―姫騎士物語―  作者: けろぬら
第1章 Grüß Gott! 私、姫騎士(仮免)です

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/156

【改】01-024. Ankunftsort≒姫騎士×戦乙女 ~ティナその2~

----------------------------------------

20260316 改稿

 決勝戦第一試合は、ティナとヘリヤ共に一本取得で同点のスコアとなった。

 ヘリヤが一本を奪われた。それも一日で二度目ともなれば、ヘリヤが完成の域に辿り着いた二年半より更に遡らなければ記録にない。だからこそ、(いま)だに観客席は騒がしさに溢れていた。


 インターバルが終わり、競技コントローラーを挟んだ東西の待機線に横並びしているティナとヘリヤ。

 審判からの合図を待っているところだ。


 今まで屋内大スタジアムに三〇基設置されているインフォメーションスクリーンでは、第一試合のリプレイ動画が流れたり、学園生アナウンサーや特別に呼ばれた騎士科トップレベルの学園生が技術的な解説を付けた映像などで会場を賑やかしていた。

 その映像が、現在の試合コート画面に切り替わる。

 第二試合が開始される前準備である。それを見た観客の騒ぎも収まり、試合が開始されるまで固唾を呑んで待っている。

 試合会場は静寂に包まれた。そこへ解説者のアナウンスが響く。


『会場の皆さん、放送をご覧になっている皆さん、お待ちかねの第二試合です!』


 第一試合でまさかヘリヤが同点と言えど一本を獲られる様子を目の当たりにしたためか、学園生アナウンサーも興奮交じりで声が若干上ずっているのが判る。


『第一試合では、フロレンティーナ選手の独特な二刀を扱う攻撃に、防戦一方となったヘリヤ選手! 最後は相討ちによる双方一本となる好試合でした! これから始まる試合はどのような展開となるのか想像もつきません! 姫騎士と戦乙女の戦い、これより開始です!』


 そのアナウンスを引き継ぎ、審判が合図をだす。


『双方、開始線へ』


 ティナとヘリヤは試合コート中央で向かい合う。

 姫騎士と戦乙女。

 お互いが騎士(シュヴァリエ)として成すものが全く違う。

 だが、見ている先が違っても騎士(シュヴァリエ)である限りどこかで繋がっている。

 たとえ一時(ひととき)しか交わることがなかろうとも。

 それが騎士(シュヴァリエ)である。



 本当に楽し気な口調でヘリヤが先に口を開いた。


「あはは、一回戦は全く良いところなかったよ。ティナと()ったエデルトルートの気持ちが良くわかったよ」


 それはティナに戦局を全てデザインされていたことを指している。


「なにを仰いますやら。こちらの攻撃をしっかりいなしていたじゃありませんか」


 予定通りにヘリヤを動かしたにも関わらず、肝心なところで上回れた意味合いだ。


「また良く言うよ。全力のあたしから一本獲ってくなんて自慢じゃないが容易く出来ないことだぞ?」


 今大会、初めて全力で戦ったヘリヤ相手に、過去ヘリヤからポイントを奪えていた高位の騎士(シュヴァリエ)すら完封された。

 その中で下級生組である花花(ファファ)京姫(みやこ)がポイントを奪っていったことはメディアを大いに騒がせている。そして、今現在、ティナが騒ぎに油を注いでいる最中(さいちゅう)だ。


「あれはオマケで得たようなものです。次は()()()()いただきます」


 駆け込みで奪った一本なぞ本意ではなかったと。ティナはこの試合で必ず一本獲ると断言した。


「ふふふ、そうか。楽しみだ!」


 言葉が終わる前に、ヘリヤの気配が暴威と呼べる大瀑布となり、辺りへ溢れ出した。

 だがティナは平常運転で、「あれは言葉通り楽しみにしてます。流れで言わなきゃよかったです。やはり『口は(わざわい)の元』です」などとボソボソ内心で呟いてる。ヘリヤの気配を意に介さず、全く別の内容で後悔している始末。(しか)し、この娘。幾ら後悔しようとも、一度言葉にしたなら必ず成し遂げる地力を持つ。



『双方、抜剣』


 抜剣の合図でティナの剣とサクス(ナイフ)剣身(けんみ)が生成される。この試合も二刀のまま挑むようだ。

 ヘリヤを見れば黄昏色の剣を抜いているが、右胸の下辺りにぶら下がるように副武器デバイス(サブウェポン)の鞘をマウントしている。刃渡り四〇()の大型ナイフであるため、通常なら剣帯にぶら下げる類の大きさだ。


 目敏(めざと)いティナは短剣の位置が違うことに疑問を持つ。剣帯ではなく、あの位置に変えた理由がある筈だ。ヘリヤは二刀を習得していない。が、左右何方(どちら)の手でも片手で騎士剣(両手剣)を遜色なく扱える。だとすれば、此方(こちら)が剣を絡める際の対策としてメッサー(ナイフ)へ切り替えるのだろう。相手はヘリヤだ。切り替え速度も一瞬で済ますだろうと警戒点を増やす。



『双方、構え』


 審判の合図が掛かる。

 ヘリヤは左脚を前に出し軽く膝を曲げ、左半身(はんみ)で肩の高さに剣を引き持つSchlüssel()の構えとなる。

 ティナの構えもまた見たことが無いものに変化した。脚の歩法は同じだが、剣の持ち方が違う。右手は胸の高さで剣先を真っすぐ上に立て、左手のサクス(ナイフ)を剣の後ろへ十字となるよう交差させる。


「(また、新しい技を魅せてくれるのか。期待してるぞ!)」


 ヘリヤは、次々と見知らぬ技を繰り出すティナの底知れなさを評価している。

 一体、どれ程の技を隠し(おお)せていたのか。

 垣間見る技の練度は、今まで見せていた王道派騎士スタイルよりも遥かに高い。

 自分と戦うには、その隠していた技を出さざるを得ないと判断してくれたことに嬉しく思う。

 ヘリヤの強さは、そのためだけに在るのだから。



 ティナは、試合冒頭から電撃戦を仕掛けることにしている。

 そもそも、奥義の長時間実行の反動で精神力と体力が既に短時間しか持たないため、仕掛けざるを得ないのだ。

 もって後三〇秒。(ゆえ)に短期決戦なのだ。

 待機線での待ち時間に、インターバル中解除していた奥義の祝詞を再び紡いで基底状態まで仕込んでいた。

 それを励起状態へ移行する。


「(初っ端から飛ばしていきますよ!)」

「(Wiederaufnahme.)」

 ――再開



『用意、――始め!』


 第一試合を再現するかのようにティナが高速に飛び出す。ヘリヤの()()()に向かって。


 まず、ティナはSchlüssel()の構えを崩しに入る。

 左半身(はんみ)となっているヘリヤの左肩から左膝までにかけて一直線に繋ぐ垂直の一閃。

 ヘリヤは斬り下ろされる剣を途中で捕まえビンデン(鍔迫り合い)し、ティナの左側へ攻撃の導線を外しながら受け流す。


 その挙動でヘリヤの左前腕が斜め横に降りて来たところで、ティナは左手のサクス(ナイフ)で刺突を仕掛けるも、ヘリヤは前脚に置いた左脚を後ろへ引き、(たい)を右半身(はんみ)に変えながらサクス(ナイフ)を回避する。


 其処(そこ)へ導線を外側へ押し込まれているティナの剣が反時計回りに巻きながら、ヘリヤの剣を乗り越えて、持ち手の右手へ(たわ)め斬りを仕掛ける。

 ヘリヤは巻かれながら剣を跳ね上げるように持ち上げ、ティナの攻撃を導線から外す。


 剣を持ち上げて(あらわ)になったヘリヤの右手へ、何時の間にか自身の剣を跨いでいたティナのサクス(ナイフ)が下から摺り上げるように斬り付ける。

 それをヘリヤは、剣身(けんみ)鍔元(つばもと)をずらして(つば)で受け流す。

 カキン、と金属を打ち付けた音が響く。


 サクス(ナイフ)を防御するため、ビンデン(鍔迫り合い)の圧力が減った瞬間、ティナは剣を滑らせ右上腕へ刺突を放った。


「(なっ! いつティナはここに踏み込んだ⁉)」


 その瞬間、ヘリヤは身体がぶれる程の速度で、あっと言う間に後方へ退(しさ)り、距離を取った。ヘリヤへ気取られずティナが左半身(はんみ)に半歩()み込んでおり、クニーヴ(ナイフ)が剣と同時にヘリヤの左手へ攻撃を仕掛けるため滑り始めていたのだ。このままでは何方(どちら)かの攻撃が必ず当たる状況を造られたからこそ、ヘリヤは瞬歩で逃げ一択にさせられた。


 四歩もの距離を取ったヘリヤは感慨深く呟いた。


「(――五連撃、いや六連撃か。まるであの人みたいだ)」


 ヘリヤは(かつ)て競技を始める切っ掛けとなった憧れの騎士(シュヴァリエ)を思い出していた。

 世界最強であった母をして、全力を尽くして(ようや)五分(ごぶ)と言わしめた存在。

 彼女の五連撃は美しく、しかも一つとして同じ軌跡を描かない。

 その舞うような剣(さば)きから【剣舞の姫】と呼ばれた騎士(シュヴァリエ)

 全く技の出し方は違うが、その姿をティナに重ねて仕舞う。


「(今の攻撃は正直かなり厳しかった。でも全力の尽くし甲斐がある。母さんもこんな気分だったのかな)」


 ヘリヤは勝ち負けに拘ることはない。()れど、自分の存在全てを()って戦える相手と出会うことを願っている。


「(【剣舞の姫】と戦えるならば、こんな感じなのかな。……そうか。あたしは今、憧れと戦ってるようなものか)」


 母である【永世女王】の次世代に数えられる【剣舞の姫】は、ヘリヤが物心付く前には引退している。手合わせしたくとも相手は動画の中にしか()らず、叶うことはない。

 (しか)し、ティナとの戦いがそれを叶えてくれるのだと気付いた。【剣舞の姫】の代役ではない。今を生きる自分達の代で、夢の戦いと語り継がれたあの試合を新しく形造れるのだと、ヘリヤは戦いの中で今までと違う歓びがあることを知った。


「(しかし、左右の剣が別々に踊るなんて、なんとも鮮やかな技だなぁ。それに、あの体勢からどうやって半歩踏み込んだんだ? どう考えても辻褄(つじつま)が合わないぞ)」


 ヘリヤは先程の一交差でティナの技に感嘆する。西洋剣術のようで全く違う理合いなのだろうと伺える連撃は、個々の動きが異なるのに合理性を併せ持つと言う相反する中で非常に美しい流れを生み出していた。

 そして、気取られずに踏み込む謎の技法。あの動きは果たして外から見て紐解けるのだろうか。あの姫騎士のことだ。当事者でしか判らないレベルで動いたのだろう。

 京姫(みやこ)の自然に溶け込む動きと違うことだけは判る。あれは何らかの法により行使されたものだ。


「(あの歩法、見た目以上に秘密を持ってそうだ)」


 あくまで直感だが、それは外れていないだろうとヘリヤは確信した。




「(いや、あそこから逃げを打つとは、さすがヘリヤといいますか。反撃と回避を出来ないよう連撃で獲る形へ組み上げたのに、盤面から逃れられてはどうしようもないですね)」


 ティナが母方から継承した武術である、フィンスターニスエリシゥム鏖殺(おうさつ)術の五連撃は、本来の形ならば斬撃や突きなど変幻自在に高速で討ち込む技である。それを二刀に分散して組み立てたことで、六撃目まで出す余裕を造った。

 左右の武器を個別に扱うことで統一感がない予測不能の連撃に仕立てたが、ヘリヤには全て受けきられた。

 それ自体は問題ない。受けさせて行動を封じるための前振りだったからだ。

 (しか)し、ばれないように高位歩法を混ぜて常人の身体運用では不可能な()み込みまで挿し入れて追い詰めたのに、(すんで)(ところ)でヘリヤに逃げられたのが痛い。

 貴重な数秒を消費したからには、ポイントを一つは奪っておきたかった。


「(ちょっと厳しいですね。残り時間も少ないところですし、次で決めざるを得ないですか。ヘリヤのどんな状況でも正確無比な動きをまた利用させてもらいましょう。さりげなく心臓部位(クリティカル)を狙ってもらえる仕込みをしますか)」


 奥義を使い続けている影響は大きい。残り時間は二〇秒程度。折り合いを付ける余裕もない。結局のところ、最初の予定通り一気に仕掛けるしか手はないのだ。


 ティナはヘリヤと離れた場所のまま、剣とサクス(ナイフ)で再び十字となる構えになる。


「(そんでもって、Schatten Macht, Geliehen.)」

 ――陰の力、借用


 暗示の祝詞を紡ぐ。

 アドレナリンが更に大量分泌される。

 自律神経支配と体制神経支配が解放される。

 それが脳のリミッターを外し、筋肉の持つ潜在能力が利用可能となる。


 別の奥義を借用する、と言うだけあって、本来の威力と比べれば雲泥の差ではあるが、それでも常人から比べれば埒外の膂力(りょりょく)となる。それを骨の動きに掛け合わせる。


 ヘリヤの真正面に向かって再びティナが飛び出す。

 その速度はヘリヤが見せた瞬歩を軽く凌駕する。

 まるで弾丸。(まばた)きすら取り残す急接近。

 (しか)し、()だ剣を振る素振りはない。



「(ああ、ティナは五連突きやったときの身体操作してるな。その速度でコレをしたらどう(さば)く?)」


 ヘリヤは小さく呟きながら踏み込み、ティナのがら空きになっている心臓部位(クリティカル)()()に神速の突きを放った。

 高速道路で対向車同士が目前で現れたようなものだ。常識で考えればティナの心臓部位(クリティカル)は深く貫かれてお終いになる。

 だが、そうはならなかった。

 ティナがヘリヤの気質も読んで攻撃させるからには、対処が出来るのだ。


 一瞬でヘリヤの剣は重量物をぶつけられた衝撃が走り、左へ弾かれた。いや、ティナが右へ剣を払ったまま添えられ、抑え込まれている。剣を抑え込む威力へ移動のエネルギーが転換されたことで、ティナ自身は急静止。そしてヘリヤは瞬間的に膨大なエネルギーを受けて引き摺られ、身体が左へ捩じれるように崩された。


「(おおっと、凄い力で持ってかれるな)」


 ヘリヤは崩れた姿勢のまま、身体の連動を優先して体軸を整えた。ティナの次撃を迎撃、もしくは此方(こちら)から打って出るためだ。


 その相手となるティナは、ヘリヤの剣をそのまま押し込みながら時計回りに回転する。まるで高速回転する独楽(こま)の如く一瞬で一回りが終わる。静止状態からは不可能とも言える速度の回転だった。

 回転の終わりには剣がヘリヤの胴を薙ぐ軌跡を描いている。

 まず、回避など出来ないレベルの速度であるが、ヘリヤはティナが回転を始める前に迎撃態勢へ入っていた。

 迫り来る(やいば)は崩れた姿勢のまま整えた体軸を使い、半歩だけの瞬歩で後退してティナの剣を遣り過ごす。そして瞬歩で踏み込み、ティナの心臓部位(クリティカル)へ再び刺突を繰り出した。


 本来ならば、回転の影響で身体に遠心力が掛かったティナは回避する姿勢が整わない筈であった。

 だが、ヘリヤの神速を(うた)われる刺突は、ティナが左手で持つサクス(ナイフ)で剣先を受け止められていた。

 双方の速度を考えれば、あの刃と杭の僅かな隙間に刺突で襲い来る剣先を狙って通すなど、正気の沙汰ではない。その上、サクス(ナイフ)を捻り、加締めて完全に剣の勢いを止めて仕舞える威力を持つとはヘリヤにも予想出来なかった。


「(しまった! 罠か!)」


 ヘリヤはティナが初めからこのタイミングで剣を絡めとるために全ての行動をしていたと理解した。最初の刺突も、高速回転も、二度目に刺突を繰り出させるための布石だったのだと。


「(なんだ⁉ 剣が抜けない! なんだこのクニーヴ(ナイフ)は!)」


 幾ら加締めたとて、少し角度を変えれば剣を抜くことなどヘリヤには造作もない。だのに、ティナのクニーヴ(ナイフ)から引き抜けず、そのまま剣を高く持ち上げられた。幾ら藻掻(もが)こうとも、何かが引っ掛かっている感触が返って来るだけだ。


 一瞬の猶予もなく、遣り過ごしたティナの剣が過ぎ去ったよりも高速に戻って来た。

 ヘリヤは瞬時に反応し、左手で大型クニーヴ(ナイフ)を引き抜いて迎撃態勢へ移行した。

 が、ティナの剣はヘリヤに襲い掛かることはなかった。


 ――バキン、と力を込めて何かを折り砕いた音が響く。


 マーブルの波紋が入った黄昏色をした剣。

 その先端から半分が宙に踊り、自然光照明に照らされて黄金に輝いていた。



 今回、ティナの持ち込んだサクス(ナイフ)は特殊な機能を持つ。無意味に見える杭には、サクス(ナイフ)の刃側、つまり内側に良く見ないと判らないシャギーが彫ってあった。細かい刃のノコギリ状なのだ。そこに剣の刃を引っ掛けて加締めれば、低炭素鋼製の騎士剣(両手剣)なら容易く粉砕する。このサクス(ナイフ)は特化型のソードブレイカーなのだ。

 元となったオリジナルが作成された中世中期、当時でも非常に貴重となった坩堝(るつぼ)鋼をふんだんに使い、剣を確実に破壊することだけに最適化した頑強な設計がされている。

 各所に見える鋭利な(かど)や、強力な梃子(てこ)となる握りの構造で、大抵の剣ならば片手で破壊出来る性能を持つ。


 (しか)し、ヘリヤの剣はインドのウーツ鋼製であり、強度と柔軟性を併せ持つため、このソードブレイカーで破壊することは難しい。

 そこでティナはヘリヤの剣を固定し、自身の剣を高速に打ち付けることで破壊することを視野に入れていた。ヘリヤの剣がどの程度強度を持っているか調べたのが第一試合。その結果、武器破壊に踏み切ったのだ。

 それを可能にするのはティナの剣が持つ特殊な構造。剣身(けんみ)(つば)元側半分は槌矛(コイレ)として打撃をする用途があるため、ハンマー代わりに釘打ち出来るくらい頑丈なのだ。

 ヘリヤの剣を捕まえるなど、通常の手ではまず不可能だ。それを実現するため、ティナは奥義で超集中状態(ゾーン)に入り、加速した時間感覚を利用して精密作業に()てた。


 ヘリヤの剣を加締めて高く持ち上げ、吹き抜けたティナの剣が勢い付けて戻ってくれば、防御のために警戒するだろう。

 案の定、ヘリヤはメッサー(ナイフ)を引き抜き、防御態勢に入ってくれた。

 おかげで、ヘリヤの剣は無防備となり砕くことが出来た。

 剣を折られた勢いでヘリヤの右半身(はんしん)が更に崩れて身体が開いた。元より崩れた姿勢の状態で体軸を整え直していたのだから、均衡が崩れれば、折れた剣であろうと反撃に移ることは難しい。


 そして――。


 ティナはヘリヤの剥き出しになった心臓部位(クリティカル)へ剣を差し込んだ。

 ここまでの出来は上々だったと言えよう。

 あのヘリヤから二本目を奪う策略が成功したのだから。


 (しか)し。

 その時ティナはヘリヤの挙動に信じられないものを見た。


 ヘリヤの左半身(はんしん)だけが空間に溶ける。


「(ちょっ、まさか――)」


 カカン、と甲高い金属音。


 遅れてヴィーと一本を取得した通知音が()()、場内に鳴り響いた。




 ティナは奥義終了の祝詞を紡ぎ出す。既にこれ以上は維持できないからだ。

 祝詞を紡ぎ、暗示を解いていく。


「(Schatten Macht, Rückgabe.)」

 ――陰の力、返却


「(Kündigung Verfahren.)」

 ――終了準備


「(psychische Kraft,Befreiung.)」

 ――精神力解放


「(Schließe die Macht und die Psyche.)」

 ――力、および精神閉塞


「(Ende. alles klar.)」

 ――終了、OK


「ふい~~、疲れました。明日は筋肉痛ですね、きっと」


 奥義借用により、通常の奥義使用時よりも大量に分泌されたアドレナリンが正常値に戻り、加速した時間感覚が解けていく。通常の世界に戻ると、一気に疲労感が襲ってきた。

 正直、今すぐベッドで横になりたいが、まだ騎士(シュヴァリエ)としてやることがある。



『し、試合終了! 双方開始線へ』


 審判が動揺している。いや、審判だけじゃなく、解説者席や観客、メディアの特派員に観戦していた騎士(シュヴァリエ)達も全て動揺もしくは唖然としている。

 その理由が今、告げられる。


東側(オステン) フロレンティーナ・フォン・ブラウンシュヴァイク=カレンベルク選手 二本』


 ティナは、世界ランキング一位のヘリヤが持つ武器を破壊し、二本奪うと言う快挙を成し遂げた。


 だが、それは空虚に変わる。


 それすらも上回られた。


西側(ヴェステン) ヘリヤ・ロズブローク選手 さ、三本』


 始めての状況に、審判も言葉が震えている。


『よって勝者は、ヘリヤ・ロズブローク選手』



 審判が勝者へ向けて手を挙げ、宣告した瞬間、場内が揺れる程の歓声で満ち溢れた。

 それもその筈。

 三本取得しての勝利は史上初である。

 尚且つ、相手は二本取得している。

 これはヘリヤが瞬間的に二本取得したことに他ならない。

 相討ちどころの騒ぎではない。

 本当の意味で刹那の攻防が展開されたのだ。



 突如、高らかに笑い声が上がる。


「あははは、あはははははは!」


 ヘリヤが腹を抑えて笑い出していた。笑い過ぎて涙が零れている。


「あはははあはは、っはっはっ、はぁはぁはぁっ」


 笑い過ぎで息が上がるヘリヤなど、誰も見たことが無いだろう。


「全く、なんて凄いんだ! 剣を折られるなんて! 本当に、本当に全部体験したことがない戦いだった! こんな楽しいことは初めてだ! ありがとう、ティナ!」


 笑いを引き摺りながらヘリヤが口を開くが、感情を爆発させたかのように声が大きい。


「いえ、この場合、私から優勝おめでとうございます、と言うのが先ではないかと」


 さすがにティナもご機嫌過ぎるヘリヤへ着いていけず、引き気味だ。


「なんだ、随分テンションが低いな! ともかくありがとう! でも勝ちより、こんな試合を出来たことの方がうれしいよ!」


 ヘリヤは満足気に喜びを伝えて来た。

 ならばティナが言うべき言葉は一つだけ。


「良い餞別(せんべつ)になりましたか?」


 最初に期待して良いと宣言したのだ。だからこれは確認。


「もちろん! 最高だ!」


 破顔一笑でヘリヤは応えた。


 ヘリヤの学園生活最後となる学内大会は、こうして幕を閉じた。




 ――ティナの剣がヘリヤを貫く間際、ヘリヤは左手に持つメッサー(ナイフ)をティナの心臓部位(クリティカル)へ狙いを定め、固定した。

 その瞬間、左半身(はんしん)全体とメッサー(ナイフ)が高速にぶれた。

 この時点でティナは敗者になったことを悟った。


 ヘリヤがluttes(乱戦)で見せた神速の三連突きとも違う。

 予選のエイル戦でティナが奥義を併用した技。身体能力のリミッターを外して可能となる神速の五連突き。

 胸骨を軸に半身(はんしん)だけ動かす原理をヘリヤが模倣した。初めて使うだろうため、二連射ではあったが正確に心臓部位(クリティカル)を二回貫いた。


 最後は心底驚かされて仕舞ったが。

 だが、今回は予定通りにヘリヤの()()()()ことが出来た。

 布石は打った。

 それは、()()()()()()()で再び相対(あいたい)した時に効いてくるだろう。




 試合終了後、入賞式、閉会式と続き、なんだかんだと解放されたのは一九時過ぎ。

 メディアの依頼でインタビューが開催されたため、姫騎士Kampf(格闘) Panzerung(装甲)バージョンの周知と売り込みも捻じ込んだ姫騎士さん。

 TV局だけではなく、世界規模でネット配信をしている放送局も参加していたので、きっと広く一般で認知されるだろうと、ティナはホクホク顔で帰って来た。


「最初は一本くらい取れたら良いなくらいの予定でしたが、意外と戦えました。しかし、奥義全開でないと歯が立たないのは何とも言えません」


 などと言いながら部屋でゴロゴロしつつ身体を(ほぐ)すティナ。明日襲い来るであろう筋肉痛を少しでも軽減するのに必死だ。


Sonne(陽の) Macht()も長時間使えるいい方法を探すのも命題ですね」


 ヘリヤ戦では試合中ずっと奥義を使い続けなければ対等に戦えなかった。今後、奥義による身体能力底上げが必要となるケースも出て来るだろう。ならば状況に応じた最適化、と言う名の魔改造をどうにか出来ないかと思案する姫騎士さん。


「高位歩法までコッソリ使いましたが、ヘリヤはその正体まで見抜けなかったっぽいですね。ならダレかに聞かれても適当にごまかせそうです」


 ヘリヤが見て取ったティナの辻褄(つじつま)が合わない動き。ヘリヤに気取られない()み込みだけならず、異常な速度からの急静止、高速回転と遠心力などの物理法則を通常とは違う方法で打ち消した技法。

 お披露目はしていないが、Wald(ヴァルト) Menschen(メンシェン)の高位歩法である。

 ()だ流派の制約があり、公開は承認待ちなので、今回はコッソリ差し障りが無い程度に混ぜて使った。一応、学年が終わる夏休み前までには公開出来る予定だ。

 歩法と名はつくが、実態は特殊な身体操作が本質だ。条件を満たしている身体の構造を必要とし、訓練をすれば誰もが身に付けられる(たぐい)のものではない。


 詰まるところ、ティナには今日見せた以上の先があるのだ。


「はっ! それよりKampf(格闘) Panzerung(装甲)を着るときの方向性を決めないと! コレ専用!みたいな付加価値を考えないといけません! 最重要案件です!」


 あと一歩で世界ランキング一位に勝利するかも知れなかったのに。

 やはりティナは何時も通りに平常運転だった。



Ankunftsortは「到達点」という意で使ってます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ