05-006. 配信と広告塔。 Live-Streaming und Aushängeschild.
二一五六年一〇月三一日 日曜日
学園内でティナが過ごす一人部屋寄宿舎居室。
ティナの部屋にはルーが呼ばれており、二人はいそいそと作業をしている。
「姫姉さま、このマイクはどこ置くです?」
「ああ、それは天井から吊るしますんで、こっちにください」
「うゆ? 首吊りするですか。マイクのヤツも迷わず天に召されやがれです」
「不穏な風味にしないでくださいな。まるで何処かのマイクさんが吊るされるように聞こえますて」
いちいち余分な一言を都度付け加えるルーにツッコミを入れつつ粛々と作業を熟す。
今日は久々にライブ配信するため、その準備をしている最中だ。
ティナは二カ月ぶりにライブ配信の枠をブログに立てた。事前にSNSで、「ちょっとしたお知らせと雑談」と銘打った告知をしている。世界選手権大会が始まる前に一度、ファンとの交流を捻じ込んでおきたかったのだ。
時間は一四時から。何時もライブ配信は日曜日にこの時間で始めている。太平洋の中心を除けば、凡そ世界中で日曜日にリアルタイムの視聴が可能な時間帯を選んだ結果だ。ステイツの西海岸などは早朝五時、ハワイは早朝三時となって仕舞うが致し方なし。
だが、現役騎士のライブ配信は人気が高いので、どの時間帯でも視聴者は集まる。
勿論、ライブ配信まで実施する者は少数だが、自己プロデュースのツールとしてエンターテイメントを提供する者も一定数居る。
ティナもまた、その内の一人だ。時たまライブ配信をしている。
見目麗しい財閥令嬢、且つ騎士と言う異色の経歴と、フランクな会話で人気も高い。
活かせるメディアは最大限に利用し、「姫騎士」の啓蒙活動をコッソリ忍ばせているのも卒がない。
この時代、ストリーミングは専門のシステムを持つメーカーだけではなく、一般的なコミュニケーションツールとして様々な情報発信メディアで配信が可能となっている。ティナのブログサイトも登録ユーザならば配信機能は無料で利用可能だ。
ティナの居室は競技用システムの原型であるSHSシステムを持ち込んでいる。配信時は部屋を丸ごとサイバースペース化しているのだ。そこへ複数台のAR配信用立体カメラと広域集音マイクを設置し、カメラアングルと拾う音が三六〇度全方位をカバーするよう位置を調整。
視聴者はスクリーンの固定視点だけでなく、ARグラスで疑似的にティナの部屋へお邪魔したかのような視聴が可能となっている。勿論、視点は自由に変えることが出来る。そのための全方位をカバーするカメラ配置なのだ。
こうしてライブ配信準備を終え、最終打ち合わせを済ませたティナとルー。
ふう、ヤレヤレと一仕事終えた感を醸し出すルーは、ラグマットにペタリと座り込み、シンプルなれど高級感がある楕円形デザインのローテーブルに頬杖を突きながら籠に入ったお菓子をポリポリと貪る仕事に夢中だ。
「ちょっとルー。そのお菓子は配信画面用のオブジェクトで置いてるんですから、そんなに減らさないでくださいな」
対面に座るティナは、食べ物に直行する困った妹分を呆れながら窘める。
「姫姉さま。ナニ言ってやがるですか。お菓子はソコにあったらパクつくのが国連総会で決まったルールなのです」
「また適当なこと言って。そろそろ放送始めますから食べかすと包装袋を片付けてくださいな」
へーい、とまだまだ食べ足りないのが丸わかりな回答をしながら山になった菓子の包装ピニールをゴミ箱にポポイッとするルー。その勢いは、何時も鍛錬中に体術でポポイッとされる憂さ晴らしの様相。
一三時五〇分を少し回り、ティナはルーに最後の注意を促す。
「判っているでしょうけど、先ほどお話した通り明かすとマズイ情報とか不適切すぎる言葉など口を滑らせてはダメですよ?」
「うい? ルーは品行方正が売りですよ? 淑女力五三万は伊達じゃねーのです!」
キュピーンと天高く人差し指を掲げるルー。無駄に自信満々だ。
謎の引き合いを出すルーにティナは大きな溜息一つ。
とは言え、ルーは選定基準が非常に厳しいカレンベルク次期当主護衛見習いに選ばれている。競争率が激しいその座を勝ち取るには、様々な高度教育と高い戦闘力など、当たり前に身に着けられる能力を有する条件規定がある。それを余裕でクリアしているのだ。故に間違ってもカレンベルク財閥が不利になることは口にしない。其処に関してはティナも心配していない。
が、興味ない対象だと口の悪さを誰が居ようと憚らず垂れ流すので、ティナの諦めが溜息に繋がるのだ。
時刻は一四時。
ティナは放送を開始した。オリジナルBGMを背景に実写とアニメーションが融合した、中々に手の込んだオープニングをお約束で流しているが、個人でそこまで用意すること自体少数派だ。然しティナ自身にはスポンゾァが付いており、企業勢と変わりない。その上、カレンベルク財閥の顔でもある。品格を貶めないよう、さり気ない部分にこそ力が入っている。
オープニングが終わり、画面が室内の映像へ遷移する。ここからが本番だ。リスナーの地域差があるため、配信は英語がデフォルト。
「みなさん、お久しぶりです。初めての方はようこそ。騎士のフロレンティーナです」
『おひさー』
『きちゃ』
『姫おひさー』
『おはようっす』
『姫ばんわー』
『メイドっ子がおるw』
『こんちわー 挨拶でリスナーの現地時間わかるのスコww』
『あれ?なんか違和感ない?』
『姫が騎士服だからじゃね』
ティナの挨拶を契機に、部屋の空中にAR表示させたコメント欄のコメントが爆速で流れる。何時も世界中で視聴出来る時間帯に配信しているため、訓練されたリスナーの同時接続数は六桁を軽く超える集まりになるのだから納得がいくと言うもの。
ついでに言えば、ティナが公爵の姫であるバックボーンから、何時の間にかリスナーは「姫」と呼ぶようになっていた。
「今日はお知らせと雑談ですが、内容はガラッと違う話の詰め合わせです。その絡みで初っ端は趣向を換えましてVRアバターでお送りしています」
聡いリスナーが気付いた違和感は、本人の3Dアバターだった事実。
3Dモデリングの精緻化とモーションキャプチャの技術向上で、アバターは現実と同様レベルに動作をトレースするようになった。それによりアバターは三極化した。
騎士のアバターデータと同様、本人自身を3D化する方法。
本人は顔出しせずに、容姿などをカスタマイズした外装としてのアバター。
そして、アニメーション的キャラクターデータを外装とするアバター。
一つ目は兎も角、後述二つはアバターの見た目もそうだが、演者が魂を吹き込むことで成り立つ、現実へのキャラクター投影だ。
ティナ自身は公人でもあるため、基本は顔出しで配信している。
なので、3Dアバターも本人の騎士アバターを流用して来た。
生身にアバターを被せている状態で配信されるが、部屋などはカメラで写った実物だ。
『なぜにアバター』
『いわれたらメイドちゃんの恰好は試合で見た気がする』
『と言うか、アバターのクウォリティすげえ』
『メイドちゃんそっぽ向いてヤル気まったくねえww』
やはり衣装公開的な演出をしなかったからルーのアバターに気付くよなあ、とティナは少し速度が緩和されたコメントをチラリと見た。
「まずは、ゲストをご紹介します。最初から参加させてましたので、知ってる方も多いかと思いますが、ウチのメイド兼護衛見習いです。ルー、リスナーの方々に自己紹介をお願いします」
「うゆ? ルーも話すです? 知らねえヤツラ共ども、仕方ねえから耳かっぽじって聞きやがれです。ルーはブラウンシュヴァイク=カレンベルク家次期当主付き護衛兼従者見習いって名誉あるお役目の戦ってメイドるスーパーメイドなのです」
メインのカメラにちょっとだけ顔を向けてぶっきらぼうに言い放つルー。困ったことに出だしからルーは平常運転だ。
姫騎士さんは苦笑いなので、ネタなのかリスナーも判断しづらいだろう。
『口の悪さよwww』
『投げやり感がすごい』
『護衛で従者?そんでメイド?イズ何者?』
『まって、何気に情報量が多い』
『メイドるってwwww』
『不遜な態度が全てをブチ壊すスタイルww』
「ルーは普段からこんなカンジなので、みなさん気にしないでくださいね。ぶっちゃけ放置でも構わないですから」
「またルーのことなのにルーに決定権がねえのです……」
『草』
『草』
『そういう扱いかw』
『草草の草』
取り敢えずルーの扱いをぶち込むティナ。コントっぽい二人の会話を出すことで、これ以降はルーの発言がそう言うものだとリスナーに刷り込む。ちょっとした思考誘導だ。
「今回アバターで始めたのは、ルーのアバターデータが正式版になったので先行してお披露目しようと思いまして。電子工学科から許可を貰ってデータを借りて来たんです」
『おー』
『いえーい』
『え、まだアバターの新着情報にも来てないけど出しちゃっていいの?』
『先行お披露目なんてめずらしいパターン』
「はいルー、お披露目しますよ。ちょっと立ってください」
「めんどくせーですが仕方ねえです」
やれやれ感満載で渋々と立ち上がるルー。ティナの指示に従い、横を向いたり後ろを見せたりと動くマネキン役になっている。もの凄く面倒くさそうな顔を隠そうともしないのはリスナーの笑いを誘っている。
ルーの3Dアバターは試合で通常装備しているミニスカメイド服だ。パニエで膨らんだスカートからはペチパンツの裾で絞り止め風飾りリボンが覗く。騎士装備アバターなので、足元もブーツを履いている状態だ。ルーが小柄で幼児体系のため、キッチュ感が拭えない。言っては何だが、子供がメイドコスプレしているように見えて仕舞う。
『おお、かわいいかわいい(小並感)』
『すげー不機嫌で草』
『こまこま動くメイド再びww』
『騎士アバターなのになぜか微笑ましい不思議』
『相変わらず電子工学科のアバター技術はすげえな。学生の一学部が世界トップを走り続ける異常』
『Mêlée現地で見たけど、メイドっ子があっと言う間に消えたのはビビった』
『それな。いきなり敵の背後から生えるホラー』
『メイドちゃん、やり切った顔でさっさと座るところがwww』
アバター衣装を一回り見せたところで、もういいだろとラグマットにペタリと座り込むルー。コメントでも指摘されてるなあ、とティナも苦笑い。
「もう、ルーったら。お披露目なのに切り上げるのが早過ぎですよ」
「うい? 見てえヤツはルーのアバター買えです。そのうち売りに出るまで待ちやがるのが本筋なのです」
「あら、めずらしく真面な意見ですね。確かに正式発表前ですからガッツリ紹介するのは控えたほうがいいですね」
「姫姉さま。ルーの仕事は終わったんでお菓子をパクつきタイム開始するです。労働に対価が必要なのは現代社会における当然の権利として保障されてるサムシングなのです」
「もう、しょうがない娘ですね」
まるでコントな会話だが、これが日常であると二人の自然な遣り取りが物語る。そして素知らぬ顔でオブジェクト用に配置した籠の菓子を食べ始めるルーのマイペースっぷりに、リスナーも何となくルーがどんな娘なのか察する。
『珍しく真面ってwwwww』
『どう見てもコントの流れなんですがそれは』
『これ、アバター披露なんだぜ……なのに食べるの夢中ってある意味新しいw』
『メイドちゃんがもっともらしい理由のようで最後は台無しにしちょるww』
『普段の会話が垣間見えるな。こりゃ姫も苦労してそうだ』
「まあ、グダグダ気味になりましたが、一応アバターのお披露目は終了と言うことで」
ティナは、そう言いながらリスナーに不可視設定しているAR設定画面からアバター解除をする。
途端に、騎士装備が消え去り、ティナとルーが生身で表示される。すると、明らかに二人の服装が変わり、普段着姿が現れた。
ティナは白いセーターと、ベージュに色相が近い東雲色で幅広のプリーツが入ったミニスカートだ。映像越しでも一目で質の良さを判る高級感がある。
問題はルーだ。此方も確りした裁縫と素材で、職人が造った上物であると判るロングドレスタイプのメイド服だ。普段着が一般では見ることのない取り合わせにコメント欄も湧いた。
『姫は何着てもエレガント風味になるなぁ』
『メイドっ子、ホントにメイドやんww』
『リアルメイドなんて初めて見る』
『これが上流階級か』
『姫と並んでると従者感が上がって、さっきまでの姿とギャップでもにょる』
「はいはい、コメントしてくれてありがとうございます。中々に流れるの速くて、たまにしか拾えなのは申し訳ないですが。私はともかく、ルーは普段着からメイド服姿なんですよ? 業務が休みの時くらい私服を着たっていいのに」
「姫姉さま。ナニ言ってやがるです。ルーは既製品ナンか危なっかしくて軍装備準拠以外はいらねえのです」
『さりげなくアヤシイ単語が混ざっておる……』
『どういうこっちゃ』
『姫、どういうことです?』
『軍でメイド服って買えるのか?』
『説明おなしゃす』
『絶対メイドちゃんに話振っても回答がこないとおもわれ』
「あー、これは私の言葉選びが失敗でしたね。まあ、秘密と言う程ではないのでお話しますが。ルーの服は、防刃と簡易防弾、耐火性と耐寒性に静電防止など施された、軍などでも特殊装備に使われる素材で出来てるんです。カレンベルクの護衛が標準で使用する素材ですね」
『ガチものでわろた』
『まじで護衛なんだな(白目)』
『メイドっ子、部屋の外出たと思ったらオヤツ抱えてきて笑う』
『自由人すぐるwww』
ルーは装備材質の話など興味ないようで、キッチンに追加のオヤツを漁りに行く。ティナが簡単な説明をしている間に、戦利品を抱えて籠にドサドサと放り込むルー。
既に籠のオヤツは食べきっていたのだ。全く褒められたことではないが。
「それじゃ、次はお知らせ、と言うか先週メディアニュースでも話題になった件についてですね」
「姫姉さま。このゼリー、アレです。京姫さんのヨーカンみてえです」
「あなた、ホント興味ない話は全く聞いてないですね。それ、京姫から貰った一口カップの水羊羹ですて」
ふーん、と納得したルー。最早、ライブ配信のことはどうでも良くなっている様子。
『ゲストが参加しない配信で草』
『さっき仕事終わったって言ってたから(震え)』
『妙なエッセンスになって逆に面白いまであるケースw』
「ではお話続けますね。ルーが興味ない話なので参加してこないでしょうし、チョロチョロ動くオブジェクトだと思ってください」
『姫の言い草がひでえww』
『草』
『妥当なのが笑える』
「先週の水曜日に発表されたニュースの宣伝です。ウチのカレンベルク財閥宇宙事業部門とカレンベルク財団共同出資で建設中だったスカイホイールがこのたび竣工しました。ここまでは皆さんご存知かもしれませんが、そもそもスカイホイールが何であるのか、もうちょっと補足的なお話をしようかと」
『ちょっ、姫、ハナシの温度差が』
『あの宇宙に作ったでっかい輪っかか』
『カレンベルクホイールとか名前付いてた』
『オレ、宇宙とか詳しくないんだけど、あれが何をするのかさっぱり』
『メイドっ子が我関せずで袋菓子開けてるww』
『あの輪っか、宇宙船の加速と減速する機械やで』
『ほう。なるほど(判った振り)』
『なるほど。さっぱりわからん』
『いさぎよし!好感度ゼロアップ!』
『そんなー :(』
「名称はウチが一〇〇%出資して造りましたから。で、アレは、コメントにあった通り複数の宇宙船を減速と加速、もしくは進行方向の変換させる装置です。小惑星帯に掘削用機器や搬送用コンテナロケットを放り投げて、現地で作業する人員を飛ばす宇宙船のペイロードに負担を掛けないことが暫くは主目的です」
カーボンナノチューブ製の軌道エレベーターも既に実用化されているが、一度に運搬できる質量の限度がある上、リニア駆動で搬送速度を上げても輸送の限界がある。物資だけ送り、宇宙船で回収するなりにしても、重量が増えた状態からの発進に掛かる燃料は増大する。また、宇宙船自体の速度を得るならば、スカイフックなどのロトベーターで位置エネルギー変換による加速も考慮されたが、製作コスト的に見合わない。
小惑星帯の資源確保が始まったこの時代、カレンベルク一族はスペースデベロッパーではなく、支援インフラを整備することにこそ注目した。その結果が莫大な費用を掛けたスカイリングだ。豊富な資金力で国家が介在しない一財閥による開発事業。先進技術力の示威に加え、国際的に利用可能とすることで各国との社会的地位を強化する政治的な意味合いも含む。
「見た目はスポーク付き自転車のホイール構造ですが、直径二五〇粁で、軌道上を軌道速度より僅かに遅く転がってます。でもホイールの内輪側が軌道速度より速くなるんです。速度差が出るとリングにフープ応力が掛かって自壊するんで、リングは強度を保てるナノカーボン製です。ぶっちゃけ、そこに一番費用が掛かってます」
少なくとも、その部分だけで一兆二千億EURは軽く超えてたハズと、濁しがちにティナは言葉を添えた。
「スポーク部分は導電性素材で、地球の地場から電気力学的推進力を得て軌道速度、つまり回転速度を制御してます。リング中心から両脇に生えてる大きな板は、見たまんま太陽光発電機ですね。姿勢制御兼回転制御用のイオンジェットも搭載しています」
『まさか姫から宇宙開発の話がでるとは』
『ポッとでた費用が国家予算なんですが(困惑)』
『まあ、オレらが利用することは……ないな』
『いつから動くんだろ』
「実働開始は年明け二月からですが、既に各国の宇宙開発関連より利用予約が始まっていますよ。到着時間をずらせば複数台の宇宙船を次々リングにマウントできますんで利用回転率が良いのも取柄です。イメージは観覧車の籠が好きな位置に来たら中身の宇宙船が飛び出すと思い浮かべていただければ」
実物はリング外輪側に籠――ペイロード――がある構造で、籠に帰還した宇宙船をマウントすれば軌道速度以下に減速させてから大気圏突入出来るので負荷を軽くする効果も期待されている。
『カレンベルク財閥はトロヤ群とか開発しないの?』
『確かに。スカイホイールつくったレベルならやったっておかしくない』
「宇宙開発ですか。現役の宇宙飛行士ってすごく勇敢なんですよ? どこにも空気のない空間に乗り出すってほんとに怖いんですから。なのでウチでは保留中です。宇宙事業部門で研究中の空気と水を技術的に安定供給する仕組みが見通し付かない限り、手は出さない方針です。まあ、スカイホイールで悪目立ちしましたから、どのみち暫くはおとなしくせざるを得ませんが」
宇宙船の積載量は有限だ。例えば事故や故障。或いは物資の枯渇。何れにしろ、限られた手札で乗り切るには極めて難しい。船外に一歩踏み出せば死の世界であり、逃げ出すことすら叶わない。長距離運行ともなれば、燃料含む積載量がグラム単位の緻密な計算を必要とし、予備も最低限になる。
人類が宇宙を闊歩するためには何らかのブレークスルーが必要なのだ。
『火星旅行の夢は遠のいた』
『長距離旅客機は弾道飛行だけど、すぐ大気圏内に逃げられるし』
『悪目立ちww』
この時代、衛星軌道まで行かない距離ならば宇宙は身近と言える。しかし、空気が当たり前にある環境の範囲内だからこそ安心感が違うのだ。万が一を引き当ててもリカバリーが可能だからだ。
「はーい、みなさん。スカイホイールの話題はこれくらいで。宇宙関連は配信のカラーが変わりそうですし。ウチはそんなこともやってますよ、くらいの認識でOKですて」
『軽いww』
『いつものwww』
『スケールでかい話でもサックリ流していくこのスタイルw』
『納得の安心感w』
コメント欄が笑いやツッコミで加速する。ティナも「わたしの扱いがぞんざいな件」など色々コメントに反応しながら、リスナーと一頻り戯れる。配信に興味なさげで菓子を黙々と食べるルーがツッコミのアクセントとなり盛り上がりを見せた。
「次は匿名質問BOXによく届く質問で騎士関係を少し取り上げてみようかと」
『唐突なBOX読み始また』
『この手の質問はお気持ち多いんだよな』
『騎士関係ならまともな内容じゃね?』
『メイドちゃんが二度目のオヤツ補充してるのが草』
『結構食べてたけど、どこに収まってるんだろう』
『我関せずを貫き通す姿勢がww』
『BOX読みも気になるがメイドっ子の挙動が気になって集中できんw』
「コメントの流れが明後日に向かってる件。見事に出鼻を挫かれました! ルーもせっかくですから少しはコメントに反応してくださいな」
「知らんヤツがナニ言おうが知ったこっちゃねえのです。育ち盛りなルーがオヤツをパクつく方が優先順位高いのです。どっかのエラいヒトも食生活は健康の第一歩だって言ってたです」
「また頭に浮かんだ単語を適当に喋って。お菓子ばっかり食べるのはむしろ健康から遠ざかってますよ?」
「なんですと! そんなバカな! 食いモンに貴賤はないとルーのセンサーは判定してたのにです……」
愕然とするルー。完全にコントの様相。
『このやりとりww』
『欲望に正直すぎていっそ清々しい』
『センサーの精度がザルすぎるw』
完全にコメントがルーの話一色に塗り替わったので軌道修正するティナ。
「リスナーのみなさんに説明しますが、ルーは特殊な身体操作を常時使用してるんで非常に燃費が悪いんです。なのでしょっちゅう何か食べてますから、見かけても背景の一部として気にしないでください」
『あい』
『了解』
『インパクト強火の背景よw』
『自由人は制御不可能の例www』
「じゃあ、気を取り直して。最初の質問は要約すると《騎士を目指して二年ですが身についてる実感はありません。才能がないのでしょうか》とのお便りです。これ系、結構多い質問なんですよね」
『実感がなくて不安になるのよくわかる。ちな、ソースはワタシ』
『挫折しちゃう人とか結構聞くからなあ』
『あー、努力が実らないからやめちゃうやつ』
「武術を習っていない一般人が始めた前提としてお答えしますね。まず、才能を疑う前に基礎を毎日積み重ねることです。たかが二年で結果が出るほど甘くない世界なんですよ。重要なのは、何のため騎士に成りたいのか確り自分を持っていて、それに向き合えるかですね」
『それはそう。基礎が出来てないと技とか身に付かない』
『目的のために踏ん張れるかってコト?』
『お?有識者もおるな』
「才能だけで世界トップレベルに駆け上がったのはエデルトルートしか知りません。彼女にしたって、別競技で何年も身体能力を鍛え上げた基礎があればこそです。目標があれば、基礎鍛錬が苦しくてもその先にあるものを考えれば楽しめるようになれます。たぶん」
『やっぱり地道が一番なのね(挫折組)』
『何か修行ってM気質な風味』
『たぶんてww』
『すぐ技に手を出そうとすると失敗する(経験済)』
「コメントに挫折を含む有識者がいるようですが、基礎が大事なのは身体の使い方を覚えるためです。武器ごとに正しい身体の使い方があるんですよ? 素振りや足捌きにも全て法があって、身体操作を覚え込ませる意味があるんです。出来れば武術の道場に通って学ぶのが最善かと。既に通っているなら一つひとつの動作がどういう意味なのか、どう身体を使っているのか確かめながら取り組めば理解が深まります」
『ためになる回答きた』
『基礎は地味とか言ってた奴に辿り着けん領域だった件』
『飽き性なワイ。やってみようかと思っちゃうくらいには揺れる言葉』
『ちなみに姫はまだ基礎続けてるの?』
「基礎を続けてるか、ですか? 日常生活全てに基礎鍛錬法が組み込まれてますので、普通に生活するだけで一日中鍛錬してる状態ですね。それこそ呼吸や立つ座る、歩く、寝るなども正しい身体操作を叩きこまれてるんで、二四時間三六五日です。私の流派ですと、技とかの技術は夕方以降に取り掛かります」
『ひえ』
『寝る時までは予想外』
『どこの修羅かよ』
『競技者の枠を超えてないか、これ』
「競技者の前に武術を嗜む家の出ですもの。流派によって違いはありますが、継承者レベルにあるなら多かれ少なかれ似たり寄ったりですから。そ・れ・よ・り・も! 私のこと修羅呼ばわりした人は後でチクチク口撃の刑です」
にこやかに余計な一言を口走ったリスナーへ追い込みを掛けようとするティナ。
騒がしく脱線しながらリスナーとの遣り取りを繰り広げるが、これもリスナーとの距離感を縮めるサービスだ。一方的なコミュニケーションは受け取ってお終いとなり、関係性が薄れて仕舞うのだ。
偶に、如何にもウルサイとチラチラ目で語るルーがまた笑いを誘っているが。
「それでは区切りがよろしそうなので、今日のコマーシャル流しますね」
ティナはリスナーとの遣り取りが一段落着いたところでスポンゾァのコマーシャル動画に切り替えた。
大抵の配信を提供しているサイトでは、無料で視聴している場合に限り、一定のアルゴリズムで配信元サイトへ出資している企業の配信広告が流れる仕様だ。ティナは配信の流れを切られるくらいなら初めから広告配信の時間を設け、リスナー側に意図しない番組の中断が起こらないようにしている。
四社分、一分半のコマーシャル動画終了明け。
「はーい、Bパートの始まりです。その前にルー、山盛りになったお菓子の包みを片付けなさいな」
「へーい。ポポイッとするです」
言うが早いか、包装ビニールやら水羊羹のカップやらを纏めながら次々にゴミ箱へポポイッと投擲するルー。
『投げてる投げてるww』
『一歩も動かずに片付けるものぐさスタイルで草』
『待って⁉一つも外れないんですけど!』
『すげー技術の無駄遣いを見た』
正確な投擲で次々とゴミを片付けていくルーに、コメントも別の賑わいになっている。
それを尻目に、やれやれと大きな溜息の姫騎士さん。騒ぎが収まるのを見計らって口を開く。
「気を取り直して続きをいきますね。お次の質問はこれです。《騎士学校の生徒は世界ランクでもトップ層に多く名前を見ます。プロを含め騎士学校出身者が上位を占めているのは特別な訓練法を学んでいるのでしょうか》ですね。これも要約してますが、文言は違えど一番多い質問です。割合的には競技経験者や現役の騎士が半数を占めてますんで、何が違うのか気になっていると判断してます」
『お、いい質問』
『みんなが気になってること筆頭だろ』
『実際、騎士学校出身者は頭一つ抜き出てるからね』
「まず騎士学校は騎士を育成するための環境が整っている点は、みなさんもお判りですよね? でも学ぶ生徒側の前提が違うんです」
『は?』
『どういうこと?』
『生徒が違うってこと?』
『意味判らんw』
コメント欄に疑問符が大量に流れる。そりゃ判らないよなあ、とティナは内心で呟きながら、まず疑問を膨らます一言だけ言葉を綴る。
「私が通うマクシミリアンのお話ですが、初心者でも数年でアスリートに仕立て上げる育成方法はお見事と言えます。ただ、そもそも騎士科の半分は貴族や武家の末裔なんです」
『武家は判るけど貴族?』
『ますますわからん』
『それが秘密ってこと?イメージつながんない』
「話の前置きから説明しますから、ちょっと長くなりますけどご了承ください。ではヨーロッパの例で話しますね。中世時代、戦争は貴族のものであり特権だったんです。ですので、大抵の貴族教育には政治や経営、礼法などの学問全般、戦闘教養と武術鍛錬が含まれています。現代ならば個人の好きなものを学ぶ自由はありますが、当時の貴族家は違います」
ふう、とティナは話自体が息継ぎするように一拍の時間を置き、続きを語り出す。
「貴族家に生まれた者は、貴族としての精神性も叩き込まれます。貴族は教えを学び覚えることが当然の義務であり、そこに疑問の余地はありません。外から見れば過酷とも言える教育を年端もいかない幼年期から教え込まれます。もちろん教育を受ける側は、それが当たり前だと育てられていますので否は在り得ません。すると、貴族家の男児は当時の成人である一四、五歳には貴族教養と武術を修得していたんです」
ここでまた一区切りし、マグカップに用意した水で喉を潤すティナ。コメントの流れを確認してから、再び口を開く。
「当時、裕福な貴族家は著名な師範を呼び、直接指導してもらうことがステータスでもありました。その際、師範は雇い主へフェシトビュッフ、武術教本のことですけど、これを作成して贈呈することもあったようです。その武術教本が発見されたおかげで失伝していたドイツ式武術は復刻されました。でも、この教本、構えや技の型と使い方を図解付きで解説されていますが、肝心なことは抜けてるんです。ここまではいいですか?」
リスナーが話を噛み砕く時間を取るため、また言葉を区切って様子を見る。
『貴族に生まれなくてよかった』
『いうて今の時代は違うだろ』
『肝心なこと?それが正体か』
『ドイツ式って失伝してたのか。知らなかった』
『長いだろ。これで前置きなんだぜww』
「コメントで肝心なことに触れた方、鋭いです。答え合わせですが、肝心なこととはズバリ基礎なんです」
『ここにきて基礎再来の巻w』
『まって、それって技だけの教本ってこと?』
『基礎がないとどうするの?技だけなら身に付かないって前のBOXであったわよ』
『あ。子供の頃から学んでるからか?』
「その通りです。貴族家では幼い頃から武術を教え込んでいます。だから基礎は出来ているんです。なので武術教本は基本が出来ている前提で造られていると個人的に解釈しています。まあ、その説を裏付ける文献は見たことないんで真偽は解りませんけど。で、漸く本題です。古くから貴族家で教える武術は時勢により新しい技術など迎合したりしますが、その家で代々積み重ねて来た家伝の武術なんです」
『何となく判って来た』
『家で伝えてるって……』
『つまりそういうことか』
「だから学園生も家伝の武術が伝わっていて、幼い頃から鍛錬している人が多いんです。長い年月を通して練られた技術を継いでる訳ですから、地力が違うんですよ。例えば、武門の貴族家を背負うテレージアや千年を超える武家の京姫が使う技術なんて、その家に生まれなければ身に付けようがない秘技中の秘技ですし」
『真似できない例を持ってきたw』
『確かにDuelの本選はみんな信じられん技使ってた』
『じゃあ元貴族とか武家に生まれたからってことか』
『家ガチャ当たらんとダメってこと?外れたらキビシすぎでは?』
「結局のところ、幼い頃から家伝を学ぶ中で身体が最適化するよう造り込んでるから、と言うのが答えです。ですから家や流派ごとに身体操作法が異なったりしますけど、全て基礎を積み重ねた上で身に着くものです。家伝の戦術や理論などは、基礎が出来ている前提がないと使えませんし。ですから近道はないんですよ。そう言う方々を他人が見て努力していると感じても、当人は生活の一部だから当たり前のことなのに何を言ってるんだって返って来るのはザラですから。その域まで踏み込めれば確実に見える世界が変わりますので、今、伸び悩んでる方も基礎こそ丁寧に積み重ねてください。まずはそこから始めないと夢見る資格も手に入りません」
『基礎は大事。オレならわかるね』
『その家に生まれてもやっぱり基礎は変わらんのか』
『家ガチャ当たっても幸せかどうかは……クッ』
『ほっほっほ。人生ショートカットは出来んのじゃよ』
『あなたはもしや……老師!老師じゃないですか!』
『唐突に湧いた老師ネタで草』
『ワイも地道に練習するか……』
「ちなみにですけど。基礎を極めれば奥義になるとよく言われるのをご存知ですか? 実際にそれを証明した人こそヘリヤです。一見、必殺技風でも全て基本技ですよ、アレ。既に奥義を超えて基礎の極致にまで届いてるのが恐ろしいところです」
『ひぇ!』
『あれが基礎だと⁉』
『ほっほっほ。ワシ、ちびった』
『湧いた老師がお漏らししておられます!お客様に介護の方はおられますか!』
『メイドっ子が三度目のオヤツ補充してて草』
『動く背景タイプのゲストww』
三度目の補充はキャンディーを山盛り持ってきたルー。箱入りの黒いキャンディーを一粒取り出して口にポポイッと放り込む。
『おや?メイドちゃんのようすが』
『固まったw』
リスナーが異変に気付いたと同時にルーが百面相を披露し、ギギギと音が鳴るようにティナへ顔を向ける。
「ルー、そのキャンディーはウルスラが押し付けるように配り歩いている、薬局のサルミアッキだそうですよ。北欧人でも難易度が高いタイプだとか」
「ぐふっ。普通のドロップに見せかけてルーを仕留めにきやがったです。森の人、ルーに罠をし掛けやがったです」
「いえいえ、ウルスラの被害にあったのはルーだけじゃないですから」
『サルミアッキww』
『世界一まずいと言うアレか』
『ワイ、フィンランド人だけど薬局のはダメだ。それ超マニア向けだから』
『メイドっ子、大丈夫か』
『でも箱を見て進んで食べてたぞ?』
『サルミアッキと知ってて食べた節がある』
「ああ、海外のリスナーはご存知ないかと思いますが、ルーの母国であるオランダではサルミアッキが普通に食べられているんです。そのつもりで口にしたんでしょうけど、予想を覆されて文句を言ってるだけですので」
オランダ人のルーは、ドロップと呼ばれるサルミアッキ系のお菓子に馴染み深い。ところが予想以上にサルミアッキの味が強力で目を白黒させたのだ。
それでも「味が濃すぎるです」とモニュモニュ食べ続けているところは、Wald Menschenの戦闘士だからだろう。食料がない極限状態下では食用可なら何でも口にするよう訓練されているので。
『おお、食べきった』
『すごいな』
『ちょっと!また手を出そうとしてる!』
『ああ、行ったー‼』
『なんで⁉』
「もう、全く。ルーも文句言ってた割に直ぐおかわりして」
「姫姉さま、ナニ言ってるです? 食いモンが有れば食うのは当たり前ですよ?」
その受け答えにコメント欄も一笑い。
偶にフガフガ鳴き声を上げながら強烈な飴を食べ続けるルー。
味は兎も角、食べられるならば食べるのがルーである。
こうして、時たま妙な盛り上がりを見せながら、質問BOXから選んできた質問に、ああだこうだとリスナーを巻き込みつつ賑やかして配信の締めくくりとなった。
そして去り際にブチ込む姫騎士さん。
「そうそう。昨日ですがここのルーと一緒に、テレージアと従騎士達でミュンヘンのアーマードバトルに参加してきました。その様子は近日中に各局から動画配信されますんで、ご覧いただければと」
『おいおい』
『またしても最後にw』
『その話ききたかった(迫真)』
『安定のラストぶち込みで草』
『長くなりそうな話は説明放棄で丸投げすると言うww』
リスナーも慣れたものだ。ティナは良く最後で気になる情報を投げ込むので。
「それではみなさん、今日はこの辺で。次は世界選手権が終わるまで時間取れませんけど年内中にもう一度くらい配信するつもりはあります。それではおつかれさまでした」
「うい? 終わりです? んじゃ、知らねえ奴らサラバです」
『おつかれー』
『おつおつって姫、世界選手権代表じゃん』
『おやすみなさーい』
『世界選手権大会の話全く触れなくて草』
『姫おつー。たいかいがんばえー』
『おつー。仕事行ってくるー』
『おつー。終わりは挨拶できるメイドっ子ww』
『年内配信で大会の話待ってまーす』
コメントの流れるままエンディング動画を流すティナ。それが終了し、合計一時間半弱の配信枠は閉じられた。
一仕事を終えて、カップの水を飲み干すティナ。今日の配信を振り返り、出来具合と注意点や反省点を軽くメモして置く。こう言った作業は時間を置くと、記憶が一番気になった部分だけ印象過多になって仕舞い、他の点がうっかり漏れたりし易くなるのだ。
「さてと。今日もまずまず平均点で進められたと言っていいでしょう。少し長くなりましたが、ぎりぎり誤差の範囲内ですかね。さて、ルー。配信の片付けをしますから手伝ってくださいな」
「へーい」
配信終了後の後片付けをユルユルと開始する。
ルーは薬局のサルミアッキを食べ続け、配信終了前には一箱を食べきっていた。何だかんだと時たまリスナーの話題に上がり、配信の潤滑剤になったことは良い結果だ。違う方面からの相乗効果が、ティナの描いていたシナリオを良い方向に膨らませてくれた。中庸を征くよう安定させることを課している中で、何時もと違うタイプの起伏が生まれてリスナーにも良い刺激となった感触があった。
何事も遣り過ぎてはならないのだ。かと言って消極的過ぎてもいけない。
それはティナの立場が所以だ。
ティナは小等部の始めに、騎士競技者として表舞台に上がることを決めた。
だが、子供が将来の夢を語るなどの簡単な話では済まされないことを判っての話だ。カレンベルク財閥の、ましてや当主家の令嬢が一般競技へ参加することは、カレンベルク全ての名を背負って表舞台に立たなくてはならない。
名家の者が表に出るならば、少なからず家門の名を背負う。名を汚さぬ立ち居振る舞いは当然身に着けているが、表舞台に上がることは家の顔を代表し、また世間と近くなることを意味する。特に、政治や経済に影響を与える家門ならば、切り崩すに格好の標的と成り得る。
軍事に影響があるキューネ家なども、テレージアを護衛が陰から支えており、常に危険と隣り合わせなのだ。
名誉公爵であり大財閥当主家令嬢のティナは、背負うものが余りに大きすぎる。メディアに晒される機会が多い程、望まずとも一族の代表として行動を評価される。故に財閥の広告塔と成らざるを得ないことが付随するのだ。それは一族全体の利益に直結する重責を担うことに繋がる。
彼女の行動が過ちては改める間もなく、何万人が路頭に迷う可能性がある立場なのだ。
だからこそ、一族全体の利益を優先する。
だからこそ、中庸を征く。
赦される範囲を見極め、綱渡りのように。
生き方全てが緻密に制限された彼女には、本当の意味で自由とは言葉でしかない。
それでも誇りを持って歩み続ける。
全てを背負おうとも、ティナが自らの意思で選び取った人生だからだ。
「私が私で在るために掴んだ未来です。如何なることが起ころうとも、その責任は誰にも渡しません。それが唯一つ赦された自由ですから」
毎日訪れる明日が心の中をするりと過り、その縁を小さく呟いたティナ。
少女の肩に掛かる重責は重い。
それでも、何事でもないように今日を続け、明日を迎えるのだ。
(※)「スカイホイール」は作家や芸術家、思想家を鼓舞するプロジェクト「Orion's Arm Universe Project」からの設定借用です。
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