04-015.森の民と森の民。 Waldmenschen und Waldmenschen.
長くなりそうなんで二話にわけた
2156年10月12日 火曜日 午前十一時過ぎ
現在は第二試合終了後の休息時間だ。十時四十分終了の試合が最後であったため、そこから四十五分の休息となり、十一時二十五分が第三試合開始時間となる。並行して実施されているDrapeauフラッグ戦なども白熱した試合が展開され、観客も自分が気に入った競技場や、共有野外座席でビールを飲みながら観戦しており随分賑わっている。フェスタ祭りの騒ぎは変わらず、と言ったところか。
――Aチーム競技者待機室
次の試合マップが発表されるのは十一時十分だが、ティナ達は森林マップで対戦することが確定している。四試合で三つのマップが必ず割り当てられるよう構成されるが、二日目の二試合目が終わった段階では未実施のマップがあるチームに合わせることとなる。つまり、対戦相手のグウィン率いるBチームが森林マップを熟していないのだ。
その結果、奇しくも森林戦に特化したWaldmenschenを双方に抱えるチームが、その戦闘力を十全に発揮する森林マップでぶつかり合うことと相成ったのだ。
「おもしろいですね。ルーと森林マップで当たるとは組み合わせの妙ですねー」
「ティナ、何を呑気な……。あの娘、クレーフェルトでしょ? 森に入られると相当厄介じゃない」
カレンベルク一族であるクラウディアは、一族と共に歩むWaldmenschenについても当然詳しい。カレンベルク本家に見習いとは言え、護衛に就く者が上位の技量を持つことを知っている。故に、Waldmenschenのホームグラウンドである森林で跳ね上がる戦闘力に危惧の念を抱くのだ。
「森だとルーを正対させることが難しいわ、難しいのよ」
「そうね。後ろに付かれないことが重要なの。あの娘、今までの試合で後ろからスルリと入ってきて気付いたら獲られてるパターンが多いの」
マグダレナとリゼットは正面に対して圧倒的な戦力を持つ。しかし、この二人、後ろから攻撃された時の対処法が少ない。共に流派として技は練っているが、実戦で使うことが殆どないカテゴリーに含まれる。確かに高いレベルで技術の修得はしているが、使用する頻度の少ない技をその場面で即座に出せれば御の字、と言うレベルだ。それ以前に、通常の索敵方法で検知出来ない相手をどう捉えるかが悩みどころである。
「今日の第一試合で森林戦を遣った時のフロレンティーナを考えると、同門の娘は上からも降って来るかしら?」
「ルーは木の上を移動に使ってこないかと。まだ研鑽中で術は完成していないですから。今の段階で木々を渡れば簡単にバレますよ」
「そう。なら、上からの不意打ちを考慮に入れなくて済んで助かるわ」
「その代わり移動の姿は捉えられないでしょうから、攻撃された時が初めて認識することになるんじゃないでしょうか」
「結局、上の警戒がなくなったくらいで厄介なのは変わりないのね」
指揮官の一人エルフリーデも、音もなく相手の背後を獲るルーが、森林戦ではその能力を十全に活かしてくると今までの試合から分析している。そこへルーと同門であろうティナが、森林戦で披露した独自の技術――音もなく木々の枝を伝い飛び、容易く相手の背後を獲る――を見たからこそ、対処法に頭を悩ませたのだ。しかし、上方からの脅威はなくなったとは言え、認識が困難な相手は脅威であることに変わりはない。
実際、Aチームにはティナ、小乃花、ウルスラの三人が森林戦で威力を発揮するため、有利に事を運べるだろうが、それこそルーは序盤でその三人との対決を確実に避けて来るだろう。こちらが早い内にルーの動向を捕捉出来れば良いが、それも難しいと思われる。そのため、ある程度は味方の損失も免れないと計算しているのだ。
「やっぱ、UMAの正体が笑っちゃう的~」
「ああ、例のお話ですわね。わたくしも滅多に学内掲示板は拝見しませんが、さすがにお噂を耳にする機会が多ございましたので……」
「ブプッ、未確認生物姫騎士ッブハハハハハ! おかしいの! 姫騎士が未確認なの!」
「UMAスレのイキオイがスゴかったカナ。ホントのUMAだったら狩りたかったナァ……」
「姫騎士ナゾ生物疑惑。草回避不可www」
「私がお笑い担当に据えられてる件。そして小乃花、草を生やさないでください」
ウルスラが木の上を移動する話から今一番ホットな噂話へ舵取りをする。テレージアが学内掲示板を見て口を濁すと言うことは、この場では口憚る話題だったのだろう。そこへリゼットが、スレッドに記載された内容を思い出してどストレートに引用しながら大笑いをする。逆にララ・リーリーはUMAを狩れなくて残念そうだ。そしてボソッと小乃花が止めを刺す。渦中のティナは渋い顔を臆面も隠さず、ツッコミにもキレがなかった。
五月ごろから敷地内公園の森林地区で木の上を移動する未確認生命体――所謂UMA――が存在するのでは、と実しやかな噂話で盛り上がったことがあった。ここ暫く話題も鎮火気味であったが、今日のMêlée第一試合が行われたことにより、学園生達の間で話題が再燃しているのだ。
――UMAの正体見たり、と。
「さあ、一応マップが発表されたワよ。森林マップ確定ダッたケド、川を挟ンだ特殊な構造ね」
「みなさん準備の時間ですわよ。わたくしは学園の森ですと木々を斬り飛ばせない限り有利に戦えませんから、みなさんに戦いを託させていただきますわ」
「私も森は苦手カナ。実家にも殆どないしナァ」
「同じく、私もだしー。平原なら何とでも出来るけどー、森に消える相手と戦う技は持ってないしー」
ヴリティカは、マップが発表されたことにより、試合十五分前である事を告げたのだ。
今回、相手も森林戦に特化したルーが居るため、森林では一手遅れてしまうテレージアとララ・リーリー、ニルツェツェグの三人が居残り組だ。
テレージアの場合、森林の破壊が許可されるなら戦えると言っているところが恐ろしくもあるが。
矢庭に騒がしくなる競技者待機室。
鏡の前で、ティナがウッドランドパターン柄にフェイスペイントを仕上げていく。そして、髪を隠す偽装ネットに先の森林戦で拾ってきた現地の落葉や枝の葉を取り付けている。
その隣では黒尽くめの装備を纏う小乃花が目元を黒く塗り、頭巾と判別出来ない色味で仕上げる。
エルフリーデも鎧を変更している。グレーと暗緑色を基本とした、日の影に違和感なく混ざり込む、見た者の記憶に残り辛い塗装が施されている物だ。
黄昏時では完全に消えるだろう事が伺える色合いである。
そのままなのは、クラウディア、リゼット、マグダレナ、ヴリティカである。
ウルスラは元より森林戦に効果のある森に溶ける色合いの装備だが、追加で頭部は森林色のウィンプルを被っている。森の中で目立つトゥーへアードを隠すためだ。
「じゃあ、行きましょうか」
一応、総指揮官であるティナの合図で、皆が立ち上がる。
これが最後の戦いとするために。
――学園内公園エリアMêlée特設コート
元々は湿地帯跡を含む森林公園を学園敷地に再整備して取り込んだ区画であるため、遊歩道を離れて自然へ足を踏み入れば、中々に深い森が広がる。
さすがに観客が直接閲覧する場所を確保出来ないことから、各所のインフォメーションスクリーンで試合中継を観戦することになる。
森林マップの厭らしいところは、簡単に試合コートを変更出来るため、同じマップにならないことだ。
サイバースペースであるSHF――Solid Hologram Field――環境は、SHF環境用多機能ポールを三本以上起て、ポール同士を結んだ内側に形成される。その特性を生かし、自然環境では如何様にもフィールド、つまり試合コートを造り出すことが出来るのだ。
その最も顕著な例が、森林マップである。
森林内を流れる小川を挟んだり、高低差のある地形を選んだりと、毎回様々な顔を持つマップを造り出す。即ち、攻略方法が都度変わるマップなのだ。
森林戦の待機線は、公園エリアの遊歩道で所々に存在する、開けた休息スペースへ用意される。試合コートに一番近い場所の休息スペースであるが、試合コートの開始線に双方が辿り着くまでは数分かかる距離がある。
Aチーム十一名、Bチーム八名が、待機線で横一列に並ぶ。この場には選手以外、スタッフしか居ない。この場所の様子は、前述の通り、インフォメーションスクリーン越しに観客へ届けられている。まだ騎士達に放送はシャットアウトされていないため、学園生アナウンサーが選手を一人ずつ紹介していく。それに合わせて、名前を呼ばれた騎士が礼をしたり、手を振ったりとファンにアピールするのは何時も通りで、ファンサービスを兼ねているのだ。
ティナ達には聞こえないが、観客は随分と騒がしくなっているのである。その原因は、二回目となるがティナと小乃花のDuelでは見る事がない出で立ち。そして、いつもはミニスカメイド服でコマコマ動くルーであるが、今回はChevalerie競技では見たことがない装備で参戦して来た。その姿に然しものAチームのメンバーでさえ驚きを隠せない。
ティナですら、試合にソレを持ち込むとは……やるじゃないですか、と、ルーの評価とルーの使い方を理解したグウィンの評価を一つずつプラスしたくらいだ。
ウルスラなどは、「モリゾー! モリゾーがいる的~」と大喜びだったが。
ルーの出で立ちは、最新式のギリースーツだ。短冊状の布や依った糸、網目構造も持ち、自然の草木も使って偽装する戦闘服だ。狙撃手や観測手が用いることで知られており、現地の草や落葉などを網や依り糸などに引っ掛けて、より自然に溶け込むのである。高度なギリースーツ運用下では、視覚内に居たとしても、相手に気付かれることも少ない。下手をすると、匍匐状態のギリースーツの脇を気付かずに忍び歩きして仕舞うくらいだ。
そして、左手には光を全く反射しない暗緑色の前腕鎧と手甲を嵌めている。前腕鎧には背鰭状の鋭利な突起が鱗のように重なっている禍々しい形状で、ティナのKampfpanzerungのオプションパーツに良く似ている。
待機線で参加騎士紹介が終わり、其々のチームは指定された陣地の開始線に移動していく。斜めに蛇行する幅二メートル程の小川を挟み、フィールドを二分したマップ構造だ。この小川が曲者で、水が流れている部分は五十センチメートルほどしかない場所でも川の領域に入って移動、もしくは戦闘することは禁じられた。障害マップの建物や障害物と同等の扱いとされたのだ。
その理由は、マップ中央から数えて二十メートルほどのところに架かっている二本の橋である。一つはアーチ状をした橋、どちらかと言えば日本の太鼓橋のようにアーチの角度が深い。手前から見れば橋の最頂点が高いため、反対側に人が居るか確認出来ない形状である。要するに、勾配が非常にきついので「登る」と表現が必要なレベルだ。もう一つは幅一メートルの渡し板のような簡素な橋だが、取って付けたように造られた高さ不揃いの欄干が、武器を振ることを大いに阻害する。
橋同士は見通しも良いため、どちらの橋からでもお互いの状況が直ぐ判って仕舞う。部隊の動きを把握される、この橋と言う場所をどう捉えるのかが問題だ。
ティナ達は陣地開始線へ移動しながら、其々の所感を雑談している。
「ふむふむ。まさか橋を造って来るとは思いませんでした。やりますね。運営科か人間工学科ですかね、屋台とかモノ造りを得意な連中がいましたから」
「実物を見ると川と橋二本がやらしいの。アーチ橋は真面に戦える足場がない騎士泣かせなの。そうすると長柄武器で迎え撃つしかなくなるの」
「そうね、相手があの勾配を乗り越えたところで私のヘルバルトなら迎撃が楽だけど……」
「狭い方の橋も一人しか通れないし、コッチもクラウディアのヘルバルトかマグダレナとリゼットの刺突が欲しいわよね。でも……」
「それが曲者よ。橋で戦力を分散させラれるもノ。どっちを選んでモ足止めされるとシカ思えナイわ」
ティナは周りから良く見えるように架けられた橋が、ブラフにも主戦場としても使える考えられた配置と構造に感心している。森林マップなのに人工物を放り込んで今までに無かった局面を演出し、エンターテイメント性を向上させる運営は優秀だろう。
リゼットは橋が二本あるところの意味合いに注目する。この橋は鬼門であり、利用するためには迎撃が主体になってしまうと危惧する。
この試合の参加メンバーで唯一、長柄武器を扱うクラウディアも、指揮官としては橋に縛り付けられるのは宜しくないと判断している様子。
エルフリーデも橋を利用するには長柄武器が最良であると言ってはいるが、クラウディアと同じく指揮官としてはリソースが橋に取られることが問題だと考えている。
そして、ヴリティカの言葉が橋の持つ本質を物語っている。足止め、つまり、数を活かす戦いは出来ないと。
「みなさん、橋は無視しましょうか」
橋をどう扱うか語り合っていたところに姫騎士さんは事も無げにブッ込んで来た。
途端に、おいおいちょっと待てと言った雰囲気になったのは仕方ないだろう。
「今回のマップ、相当頭の切れるヒトがデザインしたんでしょうね。まさか運営が競技者に罠を仕掛けるとは思いませんでした」
ティナが言うには、侵入不可の小川へ一癖もある橋を架けることで、橋に対する思考誘導がされているのではないか、と。その証拠に、橋を使うことを前提に対策を話し合っていたのだから。
「たぶん、パンク王子もこの橋を見れば誘致戦術として利用するんじゃないでしょうか。今迄の試合を見ると戦術の根っこがアシュリーと良く似てますから。さすが兄弟ですね」
「じゃあ、橋はブラフで川を越えてこないと見る? なら、本命は待ち伏せとあの娘ね。こっちは索敵からの陽動戦術に持っていけばいいかしら」
「ええ、クラウの部隊は正面攻撃力が強力ですから一当てして警戒させながら追い込んでください。エルフリーデは挟撃に見せかけた偽装からの集中戦術で、恐らく伏兵となってるシルヴィアの足止めと戦線の押し上げ」
「了解よ。ウルスラとヴリティカのコンビならシルヴィアの隙を突けるわ」
「モリゾーはどうする的~?」
「森に擬態したルーを見つけられるのは、私か、小乃花、ウルスラの三人だけじゃないですかね? なので見つけたら適宜と言う事で」
森林で隠密機動に特化した専門職を索敵出来る人材が三名もいること自体が通常ではありえない。それが八名の中に居るのだ。相手チームにとっては堪ったものではないだろう。
それだけティナの集めた人材が尖っていると言うことではあるが。
「で、移動ですが。私と小乃花以外は、初っ端に陣地の左端っこ側にある小川を飛び越えちゃってください」
「飛び越えるって……川幅は問題ないけど、全員だと結構な音が出ることになるわよ。それに橋と川越えの二方向から陣地を侵略する予定だったのに、最初から部隊を左エリアに纏めていいの?」
エルフリーデは川越えする人数が倍の六名に増えたことによる、音の増加から行軍を察せられるのではないか危惧している。実際のマップを見るまでは、一部隊のみ川越えをし、もう一部隊は橋から侵略する手筈だったのだ。
「逆に音バレでこちらの移動を意識させたいですね。相手陣地の奥まった広い領域、戦線をそこまで押し上げましょう。川を挟んだ私達のエリアは最初から捨てることにします。相手にも使わせないのは変わりません」
「私は右の広いところから大回りで追い詰める」
「はい。小乃花は予定通り、それでお願いします。川を飛び越える音は出さないでしょうが、ルーの耳は自然以外で発生した音を拾うので注意してください」
「了解」
「私は橋のところ、つまりマップのど真ん中を牽制します。木の上伝いに」
森林に急場造りで橋を架けたのだろうが、小川とマップの位置関係を元に配置を検討したのだろう。だから橋の上を横切って生える木の枝などが考慮されていないことにティナはほくそ笑む。
「ちょっと、まって!」
「なんです? エルフリーデ」
「モリゾーのことでしょ~? アノ娘、私と同じに森の音ひろえる的~」
エルフリーデが話を止めて聞こうとした疑問に、ウルスラが合いの手を差し込んだ。
「ウルスラの言う通りよ。自然以外の音って私達の位置は常に把握されるってことじゃない」
「その認識でいいですよ? ただ、あの装備のルーは完全に単独行動でしょうから位置情報は相手に伝わらないかと。ルーの襲撃がある前提とすれば、この面子がいきなり心臓部分を獲られることもないでしょう」
それよりも、と姫騎士さん。
「ルーは森がホームグラウンドですが、それを加味しても脅威度は二段階上げてください。一番の脅威はあの小手です」
「小手? あの小手、装備じゃなくて副武器デバイス? ナにか特殊機能があル?」
「ええ、ヴリティカ。あれは、剣を絡め捕るためのモノです。あの小手で斬撃を受け留めるとバインド以上に剣の自由が奪われてしまいます」
硬く鋭利な金属がある一定以上の力で撃ち合うと、金属同士が噛み合う。その噛み合いは一瞬の時間ではあるが、互いの剣を固定する。しかし、互いが力を入れ続けていれば、噛み合いは持続してしまう。
ヨーロッパの剣技でバインド時、剣の重心側にある強い部分と切先側にある弱い部分によって駆け引きが起こるのは、金属同士が噛み合ってしまった部分を起点として次の手を打つためでもあると言える。
Waldmenschenが装備するKampfpanzerungの前腕鎧用アタッチメントは、断面が三角の背鰭を鱗状に複数重ねている。この突起部分は鋭利になっており、生身相手ならば斬撃能力も十分にある。しかし、本来の目的は相手の剣を絡め捕る役割を担う。この突起は斬撃や打撃を受け留める中炭素鋼を熱処理した強固な心金の上に、比較的柔らかい低炭素鋼の上金を被せた二重構造だ。剣の硬度より劣る上金が刃を必要以上に食い込ませることで、剣の撃ち合いよりも長く金属を嚙合わせる。その隙があれば相手を封殺することも容易い。
「防具が武器の概念ってのがね……。やっぱりWaldmenschenはアタマおかしいわ」
「ちょっとクラウ! 言い方ァ!」
「その機能だと、逸らせても突きは絡め捕れないのよ。絡め捕れないわ」
「なるほどなの。私とマグダレナは刺突主体なら問題ないの。でも逸らされる時は懐に踏み込まれるってことなの。悩ましいところなの」
「未体験の攻防になりそうネ。受けられたら即座に引クことが被害を少なクしそウよ」
背後からの強襲意外に、相手と正対した時の対策を用意して来たルー。そもそも森に溶け込むため、索敵自体も難しいく侮れない項目がどんどん増えていく。
そんな話をしている間に、自陣地の開始線に辿り着く。
この試合は、ティナと小乃花の二人が単独行動となる。
撹乱部隊としてエルフリーデ、ヴリティカ、ウルスラのスリーマンセル、威力偵察兼戦場の誘引をクラウディア、リゼット、マグダレナのスリーマンセルで部隊としては四つに分けている。
「今回のテーマは戦線の位置です。こちらが押し上げた戦線を中盤から陣地寄りに押し切られたら集中戦術にて一点突破。その後、電撃戦へ移行です」
こちらより奥に位置する相手チームの陣地にBチームのメンバーが揃ったら試合開始となるだろう。後一、二分と言ったところだ。
「さて、授業開始といきますか。彼等がちゃんと学んでくれますことやら」
「あら、今回の私達は先生役なの? 何を教えればいいのかしら」
クラウディアがお道化た問いに、ティナは短く答えた。
「正しい負け方です」
嫋やかな笑みを湛えて紡がれたそれは、騎士としての言葉だった。
――少し時間を巻き戻る。
開始位置が奥まったところとなるBチームの面々は、試合コートの外側を迂回しながら自軍の陣地へ移動している。森林マップの場合、試合開始前に試合コート内への立ち入りは禁止されているからだ。これは、マップ内に印や足跡を付けるなどの細工を防ぐ意味合いを持つ。
移動中も彼等の目を引くのは、やはり二本の橋であった。
「実物見るとエグイな。あの橋はトラップ臭しかしねー。位置的にも橋の造りにしても、使い方にしてもだ」
グウィンはマップの俯瞰図面が公開された時、橋が一つのキーポイントになると想定していた。有効に使うべく模索を繰り返していたが、実際に橋を目にし、その特殊な構造に練っていた戦術をリセットさせられることとなった。
「図面と全く印象が違うね。やっぱり細い橋が激戦区になるのかなぁ。僕だとあの人達を止められそうにないよ」
「アーチ橋は渡るのも、戦うのも不利でしょう。それは相手も同じことですが、橋の手前か渡った先が交戦地帯になるのでは?」
「いや。Bパターンで行く。強襲班はチェスターとミーナにスラヴェナの三人へ編成する。橋の占拠は止めだ。相手はこっちの陣地右側からも侵攻してくんだろうよ。その更に右外から迂回して相手の側面を取る位置取りをキープだ」
「私の班からスラヴェナを持っていかれるなら立ち回りをどうしますか?」
「要撃班はシルヴィアとアドリアナに縮小だ。二人は最初の予定通り、川に近い方面で場所をキープしてくれ。後は遮蔽物を利用して敵をやり過ごせ」
シルヴィアは強力な手札であり、これから戦う相手とも正面から撃ち合うことは出来る。しかし、強力であるが故に一つところで戦わせれば、全体の戦力低下となる。だからこそ、最低限の労力で確実に相手を仕留められる背後からの奇襲を以って一戦闘の時間短縮、および不可視の札にするのだ。
「私はグウィンと牽制班のまま?」
「マリーとオレは囮班に切り替えだ。陣地右側の川沿いを進んで、橋を利用すると見せかける。その後、オレ達は潜伏に切り替えて森に潜る」
相手チームと正面から当たる必要はない。相手の虚が突けるに越したことはないのだ。森林マップと言う自然の遮蔽物は、隠れることも、いざとなれば盾にすることも出来る。
「ああ、ルーは変わらず討伐主体で頼む。こっちのことは構わず戦局を掻きまわしてくれ、ってどうした?」
ルーは森を見つめてムムムと唸っていた。その目線は木立の生え具合や草の生え方、地形などを端から端まで舐めるように往ったり来たりしている。
「うい? なんですグウィン。オヤツなら分けてやらんですよ?」
「オヤツの話はしてねーよ! ったく、何か問題あんだろ? それを聞てーんだよ」
「しょうがねーです。教えてやるから良く聞けです。全員コソコソ戦法しないと狩られるですよ? 傾斜と草を利用しやがれです。匍匐前進も考えろです」
人が分け入らない奥深い森林とは違い、所々に木漏れ日が生まれる程度には森は浅い。倒木やコケ、シダ植物などが目に入るが、太陽の恩恵は背の高い草なども所々に生み出している。地形も平坦ではなく、起伏もあるため、それを有効に使えとルーは言う。身を屈めて動けと。
「あの森の人は、ちょっとの隙間から獲物を見つけやがります。隠れる場所が少ねえですから歩いてると良い的になりやがるです。後、小乃花さんの隠形もこの森の形だとシャレにならねえです」
Bチームは第二試合では試合の組み合わせがなかったため、丸々試合状況の確認の時間に充てられた。その際、第一試合で森林マップを戦ったAチームの戦力分析も当然の如く行っている。しかし、森林マップは試合ごとにレイアウトを変えるのだ。このマップは地面から生える遮蔽物の背が低い。それはウルスラが弓の射線を通し易いことに繋がる。その上、中途半端な遮蔽物の方が、小乃花の隠形――見えても認識が外れる――は効果を発揮し易くなるのだ。
「一番の問題は姫姉さまです。ここの木の深さだと、一度も地上へ降りずに移動できるです。踊り食いし放題です」
幾ら上手く隠れようが空を征くWaldmenschenにとっては誰もが無力である、と。
それは地を征くWaldmenschenにとっても例外ではなく。
「ルーも姫姉さまからコソコソしながら削りに廻るですが、一撃でも貰えばアウトなんで止めまで刺せねえのです。各自健闘を祈る!です」
被弾によりポイントを失っている場合、五メートルまで近付けば頭上にAR表示がされてしまう。遮蔽物を透過しない仕組みになっているが、潜伏行動には支障をきたすのだ。ならば、最初から攻撃を貰わないように立ち回るしかない。そして暗に、サポートを期待するな、とルーは言っている。
「厄介な話しか出て来ねーな……。皆、聞いたか? 強襲班と要撃班は互いに左右を確認しながら連携だ。班内は前後のフォロー。終始、隠れながら行動だ。移動速度より索敵されないことを重点におけ」
「Bパターンの三角はどうするの?」
スラヴェナが疑問を口にする。気にしているのは、Bパターンで用意した陣形を取らずに進軍することだ。この陣形は地続きであることを前提とし、敵に対して逆三角形で取り囲む。それぞれの頂点を守る班が順に波状攻撃を仕掛ける戦術を取れるようにしてある。が、それは機能の一部で、本来は頂点同士の班がそれぞれフォローし合うことによって継続戦闘力を維持するためのものだ。
「そこはオレ達、囮班が後から逆三角の頂点に入る。それまでは左右二点の配置で息を潜めろ。もし遭遇戦になっても確実に仕留められる状況じゃない限り退いてくれ。体制が整うまで仕掛けるのもナシだ」
この試合、圧倒的な戦力を持つ格上との戦いである。ならば、その戦力差を覆すためにはどうすべきか。
グウィンが示したのは、徹底した潜伏からの奇襲だ。限られた手札で一番勝ち筋が見込める戦法はこれであろう、と。
「さて、到着しちまったな。一丁、強敵に抗ってみるか!」
開始線に到着したグウィンは、その先を見つめる。
それは余人が見れば無謀だと言うであろう挑戦の始まりだった。




