【改】01-010. 履いていない同士、なにがですか? ~京姫その1~
京姫メイン
20201020サブタイ変更
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20250223 改稿
花花の試合が終わった五面コート。
京姫の試合は、同じコートの二戦目だ。今は会場準備のため一五分程の待ち時間となっている。花花の試合が三試合フルタイムで行われたため、試合コート面の順番がずれて待ち時間後すぐに試合となったのだ。
会場から退場する花花は、二戦目に向けて待機している京姫の側を通り抜ける。
すれ違う際、京姫は花花へ祝辞を述べた。
「予選ベストエイト、おめでとう」
「ありがとうヨ。次は、京姫ネ。先、待てるヨ」
「ああ、決めてくるよ」
京姫は競技者控室へと戻る花花の後姿をじっと見送る。簡単な一言なれど、彼女なりの激励を貰ったのだ。
そして、これから戦う試合コートを見て、スウッと目を細める。ただの女生徒である京姫から、騎士の顔へと切り替える。
これは然して特別なことでもない。ティナやヘリヤなどの上位者は勿論、先の試合で戦っていた花花やマグダレナも語り口調や態度が珍妙なれど、当然の如く切り替えをしている。
一定のレベルに至っている者では基本的なことで態々言葉に出すまでもない。だから、京姫も当たり前のように切り替える。
この学園の騎士科に学ぶ生徒であれば、たとえ初心者でも一年もすれば同様のようになる。試合に赴けば一瞬で騎士へと切り替えるコンセントレーションは基本中の基本だ。
騎士科に入学したならば、誰でもアスリートへ仕立て上げるからこそ学園が名門と呼ばれる所以でもある。
試合コート側の準備が終わる。スポーツ科学科がコートの清掃と破損状況を、電子工学科が機器状況を其々確認するルーチンだ。
腕を組んで自身を高めていた京姫と、今日の対戦相手であるテレージアは、試合会場脇の登録エリアで各種準備を完了させた。
審判に声を掛けられ、待機線へ横並びとなる。
そのタイミングを見計らって学園生解説者のアナウンスが流れる。
『皆さん、お待たせいたしました。第四回戦、試合コート五面の第二戦目が開始いたします。解説は引き続き人間工学科四年、エトヴィン・ホルデイクと、審判も同じく、スポーツ科学科五年、ヴィンツェンツ・スラーデクでお送りします』
一つの試合コートで複数の試合が執り行われるため、学園生解説者と審判は午後の交代まで引き続き同じメンツとなる。
『さて、来ました第二戦目。競技者紹介です。東側選手は、サブカルチャー大国から来た東洋のSAMURAI、二つ名【鬼姫】、騎士科二年ヤパーン国籍、京姫・宇留野!』
京姫はその場で折り目正しい深い一礼をする。長い黒髪はポニーテールにし、紫の組み紐で蝶結びをしている。そして礼から戻した顔には、総面と呼ばれる面具型簡易VRデバイスを付けているのだが、漆黒の鬼面である。
目元を大きくくり抜き、額の左右前面には二糎程の角が生えている。口元は牙の付いた大口が開く。
彼女の姿勢が良い佇まいと礼儀正しい振舞い、そして名前に姫の文字が入っていることからも、面の様相と相まって二つ名が【鬼姫】と呼ばれるようになった。
一六〇糎程の身長だが、やはり東洋系であることを伺わせる肩幅の狭さで、実際の身長より小さく見える。今は自然で無駄のない立ち方が、武術家の持つ威風を醸している。そこに、真っすぐ前を見る鋭く切れ長の目が合わさり、鬼姫の名を相応しくしている。
彼女は侍ではなく武将を模倣している。大鎧は仰々しいため選択から外し、徒立戦――歩兵戦――に向いた、漆黒の胴丸を身体に纏わせている。
腕は細い鉄の板を篠竹のように並べ止めた篠籠手、膝下を守る篠臑当も造りは同じだ。
足元は革足袋と草鞋を履いていが、こちらは現代の化学繊維で造られたものだ。鎧下は鶯色の鎧直垂を着用している。胴丸も直垂も臍下丈。
そして脚の着衣は競技向けに膨らみを抑えた袴で、布地は太腿上部分までの特殊形状。袴横部分も前後の布がなく、前紐と後ろ紐で腰を結んだ側面から吊り下げる造り。臍下から膝上一〇糎までの攻撃対象がとなる腰元は完全に露出している。近年の騎士衣装に準じた造りなのだろう。
丸見えのボトムだが、紺色で裏地がなくピッチリとしたサイドは紐に近いローライズボトム。ボトムの形状はビーチバレーの水着を起想させる。
『続きまして、西側選手は、中世は神聖ローマ帝国からツァイトライゼしたランツクネヒト、二つ名【花傭兵】、騎士科三年ドイチュラント国籍、テレージア・ディートリンデ・ヒルデ・キューネ!』
テレージアは、大仰に騎士の礼をするのだが、脚を前に出す様式で行っている。色とりどりの飾り羽が付いた派手なピンク色の鍔広帽は着脱防止の髪留めが付いている。簡易VRデバイスは帽子に隠されているがカチューシャ型だ。
胸くらいで切り揃えた髪は前後共螺旋状にカールしており、濃い黄色に染めている。瞳が濃い蒼であるため、目鼻立ちが良く映えるようになっている。髪型のイメージだけで言えば良くある貴族のお嬢様。(二二世紀でもドリルは絶滅していない)
一六〇糎中程の身長は、鍛えたことが伺える引き締まっているも、ムッチリとした肉感が殊更目立つ。零れる程大きな胸が拍車を掛けて大層ご立派な肢体だ。
彼女はランツクネヒトを模倣しており、非常にカラフルで派手な装いだ。鎧一式はメタリック調のピンクで仕上げられている。胴は身体にフィットする臍下の鎧で、大きな胸を主張したデザイン。腰回りは完全に露出し、黒いレースのガーターを着用。脚鎧の下に履いているストッキングを吊り下げている。
そしてボトムのインパクトは絶大だ。何とガーターに繋げた二本の黒いリボンで、前から後ろへV字に巻き付けたようなTバック構造となっている。さすがに、このボトムは各所から注意を受けていたが「ランツクネヒトは目立ってなんぼ」と頑として聞かず押し通しきった過去がある。
彼女は祖先がランツクネヒトから功績を上げて成り上がった男爵家の末裔だ。初代はランツクネヒトの中でも一際華美で派手だったという。成り上がりなれど貴族の意地にかけて、祖先が拘った派手なスタイルだけは譲れなかった。そもそもランツクネヒトの派手な衣装は目立つためではないのだが、現代に至っては見た目のイメージから認知され易いため、スタイル重視を前面に押しているのであった。
競技者紹介のアナウンスで湧いた場内が落ち着くのを見計らって、審判が声を上げる。
『双方、開始線へ』
審判とお互いへの礼は、テレージアは脚を前に出す様式の騎士の礼、京姫は背筋を真っすぐに腰から折れるお辞儀をした。
そして、揚々とした調子でテレージアが語り掛ける。
「ほーっほっほっほっ! はじめての対戦ですわね、東洋のSAMURAI。わたくし、今日の試合を楽しみにしていましたのよ」
「こちらこそ。戦い方を変えたという西洋の傭兵と手合わせ、私も楽しみにしてました。ただ、一つ訂正を。私は侍ではありますがが目指すものが違います。こちらの言葉ではKriegsheldが当てはまるかと。英雄と言う意味ではなくですね」
「そうですの? GeneralやFeldherrの意味ではなく?」
「ええ。単なる一勢力の筆頭ですね。戦国の世、部下を引き連れ戦陣を切る猛々しい将です。私の国の言葉では『武将』と言います」
「Bushaw――と言うのですね。それが貴方の騎士としての拘りですのね」
「あなたの拘りと同じです」
「ふふふっ、そうですわね」
テレージアは心の底から湧き出した笑顔で答えた。それはある意味、志を同じくする同士と言える者との邂逅であった。
テレージアの拘りであるランツクネヒト。京姫の拘りである戦国武将。
二人とも目指すべく、成りたい自分がある。
だからこそ、ここまで進んできているのだ。
その先へ行くために。
この試合を観戦している観客は、自分の簡易VRデバイスから今の会話を聴けるサービスを受けている。観客席からBushaw,Bushawと呟く声が聞こえている。
京姫の二つ名が【Bushaw】に変わってしまわないか心配ではある。
京姫は自分の二つ名【鬼姫】を気に入っている。彼女が憧憬する槍働きの武将、鬼武蔵(森長可。森蘭丸の兄)や鬼半蔵(二代目 服部半蔵正成)に似た二つ名であるからだ。
そして、年上の相手には丁寧な言葉使いとなって仕舞う京姫。
『双方、抜剣』
審判の合図がかかる。
面白いことに二人とも腰に剣を差しているが、メイン武器デバイスは別にある。
そして下を履いていない者同士。
テレージアは、六〇糎はあろうかと言う剣の柄を持っている。その先から一.三米はある剣身が生成される。両手を意味する大型騎士剣、 Zweihänderである。
剣身の鍔側三〇糎程がリカッソ――刃がない部分。手を添えたり握るなどの運用をする――が付いており、本来ならばそこを持って長柄武器のように遠心力と力を乗せた攻撃が出来るようになっている。
リカッソの剣先側は棘のように突起が付いており、敵に引っ掛けたり、リカッソを持って攻撃する際、鍔のような働きを持たせられる。剣身自体は剣先へ行くに連れ僅かに細くはなっているが、概ね真っすぐな直剣と言える。剣先は凡そ一〇糎程の二等辺三角形となっている。
剣の全長は一.九米に及ぶため重量は四瓩後半もある。実戦で使われていた同種の剣と比べても倍は重い。これは、剛力で知られた彼女の祖先が立身出世を果たした現存する剣がモデルだ。
右腰元には副武器デバイスのKatzbalgerが剣帯に吊られている。
大型ではあるが、これもLangenSchwertのカテゴリーに入る。
通常、騎士剣のような両手剣は、扱うには脚元から脇の下程度の長さが良いと言われ、剣身は凡そ九〇から一.二米程、柄は二五糎未満であることが多い。
このZweihänderは、剣身こそ騎士剣より少し長い程度の造りだ。
しかし、剣幅も厚く重量があり、その重量と大きさを生かす運用が出来るよう、柄自体も非常に長く取られている。剣種としては全長が長く、身長を超えることも多い。
Zweihänderはランツクネヒトが用いたことで有名となった。
ランツクネヒトは、この大型騎士剣を持って槍衾へ果敢に突撃し、槍の柄を切断したと言われる。手で持つ武器は固定されている訳ではないため、それを剣で切断するには非常に練度の高い技術が必要となる。
通常の斬る、突くは元より、遠心力も利用し剣を回転させ続ける運用など様々な技法があり、大きさと重量に頼る剣ではない。重量があるだけに、力だけではなく身体操作が重要となる武器である。
京姫が持つのは大身槍の柄だ。一米弱の石突が付いた柄から、六〇糎の太刀打部分と、その先に四一糎の穂が生成される。長柄武器の場合、手を添える範囲以外は全てホログラムで生成するルールとなっている。武器デバイスで物理的に攻撃が出来ないよう配慮された結果である。
槍の穂先は、大身槍としては短い長さの直剣状で、尖端は五糎程の滑らかな三角形だ。穂の断面が二等辺三角形となっており、片面が三角の山に、反対面が平面となっていることから平三角槍と言う分類になる。
生成された六〇糎の太刀打は本来、麻紐などを巻いて漆で固め、強度と打撃力を増すように造られている。敵の槍や太刀を払い、時には太刀のように振り下ろして打撃を与える場合に使用するもので、競技でもホログラムの柄部分は打撃武器扱いとなる。
槍の銘は、大身槍 銘 備前行包作。全長は石突まで含め二米、重さは三瓩弱。
そして、副武器デバイスは脇差を差している。
『双方、構え』
審判の声で二人は構えに入る。
京姫は、上段ノ構えをとる。左半身となり、前手を左、奥手を右手に持ち、肩の高さで水平に構える。槍の長さを競技用に手槍へ拵えているため、右手は石突近くまで下げている。初めて戦う大型騎士剣の出方を見極めるためだ。
相手の持つ大型騎士剣は、一部の男性騎士が使っているだけで、使用者は極僅かだ。
様式が異なる武術と相対するにはその大きさと重さが枷になることがあるからだ。しかし、今相対しているのは女子なれど、重量級の大型騎士剣を軽々と自在に使い熟す。
だからこその警戒であり、見極めなのだ。
対するテレージアは、剣先を上に顔の高さで柄を持つ型、Vom Tagの構えであった。攻防どちらにも優れている型ではあるが、大型騎士剣で、しかも遠距離から刺突が飛来する槍を相手にするとは思えない構えだ。
大型騎士剣はその重量から直接的な振り下ろしでのスタミナ消費が激しくなる。単なる力で振れば、重量と長い剣身による遠心力で移動エネルギーが増大し、場合によっては肩が抜ける。そのため、大型騎士剣では体軸を整え、関節の可動範囲を最適に使いながら剣を円運動させ、その回転を継続するように技を組む。基本は、剣の重さで身体が振られないように身体操作で扱うのだ。
敢て騎士剣として扱うならば、剣を背中に向けて担いだ型、Zornhutの構えや、刺突に対応するためLangenortの構えなどの方が向いている。
テレージアの構えが想定外だったが、京姫は花花の言葉を思い出していた。
――やれるコトをやる やれないコトはやれないヨ――
相手が予想の範疇を超えたとして、何時も通り自分が出来ることをすればいい。但し、大型騎士剣の破壊力は計算して技に上乗せする。そのことだけを念頭に置く。
審判が右腕を上げる。そして、合図と共に右腕を振り下ろす。
『用意、――始め!』
その声が終わるや否や、テレージアが飛び込む。
京姫は、まだ間合いは遠いまま大型騎士剣を左斜めへ振り下ろし始めたテレージアの攻撃を分析する。
あの長い剣であれば、蹈み込みで大身槍を上から掻い潜り此方の左腕に届くだろう。
ならば、大身槍の太刀打で受け滑らせ着弾点を下方へ流し、穂先が下段を向いたそのままで楊矢之槍にて、相手の左脚に突きを入れる流れを組む。
そして、迎撃のために大身槍を繰り出し始めた瞬間、テレージアが放った攻撃の導線が大身槍に繋がっていたことを気付いた。
彼女は最初から槍を破壊するための一撃を放っていたのだった。
攻撃力が全て大身槍に向けられているとすれば、たとえ太刀打で受けたとしても只では済まない。日本の槍は穂を留める茎が柄の中に通っており、その部分を切断するのは難しい。だが、大型騎士剣のエネルギー量を考慮すれば、柄と茎へ甚大なダメージを与えるだろう。最悪、ひしゃげるか、少なくとも湾曲するだろう。
既に剣が触れる直前であるため槍を引くことも出来ず、京姫は何とか金属製の銅金部分――茎を挟んだ柄を固定する金属の輪――で剣身を受け止めるように合わせ、大身槍のダメージを最小限に抑えた。
しかし、大型騎士剣の攻撃力は予想以上だった。大身槍を巻き込んで尚も勢いは止まらず、そのまま振り下ろされ轟音と共に剣先が地面へと飲まれた。テレージアは隙だらけとも言える状態で絶好のチャンスではあるのだが、京姫も大身槍の穂先が地面に食い込んでおり、反撃に出られない。目を遣れば攻撃を受け止めた銅金も変形しており、想像以上の威力であったのが伺える。
そして、この特殊とも言える状態から次に繋ぐ最善は何であるかを京姫は模索する。
一瞬の逡巡。
その間は、打ち下ろされた大型騎士剣が胸元まで跳ね上がり、胴に向けて刺突を放つ信じられない状況の展開を許して仕舞った。
視界へ入った異常な光景に、京姫は思考するより早く身体が動いていた。
大身槍の石突付近を持つ右腕を頭上まで持ち上げ柄を斜めにし、迫り来る大型騎士剣の脇腹に当て滑らせながら流しきった。
防ぐは出来たが、未だ大身槍の穂先は下を向いたまま。テレージアのZweihänderも流され、この位置取りでは互いが次への切り替えしを出来ない状態である。
そして、二人は飛び跳ねるように後退する。
その時、――ポーンと、攻撃が成功したことを知らせる通知音が鳴り響く。
音の余韻を残しながら、両者は射程圏から更に一歩ずつは離れた場所へ着地した。
「しれやられましたわ!」
テレージアは隠すことなく渋い顔を見せた後、ニヤリと嗤いながら一言発した。
その顔は、面白くなって来た、と言わんばかりだ。
テレージアは幕開けと同時に速攻で仕掛け、相手の武器破壊を目論んだ。それも大型騎士剣では不得手とする大上段で意識を構えに誘い、槍の持ち手を狙うと見せかる罠を仕掛けた奇襲攻撃。
相手の攻撃を誘発させて槍を真っ向から叩き折る。折れずとも大型騎士剣の威力であれば相手の武器を巻き込み、反撃出来ない形へ追い込める。
テレージアの思惑通り、相手は槍を防御ではなく迎撃に出して来た。槍の持ち手を移動して攻撃の導線をずらしながら。受け流してからのカウンターを狙っているだろう。
途中で相手も武器への攻撃を察したようで、被弾する軌道へ合わせ槍に付いている金属環が滑り込み、金属部分で受けるなどと言う離れ業をして来たことに瞠目する。
だが、それでも此方の遣ることは変わらない。
槍へ接触すると共に、切断の技に入る。軸脚である左脚の爪先――正確には母指球――をその場で踏み込み大地からの反発を受け取る。追加された力を脚から腰、背中を通して剣先へ届け、乗せた体重を更に荷重し瞬間威力を上げる。
さすがにZweihänderでも動目標の金属を断ち切ることは難しい。
しかも金属環で受け止め、被害を最小限に抑えられた。元々の目標である武器破壊は望めないが、そのまま金属環の脇を引っ掛けて槍を巻き込み叩き伏せ、動きを封じることに成功した。
次の一手も決まっている。剣を振り上げ、そのまま突き。
ところが、京姫は槍の石突側を持ち上げるように柄を斜めにして剣を受け流したのだ。
テレージアは再び瞠目した。槍と言う大型武器を何と繊細に、何と美しく扱うのだろう、と。
互いが攻撃範囲外の密着状態となった。テレージアはすぐさま蹈み込んだ脚で後ろへ跳ね飛び距離を取る。
が、突きを放った後の姿勢で緊急後退したため、僅かに腕と身体の軸がずれて身体が開いた。そこへ槍の穂先が跳ね上がり、腕を薙いでいった。
「それは、こちらの台詞ですよ」
京姫の声は何処となく楽し気だ。
そして、今しがたの攻防を振り返る。
テレージアが運用する大型騎士剣は想定の上を行っていた。
大型騎士剣が片手剣のような速度で揮うとは知っていたが、実際に体験すると別物だった。一撃が必殺の威力を持ち、それが中長距離までで軽やかに襲い来るのは悪夢に近い。
何とか大身槍の柄を使い往なせたが、その連撃に身が凍る。
彼女は大型騎士剣に特化するよう身体操作を最適化しているのだろう。
――強い。
これだ。これを見たくて、この学園に来たのだ。国元では経験することがない武術。そして強い相手との出会い。
――楽しい。
不思議と笑みが零れる。
あの時。
お互い近すぎる間合いを立て直す離れ際、テレージアの体勢がほんの少し崩れた。突きを流された姿勢から強引に身体を引いたことで、筋肉と関節の可動範囲を超えて左右の腕が上方向へずれた。その隙間へ、ごく自然に、まるで当たり前のように大身槍の穂が吸い込まれた。
鍛錬を積み上げ、身体に染み込ませて来た。その成果がここに有った。
「ほーっほっほっほっ! 京姫さんの槍運用が大変素晴らしかったですわ。これほど美しく扱える方に初めて出会いましたのよ!」
まだ、距離で仕切り直した射程圏の外でテレージアは忌憚なく賞賛と感想を混ぜて言葉を掛ける。
「こちらは背筋が凍りました。あの大剣で一瞬の内に斬り下ろしから刺突へ繋げる技量には正直、感服いたします」
応える京姫も、Zweihänderの運用に驚嘆したのだ。
お互いが想定の上を行く。
それが楽しいと二人は嗤い合う。
大身槍とZweihänderが搗ち合う。
高いが鈍い金属音を響かせる。
射ち、流し、巻き、躱し。
繰り返す攻防。
剣と槍ではあるが、お互いの間合いはほぼ変わらない。
等しく討ち合いが続く。
お互い一歩も引かず、なれど後一歩が届かず。
第一試合の時間一杯まで刃で語り合っていた。




