ある朝目が覚めると美少女になっていた、などと言うことはなく
他でちょこちょこ書いてた話が元ネタなんで、どこかで似たような事書いてるかも
9月1日、朝。
目覚まし時計が鳴り響く。
もそもそと起き出してアラームを止め、洗面所に行き、鏡を見る。
「知らない美少女が鏡に映っている?!」
「ちょっと朋子さんや、勝手に変なセリフ付けるの止めてくれますか」
「えー、良いじゃんか、お兄ちゃん美少女だし」
「無いから」
「はい、出来たよ〜」
「はいはい、ありがとね、可愛い髪型にしてくれて」
「ちぇー、最近ノリが悪いよ」
逆にノリが良い方じゃ無いですかね、朋子さん。とか言わない。
子供の頃から家族で一番の美少女として育てられ、中学くらいでだいぶ反発してみたりもしたが、正直もう疲れたというか、飽きた。適当にあしらうために、髪も少し長めにして後ろで束ねたりしている。
一応、こんな顔だからせめてと道場に通ったりもしたけど、見た目は変わらず華奢で女顔のままだ。
通学は電車。
ギチギチではないものの、それなりに混雑している。学生が多いがサラリーマンも何割か混ざっている。
隣に立っているちょっと派手目な女子高生がビクッとなった。
顔が青ざめている。
「ねえ」
「ひっ」
「これって痴漢ですか?」
女子高生のお尻をまさぐっていた手を捻りあげる。
「こ、このやろう、放しやがれ」
中年サラリーマン風のスーツ姿の男が殴りかかる。
まゆひとつ動かさずに今度は殴りかかった方の手を掴んで背中の方にねじり上げる。
「はいはい。狭いんだから暴れないでくださいね」
女子高生は驚くやらなんやらで動転しているようだったが、そう言うプレイでは無かったようで良かった。
「はい、すみませーん。降りまーす」
ちょうど駅に着いた。
痴漢を引き渡して被害者の女子高生と電車を待つ。
違う学校だけど電車は同じだったから仕方ない。
「あ、あの…」
女子高生が何か言おうとしたが、先に謝る。
「ごめんね」
「え?」
「触られたりする前に対処できたら良かったんだけど」
「え、そんな」
両手を前に出して振っている。
「オレはそう言うの分かんないけど、やっぱ痴漢に狙われたりする子って、それなりに決まってるらしいから、君も少し気をつけてね。女性専用車両とか利用するとか」
声は間違いなく男性。服装も半袖シャツにネクタイにズボン。男子高校生だ。
でも、首を傾げ気味にして微笑んだ顔は並の女の子ではかなわない色気があった。
「は、はい。分かりました…」
「よーう、新学期早々痴漢に遭遇して遅刻したって? 大変だなぁ、お前も」
今日は授業はないので昼前に終わり、クラスメイトの鈴木が話しかけてきた。
正直、今来たばかりなんだが。
「オレが尻を撫でられたみたいに言うな」
「実際触られたこともあるんだろ」
「ぐぬぬ」
鈴木は割と普通に相手をしてくれる珍しい男の1人だが、やはりどうしても外観弄りにはなりがちだ。
もうこれはどうしようもないので気にしないようにしている。慣れたし。慣れましたよ? ええ。
半分ふざけながら話をしていたが、鈴木が急に神妙な顔をして小声になる。
「そんな事より、お前10日くらい前に、凄い美人と喫茶店に居なかったか?」
面倒なところを面倒なやつに見られてしまった。
思いっきり顔に出てしまう。
こう言う面倒事と言うのはどんどん重なるもので。
「ほほーう、それは聞き捨てならないなぁ。詳しく聞こうじゃないか」
「げげ、生徒会長」
鈴木の後ろからおっかない顔をした美少女が現れた。
生徒会長、先輩で2年生。ヨーロッパのどこだかの人だけど、お婆さんが日本人だとかで、普段はちょっと彫りが深い日本人っぽい。化粧とかで誤魔化しているみたいだが詳しくは知らない。知り合ったのが小学生の頃なので、今更詳しい事を聞き直すのも変かと放置している。
どう言うわけか、オレのことを気に入っているらしく、チョコチョコちょっかいを出してくる。ちょっと苦手だ。
全く隠す気がないらしく、鈴木を含めほとんどの人が知っていて、今もあからさまに不機嫌だ。
「えーと、先々週? 偶然街で会って、喫茶店でお茶をしました」
めんどくさいので手早く済ます構え。
「さらさらでウェーブのかかった美しい髪、透けるような白い肌、吸い込まれそうなほど大きくて綺麗な瞳、スラリとしつつボリュームがあるプロポーション、ファンタジーの妖精とかそう言うのが実際に存在したらこんな感じかなって言う女性と一緒でした。ええ」
「へえ」
会長が今にも倒れそうな真っ青な顔をしている。
「あ、わりい、オレちょっと用事が」
鈴木が慌ててカバンを抱えると、そそくさと教室から出て行った。
逃げやがった。まあ、今はその方がやりやすいか。
「どうしたんですか」
「いや、君が女性の容姿をそんな風に褒めるのを初めて見た、気が、する、から…」
普段陽気な会長が弱々しい。
ため息をついてから会長の方に向き直る。
「あなたはめちゃくちゃ頭が良くて、びっくりするくらい勘が鋭いのに、たまにポンコツになりますよね」
「じ、自分で言うのもなんだが、私も容姿には、ちょっと自信があるんだ」
右手を鎖骨のあたりに持ってきて、胸を張って見せる。
強がっているのが見え見えだが。
「でも、君に褒められた覚えは、ない…から…」
いじめる気はなかったし、なんだか悪いことをしている気になってきたから、手をひらひらさせる。
「ヒント、オレは夏休み中喫茶店には一回しか行ってません」
「え?」
「ヒントその2、先々週、会長が喫茶店に行ったのは、誰とですか?」
「…あー、あれ?」
可愛く首を傾げる会長。
目に見えて顔に血の気が戻っていく。
「オレは学校での会長も綺麗だと思いますよ。自分がこんなだから、人の容姿をとやかくは言いませんけど」
「え、あ、そうなんだー、ふーん」
ニヤニヤしながら顔を近づけてくる。
本当に嬉しそうで、それはそれで悔しいので顔をそらして逃げる。
「いや、別に、そう言うんじゃないんで」
「違うの?」
「と言うか、なんでそんな変装みたいなことしてるんですか? 会長なら本当の姿でも、別に良いと思いますけど」
「本当の私?」
一転して真顔になる。
「本当の私って、誰だい」
「誰って…」
「他人から見た私が、私が見せたい私であるとは限らないんだよ。私が見せたい私が、本当の私だとも言い切れない」
「え?」
「だから」
ロングヘアの首元に手を突っ込み、そのまま横に腕を広げる。
さらさらと流れる髪が、真っ直ぐな黒髪からウエーブのかかった金髪に、黒い瞳が碧眼に変わり、肌も透けるように真っ白に変わった。
「私は真面目な生徒会長と言うキャラクターでロールプレイを楽しんでいるんだよ」
なんだってー
会長とは子供の頃道場で一緒に修行した仲で、金髪の外国人だと思っていた。
だから、高校で再開した時にストレートの黒髪になっていてどうしたんだろうと思ったけど、これは。
「なんだ、そんな簡単に変われるんですか。便利ですね」
会長はがくーっと頭を落として、また顔をあげて笑いだす。
「え? もしかして化粧したり髪染めるのが大変そう、とか、そう言う心配?」
「縮毛とか結構お金とか手間とか凄いって聞いたし」
「君は、ほんとに…」
「ほんとに、なんですか」
「大好き」
ぶっと吹き出してしまった。
「会長はなんでそんなに俺のこと好きなんですか」
「え? 顔?」
あからさまに怪訝な顔をされる。
怪訝な顔もほぼ美少女だ。可愛い。
でも、思い出されるのは中学の頃、何かで騒ぎになっていたのを止めに入った君の顔。
私の前に割って入った君がこっちを伺った時に見た、真剣な眼差し。
やっぱり綺麗な顔だったことにはかわらないけど、ちゃんと男の子だと思った。
「君は自己評価がおかしいんだよ」
「そんな事ないです」
「そんなことあるんだよう、取られないか心配なんだよー」
「抱きつかないでください」
抱きつかれる前に手で食い止めた。
翌日
「おまえっ、昨日例の女性と居なかったか? てか、あの子、この学校の生徒?」
うわー、めんどくせー。ちくしょう。どういうつもりなのか、あの人は。
後で、バラして良いか確認しなければ。
余談
廊下の窓に肘をついて、十字架をクルクル回して日光を反射させていると、どこからともなく会長が現れる。
「あれ? クリスチャンだっけ?」
「そうじゃないけど、お守り」
「なんのセリフだっけ、それ」
「…良かったら、貰ってくれます?」
「え?良いの?」
「オレも人から貰ったんだけど…」
珍しく家にいた姉が何か渡してきた。
「何これ、十字架って」
「仕事で作った評価用のあまり。詳しくは秘密だけど、科学的に効果のあるお守りだ。好きな娘でも出来たらあげるといい」
「好きな娘、ねえ…」
「女の子にでもあげれば、って言われて貰った物なんで」
嘘はついていない、よな。
「じゃあ、遠慮なく」
物凄く嬉しそうでちょっと申し訳なくなる。
いや、別に自分で選んだ物をあげたらもっと喜ぶかなとか思ってない。思ってないから。
「お姉さまと御呼びすべき?」
「オレ男だし年下なんですけど」
次の仕事に移るために机の上を片付けながら思い出して独り言を言う。
「ま、秘密って言うか、軍事機密だけどな」
終わり
なんか、最後のあたりがSF調になったので、不穏な終わり方にしてみたけど、続編とかはないです。