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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

なんだかんだ勇者していた俺は、国王に殺されかけされたのでダンジョン経営に打ち出した!(仮)

【作者より】

魔王との決戦から描いているので、残酷な描写タグをつけました。

えー、予告よりちょっと投稿遅くなりましたが、許してください。


「追い詰めたぞ魔王!」


それはそれはよくある展開で、俺たちは魔王と対峙した。

罠を不発させるために何時間も突っ走って、激しく息切れをしている俺ダイアス。

先の門番の突破で魔力量がうっすらの魔法使いマリット。

四天王との戦いで右肩をやられ、聞き手が使えなくなった戦士カルト。

唯一、まだ傷は負っていない…


シュンッーーー


空を切り裂く音がした。


「なんだ?」


風刃の飛んでいった後方に目をやると、ティナの胴がずれている。

その目は何を知らないように、魔王をにくめしく見つめている。


そしてつい今、一声も出さずに死んだ僧侶ティナ。


『貴様ッ!』


そう叫んで怒り狂いたいのは山々だが、残念ながら俺にはそんな自由はない。

何せここは戦場。目の前に桁違いの強さのラスボスがいる。


「すぅっ…」


俺は軽い深呼吸ののち、軽く息を吸った。

一気に間合いを詰めて、斬りかかる。

魔王の首に入った。


「グワァ…」


魔王は獣のように喘ぐ。

でもまだ浅い。


「マリット!」

「ダークファイア!」


魔王が獲物から目を離し、気を緩めた一瞬にマリットが短期詠唱で魔法を繰り出す。

そして今更ながらに気がついた。

これは…マリットの許容量を超えている、と。

そうしなければ勝てないが、マリットが死んでしまう。

俺が魔王の背後の壁に足をついた時、視界にマリットがマッチに火をつけるような、ボッ、という音で体を燃やすのをみた。

今も魔王の身体を燃やす詠唱を言い終え、溶け出した体を、火が駆け巡って、マリットの華奢な体の輪郭を描く。


肉の腐る、匂いだ。


俺はまた魔王へと斬りかかる。

今度は背。

魔王の巨大に轟々と燃える炎の中に飛び込むのは、生身ではただでは済まないだろうが、断熱のミスリルの装備で包んだ体では軽い火傷で終わる。


キンっ…!


骨に剣が弾かれる。だがこれで魔王の皮膚、筋肉を硬くしているアクセサリが壊れた。


…たった今実証済みだ。


体がまた宙に浮く。

そしてさっきと同じように壁を蹴る。

その衝撃で擦れた全ての装備で、肌がひどく痛んだ。

悲鳴を上げそうになるが、せっかくの剣舞のリズムが途切れてしまうから一瞬息を止めて抑える。


そしてまた首。

今度は筋肉を切った。

次は、次が最後だ。

俺は正面に回る。魔王と十分離れた床に、足を…。


だがそこはまだ魔王の間合いだった。

もうすぐ床に着陸できるという俺が宙にいる間。そこに魔王は自身の剣を投げた。


体に衝撃を感じた。


グサッ…


その肉の裂ける音と、血飛沫が視界を染めていく。


「グオ…ハッハッハッハッ…ヤッれ…よ……」


俺の体のあった場所から2メートルも離れた場所に、俺は着地した。

勇者たるもの、空中でも剣を大きくふれば移動は多少動かせる。

しかしカントは身を挺して、俺を守ってくれたらしい。


「グハアアァァァァアアァァァァ!」


鈍い音がした。

剣が骨でつかえている。だが、確実に入った。折れる…っ!

ありったけの力を込めて、体を突き出す。筋肉が壊れるのをもろともせず、骨を力任せに押し切ろうとする。切り裂かれるような痛みを全身に感じた。


急に時間の流れが緩くなった。

体がゆっくりと動いていくのに、体のバランスは崩れない。痛みをいくらかチリチリとした炒られるような痛みにまで収まった。


「わしを」


声が聞こえた。

声帯を壊しても、魔王は言葉を話せるらしい。


「わしを殺すか…勇者よ」

「殺すさ」

「呪いで息をしてきたこの身体。わしを殺せばただでは済まぬぞ?」

「俺は勇者じゃない。お前と同じ獣だ。俺の、家族、無実の国の人々…そして無二の親友達の弔いだ」

「そうか、獣か。…ハッハッハッ」


何が愉快なのか、魔王は笑った。


「お前も、痛いんだろ。複雑な呪いなんて体にかけるのは。しかもアクセサリが、半分は身体補修のもんだった」

「この2、3分で鑑定できるのか」


魔王は驚いた様子を示す。


「人間にしてはさすがと言っておこう。だが、痛みなんぞとっくに忘れた。希望、愛、感情、感覚、そして欲…。不死とは怖いものよ。守りたかったもの、あって当然なものを全て奪っていく」

「……」


魔王の言葉に、死んだ3人に想いを巡らせ黙っていると、「もっともわしも不死ではおらんかったがの!」と笑ってみせた。


「なあ…」


俺がまた口を開いた時、全身に切り裂かれる痛みが走った。


「ギアアアァァァァ!」


俺が少し遅れた悲痛の叫びをあげた時、魔王の首の骨は切れていて、俺は宙に浮いていた。

高さ4メートル。

その高さから受け身をとって、俺は這いつくばる。

背後ではサーーーーっと、砂が溢れていくような音がする。魔王が、生命の証である骨も血も残さず消えていく音だ。


這って、這って、這いつくばって、3人の骨を集めた。


この魔王の間にかかっている呪い。魔王の体が消え切ったからもう解けたが、腐敗が促進する呪いで、ティナの体は、もう骨だけになっていた。


骨になっては、姫としての見る影もない。


カントは運が良く、まだ肉が残っていたので、エメラルドの婚約指輪のはまった左指を切り出し、握りしめる。


俺の位置からでは魔王の手元など見えないからと、そして声をかけるより早く剣が落ちてくるからと、剣の持てない戦士としての最後だったのだろう。


マリットは溶け出したのが肉だけであったから、骨は残っていた。


切れ長の瞳。ショートカットに切られた黒髪。最愛の彼女の見る影もない。


それぞれの手にあたる骨をもち、俺は泣いていた。


ドロップアイテム受け取りの通知が煩く鳴り響く。


押し寄せる感情、体の痛み、そして随分遅れてうっすらとした達成感、魔王討伐の報告を義務のように感じた。


やがてすすり泣きが、叫び声になり、そしてまたしばらくして声ではなくなった。

いな、もともと声ではない号哭のような泣き方だったのだが、人間のもので無くなっていたのだ。


閉じていても涙を溢れさせる瞳をやっと開いて、親はドロップアイテムの一覧を凝視していた。


『魔王の呪い…他者から各々の思い描くもっとも醜い存在の容姿として見られる。種族名も人間でいられなくなる』


…らしい。

俺が思う醜い存在。魔王…。なるほどな。

平穏を羨む事を動機に地上支配に乗り出した、魔王らしい呪いかもしれない。


俺は一連を感覚的に理解した。

正直どうでもいいのだ。帰国しても───元々依頼人が国王だから職務としてちゃんと報告をしにいくが────喪失感しかないだろう。きっと伴侶もとらないだろう。

勇者として旅に出て半ばの頃からわかっていたが、俺はもう立派な魔物ヒト殺しだ。







「勇者のおかえりだ!!!」


どこから広まったのか、この客室の中でも最上階、随一のスイートルームにも、国民の宴の音頭が聞こえている。


俺は魔王城から転移魔法で帰った。

ドロップアイテムにあった、『最高位転移魔法・書物…消耗品。魔力を使わず世界を跨ぎ、この世のどこへでもいける』を使ったのだ。


他にもいろいろあったがそのほとんどが装備品、装飾品。もう旅になど出たくないから装備品はいらない。装飾品は売り飛ばして金にできるからまだマシ、と思ったが国へ帰れば豪華なもてなしで一生遊んで暮らせるだろうからどうでもいいのかもしれない。

ただ一つ例外なのは、『ダンジョン作成キッド・完全版』。


「なんだこれ」


『ダンジョン作成キッド・完全版…消耗品。異空間にダンジョンが作れます。生命体も入退場できます。ダンジョンの組み立ては作成者クリエイターの自由です』


説明書は別途あるのだろう。道具屋のおじさんがするようなお品書きが書いてあった。

つまり、まるで意味がわからない道具。もっと言えばイベントトリを消費するだけの得体の知れないもの。

とはいえ俺のイベントリは四天王のドロップアイテムで、許容量は無制限なので俺は放っておくことにした。



さて、まずは先程の謁見の間での話をしようか。



勇者「ただいま帰りました」


大臣「これ、国王陛下の御前ぞ!なんたる無礼だ!なっ…!どうやって入った!汚らわしいこじきめが!」


勇者「あーこじきに見えるんだ。言っとくけど俺、勇者。会ったことあるよね、大臣?」


大臣「ゆっ…勇者…。これは失礼いたしました。陛下!勇者様御一行がぁ…」


勇者「そーゆーのいい。扉くらい開けられる。君達どいて」


そう言って俺は扉の前を身震いもせず守る衛兵達をどかした。

言いながら背を押したのでバタリと倒れて血を流したが、大臣の取り入り方で本物の勇者と分かったのだろう。ついつい抵抗するもんだと思って、雑魚モンスターにやるような弱い力で押してしまったらしい。もっと弱められるよう力加減を考えないと、素手でも鉄盾を壊せそうだ。


勇者「あと俺、一人だから」


大臣に顔を向け、そう言いながら扉開ける。

大臣は遅れて、は、と声を出した。

大臣みたいに頭ばっか使ってる人でも頭は固いんだろうか。まあいいや。弁解するのもめんどくさい。

ただでさえ立っているのにも身体強化を使ってるくらいだ。さっさと事後報告も終えてしまおう。


勇者「陛下、ただいま帰りました」


国王「…勇者、と聞いたがの?(最近外交に手を焼いている)隣国の王子とは聞き間違いか大臣?」


勇者「いえいえ王子だなんて恐れ多い。ただの勇者ですよ。ティナのミドルネームでも言いましょうか?ラスト…」


国王「よいよいやめよ!我が娘を愚弄するつもりか!」


勇者「それは…まあいいでしょう。武力ではこの国中と戦っても俺が勝てますが、そんなに権力がお好きなら身の振り方もそのままで」


俺が自分の優位をあからさまにしたことに、国王はドキッとしたようだった。


殺気は随分おさめたつもりだったが、ここのところ6年ほど出しっぱなしだから、世界の上流階級でそれなりに熾烈な争いをしてさぞ大変だろう国王にはわかるらしい。

さっさと種明かしをしてその化けの皮を剥いでやりたい。


以前国王は、国民の苦しみは死ぬよりも辛い、と旅立つおれ達を鼓舞していたが、7年前から3ヶ月前まで───3ヶ月前から俺たちは魔王城の近辺、人間の住めない場所に足を踏み入れ、後退しないでいた────至る所で見かける辺地では、雑魚魔物の被害で第一次産業が後に引けないほど酷い被害を負っている。

そんなご時世というのに、見たところ毛皮のマントに手作業の細かな絨毯に、一点ものの手で染めたカーテン…と贅沢品の数々。相変わらず贅を尽くす国王とその実の娘のティナではどちらの方が献身的に国民の幸を願っていただろうかは、後で国民にじっくり聞けばいいだろう。


勇者「それで、えーー、魔王は討伐してまいりました。今回の討伐隊で我が国の被害は五万六千七十三名。他連合諸国を含めますと、有に二百万を超えると考えられます。既に帰還したものがどの程度か存じませんが、その多く、大多数の兵士は一体の魔物にも歯が立たないことが多く、帰還者のその数によっては五百万左右いたします。では、報告は終わりましたので、私はこれで。一番上の客室を使っても?」


国王「よい、が。他の者は?」


勇者「俺の友人はみんな死にました」


国王「ティナもか?」


勇者「?ええ」


勇者は気狂いになった、と大臣は思った。

わざわざ名を挙げずとも友人の死を告げても、涙をこぼさず、頬を心地悪い作り若いから歪める気配さえない。我々貴族も似たような者だが、ここまで完璧な仮面は見たこともない、と。


国王「…そうか……」


国王は沈黙の間、玉座から腰を浮かし、そしてまた座って、ため息混じりの頷きをした。

国王も似たようなものか。と大臣は思った。こちらもシワをひとつも動かさず、普段のようにお花畑の小人のような笑みを絶やさない。


国王「あとで一流コックの料理を運ばせよう。どうぞごゆるりと休まれよ、勇者殿」


勇者は何も言わずに、礼をすることさえせず部屋を出て行った。

息の詰まる空間から、ようやく息ができるようになった。

だが玉座からは憂鬱な空気が流れてくる。

国王の緊張も解けたのだ。

そして国王は初めて、(普段の顔ぶれの使用)人がいるのに気がついたように、「下がれ」と人払いをした。







最初の3日間は宴だった。

勇者はいくら身体を洗い、服を召し替えてもこじきにしか見えないと大臣は幾度となく目を疑った。

国王はどれほど血の匂いが勇者の肉体に染み込んでいても、どうしてもティナを嫁にと催促する王子の顔が離れなかった。

そして国王は、勇者の帰還宣言さえなければティナが生きているような気がするという私情にて、なかなか勇者を国民の前に引き出さなかった。

今になって国王は、呪われた子───国を不幸へ向かう前兆とされる。実際魔王が目覚めたのはティナの誕生が原因とし、国王は13歳までティナを幽閉していた────言い伝えられる白髪の子供、三女ティナへの愛情に気付いてしまったのである。


宴はあと何日も続くように思われた。

しかし国民はいくら待っても現れない勇者一行に疑いを持ち始めた。


そして国民の矛先が己に向くことを恐れた国王は、勇者に王族殺しの汚名を着せ、処刑したと発表した。

秘密裏に本物の勇者も斬首刑に掛かったのだが、その合間、一人も傷ついた様子はなく、ただ勇者一人、その場から消えていた。





「どうすっかな」


勇者は一気に都市部から駆け抜けた。

文字通り、駆け抜けて行った。

城を出る途中、国王の金庫から拝借してきた金貨でしばらくは遊んで暮らせそうだが、事実上追放されているようなものだし、どうすっかな。

目につかないところに住みたいけど…。


あ、ちょうどいいところに寂れた宿屋発見!


「20泊」

「あーらいい男ね」


気のいい女亭主さんだ。


「俺がここに泊まってるって事、誰にを知らせちゃダメだぞ?」


そう言って俺は金貨を一枚置いた。

女は目を見開いて、その金貨を女にしては高い瞬発力で両手で掴んだ。


「いいわいいわ。ご飯も本当は一色だけど、三食つけてあげる」

「ありがと」

「いいのよ」


こんな会話の後、俺は二階の一番奥の部屋に通された。

質素だが、悪くない。簡易的だが風呂までついてる。


「さーてどうすっかな」


俺は久々なベッドに横たわり、その柔らかさにぎょっとした。なんだかスウィートルームは高反発の布団だったらしい。

こうしているだけで体が癒えていく気がする。俺は痛みの薄いという素晴らしい時間を過ごした。


「イベントリ」


そして俺は先日の、『ダンジョン作成キット・完全版』を開くことにした。









【今回はあらすじありません】

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