ハードなチュートリアル
「ふぁ......」
よく寝た。
もう変異は終了したのかな?
何だか体が軽いや。
その場で軽く跳ねてみると、
「わお」
ぴょーんと一メートルぐらい真上に跳べちゃったよ。
やっぱ異世界の遺伝子凄いね。
地球の遺伝子は結構同じやつが多いから大した変異はできなかったんだよ。
僕が今まで持っていた能力なんてせいぜい空気からタンパク質を合成できるぐらいだ。
どうやら体液に毒が混じっているみたいだね。
爪も堅くなっているし、少しマンティコア(仮)寄りの特徴が出ている。
さて、このままジャングルでサバイバル生活をしてもいいんだけど、腹が膨れて十分に休んだら屋根のあるところが恋しくなってきた。それにそろそろ日が沈む。
なので僕は川沿いに下流へ歩き始めた。
****
「あちゃ~」
とうとう暗くなってしまった。
それでも僕の目は暗視能力があるから結構周りは見える。
深海魚の遺伝子だから別に視界が緑緑しているわけではないよ?
ただ結構視界が悪い。
時々藪とかで陰になっていてそこらへんが凄い見難い。
休息はさっき取ったし、夜になって冷たくなった地べたで寝るのもなんか嫌だし時間の無駄だから夜だけど歩いている。
さっき人面虎という物騒な生き物と会った割には我ながら結構無防備だと思う。
ラノベの主人公だったら危険だから用心するんだろうけど、あいにく僕は危険という感覚が無いに等しい。
それにマンティコア(仮)もおいしく頂いちゃったしね。
そんなとりとめのないことを考えていた僕の目に映る淡い光。
赤く揺れているところから見て十中八九焚火っぽい。
なんか焦げた臭いもするし。
「あ、」
でもちょっぴり血の匂いもするな。
耳にも金属がぶつかったような音が聞こえるし。
さっきまで草のこすれる音と紛れて気付かなかったね。
戦っているみたいだし、これはあれかな?
街の方向が分からない転生or転移してきた地球人が手助けに入ってそのまま一緒に行動する的な、無一文で無知識スタートの異世界人へ課せられるチュートリアルみたいな奴だよね?
それならば行かない手はないでしょ。
よくある人助けの精神なんてこれっぽっちも持ち合わせていないけど、残念ながら今の僕は無一文だしこの世界もよく知らない。
僕は貰えるものがあったら貰う派なので遠慮なく頂こう。
とりあえず戦況確認だね。
なにか僕の勘違いで要らぬ世話をしてしまったら気まずすぎる。
手ごろな木の上から戦闘の行われている下を見下ろすと、
おお......
まさかこんなところで会うとは思わなかったね。
さっきおいしく頂いたマンティコア(仮)が三頭ほどで荷台の前で震えている人と剣を構えている人たちを襲っているよ。
何人かは毒で死んでいるっぽいし、
チュートリアルにしてはハードだねこりゃ。
全員顔が恐怖でいっぱいだから遊んでいるわけでもなさそうだし、勘違いとかはなさそうだね。
それじゃ、
軽く指先に意識を集中すれば鋭く硬い爪が少し伸びる。
チュートリアル、
スタート!
中心にいる一頭の頭上にグシャっと着地しながら右に居る一頭へ抜いた剣を横なぎに振りぬく。
ひるんだその目に指をグサッとして中身をさっとかき回せば、視神経をブチ切られて痛みに悶絶する。
そのすきに後ろから奇襲をかけてきたもう一体の毒針。
なんかデジャビュ。
地球では銃弾喰らったっけ。
二度も同じ手は通じないよ?
ていうかやっぱり尻尾の毒針飛ばせるんだ。
別に喰らっても問題はないが、普通の人間は喰らったら死ぬので向上した敏捷性で避けておく。
そのまま目をつぶした一体と同じく余った左腕の指を目にねじ込む。
そうしてあげればあとは指から侵入した個体が脳を食い荒らすので素早く離脱する。
「大丈夫?」
頭蓋をたたき割った一頭はともかく、残りは今のところ痛みでまともに動けないが、脳を食い荒らすまでしばらくは攻撃してくるかもしれないので剣を構えながら背後にいる一団へなるべくやわらかい声を意識しつつ声をかける。
「あ、ああ。仲間が数人やられてしまったが......助かった。」
それは良かった。
どうやらチュートリアルは成功したっぽい。
これで異世界ものの最初にある洗礼と言ってもいい街入りは心配しなくてもよさそうだ。
十分ほど構えていると、突然残りの二頭から力が抜けた。
無事終わったみたいなので、任務を終えた同胞たちを迎えに行く。
「? 何しているんだ?」
「ああ、気にしないで。それよりどうしてこんな場所に?」
回収作業はちょっと不審な目で見られた。
上手く話をそらせたのは自分でもちょっとびっくりしたよ。
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