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僕は僕であって僕でない。


 洞島秀寄。

 

 それが僕の名前。

 僕の個体識別記号。


 だけど僕は個人ではない。


 元々は個人だったらしいよ?

 でも個人だった記憶はない。

 物心つく前に親父が僕を変えたから。


 親父は優秀な研究者だった。

 専門は細菌学。

 カビとかを研究していた。


 細菌っていうのはすごくて、

 種類によっては一週間で一万倍に増えるものもあるし、

 キノコみたいに頑丈な構造物も作り上げられる。


 その生命力は強く、栄養さえあれば増えるため実質的な寿命もない、変異をして、時には放射線への耐性すら獲得しうる。

 

 そして微生物とは違い、集団で塊になり、個体間で栄養や情報の伝達もできる極めて原始的な生物だ。

 

 で、親父はそこに目を付けた。

 人は大量の細胞で一個体を成す為頑丈だが、生命活動は臓器無しに行えないし、老化というプログラムには逆らえない。それに進化もゆっくりなので環境に適応できなければすぐに死んでしまう。


 だけど、細胞一つ一つがカビのように独立した個体であれば、一つだけでも生き延びられ、素早く変異し、栄養がある限り再生を繰り返すことができる。


 外見では傷を負ってもそれは群体にとって傷ではない。群体を構成する内の数個体が死んだだけだ。増えればまた埋められる。



 そう考えた親父は膨大な量の遺伝子編集をした粘菌を試しに僕へ投与したらしい。

 投与された粘菌は僕の免疫系を破壊してから体細胞一つ一つと入れ替わり、僕に成り代わった。

 人格形成が完了する前に変化したから元の人格が破壊されることもなく、お陰で今も論理的な判断ができる。


 

 だから僕にとって怪我は怪我でない。痛みの代わりに削れたという情報を受け取るだけだ。

 よって恐怖も大して感じない。

 傷はすぐに癒えるし、毒も変異することで克服できる。

 生の組織を食べればそこから遺伝子を取り出してより敏捷に、強靭に変異する。

 痛みがないからリミッターを外してフルパワーも出せる。

 脳の代わりをしている頭の中枢をぶち抜かれても、気絶はするけど基本元通りに再生する。


 赤い血のような体液中にも高濃度の粘菌が混じっているから、僕の意思一つで接触した対象の粘膜に侵入し、中身を食い荒らすこともできる。


 


 だから僕を殺すには再生しないよう完全に燃やすか薬品で溶かすか、親父の作った自壊させる薬品の投与くらいだ。



 僕という一つの巨大なコロニーが作り出す集合意識と言う名の社会。

 その社会に生み出された大いなる意思は人格となり、概念レベルで僕の意識を形作る。

 一つの種として完成し、完結している僕は体内で繁殖と老化のサイクルを繰り返し、強固に存在しているわけだ。


 人間の社会だって人口が多少減ったとしても、ちょっと揺らぐだけで社会システム自体は存在し続ける。

 それと同じようなシステムという名の人格を持つ僕に、種全体の完全な絶滅以外で精神的、肉体的な死はあり得ない。

 それ以外であれば増殖して機能を補完しあい、何度でも復活する。

 


 だから最近ちょっと悩んでるんだよね。

 僕は僕という確固たる一つの意識を持つけど、肉体は僕という一つの存在ではない。

 世界の人口を遥かに上回る、37兆個程の個体が集合して作り上げた巨大なコロニー。

 珊瑚や蜂が一つの生き物のように振る舞っているように、無数の僕が集合意識として一人の僕を構成し、演じているだけ。


 じゃあ僕って何なんだろうね?

 


 

 

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