魔力同調
「エルナさん? アンジュさんってどこにいるんですか?」
通行税分のお金をトムさんに返し終えた僕はエルナさんに声をかけた。
エルナさんがこっちって手招いてきたのでおとなしくついて行く。
受付の奥にある扉を通り、長い廊下の右にあるドアの前で止まったエルナさんは、
「アンジュさんはこの部屋にいます。」
では失礼しますね。
とそそくさっといった感じに戻って行った。
少し小走りで戻っていったエルナさんから視線をずらし、ドアにつけられたプレートを見ると、『執務室』とあるし、多分アンジュさんはギルマスとかそこら辺の偉い人なんだろうね。
コンコンとノックして、
「失礼します」
と入る。
これは生徒が職員室に入る時に必ず行わなければいけない完璧な作法だ。
古事記にもそう書かれている。
目の前には書類を脇に片づけているアンジュさん。
「適当に座りな。」
と言われたので高級そうな革張りのソファーにどっかり座る。
「......。」
何を言われるかドキドキしつつ待っているんだけど、アンジュさんは一言もしゃべらずに僕の目を凝視している。
「あの~」
「あんた、名前は?」
うわびっくりした。
突然しゃべらないでよ。
まあ良いか、
「ヒデです。」
「ヒデか......わしはアンジュじゃ。見ての通りエルフであり、此処の冒険者ギルドのギルドマスターをしている。」
「で、肝心な本題じゃが。ヒデ、お主は何かとびっきりの秘密を抱えておるじゃろ?」
心当たりしかない。
「なんでそう思ったんですか?」
「魔力は人によって強弱や振動、性質の違いがあっての、魔力を感じる力を鍛えると魔力同調で人それぞれが心に持つ本能や衝動、欲望を読み取れるようになるのじゃ。」
それはすごいね。
てか魔力同調ってなんか強そう。
話から察するにアンジュさんは僕の魔力と同調して何か見えたと。
「それで......アンジュさんは僕の魔力に何を見れました?」
「お主が教えなければ教えん。......お主は一体何を隠している?」
えー
普通に教えてよー
ま、当たり障りない感じで遠慮してみよう。
「そんな大層な秘密じゃないですよ? 言ってしまえば......そう、それこそ男なのに胸が大きいって感じの、大したことはないけど猛烈に恥ずかしいから絶対に言えないっていう類いのものでして。」
「それでもじゃ。」
そこは遠慮してほしかった。
適当に言って誤魔化そう。
この人は僕の本質が見えるんでしょ?
深刻そうな顔からしてたぶんダークなイメージが見えたのかな?
じゃあその方面で行こう。
「ちょっと前に死にたくなって親の助けを借りて自殺しようとしたことですね。」
九割は事実だよ?
死にたくなったっていうか死んだほうが良かったって感じだし、マジで死んでるけど。
「十分大したことだアホっ。」
わっ
びっくりした。
まあ、ギルドマスターだし、冒険者たちが死んだ知らせを受けるのはよくあることなんだろうね。
死を重く見ていてもおかしくない。
ストレスとかヤバそうだけど。
でもうまく誤魔化せたみたい。
「はあ......お主の魔力に見たのはな、」
うん。
「二つのイメージじゃ。」
ほう。
「片方は街じゃった。」
へえ。
「だがな、そこで暮らしている者は全員血の様に真っ赤だったのじゃ。」
心当たりしかないね、
「もう片方はな、津波じゃった。」
はあ。
「そこでは赤い津波が世界を蹂躙しておった。」
あ、なるほどね。
「ちなみに普通の人の魔力には何が見えるんですか?」
「普通の輩は金と酒と異性が出てくるだけじゃ。」
欲望まっしぐらだね。
まあ、何を見たのかはよくわかったよ。
自分の本質を確認できたことだし、お礼に一つだけ教えてあげようっと。
「多分、気にしないでも大丈夫だと思いますよ。少なくとも危害を加えられない限りは。」
別に何かする予定もないし。
それにね、
僕を殺すのは大変なのだ。
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