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第一話 誕生


 輪廻転生なんて、信じてなかった。

 人間、死んだら終わり。そう思ってた。



 その先があって、生前の記憶も思い出も持って行けるなら、もっとまともに勉強しておくべきだったかもしれない。


 私は、死んだのだと思う。

 その瞬間は覚えてなくて、痛みや苦しみも記憶にない。

 ただ、どうして死んだのかは解る。


 無差別な悪意──。

 同じ人間による、殺傷事件──。


 最期の記憶は、剥き出しの悪意の表情と、鈍く光る刃。

 その時の音も記憶にはなくて、何故かその光景だけが切り取られたようにはっきりと覚えている。


 そうして、今()()にいる。


 どこか解らない、真っ白とも真っ黒とも言える、不思議な場所だった。

 何もない世界。静かな世界。穏やかな世界。

 温かな何かに包まれているような感覚。

 とても心地が良くて、ずっとここに居たいと思った。


 それを許さないかのように、何かに押し出される。狭い場所に押し込まれたのか、圧迫感に襲われた。

 少しずつ少しずつ押し出され、やがて圧迫感も何かに包まれる感覚も消える。

 代わりにヒヤリとした空気を肌に感じた。


 私は肺に空気を取り込もうと──。

 ちょっと待って、呼吸できない。苦しい。


 何かが気管に詰まっているのか、息を吸うことも吐くことも出来ない。その時、背中の辺りを強く叩かれた。

 というか痛い! 苦しいのに何してくれるの!

 言葉の代わりに泣き声が響く。


 あれ、この泣き声、私のだよね?

 ふぎゃあふぎゃあって、そんな赤ちゃんみたいに──。


「おめでとうございます。元気な女の子です」


 あ、赤ちゃんで間違いなかったみたい。そしてどうやら、産まれたのは私のようだ。

 出産を受ける側で体験するとは思わなかったわ。いや、する側も体験したことなかったけど。

 何しろ、成人式で無差別殺傷事件に巻き込まれたからね!

 人生これからというところで、私の記憶にある限りの最初の人生は幕を閉じた。


 やっと少しだけ落ち着いた。

 私の意識ははっきりしているのに、体がまるで他人のようで──あ、他人だったわ。

 いや、これから私になるから他人ではないのか?

 まあ、そんな哲学っぽい話はいいや。

 とにかく、赤子だからか、思うように動いたり出来ない。声もまだ出せない。当然か。

 鏡とかないかな、自分がどんな感じなのか見たい。視界ボヤけてるからちゃんと見えないかもしれないけど。

 そんな事を考えてるうちに、赤子の体は眠りに落ちていた。いつの間にか目も閉じていて、視界が真っ暗になる。

 本能に忠実なのだろう。私は理性。きっとそう。


 何か話し声が聞こえたけれど、モヤモヤっとしか聞こえなくて、何を話しているのか解らなかった。

 その声が聞こえただけで、この赤子はまた泣き出した。我ながらよく泣く。元気な証拠か?

 ふと、誰かが側に立っている気配がして、本能的に目を開けた。


 優しそうなおじさんが立ってた。


 ただ、雰囲気は優しそうなんだけど、金髪金目の少しワイルドな感じのおじ様で、ちょっと──いや、かなり怖い。

 理性の私でさえそう思うのだから、本能で動くこの赤子が怖くないはずがない。案の定、大号泣。

 おじ様、困った表情で少し離れた。ごめんなさい。


「元気の良い娘だ」

「ふふ、そうでしょう? ユティ、あなたもホラ」


 まだ誰か居るらしい。大丈夫か? この子、結構泣くぞ?

 不安になりながらも、おじ様の横から小さな子が前に出る。赤子の私が小さいと言うのもおこがましいけれど。

 私が置かれている場所が少し高めの場所らしく、しかも

その子の方を向いていないので、どんな子なのかよく見えない。恐らく、その子からも見えなかったのだろう。


 その子が移動しようとした瞬間、握っていた私の手にその子の手が触れた。


 本能的にそちらへと顔を向けたことで、私はその子と目を合わせる事が出来た。

 驚いた。すごく。

 胸を射られたというのはこういうのを言うのだと思う。

 目が合ったその子は美しい銀髪と青灰色の瞳を持つ、男の子だった。

 何この子、超可愛いんですけど。

 大人になったらカッコ良くなるの確定してると思う。

 眼福過ぎるわ。

 幸せな気持ちが赤子にも伝わったのか、笑顔になったのが自分でも解る。


「あらあら。お兄さんだと解るのかしら」


 男の子は私の兄らしい。

 ということは、同じ屋根の下で暮らす家族で、いつでもこの顔を拝めるのか。幸せすぎる。


「ユティが好きなのね」


 今でもかなり可愛いのに、成長してイケメン待った無しのお兄さんを見て、好きにならないはずがないです、お母様。

 お兄さんの方はそれに対して陰のある表情を浮かべた。

 憂い顔まで可愛いぞ、このお兄様は。

 そうこうしていると、先程のおじ様が私の視界を遮った。何してるのこの人、動けない私の至福の時間を奪うとか。

 さらに、おじ様は私をヒョイと抱き上げた。おお、高い。

 いや、高くてお兄様も見えないし、間違って落ちたらヤバイ高さだよ。怖い怖い。

 それは本能も同じようで、私の悲しみと恐怖を受けてまたまた大号泣した。

 さっきよりも大声だぞ。当然だろう。


「あなた、ファムが嫌がっているわ」


 母が「あなた」ということは旦那さんであって、となるとこのおじ様は父親なのか。マジか。

 お兄さんに似てなさすぎじゃないかい。いや、似なくてよかったわ。

 どうやら私の父らしいおじ様は、残念そうに私を下ろして母の腕に抱かせた。

 それでも、お兄さんが見えなくて、私は泣き続ける。

 早く見せろ、私のお兄様を。


「すっかり御機嫌斜めね」

「母上」


 私のお兄様は声まで最高でした。

 まだ幼いのにそこまで高くもなく、中音域で耳心地のいい声である。

 ピタと泣き止んだ私は再び兄の方へと顔を向けた。

 そして、求めるように手を伸ばす。


「あら? あらあら?」


 驚いたような母の顔は、どこか嬉しそうだ。兄妹の仲が良いのは親としても望むところだろう。うん。

 私の意思を汲み取り、母は私を兄に押し付けるように抱かせた。

 ぎこちない抱き方になって、安定はしないし落とされそうだけど、おじ様よりも何故か安心できる。

 何より間近に顔があって幸せすぎるので、しばらくこのままでお願いしたい。

 嬉しすぎてついキャッキャと声を上げて笑ってしまった。


「これは、ユティに子育てを頼むことになるかしらね」

「な……っ⁉︎」

「父よりも兄の方が良いと、この子自身が言ってるのですもの」


 そうです、兄が良いです。とても良いです。ありがとうございます。

 何故か、父は憎々しげに兄を睨んでいるけれど。そんなに悔しかったのだろうか。


「赤子の気紛れに過ぎぬだろう」


 その言い方はないんじゃないかと思った刹那、母が鋭い爪を伸ばして父の喉元に突き付けた。

 え、その爪、どうしたの?

 さっきまでなかったと思うんだけど。

 というか、あれ?

 今気付いたけど、母も父も、そして兄にも、犬のような耳が生えてる。

 いや、それだけではない。

 尻尾もあるし、全身毛むくじゃらで、着ぐるみみたいな姿だ。

 違和感なく受け入れていたのは視界がボヤけていたせいだろうか。かなりの衝撃があるぞ、これ。


「ユティ、その子はファム。ファミティアよ」

「ファミティア……ファム」


 こうして、私は獣人の子──ファミティアとして生を受けたのだった。

 中身は二十歳の乙女(笑)なんだけど。

次回、妹16歳・兄24歳、その生活や如何に?

兄は最強、私は最嬌、二人で居れば怖いものなし!

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