99話 鼻から砂糖が出そうだった
「え、マジか。カイル、お前……、殺されるぞ??」
思わず、口をついて出てしまう。
それくらいに、掛け値なしの厄災。
──いや、厄災なんて言っちゃ可哀相だが。
「ちっちっち、ちっがーうのめーちゃんっ!!」
「何が違うんだよ。誰がどう見ても……、そうなんだろ?」
慌てふためく次女に、深く頷いてみせるオレ。
物分かりのいい長女なんだ、オレは。
親父殿にカイルが殺害されても?
オレが、必ず……。
『この子たち』を、強く育ててみせるからな。
「だーかーらっ、アタシの子じゃないんだってば!」
信じてよっ。
なんて、言い募るシルフィ。
カイルは大人しいなと思ったら?
乾いた笑いを浮かべて。
ああ、これは単に、諦観してるだけだな。
現実に、戻って来ーい。
──現実。
世界樹の下枝を伝って降りてきた、シルフィ一行。
シルフィは相変わらず、賑やかで可愛い。
隣にカイルが居るのも、もはや定番。
オレが不在な半年の間に、随分仲を深めたみたいで。
そして。
シルフィの周囲に、シルフィそっくりの。
元気な子どもたちが、なんと五人も。
シルフィに抱えられたり、カイルによじ登ったり。
どう見ても?
シルフィとカイルの間に出来た、子供たち。
そんな風にしか、思えないんだけども。
「あのあのあのね、たった半年で産めるわけないでしょ!」
言われてみれば。
あ、いや?
実はもっと前から、婚前交渉してた可能性も?
「いえ、あの。まだ手しか繋いでませんので」
「キスくらい行っとけよ、甲斐性なしー」
なんで二人して赤面しまくってんだよ。
ほんとに、意外とこっち方面、ウブだよなシルフィ。
それは、ともかくとして。
はい。
説明。
「かぜかぜかぜっ、風の小精霊なのよぅ、この子たち」
「もし僕らの間に子供が出来たとしたら、と話していたら」
はぁ。
シルフィが舞い上がって、風の精霊力、垂れ流してたら。
──風の大精霊の意図を汲んだ、小精霊たちが。
結集して、子供みたいなものが生まれてしまった、と。
「肉体構造が粗雑だから、しばらくしたら消えると思うの」
「シルフィさん、消せば消せるって言うんですけど」
ああ、カイルの気持ちは、オレもよく分かるわ。
シルフィにそっくりの精霊なんだもん。
しかも、子供の姿。
綺麗サッパリ、消し飛ばすのは抵抗あるよな。
それで、二人して共同作業してるわけね。
……五つ子の、育児を。
「いっいっいっ、育児とかっ、そういうのじゃなくっ」
「いえまだ早すぎというか、もう少し段階を踏んで……」
どっかに馬、居ないのか?
オレちょっと後ろ足で蹴り飛ばされないとダメかも。
鬼の勢いで、のろけられまくってんですけどー。
いや、鬼はここにも居たか。
「かっ……」
「か?」
「可愛い! 可愛いよメテル姉! ちびシルフィ姉が!!」
意外と可愛いものに目がないよね、サラム。
しかし。
名前がないと、不便じゃないかねこの子ら?
「えっえっえっ、子供に名前、つけるとか、まだ早い……」
「ですがシルフィさん、実際、いま必要ですし……」
オレの全身の穴という穴全てから、砂糖が噴出しそうだ。
まあ。
こいつら、このままほっとくと、延々と惚気てそうだし。
ちゃっちゃと、オレが付けますかね。
仮の名前だし。
「えっ? めーちゃん、ほんとにほんとに名付けるの?」
「おう。前世知識からで候補たくさんあったし」
オレ、割と神様の名前って、詳しかったのよ。
シルフィ、つまり風の大精霊シルフィードの娘たち。
なので。
アネモイ。
ヴァーユ。
フェイリャン。
フラカン。
ルドラ。
全部、風の神の名前だけど。
……オレが大地母神の名前をつけられてるくらいだし。
別に、余所の世界の風神の名前つけたって、いいだろ。
「わー、良かったねー、ほら、『伯母さん』に挨拶!」
……意識的には、オレ、おじさんだからして。
オバさん、と呼ばれると、ものすぎょい抵抗感が。
てか、言葉喋れないんだな、ちびたち?
精霊力が足りないのかな?
オレ余ってるし、少し持ってくか?
「あっ!? めーちゃん、それダメー!!」
「んあ? いやだって、これじゃ成長できないだろ」
オレの前に勢揃いしたアネモイ以下、幼女五姉妹。
一人ずつ、オレの指を、ぱくりっ。
ちゅるちゅると、オレの大地の精を、吸い込んでる。
「育てちゃダメでしょー!?」
「……あっ?」
しかし。
アネモイだけに吸わせちゃ、不公平だし。
他の子らが、羨ましそうにオレとアネモイを、交互に。
そんなつぶらな瞳で見つめられちゃ、仕方ねえ。
うんうん、たーんとお食べっ。
大きく育つんだぞー、ちびたちよっ。
「これはもう、言い逃れ出来ないですね僕たち」
「ああああ、カイルぅ、もうどこか遠くに逃げるしか?」
親父殿なら、精霊力辿ってどこまでも追ってくと思うぞ。
申し開き、手伝うから頑張って説得してみろよ?
「めーちゃんより強い、怒れるお父様に言葉、届くかな」
そういえば。
人類最強のお父さんだった、親父殿。
ダメだったら?
カイルくんがこの世から昇天するだけだし。
霊魂で留まれば、別にいいんじゃないかな?
「僕はまだ、この世に未練がたくさんあってですね!?」
いや、肉体なくたってそう多くは困らないよ。
実際、オレら数万年以上、肉体なかったんだし?
だいじょぶ、だいじょぶっ。
……さあ、そうと決まれば。
親父殿、呼んで来てみようー!
「他人事だと思って無茶苦茶しないで、めーちゃんっ!?」
はっはっは。
他人の不幸は蜜の味。
てか、お前ら甘すぎなんだから。
さっさとくっつけ、この際だし。




