96話 もはや定番のアイアンクロー
親父殿とエルは、揃って地上に居残り。
なんか、新しい農場を開くんだとか、なんとか。
帝国から持ってきた苗や根菜を、植えてみたいんだって。
オレ、大地の権能は使えれども。
農業に関してはさっぱりドシロートなので。
そっちは、世界樹の精霊と知識人、黒の大賢者にお任せ。
で。
「ほほう。結構な、お宅で」
「いえ自宅ではなく、ここは入り口の防壁です」
違ったか、ざんねんっ。
ドワーフ族長の案内で、ドワーフ族の街へ到着。
バカでかいトーチカみたいな入り口を潜り、地下へ。
地下のつづら折りの階段を何百段も下った先に、広場が。
そこから更に下に、巨大な地下空洞が広がっている。
地下空洞は、ぶっとい石柱であちこちで支えられていて。
支柱の隙間を縫うように、これまた巨大な立坑がある。
その支柱と立坑を繋ぐように?
あちこち、縦横無尽にロープや坑道エレベーターがある。
外壁に面する場所に、何十層にも重なった建造物。
そこが溶鉱炉になっているようだ。
真っ赤に溶けた金属が、炉から川のように流れている。
奥は霞んでいて、常人では見えないレベルで広い。
ここが新大陸の、最大のドワーフ拠点なんだって。
ドワーフは「鉱人」の名の通り?
鉱物採集と金属加工の細工物を生業にしてる種族で。
その関係で、住居は地下にあるのが一般的だそう。
住居っていうか?
廃坑道に適当に横穴掘って、住み着くみたいな。
何というか、自由すぎるライフスタイル。
いや、嫌いじゃないっていうか?
職人が職人自身の職場に住み着いてる、みたいな。
そんな自由な価値観、結構好みです。
が。
問題は、別にあり。
「うわ、何この臭い」
「恥ずかしながら。ドワーフは臭いに無頓着でして」
族長さん、平謝り。
ああそうだ、名前を尋ねてなかった。
ドワーフの、ドーリンさん。
ドーリンさんが種族でいちばん強いとか、賢いとか?
そういう謂れで族長に就任したわけではなく。
単に昔から続く族長一族の長男坊だから、族長らしい。
まだ若いらしいのに?
顔には苦労したらしい小じわがくっきり刻まれていて。
ドワーフの年齢って、不詳だけど。
明らかに若年寄みたいな雰囲気を醸し出しておられ。
お、お疲れ様です。
そんな言葉を投げかけたくなってしまった。
汗っかきらしく、額の汗を小まめにハンカチで拭ってる。
ほう、奥さんのお手製で?
いいですねえ、甘いですねぇー。
そんなオレらの両脇を?
ツルハシやスコップ担いだドワーフたちが、大勢通過。
みんな一様に、くたびれた汚れまみれ、灰まみれ。
顔や体は服で拭くし?
拭いた服の汚れは長い豪華なヒゲにこすりつけるし。
なるほど、確かに。
衛生概念、というものが欠落してんだな、ここ。
逆に言うと?
そういうものの概念が欠落するくらい、頑健なのね。
「ボクらもここに住んでるんだよー!」
へえ?
なんでも、ドワーフとオーガは共存する種族で。
ドワーフは元々、金属細工に秀でているけど。
融解に高温が必須な白金その他の、高硬度鉱物の。
加工をやるようになったのは、オーガのおかげだって。
ていうか?
オーガは炎を操る一族。
それで、特に溶融炉に一家言持ってて。
武器や兵器の材料、つまりインゴット製造に長けてる。
炎の一族、徹底的に武器関係で固まってるなあ。
なので。
この地下坑道都市。
概ね下半分がドワーフの採掘場。
上側、溶解炉付近がオーガの領域で。
地下空洞なので、上に熱が籠もりやすい構造だけど?
オーガが熱耐性持ってるから、全然平気で過ごしてる。
……逆に言うと、そんなだからこの街、臭いのでは。
ちらり、とサラムを見ると。
くりくりお目々で、んっ? って小首を傾げて。
人目なかったら木陰に連れ込んで押し倒しゲフンゲフン。
サラムは炎の大精霊で、炎耐性あるから。
水浴び出来ない環境だと?
清潔を保つために、全身に自分の炎を纏うんだよね。
肉体は燃えないけど、汚れだけが燃えるから。
たぶん、他のオーガも?
炎を浴びるくらいのことは、平気なんじゃないかなあ。
オレが、地属性の武器で傷つけられないみたいに。
精霊力を持つドワーフやオーガも、同じかなと。
ただ。
オーガの皆さんも、臭い自体には辟易してるというか。
共存してるから、諦めてるけども。
清潔に出来るなら?
そうして欲しい、みたいな要望は持ってるみたいだ。
「誠に、オーガ族および大精霊様には申し訳なく」
「うーん? いや生活の習慣でそういう風なら」
呟く。
長年続く仕事の都合でそういう行動してるのなら?
オレが口挟んだって、すぐに改善できる筈もなく。
何より。
自分らが自分らの都市内でやってることなら?
外に迷惑掛からないうちは、気にしなくていいかなと。
──まあ。
オレは、ここに定住したくないけどね。
「そ、そこが問題でして。どのように、改善したら?」
「え? いやオレ、ここに住む予定ないけど」
愕然としないで下さいな。
サラムも。
なんで? みたいな顔しないの。
むしろ?
なんでオレが、ここに住み着くと思ったし?
地下は確かに、オレの支配域だけど。
地上で?
エルや親父殿と過ごす方が、楽しいに決まってんじゃん?
「だって、ボクと一緒に武術三昧できるよ?」
お礼にボクの体、自由にして、とか言い始めたので。
久しぶりの、姉妹アイアンクロー。
そういう誘いは、お前にはまだ早いっ。
おお?
サラムは体を後ろに逸らすブリッジで、結構耐えるな?
さすが、姉妹でいちばんの運動神経持ち。
ただ。
その薄着でそんな耐え方すると?
脂肪は重力に引かれて、もにゅりと移動するからして。
服の隙間から、いろんな部分が見えますよね当然。
「先端はまだ綺麗なピンク色だなあ」
「やぁん、人に言っちゃダメぇ!?」
体は育っても。
反応は割と、昔のままで安心したぞ、妹よ。




