93話 オレは素顔で笑顔向けただけなのに
「うわ。エルって、人気者なんだなあ」
思わず、足が止まってしまった。
だって。
一面砂の、広場。
どうやらこれから、宴会らしく?
様々な料理や飲み物が、そこら中に置かれている。
もちろん?
そんな量の飲食物があれば。
周辺一帯を埋め尽くす勢いの、人、人、人っ。
その、人々が。
みんなして、エルに向かってひれ伏してるんだもの。
「違うよ? エルよりも、ママの方が凄いもん!」
「いやオレは別に普通」
大精霊な時点で普通ではないでしょう、と親父殿。
う、ううむ。
尊敬する師匠で父親からダメ出しは、辛いです。
ええと。
じゃ。
百万歩譲って、オレが普通でないとして、だ。
──オレの外見って人間なんだけど。
この場に集まってるの、みんな亜人種だよね?
人間のオレが崇拝されて、いいのかしらん?
ええと?
森人、闇人、鬼人、鉱人。
亜人種見たのも初めてながら。
人族が一人も居ない、というのも初めてだ。
ほんとに、亜人種の大陸なんだなあ、と。
「「「「我ら四大氏族、種族を率い推参仕りました」」」」
お、おお。
遠いところをわざわざ、恐縮です。
察するに、それぞれの種族の長、らしい。
四種族四人、揃って膝をついてるのが、かっこいい。
エルフとダークエルフが女性族長。
オーガとドワーフが、男性だ。
みんな、めっちゃ若く見えるけど。
亜人種って総じて、寿命が人間の数倍って長命だから?
これで、数百歳くらいなんだろうなあ。
「「「「地の大精霊様に、挨拶仕りまする」」」」
あ、オレか。
え、ええと。
な、なんて答えればいいのだろうか。
と、とりあえず?
わ、笑って頷いておけば、いいのかな?
こ、こくりっ。
「「「「!?!?!?」」」」
──あっ。
しまった。
目隠しを、忘れていた。
「族長!? エルフとダークエルフの族長が、倒れたぞ!」
「担架だ、担架を早う!」
「精霊様、失礼します! うわ、真っ赤だ!?」
大惨事にしてしまった。
え、オレ悪くないよね?
宴会の席なんだから。
水に流して欲しいっ。
て、いうか。
オレ、お腹空いたぁ。
「忘れていましたね。女性に効くんでしたっけ」
ぱさっ。
親父殿にいつもの目隠し渡されて。
急いで装着、装着っ。
よく見たら?
広場のそこかしこで、女性ばっかり倒れまくってんな。
なんでだ。
オレ、普通に笑顔で挨拶返しただけなのに!?
……と、まあ。
多少ハプニングは、あったものの。
宴会はつつがなく、普通に賑やかに。
ただ一点、不満はあるんだけど。
「お酒はぜったいにダメですよ、メテルさん」
「ふえぇ。あれぜったいウィスキーなのにぃ」
ドワーフたちが浴びる勢いで呑んでる、酒樽。
つんとする刺激臭が香ばしい、琥珀色の液体。
うえぇん。呑みたかったよぅ。
「国王から聞いたときは、心臓が止まるかと思いましたよ」
「忘れて下さい。誓って何もありませんでしたので」
何かあったら、王都が灰になってたでしょうね、とか。
もしかして。
男性連れて帰ったら、凄いことになるんだろうか?
親父殿もなかなかに、子離れしていらっしゃらない。
「大事な娘を、そう簡単に嫁に出すものですか」
澄まし顔で、さらりと言ってのけられました。
せめて私に勝てるくらいでないと、だって。
あの。
親父殿、四姉妹最強のオレでも負けてるんですけど?
うわぁ。
これは。
シルフィとお話が進んでるっぽい、吟遊詩人カイルくん。
前途、多難だねえ?
そんなこんなで。
緩やかに、オレのおはようパーティは進行しましたとさ。
──で。
まさか、他の姉妹があんなになってるとは。
このときは、想像もつかなかったんだけどね。




