91話 目覚めたら全力で着飾られていた
「おはようございます、メテルさん」
「お、おは……よう?」
……あるぇ?
なんか、親父殿が。
めっちゃ日焼けして、心なしか、ちょっと筋肉質に?
えええ?
なんか、魔法で変身したり、しちゃったりしました?
「違いますよ。メテルさん、半年ほど眠っていたんですよ」
「──はい?」
親父殿の向こうには、確かに、知らない天井だ。
そこでようやく。
オレ、ベッドに横になってたことに気づく。
跳ね起きて、きょろりきょろりっ。
真っ白な、石畳の直線。
廊下らしき通路を、歩く。
お日様の匂いと明かりが、通路の奥から。
後ろの親父殿。
さり気なく、オレの腰と肩に手を添えてくれてる。
うわ、なんか、無性に照れる。
ので。
少し小走りで、親父殿を、引き離す。
程なく。
長い階段が見えてくる。
その、更に上に、光。
光を目指して、更に歩く。
そして。
「う……っわ、なんじゃこりゃ」
見渡す限りの、葉っぱと枝。
無数の木漏れ日が、オレを照らしている。
その、向こうには。
「え、高度何メートル? おかしいだろ」
絶景は、絶景だけども。
足元から下は、断崖というか、絶壁。
周囲を見回して、判明。
あほみたいなデカさの木が?
神殿らしき石の構造物を、巻き込んだまま伸びました。
的な。
当然ながら。
オレの視界の先は、下界。
うねうねと波打つように伸びる、巨木の根。
目を凝らすと?
根っこを繋ぐように無数の橋が伸びていて。
橋から更に、縦横に伸びた柱や道の上に。
無数の人々が、行き来しているのが分かった。
あと。
視界を上に上げると。
巨木のとんでもないデカさの、枝の上。
そこに、これまた無数の集落らしき建物があって。
そっちにも、人々がいる。
え、何、なんだこれ?
「世界樹ですよ。全高五千メートル、全周二万メートル」
「それもう木じゃないですよね」
「この大陸全域に根を張って、更に地脈を伸ばしています」
絶句。
なんっつー巨木だ。
そして。
思い出してしまう。
──コレ、オレが植えた木だ。
あの小さかった苗木が、こんなに大きく育って。
おとーさん、嬉しくて仕方がないよ。
……下の息子が装着される可能性は、もうないんだけど。
気分的に!
ええと。
シルフィたちが、言ってたっけ?
上がエルフ、下がダークエルフの領域なんだっけか。
「世界樹の精霊に、お礼を言って下さいね」
「へ? なんで?」
「世界樹が吸い取る地脈の精霊力を分けて貰ったのですよ」
ん?
親父殿、詳しく説明ー。
ふんふん。
つまり。
帝国から順風満帆に、黒船で出港したオレら。
でも。
出港して、割とすぐに。
オレ、地の精霊力と切り離されたが故に。
ぐっすり熟睡したまんま、何やっても起きなくなり。
もう一度地脈に通じれば、起きるのは分かってたから?
到着を優先して、そのままオレ、船内に安置されてたと。
ただ。
到着して世界樹に到達しても、まだ起きなかったので。
世界樹の精霊に、地脈の精霊力を分けて貰った、と。
……そうか。
それで、納得が行った!
妙に気合の入ったお化粧も!
両手両足の爪が、真っ赤に塗られてるのも!
見るからに高そう+動きづらいロングドレス着てるのも!
髪から首から手首、じゃらじゃら小物着けてるのも!
──全部、寝てる間にシルフィがやりやがったな!!
って。
「あれ? じゃ、シルフィとかウンディにサラムは?」
「それぞれの種族の方に出向いていますよ」
なるほど。
肉体を持つ前も、それぞれで世話してたみたいだし。
じゃあ、今は大歓迎されてるのかな?
「歓迎で済めば、いいと思っているところでして」
うーん。
親父殿が、なんか思案中な口ぶり。
ここでも何か?
新たな問題が、あるのかしらん。
でも、まあ。
とりあえずですね。
「親父殿!」
「なんです、メテルさん?」
「お腹空いたー!」
くすくす。
親父殿の笑顔、久しぶり。
オレやっぱり、この人大好き。
「すぐに用意しましょう。懐かしい顔ぶれに会えますよ」
ん?
誰だろう。
まあ、オレの主観では、数日なんだけど。
相手からしたら、半年以上ぶりなのか。
なんか。
寝てたオレが、悪いんだけど。
寝過ごして、勿体ない気分が全開だなあ。




