90話 サラムに誕生日プレゼント
「めーちゃん、お豆、腐ってたから捨てといたよ!」
「納豆ぅぅぅぅ!?」
「メテル姉、動物のフンが混じってたから全部捨てたよ!」
「味噌ぉぉぉぉ!?」
ううむ。
和食への理解は遠いっ、しくしく。
てか。
発酵食品全般、姉妹に人気がないんだよなあ。
確かに日本食って、そっち系多いけど。
糧秣の資金源ですか?
親父殿の懐から全部出てます。
いやぁ、担いで連れて来た甲斐があったなあ。
「お小遣いはシルフィさんに預けてあるはずですがね?」
え?
オレ、小遣い貰った覚え、ないけど?
シルフィ?
……オイ、露骨に目線逸らすんじゃねえよ。
何に遣ってんだ、テメェ。
「えとえとえと、魔法書とかー、お化粧道具とかぁ」
にこりと笑って、小脇に抱き寄せ。
心を鬼に、こめかみに拳ぐりぐりぃ!
「何をナチュラルにオレの小遣い、使い込んでんだよ!?」
「だってめーちゃん、お金殆ど減らないじゃんー!」
貯金の概念ない娘は、これだからっ!
ウンディにサラムよ。
こうなっちゃおしまいだからな?
──なぜ、目線を逸らすのかね君ら。
「えっと、ボク、新しい武具とかいろいろ興味が」
「我が試用する魔法触媒は、総じて高額故に」
……ほんとに、姉妹で趣味全開っていうか。
むしろ。
オレが、無趣味すぎるのか。
てかね?
宵越しの銭は持たないって、全員江戸っ子か君ら。
……さて。
出港準備、万端の黒船。
船上には?
親父殿以下、オレら四姉妹に、エルとカイルくん。
帆船、であるからして。
ほんとなら、船員が百人以上乗らなきゃダメなんだけど。
──この船、オレらの権能で進む精霊船だからして。
乗組員、要らないんだよね。
で。
積み荷は糧秣に集中してるけども。
実際?
オレら四姉妹って、食事も睡眠も要らなかったりして。
主に、親父殿やエルにカイルくん用なんだよね。
積みも積んだり、航海半年分くらいイケそうな感じに。
がっ。
その、前に。
「メテル姉? 何、お話って?」
「ほんとはサラムとウンディ用だったんだけどな」
そう。
先日の、サラムのおねだり分。
実は、ウンディの分も、あったんだけども。
さらさら。
最上甲板にどっかりと座った、オレの両手には砂鉄の粉。
目の前には、それが山と積まれている。
「ウンディが、今回はサラムに全部譲る、ってさ」
「ディーが?」
きょろり、と見回すサラム。
ウンディは最後尾で、エルの子守してるよ。
さて。
そろそろ、始めますかね。
「誕生日、だなサラム」
「ふぇ? そ、そうだっけ」
びっくり眼も可愛いなぁ。
そう。
今日は、サラムとウンディの、体が出来た日。
この世界に意識が宿った日は、既に判らないからな。
オレら四姉妹、体が出来た日を暫定の誕生日にしている。
ちなみに。
オレが冬生まれ、シルフィが夏生まれ。
サラムとウンディは、春。
そんなことを、考えながら。
しゅるるる。
ふわり。
──じゅぅぅぅ!
「え、何作ってるの、メテル姉?」
「出来てからの、お楽しみだ」
オレの両手に握った、砂鉄の塊が。
砂鉄から、玉鋼へ。
玉鋼から、鉄身へ。
鉄身から、──刀身へ。
数万から、数十万層。
地の権能と、錬金術の絡め技。
超高圧下で、重ねに重ねた刀身。
両手に、二メートル近い野太刀と、もっと短い小太刀。
折れず曲がらず。
……前世で○HKの刀鍛冶特集、ガン見してて良かった。
赤熱した刀身が、オレの両手から天に伸びていた。
「ウンディ? 水ー」
どばしゃっ!
じゅぅぅわぁぁあ!
オイこら。
乱暴にも程がある。
オレらの頭上から、唐突に真水が降り注いだんですけど。
両手の中で真っ白い湯気を盛大に上げる、刀身。
ここまで来れば、サラムだって、何をしてるか分かる。
「え、ええ、えええ? これ、ぼ、ボクの?」
「欲しがってただろ? 柄の加工はウンディにやって貰え」
抜身の、刀身二本。
軽く振って水を切り、ついでに錬金術で、表面研磨。
きらり!
つるつるのぴっかぴかな、刀をサラムに持たせる。
うんうん。
びっくり、しまくってるなあ。
そして、それ以上に。
喜んでるのが、おねーちゃん嬉しいぞ。
なまくらでいいから、一本欲しい、って言われたけども。
オレの権能の支配下にある、地属性の武器。
作った方が良質になるに、決まってるだろ?
材質。
チタンやアルミでも、打てたんだけど。
たぶん、精霊力乗せて使うことになるから、って。
ウンディが、玉鋼で作った方がいいって言うからさ。
双子の姉にまでお願いされちゃ、仕方がない。
長女の務め、果たしましたとも。
「ありがとメテル姉! わっ、わぁぁ!?」
「抱えたまんま転んだら喜劇だからな、気をつけろよ」
出来たばかりで、まだ熱の残る刀身。
両手に宝物みたいに抱えて、船尾へ走るサラム。
見送りつつ。
あんなに喜ばれると?
にやにやが止まらないぜ、オレ。
さてさて。
あいつは、一体どんな名剣士に成長するのかねえ?
おねーちゃん、先が楽しみで仕方がないぞ、サラム。
そして。
帝国を後に、オレらはこれから、未知の大陸へ進む。
そっちも、随分と楽しみだなあ。




