87話 オレの健脚に、惚れちゃダメだぜ
「ってわけでー。親父殿、一緒に行こう?」
「──改めて、その権能。怖いですね」
え、そうかな?
王国北方。
オレの生まれ故郷にほど近い、岩山の中。
何故か?
親父殿が、単身でそこら辺を闊歩してるのが見えたので。
オレ、『地脈を伝って』にゅるりんと。
上半身を、岩から生やしてお誘いしてるとこ。
「大精霊だ、というのは知識では理解しているのですがね」
「いいじゃん使えるものは使ってもー」
ばさり。
頭の上に、布の感触。
むむ?
「親子の間柄でも、羞恥心は持って下さいメテルさん」
あ。
地脈を伝ったから。
オレ、裸だった。
借りた親父殿のローブを羽織って。
ついでに、ぬるりと岩からまろび出る。
久々に使ったなあ、地脈移動。
地脈の通じてるとこなら、どこでも出られるのが利点。
難点は、オレ自身の体以外、全て置き去りになること。
今頃?
帝国の滞在城の、オレの自室に。
着飾られてた、オレの衣装がぽつんと転がってるだろう。
「全く。何がどうして、別大陸行きなんですか」
「えーと。かくかくしかじかで」
多少説明すると。
親父殿、目を輝かせまくりで。
うん。
やっぱり、探検冒険大好きだよね、親父殿。
叔父上も、そんな話してたし!
「待って下さい。国王陛下から聞いたんですね?」
「そうだよ? 冒険譚とか、聞きたいなー」
「……そうですか。陛下、手加減しすぎたようですねぇ」
びくぅ!
お、親父殿?
目、目が。
普段の柔和な糸目が、全開で開いておられますよ!?
「メテルさんに会えて良かった。精霊力を辿っていたので」
「ほ、本気の親父殿……、こわぁい」
「こんな優しげな父親を怖がる理由、ないですよね?」
ひ、ひぃっ。
なんか知らんが、地雷を踏んだようだ。
とりあえず、がくがくと首を縦に降っておいた。
で。
親父殿?
精霊力の痕跡って、分かるの?
魔力とは天地ほども違うって、シルフィ言ってたけど。
「分かりますよ。伊達に精霊の父親をやっていませんので」
「へぇ、へえー。凄い凄い」
「分かれば、見やすいですよ。ほら。地脈の筋が」
あ、はい。
オレが帝国から通って来た道筋が、活性化してるもんね。
……。
あれ?
オレが通過してない地脈も、活性化してるぞ?
「不思議ですよね、この痕跡」
「あるぇ? オレ以外に地脈操れる存在、知らんけど」
「これ、王都から通じていたので追って来たんですが」
むむむ?
えと。
じゃあ。
オレがこの活性化の痕跡を、辿れば早いのでは?
「出来ますか?」
「愚問ですー。オレを何だとお思いでっ」
「うちの自慢の長女、メテルさんです」
くぅっ。
真顔でそれは反則だ、親父殿。
ちくせぅ、嬉しすぎる。
よーし。
メテルさん、今日は焼き肉ホームランでっ。
全力で、地脈を追っちゃうぞー!
……って。
あれ?
この筋って、もしかして?
「どうしました?」
「ん。えとね。たぶんだけど……」
一度、地殻まで地表の奥深くまで潜った、地脈が。
海底を超えて、太く長く伸びている。
これはオレが植えて育てた地脈じゃない。
惑星が、自分で伸ばした分だ。
そして。
その、集合場所は。
天を衝く、樹木に繋がっていた。
──どう考えても。
世界樹の根っこです、これ。
「素晴らしい。伝説の世界樹へ、ですね」
「う? うん、まあ、そのお誘いをしに来たんだけども」
あれぇ?
親父殿、物凄くうきうきしてるんだけど。
オレのお誘いよりも。
世界樹の方に、興味津々でいらっしゃいませんのこと?
「それは、伝説にも残る巨木ですから」
「ふーん。別に、いいですけどぉ」
な、なんか。
世界樹如きに、負けた気分。
いいもん、いいもーん。
今から、親父殿はオレが占有するんだしっ。
「さて、移動ですが。遠いですよね? どうします?」
「走る」
「そうですか、はし……、なんですって?」
「大丈夫。ウサイン・○ルトも真っ青の、健脚を御覧じろ」
「いやちょっと、メテルさん? メテルさん??」
問答無用。
何故か後ずさる、親父殿を軽々と担ぎ上げ。
さあ、行くぜオレの両足!
親父殿に、百メートル五秒台の世界を見せてやるっ!
「ゆ、ゆれっ、揺れれ!?」
「喋ると舌噛むよ親父殿」
ずどどどど。
王都北方から帝国南方まで、千五百キロくらいだっけ。
うん。
一日もひた走れば、着くよ!




